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会員の倫理・資質向上に関する講演会
〜クレームマネジメントで患者満足をたかめましょう〜

真栄田篤彦

常任理事 真栄田 篤彦

平成25 年3 月29 日、沖縄県医師会倫理向 上委員会と医事紛争処理委員会とで合同研修会 を開催したので報告する。

近年、患者からのクレームがますますエスカ レートし、いわゆるスーパークレーマーなる言 語が至る所で聞かれるようになり、県医師会の 会員がこのようなクレーマーに遭遇した時、ど のような対応をとることが望ましいかを勉強す るために企画した。井手口直子先生は全国的に も講演活動で著名な先生で、今回稲田隆司常任 理事の交渉で招聘することができた。大変示唆 に富んだ講演会であったので、日頃からの診療 対応の参考にして頂きたいと思う。

講演会は井手口先生が会場の先生方や看護 師・医療事務スタッフの参加者に問題を提起し、 それに対しての対応の仕方をディスカッション 形式で進められた。

はじめに、クレーマーが来たときのスタンス として、フォロアーの皆様は以下のどちらに当たりますか?

1)クレーマーが来たら、よっしゃ〜まかしておけ!
2)仕方なく対応する
3)できれば対応したくない。
4)対応しない。

クレーム対応についてあなたの考えは?

こちらのミスかどうかわからないクレームには謝る前に調査する

患者さんの勘違いは早くただすように説明をしなければならない

クレーム対応の目標は患者様が納得してまた来て下さる事

クレームがなければ患者様は満足していると言ってよい

クレームにはひたすら誠意で謝ることがすべてである

フロアーとの対話をしながら講演は進んだ。

今回の講演の後に皆様方はどう考え方が変わるかをあとでチェックします。

クレームマネジメントの構造

プロアクティブなクレームの対応
      ↓
 オンタイムのクレーム対応
      ↓
 フォローと再構築のマネジメント

クレーム危険度→なぜまずいのでしょうか?フロアーに経験したことはどれか問いかけた。

  • □同じクレームが繰り返しある
  • □特定の部署[ または人] のクレームが目立つ
  • □クレーム処理は現場まかせ
  • □報告されないクレームがあった
  • □病院の悪い噂を小耳に挟んだ
  • □クレームを受けたら叱られる
  • □クレームは多くないが、患者数が減ってきた
  • □投書箱は置きっぱなし
  • □スタッフの出入りが激しい
  • □部署・スタッフの風通しが悪い

そもそもクレームとは?

患者様の期待度→こうあって欲しいという願い

クレームへの対応に成功すれとリピート率がアップ

クレーム対応に失敗すれば、二度と来ない上に、口コミで噂に

結果として対応が期待に沿った場合は嬉しさを感じ、クレーム対応がさらに大きい期待となればクレーマーは感激・恐縮する

すなわち「クレームは期待の表れ」である

最近のクレームの特徴

  • 個人的なストレスのはけ口
  • より高い欲求
  • ネットでの告発
  • 徹底説明要求
  • 訴訟をちらつかせる

最も怖いのは…?

→目に見えず、ひっそりと、いつの間にか…誰も来なくなった…

無言のクレームである

クレームが起きる構造

  • ・説明不足→患者側の予測とはずれる
  • ・レベルの低い接遇→期待を下回る
  • ・部外者の関わり→訪問者など
  • ・ハード(構造設備、器具)の不備→不便・不快
  • ・システムのお粗末→不便・不快
  • ・サービスに見合わないコスト
  • ・無防備さ→個人情報の漏えい・セキュリティ
  • ・顧客ニーズをくまない

クレームの根本原因

  • スタッフの教育あいまいな内規
  • 責任の所在がめいかくでない
  • 動機付け
  • 知識不足

システムの状況

  • 構造設備
  • セキュリティ

クレームマネジメントができる背景
(プロアクティブな対応)

組織のビジョンはあるか?どのような?
 よいビジョンはイメージできるもの
 ×日本一の病院(自己評価で日本一とするのは良くない)

○全ての患者さんが笑顔で帰る病院
 システムはビジョンを具現化するもの
 どのようなシステムがありますか?
 ルールはシステムを動かすもの
 1%常に変動する ルールにとらわれない
 ビジョンと方向性があっているかどうか
 →あなたの病院のビジョンは何ですか?

クレーム基本対処法(オンタイムのクレーム)

クレーム対応のゴールは?
 クレーム対応は初期対応が9 割決める→導入
 教育でもクレーム対応をすべき

クレーム初期対応の5 原則

  • 1. まずは謝罪
  • 2. 非言語の適切な対応
  • 3. 言葉を慎重に選び傾聴と確認
  • 4. 安請け合いはしない
  • 5. しっかりと担当者に伝達する

ヒヤリハットからのクレームには?

○迅速に対応する

○対応者の責任をあいまいにしない(別の人間のせい、他の部署のせい)

○事情のわからないまま曖昧な回答をしない

○患者の苦情は誠意をもって受け止める

○苦情は勘違いであっても最後まで傾聴する。こちらの言い分は最後に

○患者を不安にさせただけでも十分にお詫びすべき
 プロフェッショナリズムとは責任感

○ミス⇒トラブルとなるのは感情の部分である

○何がおきたのか、何が原因であるのか、今後どうなるのか、誠意をもってオープンにする

○「大切にされていない」という感覚がトラブルを招く

○隠したり、ごまかさない

謝罪はするべきか?

部分謝罪と全面謝罪
 「患者さんが信頼して医療をうけていただく」という
 組織の使命を果たせなかったことへの謝罪→まずは謝罪!

謝罪の言葉ベーシック

◆それは誠に申し訳ございませんでした。

◆大変失礼をいたしました。

◆ご迷惑をおかけして、申し訳ございません。

◆誠に不行き届きで、申し訳ございません。

◆本日は貴重なご意見をありがとうございました。

◆お電話ありがとうございました。今後とも宜しくお願いいたします。

より一歩進んだ謝罪

◆おかげさまで問題点がわかりました。早急に対処いたします。

◆早速、参考にさせていただきます。

◆大変参考になりました。
 今後このようなことが起きないよう努力いたします。

◆手前共では、気付きませんところをご指摘頂き大変ありがたく存じます。

◆何卒、何かございましたらいつでもお越しください。

クレーム対応のタブー

  • 1. クレームを軽視(後回し、安易な対応)
  • 2. 個人的な感情で対応する
  • 3. 原因でなく、担当者を追及する
  • 4. 逃げ腰・消極的な対応(私ではないのに)

トラブルの原因は?

多くが感情によるもの
 ⇒何を言ったかではなく、どういう態度であったか。
 ⇒非言語の重要性

トラブル対処の原則

接遇の超!原則
  相手を大切にすること!
  →お客様に選んでいただく
  →命令語、否定語は使わない→依頼文に
  →語尾に“?” マークが付く言葉を

無理難題を言う患者さんには?

「それはできません」×否定→相手に選択を与えていないので、気分を害する
 「通常それはできかねますが、少々検討させて頂けますでしょうか?」○
 「誠に申し訳ございません、ご要望とおりではございませんが、このような形ではいかがでしょうか」○提案型で相手が選べる

クレーム対応のスタッフコミュニケーション(教育とシステムの再構築)

クレームリピーターとは?

繰り返しクレームを呼んでしまうスタッフ

3 つのタイプ

  • 1. 一生懸命だが、スキルが低く患者の気分を害してしまう(知識技能不足、コミュニケーションベタ)
  • 2. 自分では正しいと思い込んでいる方向に固執して、組織の意図や患者ニーズからずれてしまう(押し付け誘導、察しが外れる)
  • 3. 組織や患者のニーズはある程度みえているにも関わらず、受け入れない(お局状態、怠慢)

システムの教育の再構築

クレーム情報の共有化
 改善策を皆で考える

管理者の役割

スタッフのモチベーションの把握と教育
 コーチング

クレーム対応を楽しく!

◆常に主体性をもって行動しましょう!

◆患者様にプラス一つ、持って帰ってもらいましょう!

◆患者様のどんな言い分も、一理あると思いましょう!

◆クレームの患者様をファンにしていきましょう!

講演の最初に質問したクレーマー対応に関し ての対応の1)〜4)までで、フロアーの皆様が、 対応ランクが上がれば幸いです。

印象記

井手口直子先生は、全国的に講演活動を行っ ており超多忙の中、本県にお越しいただき、こ の4 月からは同大学の教授に昇任されている。 前回は浦添市医師会主催のもと、コーチングの 研修会を開催し、今回のクレーマー対応の在り 方につい詳細に亘ってフローアート対話しなが ら講演してもらった。

医療訴訟になる一歩手前での交渉術に関し て、私たち医療人は十分な勉強をしてこなかっ た。患者さんに対する接遇など30 年前には考 えられない事であり、インフォームドコンセン トを十分にとの教育は受けてきたが、コーチン グ術とか、クレーマー対応などは医学術とは別 なようで、違和感を感じ得ないが、現実的には 状況が変化しており、今日の医療訴訟の多さに 現われている。

本講演会を通して、少しでも多くの会員が倫 理的にも向上し、また医療訴訟が少しでも減少 する様になれば幸いである。

熱心に講演会を聞く参加者



参加者とのディスカッション