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九州医師会連合会
医療基本法(仮称)制定に関するシンポジウム

本竹秀光

理事 本竹 秀光

去る2 月9 日(土)福岡県医師会館に於いて、 日本医師会と九州医師会連合会主催とする「医 療基本法(仮称)制定に関するシンポジウム」 が開催されたので、その概要を報告する。

開 会

司会の堤康博福岡県医師会専務理事より開会が宣言され会が進められた。

挨 拶
稲倉正孝九州医師会連合会長・宮崎県医師会長

御承知のとおり、医師会では医療提供者と医 療を受ける側が強い信頼で結ばれたより良い医 療の実現に向け医療基本法の制定を前向きに検 討している。

このような医療基本法の制定については、す べての国民が十分な意思疎通の下、建設的な議 論を重ね、日本医師会と共催という形でシンポ ジウム開催を迎えた。

法律の制定は敷居が高いというイメージがあるが、医師をはじめとする医療提供者の願いは 国民に安心安全な医療を提供すること、一人で も多くの皆様が笑顔で健康な生活を送ってもら うことである。すべての国民は健康で文化的な 最低限の生活を営む権利を保障されている。医 療提供者も医療を受ける側も目標とするものは 同じである。これまでの経緯を見ると、昭和47 年に医療基本法案が通常国会で提出されたが、 審議の結果廃案になっている。そののちは我国 の医療提供体制が中心になってしまい、患者国 民の声が医療政策に反映されにくくなった。

税収・予算が限られた中で、従来の政策決定 を見直し、医療提供者と患者の信頼関係を構築 するためにも医療基本法の制定が必要であり、 平成24 年に日医医事法関係検討委員会が医療基 本法の制定に向けた具体的提言を公表された。

本日は各界を代表される報告並びに総合討論 を予定している。今日の成果が今後の医療提供 者と医療を受ける側と国民の信頼関係がより強 固のものになるよう祈念する。

羽生田俊日本医師会副会長

このシンポジウムは昨今議論が活発になりつ つある。医療基本法の制定における問題や内容、 課題等について患者市民の皆様と共に考える場 を設けるべく企画されたものである。昨年12 月12 日にそのさきがけとなるシンポジウムを 開催したところ、全国から200 名を超える皆 様に参加いただいた。しかし、一方でこのよう な議論の場は全国各地により多くの市民の皆様 にご参加いただいてこそ、国民的な議論に発展 させていくことができることを考え、全国のブ ロック医師会に同様のシンポジウム開催をお願 いしたところ、早速に九州医師会連合から一番 の申し出を頂いた。

このように医療提供者と市民の皆様がより良 い医療のあり方を述べ共に考えていくことは、 明日からの診療の場において、より良い確かな 信頼関係を築けるものだと感じている。

本日のシンポジウムの議論が、医療提供者と 患者との信頼関係構築に向けた医療基本法制定 の確かな一歩となるよう祈念する。

「医療基本法の制定について」
小西洋之(参議院議員・民主党政調会長補佐・医療基本法議連)

現国会議員、元官僚の経験から、医療基本法 の必要性、今後の医療基本法の検討、成立に向 けた取り組みについて次のように述べた。

法的観点からの必要性として、憲法第13 条 には「すべての国民は、個人として尊重される。 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利につ いては、公共の福祉に反しない限り、立法その他 の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とある が、これは尊厳を守るために最大限より良い医 療を受けることが実現されるべきである。基本 法とは、国政の重要分野について、政策の基 本理念、基本方針などを定める法律であり、現 在、我国には43 の基本法があるが、医療と外 交・安全保障については基本法が制定されてい ない。基本法の必要性としては、国政における 医療を位置づけることによって必要な財源確保ができ、理念に基づいた国民皆保険を堅持し、 基本法には長年の課題を解決する力がある。

我国の医療の再建のためには、憲法25 条等 にもとづき、あるべき医療の基本理念を確立し、 それを実現するための主な政策の基本方針を規 定し、さらにそれを踏まえた個別政策を全ての 関係者協働のもと実現していく仕組みを措置す る必要がある。医療を巡る全ての関係者(医療 提供者・患者関係者、市民等)の賛同と唱道の 環境作りが必要である。

「医療基本法を考える」
大井利夫(日本病院会顧問・医事法関係検討委員会副委員長)

医学・医療の進歩発展及び医療の社会化が加 速している現在、現行の医療関係法令には粒度 や比重に差異が見られ、良好な患者医療者の信 頼関係を構築するために、医療関係法令を統合 する医療の基本理念の明確化が求められてい る。この医療に関する基本理念を明示するのが 「医療基本法」であり、憲法の定める個人の権 利及び生命尊重の考え方や、国が医療政策を立 案する際の基本的考え方を含むものである。日 本医師会の「医療基本法の制定に向けた具体的 提言」では、医療とは患者の基本的権利(生存、 QOL、尊厳)を尊重し、疾病の治療、健康の 支援に努める術(アート)であると医療の定義 としている。また、その定義の対象者は患者、 医療従事者、行政の三者とし、それぞれの権利、 義務・責務を定めるとしている。

医療基本法制定に向けた日本医師会と日本病 院会では、大部分が共通の論点を持っているが、 範囲、医師法21 条への対応、経済体制の条文 化に相違が見られる。

今後は、医療基本法を個別法(子法)に対す るどのような親法としての位置付け、理念法の 性格のみならず計画体系も加えるべきかどうか 議論する必要がある。また、医療界、国民、行 政などに幅広い議論を求め、どのようにして合 意を形成していくべきなのか、また委縮医療・ 医療崩壊を防ぎ、チーム医療を推進していくために、個別法を含め患者・国民の利益にかなう 法制度をいかに構築するかを今後も課題とし、 医療基本法制定の必要性を主張した。

「医療基本法はなぜ必要か」
鈴木利廣(明治大学法科大学院教授・弁護士)

現在、医療に様々な病理現象が起きている。 医療にかかわる様々な関係者からの不満の声が 出てきており、これは日本の医療に不満の声が 出ているということである。例えば、医師不足、 労働過重、患者のコンビニ受診、医療事故・薬 害、苦情・紛争等がある。しかし、諸外国から 見れば低負担で中程度の福祉を実現している日 本は羨ましがられているが、結果的には日本の 自国に対する医療満足度は低い。

このような不満はこれまでの医療制度を変え ることで、変えることができる。患者・国民が 質の高い安全な医療を、充分な情報提供と納得 の下に、受けられるよう医療提供等に必要な医 療の質と安全の確保と実施する必要がある。医 師不足、労働過重については、診療科や地域に よる偏在を是正し、医療機関の整備と機能分化・ 適正配置を進め、十分に連携された切れ目のな い医療提供体制を公的にコントロールして実現 しなければならない。患者の権利と尊厳を尊重 し、患者本位の医療が実現される体制を構築し、 医療にかかわるすべての関係者の役割と責務を 明確にすることが必要である。

「なぜ医療基本法が必要なのか」
田中秀一(読売新聞東京本社論説委員)

まず基本法とは、国政の重要分野について、 政策の基本的な理念、原則、方針を占める法律 である。医療提供体制の充実の重要課題として、 深刻な医師不足と医師の偏在、医師配置の地域 格差、医師の労働環境と医師不足が挙げられる。 診療科・地域による医師の偏在を是正するシス テムを確立し、医療従事者の労働環境を改善す る必要がある。しかし現在の医療関係法令には、 このような理念を持った法令はない上、医療は 重要政策分野であるのに基本法がない。医療提 供体制の充実を理念化した新たな法令が必要で ある。医療法には「医療の安全を確保するため の措置を講じなければならない」という条文は あるが、具体策には欠ける。医療の質と安全を 確保する理念と具体策を伴った新たな法令が必要である。

総合討論

その後、総合討論が行われ、会場からは日医 案で定義するための視点として、(1)医療の目 的、(2)医療、(3)医療の流れ、プロセス、(4) 法制規制という4 つの視点が示されているが、 終末期医療・尊厳死の定義はどうか。また、患 者の権利については多く述べられているが、患 者の義務はどう考えるのか、諸外国の医療基本 法はどのようなことになっているのか等、活発 な討論が展開された。

印象記

理事 本竹 秀光

平成25 年2 月9 日(土)、福岡県で開催された九州医師会連合会並びに日本医師会主催の医療基 本法(仮称)制定に関するシンポジウムに宮城会長、安里副会長とともに参加した。会は稲倉正孝 九州医師会連合会長挨拶、横倉義武日本医師会長挨拶(代読)の後、二部構成で行われた。我が国 において「医療基本法」を制定すべきであるとの組織・団体による本格的な立法提言は、昭和43 年日本医師会が公表した「医療基本法(第一草案)」に始まる。目的は、昭和36 年の国民皆保険 の達成を受けて、当時危惧されていた医師・患者間の信頼関係の崩壊、医療提供者・患者・保険 者間に沸き起こった不信感などを背景にその解消を目指したものであった。これを受けて当時の厚生省も医療基本法案要綱を提出するも国会で廃案となり、基本法の議論は消褪していったよ うである。しかるに、平成21 年に厚生労働省「ハンセン病検証会議の提言に基づく再発防止検討会」 において、患者・被験者の諸権利の法制化について議論を重ねる中、「医療の基本法」を制定すべ きことが報告書に謳われたことなどを契機に、医師と患者の信頼関係の修復という視点から、改 めて医療基本法を議論する機運が芽生え、日本医師会では平成22 年8 月6 日に「医事法関係検 討委員会」を設立、9 回の委員会での検討ののち、平成24 年3 月に「医療基本法」の設立に向け た具体的提言を答申した。平成24 年11 月10 日には医療提供者、患者市民がともに医療基本法 を考えるシンポジウムが福岡市で開催された。さらに国民的議論の必要性から全国のブロック医 師会に同様なシンポジウム開催が御願いされ、いの一番に九州医師会連合会が申し出、今回のシ ンポジウムの開催となった。第一部では「医療基本法の制定について」と題して、参議院議員・ 民主党政調会長補佐の小西洋之氏が報告した。現在世界に冠たる我が国の国民皆保険制度はTPP 問題でその存続が危惧されるところであるが、これは医療の基本法(国政の重要分野について、 政策の理念、基本方針などを定める法律)が制定されてない故でもある。基本法があれば、国政 における医療を位置づけることによって必要な財源が確保でき、理念に基づいた国民皆保険の堅 持が可能になると述べた。弁護士の鈴木利廣氏は「医療基本法はなぜ必要か」のテーマで報告した。 氏は昨今の医療提供者と患者間の相合不信感を医療の病理現象と表現し、現在、医事紛争、医師 不足・偏在、認知症医療、終末期医療、医療事故への警察の介入、自由裁量型医療、その他の多 くの解決しなければならない課題が山積みであるが、そのためには特に患者の権利を守るという 観点からの医療の基本法の必要性を訴えた。他には「医療基本法を考える」と題して日本病院会 顧問の大井利夫氏が、「なぜ医療基本法が必要なのか」と題して読売新聞論説委員の田中秀一氏が 報告された。




お知らせ

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沖縄県医師会常任理事 稲田隆司

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