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沖縄県医師会糖尿病市民公開講座

石川清和

理事 石川 清和

式 次 第

司会 沖縄県医師会理事 石川 清和

1. 挨  拶      沖縄県医師会長 宮城 信雄

2. 基調講演  座長 砂川内科クリニック院長 砂川 博司
   おとなの4 人に1 人! 21 世紀の国民病
   「糖尿病ってどんな病気?」
      琉球大学大学病院医学研究科
      内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第2 内科) 益崎 裕章

3. パネルディスカッション
   座長 あがりはまクリニック 院長 湧上 民雄
      南城市 健康課係長 保健師 井上 優子
講演1:沖縄県民の健康の現状
   沖縄県福祉保健部健康増進課 課長 国吉 秀樹
講演2:糖尿病にならないために 〜金城家の夕食をのぞいてみよう〜
   豊見城中央病院 糖尿病・生活習慣病センターセンター長 比嘉 盛丈
   ハートライフクリニック 臨床検査技師 仲里 幸康
   ハートライフ病院 栄養管理士 新垣 優子
講演3:糖尿病になってしまったら─まずおさえたい4 つのポイント─
   田仲医院 院長 田仲 秀明

4. 質疑応答

5. 閉  会

3 月16 日ロワジールホテルで糖尿病市民 公開講座が開かれました。講演会を聴いて約 10%の方がその場では変わろうと考えていて も、実際に行動変容に取り組むのは1%にも満 たないとの統計があり、参加して頂いた一人で も多くの市民が糖尿病について考え、行動を変 えることができる講演会を目指した取り組みを 行いました。

そのため、講演会の前に血糖測定、生活習慣 指導を行い日頃の食生活を省みて生活習慣を改 善する、講演会の中で寸劇を演じ参加者への強 力なメッセージを伝え、講演会の内容が心に残 るように工夫しました。今回は準備期間が短く 単純な血糖測定のみになりましたが、それでも 当初50 名の予定の血糖測定・生活習慣指導に、 多くの問い合わせがあり、開始1 時間以上も前 から血糖測定の希望者が並び始めました。その ため急遽、沖縄県糖尿病対策推進会議委員・県 医師会事務局が調整し、開始時間を30 分前倒 しし、さらに血糖測定や保健指導を行う人員を増やして対応しました。最終的には約140 名 の方が血糖測定を行い、保健指導を受けました。 食後血糖の高さにびっくりしたなど、日頃は気 づかないデータをもとに生活習慣改善の契機に なったと考えられました。

また、講演会の前に日常生活での運動を促す 為に会場全体でラジオ体操を行いました。どれ くらいの市民が体操に参加するか危惧していま したが、ラジオ体操の音楽が流れると掛け声に 応じほとんどの参加者が一緒に体を動かしてく れました。残念ながら今回の講演会では、運動 の効用については十分なメッセージを伝えるこ とはできませんでしたが、ラジオ体操や簡単な ストレッチを一生懸命に10 分程度行うだけで も血糖は10〜20mg/dl 低下するので、今後は運 動負荷前後の血糖測定等にも取り組めるとより 効果的と感じました。

講演会では宮城会長の代わりに安里副会長 が都道府県別の平均寿命順位で沖縄の女性が3 位、男性が30 位と男女ともに悪化したこと、 危機的な健康長寿を取り戻す為の第一歩とこの 講演会の取り組みを紹介しました。そして、益 崎先生が人類の歴史と現代社会で何故糖尿病が蔓延しているのか、県民がいかに危険な状態に あるか、どのように生活習慣を変えていったら いいかを分かりやすく講話されました。引き続 き国吉先生から沖縄県の糖尿病の現状が報告さ れ、肥満やメタボリックシンドローム該当者の 多さなど、沖縄の健康課題が指摘されました。 寸劇では、仲里さんと新垣さんが比嘉先生の司 会の元で、金城家の夕食を演じ、過食・バラン スの悪い食事・アルコール過剰・感染する肥満・ 夜遅い食事と沖縄の典型的な不健康な生活習慣 をコミカルに、印象的に演じ多くの参加者の記 憶に残ったと感じました。さらには田仲先生が 糖尿病を悪化させないための管理するキーワー ドとして、ABCD を提言され、単純に記憶に 残る言葉を残しました。最後に市民からの質問 に全ての演者が答えて講演会を終了しました。

今回の講演会では講演会終了後一定期間をお いて、後の講演会の内容の定着率、行動変容の 有無等は調査できませんでしたが、今後の講演 会では効果を高めるためにも講演会内容の工夫 と、講演会後の参加者の意識調査を行う必要が あると考えられました。

講演の抄録

糖尿病ってどんな病気?
益崎裕章

琉球大学大学院医学研究科
内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座
(第2 内科)教授
益崎 裕章


野生動物に糖尿病という病気は存在しませ ん。動物で糖尿病になるのは、飼い主からたっぷりと高カロリーの餌を与えられたペットだけ です。現在の日本には糖尿病、あるいは糖尿病 の疑いがあるひとが少なくとも2,200 万人以上 居ると試算されています。ざっとおとなの4 人 に1 人という凄まじい数字です。

人類の祖先の歴史はまさしく飢餓との戦いで した。餓死する危険と常に隣り合わせであった人 類の祖先は食べ物に恵まれた時には、可能な限り、 栄養を身体に“貯金” して 次の飢餓に備えると いうシステムを何重にも張りめぐらせてきまし た。また、狩猟にしても、農耕にしても、魚を 捕るにしても食べ物を得るためには身体を動か して厳しい労働をしなければなりませんでした。 このような貯蓄体質を祖先から引き継いだまま、環境だけが急激に変化しました。自動車の普及、 家電製品の発達、高カロリー・高塩分の保存食品 の普及、エレベーターやエスカレーター、24 時間、 いつでも食べたいものが食べたいだけ手に入る という現代のコンビニ・ライフに私達の“貯金体 質” が適応できなくなっています。これこそが最 近の糖尿病急増の原因と言えます。

健康であれば私達の血糖値は食事の前でも 途中でも食後でも驚くほど一定に保たれてい ます。多くのひとが食後にはそれなりに血糖値 が上がるのが普通だと信じていますがこれは大 きな間違いです。カゼを引いたり、ケガをした り、ストレスを受けると健康人でも血糖値が上 がることがありますがあくまでも一時的な現象 です。一方、糖尿病という病気は血糖値が慢性 的に上昇することによって身体中の血管が年齢 以上に早く老化し、破れやすくなったり、詰ま りやすくなったり、つまり、血管がボロボロに なってしまう恐ろしい病気なのです。

21 世紀の国民病とも言われている糖尿病のやっ かいなところは相当、病気が進行してからでない と自覚症状として現れないという点です。親戚、 家族に糖尿病のひとが多い場合、あるいは、最近 体重が増えてきたひと、ウエスト周りが大きくな ってきたひと、甘いものや脂肪分の多い食品を好 んで食べているひとは一段と注意しなければなり ません。自覚症状がなくても、定期的な健康診断 を日頃からきちんと受けておくことが大切です。

米国の研究では糖尿病の診断が確定する少なく とも15 年前から膵臓のインスリン産生細胞の働き が低下し始め、糖尿病の診断が確定する少なくと も10 年前から食後の短期間の血糖上昇が始まって いることがわかっています。実に多くのひとが何 も気がつかないままに糖尿病予備軍の仲間入りを している可能性が高いのです。平均的な日本人は 生涯の中で約7 年間の不健康期間を体験している と言われています。不健康期間というのは、例えば、 入院、寝たきり、自立不可、要介護等 の状態を指 しています。そして、このような不健康期間の主 要な原因となる脳卒中や心筋梗塞 の過半数が糖尿 病あるいは糖尿病予備軍を基盤にして発病してい ることを考えると、適切な糖尿病予防が人生90 年時代を迎えつつある日本人の健康長寿の鍵を握っ ていると言っても過言ではありません。

今日の市民公開講座を通して、糖尿病を身近 に意識し、皆様の健康長寿に役立てて戴ければ幸いです。

沖縄県民の健康の現状
国吉秀樹

沖縄県福祉保健部健康増進課 課長
国吉 秀樹




・平成25 年2 月28 日午後4 時に厚生労働省か ら発表された「平成22 年都道府県別生命表」 で、沖縄県女性は長年守り続けた1位の座を 長野県に明け渡し、3 位となった。

・沖縄県男性は平成17 年の25 位から順位を下げ、これまでで最も低い30 位となった。

・平均寿命は男女とも延びているが、全国を下回っている。

・死亡率が低い高齢世代の人口割合が減少し、 死亡率が高い青壮年世代が高齢化するにつ れ、本県の平均寿命は順位を下げ、これから も厳しい状況になると予想される。

・平成22 年国民健康・栄養調査、平成23 年県民健康・栄養調査の結果を比較すると、

  • 1)糖尿病の服薬者を含む有病者の割合は男性で全国より低く、女性で高かった。
  • 2)糖尿病の予備群は、男女とも全国を下回っていた。
  • 3)BMI25 以上の肥満者の割合は、男性の40 〜 50 代、女性の20 〜 40 代で増加してい た。男女とも全ての年代で全国を上回っており、早い年代から肥満が進んでいる。
  • 4)メタボリックシンドロームの該当者、予 備群の割合は男性で60%、女性で30% を超え、全国より男女とも10 ポイント 程度高く、平成18 年より増えていた。
  • 5)県民の健康習慣では、「睡眠」「喫煙」「体 重」「飲酒」「運動」「朝食」「間食」のうち、 男女とも「適正体重の維持」「適度な運 動をする」「間食をしない」の実施率が 低くなっていた。実施率は20 代から40 代で低い傾向があるが、平成18 年より この年代で改善が見られた。
  • 6)食生活では、脂肪エネルギーが27.6%で、 平成18 年の28.0%と変化なし。
     塩分摂取量は男(9.3g)女(7.7g)とも 平成18 年より減少していた。野菜接取 量は282.6g で、平成18 年とほぼ同じで改善がなかった。
  • 7)運動習慣のある人は男(43.8%)女(34.0%) とも平成18 年より増加していたが、1 日 あたりの歩数は男7,262 歩→ 6,906 歩、女6,767 歩→ 5,934 歩と減少していた。
  • 8)喫煙率は男35.5%→ 30.6%。女8.6% → 7.8%と男性で減少していた。
  • 9)1 日60g 以上の多量飲酒者の割合は男 8.9%→ 6.5%、女2.0%→ 1.2%と減少していた。

県民の健康の状況は肥満やメタボリックシン ドローム該当者が減少しておらず、未だ課題が 多い。ただし糖尿病の予備群の減少、服薬者の 増加など、保健指導等対策の成果と考えられる きざしがある。また、健康習慣も一部改善を見せている。

糖尿病にならないために
比嘉盛丈

豊見城中央病院 糖尿病・生活習慣病センター センター長
比嘉 盛丈




糖尿病は食事摂取と消費バランスがくずれ過 剰摂取になり、肥満となり、後に耐糖能異常を 来し、糖尿病へと進行します。

沖縄県は国内で肥満第一位になってしまい、 それが原因で糖尿病も増加にあります。長寿が 危うく、平均寿命も年々下降傾向にあります。

糖尿病を防ぐには、第一に食生活を見直すこ とが大事です。糖尿病にならないための4 つの ポイント「量」・「内容」・「時間」・「間食とアル コール」を見直すことがとても大切です。

食事療法『4 つのポイント』

1)「食事量」について

摂取過剰にならないよう、もう少し食べたい量(腹八分目)で止めるようにしましょう。
 よく噛んでゆっくり食べることは、満腹中枢を刺激し食べ過ぎ防止に繋がります。

2)「食事内容」について

沖縄の脂肪エネルギーは基準の20 〜 25% を超 え28% と脂肪過多になっています。調理の油、 動物性脂肪からの脂を摂り過ぎていないようにしましょう。野菜の摂取量は350g 以上です が282.6g と野菜摂取は不足しています。食後 血糖値を抑えるために食物繊維摂取は必要で す。食事には野菜料理が1 品以上あるように しましょう。糖質摂取の偏りも心配されてい ます。ご飯と麺やイモ類の組み合わせ食で糖 質に偏らないよう主食+主菜+副菜を揃えた バランスを考えた内容に心がけましょう。

3)「食事時間」について

食事を抜いたり、また一日のエネルギー摂取が夕食に偏っていませんか。
 規則的に3 食摂る事、夕食は就寝3 時間前までに済ませ、寝る前の食事は避けましょう。

4)「食事以外の間食」について

間食、アルコールは健康の妨げにならない程度に摂取しましょう。
 減量、食事療法を見直す考えのある方は、間 食を無くす、又は今食べている量の半分にす るなど工夫することをお勧めします。アルコ ールは1 日200kcal 以内、泡盛なら1 合、ビ ールは中瓶1 本を目安にしましょう。

上記4 つのポイントを踏まえ、ご自分で出来そうなことから始めてみましょう。

コント:金城家の食卓をのぞいてみよう!!
左から新垣優子さん 仲里幸康さん

血糖測定

保健・栄養指導


ラジオ体操


糖尿病になってしまったら
田仲秀明

田仲医院 院長
田仲 秀明




糖尿病のリスクは大きく分けて2 つあります。

1 つ目は細小血管障害と呼ばれる細くて小さ な血管に起こる合併症です。3 大合併症として 有名な網膜症や腎症、あるいは神経障害がこれ にあたります。最近の眼科的治療の進歩により 網膜症による失明は減少しつつあると言われて います。また早い時期から降圧剤を積極的に使 用することによって、腎症の進行を防ぐことも 可能になって来ています。

2 つ目は大血管障害と呼ばれる比較的大きな 血管に生じる合併症です。代表的な疾患として、 脳血管障害や虚血性心疾患があります。これま で日本人の糖尿病では、虚血性心疾患を起こす 頻度は脳血管障害に比べて低いと言われて来ま した。しかし、最近の調査では、心筋梗塞に代 表される虚血性心疾患が増加しつつあることが 指摘されています。

以上のような糖尿病リスクを管理する基準 として、南部地区医師会では「糖尿病ABCD」 を掲げています。

A:HbA1c 7%未満
B:血圧(Blood Pressure)130/80mmHg 未満
C:コレステロール(total Cholesterol)180mg/dl 未満
D:禁煙(Don't smoke)

まず、血糖コントロールの指標であるHbA1c は7% 未満をキープして頂きます。そのうえで 血圧は130/80mmHg、血中コレステロールは180mg/dl を目標にして頂きます。そして禁煙で す。喫煙は命に係るような大きな脳・心血管事 故に繋がることが知られているからです。

実際の成績をご紹介致しましょう。約600 人を対象に調査したところ、HbA1c 7% 未満を 達成できた方は半数に達しませんでした。血圧 130/80mmHg 未満、コレステロール180mg/dl 未満を達成された方が3 割近くおられました。 また約8 割の患者様には禁煙を守って頂くこと が出来ました。

さて、その後1 年半の追跡調査で、非常に 大切な事実が明らかとなりました。「糖尿病 ABCD」を全く達成出来なかった方から脳梗塞 1 人、心筋梗塞1 人、1 個しか達成出来なかっ た方から脳梗塞5 人、心筋梗塞1 人が発症してしまったのです。4 個のうち半分達成した方か らも残念ながら脳梗塞1 人が発症してしまいま した。しかしABCD の3 個、あるいは4 個つ まり全部達成出来た患者様からは、驚くべきこ とに脳梗塞や心筋梗塞を発症した方が1 人もい らっしゃらなかったのです。

「糖尿病ABCD」をリスク管理の基準として 用いれば、このように脳梗塞や心筋梗塞のリス クを最小にすることが出来るだけでなく、将来 の網膜症や腎症の進展を防ぐことにも繋がると 考えています。

もし糖尿病になってしまっても、この4つの ポイントABCD をきちんとおさえて、臓器障 害を防ぎ、質の高い生活を送って頂きたいと思います。