常任理事 宮里 善次
平成24 年10 月4 〜 5 日に日本医師会館に 於いて「実践小児・思春期医療」をテーマに、 第56 回社会保険指導者講習会が開催された。
小児科医療の各領域に於いて、第一線でご活 躍されている先生方を講師として招いており、 改めて勉強させて頂いた講習会となった。
以下、10 月4 日に行われた領域分の概要を報告する。
以下に示すような子どもをとりまく環境(母 親、社会、医療など)の現状と問題が述べられた。
1)小児科外来診療の心構え
2)小児科医の5 つの役割“日本小児科学会”
3)小児科診療の特徴と留意点
4)診察時の心構え
医療面接のポイントは小児科医として当 然の事ばかりであったが、“診察室での禁 句” には思い当たる節がある。
1)即時型食物アレルギーの症状⇒ 30 分位で急速に進行する。
2)アナフィラキシーショック
3)食物アレルギーの診断
4)食物アレルギーの治療
5)特殊なタイプのアレルギー
1)呼吸困難の種類には、
2)インフルエンザ菌による急性喉頭蓋炎症例の提示
頻度は少ないが呼吸困難を示す最も重要な疾患の一つ。
3)重症肺炎
ライノウィルス、肺炎球菌、ムコイド型肺炎球菌、インフルエンザウィルスによる PlasticBronchitis 症例が提示されたが、原 因微生物の特定には時間がかかってもしっ かりと検査する必要。
4)胸部単純X 線写真を撮るタイミング
A)発熱があり、胸部聴診上異常が認められる時。
B)胸部聴診上異常がなくても熱源不明の発熱がある場合(鼻水がない場合は特に注意)。
C)発熱がなくても咳が長引く場合(7 〜14 日以上)。
5)結核の診断
『痙攣について』
1)熱性痙攣:米国小児科学会(AAP)「熱性発作に関する臨床ガイドライン」から
こうした場合には、てんかんの発症はやや高い(2.4%)。そのほか神経学的異常や 発達異常、複雑型熱性発作、家族歴の3 つの因子のうち、2 つ以上があると10% 程まで上昇する。
2)急性脳症
A)現在、痙攣重積時に臨床医が鑑別として最も注意しなければならない病態は急性脳症である。
B)痙攣重積と急性脳症の病態は連続性も考えられる(痙攣重積により興奮性アミノ酸が脳内で高濃度になることによる影響の関与も考えられる)。
急性脳症の疾患群
A)代謝異常を主病態とする群
B)サイトカインストームを主病態とする群
C)興奮毒性を主病態とする群(痙攣重積型急性脳症、二相性脳症)
A)健康乳児に初回のHHV6 感染
B)発熱2 日目に多い痙攣。しばしば片側性で重積しやすい。
C)その後2 〜 3 日は活気がないなど軽い意識障害が疑われる。
D)解熱後、発疹に伴って短時間の痙攣を反復。
E)発達遅延や麻痺などの後遺症を残す。
『意識障害について』
1)意識レベルについてはJapan comascaleやGlasgow comascale 参照。
2)インフルエンザ脳症における前駆症状としての異常言動・行動の例(インフルエンザ脳症ガイドライン改訂版)。
A)両親が分からない、いない人がいると言う(人を正しく認識できない)。
B)自分の手を噛むなど、食べ物と食べ物でないものとを区別できない。
C)アニメのキャラクター・象・ライオンなどがみえる、など幻視・幻覚的訴えをする。
D)意味不明な言葉を発する、ろれつがまわらない。
E)おびえ、恐怖、恐怖感の訴え、表情。
F)急に怒りだす、泣きだす、大声で歌いだす。
3)意識障害の診療でのポイント
A)意識レベルの変化を継続的に観察することが最も大事である。
B)意識の回復が確認されない場合には、瞳孔の所見や自発運動等を経時的に観察する。
C)脳波検査は意識障害の有無や原因を評価する上で有用である。
D)頭部画像検査では脳浮腫の評価と急性壊死性脳症のような特徴的パターンの有無を確認できる。
E)急性脳症を疑われた場合には、ステロイドパルス療法はエビデンスとして十分とは言えないかもしれないが、我が国では広く行われている。
1)思春期の子どもたちの性の健康を守るには下記のA 〜 D が大事
2)高校生の性交経験率は2002 まで上昇を続け以後は横ばい状態だが、高1 男女とも25%、高2 で30%、高3 で45%と高率である。
3)妊娠先行型結婚が増加。`09 年は15 〜 19歳で81.5%、20 〜 24 歳で63.6%と高率である。
4)避妊と性感染予防は異なる。
ちばなクリニック小児科 池間 尚子
10 月4 日に引き続き、10 月5 日に行われた領域分の概要を報告する。
1)日本と欧米の定期予防接種の違い〜ワクチンギャップ〜
A)定期接種の数の問題:先進国と発展途上国の間には、経済格差により接種ワクチン数に差があり、特に1990 年代以降は、先進国でB 型肝炎、Hib、水痘、肺炎球菌などのワクチン定期接種が始まり、途上国との格差は広がっており、ワクチンギャップと言われる。必要ワクチンの地域差はあるものの、日本と先進国で予防接種の数がかなり異なり、わが国は依然、途上国レベルにとどまっている。わが国では、定期接種と任意接種があり、定期接種は、DPT、不活化ポリオ、MR(先進国ではMMR)、日本脳炎、BCG の5 種類である。B 型肝炎、Hib ワクチン導入の遅れ、インフルエンザワクチン定期接種中止などにより、完全に先進国レベルから引き離され途上国レベルとなった(資料1)。昨年からHib、肺炎球菌、HPV ワクチンが助成されるようになり、若干の改善がみられるものの、定期接種化されていないため、正確な接種率は不明で、自治体による勧奨も不十分である。B 型肝炎ワクチンは国連加盟国中14 ヶ国の非定期接種国の一つである。
資料1 最近35 年間の小児定期接種ワクチン数の変化
B)接種回数の問題:DPT は米国では4〜6歳と11 〜 12 歳で追加接種があるが、日本では百日咳を含まないDT 接種であり、百日咳の発生率に差があることから改善が望まれる。
2)新規ワクチン導入体制の違い
A)システムの違い:米国では、独立したACIP(Advisory Committeeon Immunization Practices)があり、新規ワクチンの評価を行っているが、わが国にはそのような機関はなく、厚生労働省の予防接種部会が不定期に開かれて評価している。予算や時間、人手などに大きな開きがあり、今後改善が望まれる。
B)新規薬剤の承認にかかる期間:ワクチンに限らず非常に時間がかかっていたが、最近短縮化している。
C)予防接種法の問題:予防接種法の条項にワクチンの種類が定められており、新規ワクチン導入には法律改正が必要である。以前は3 〜 7 年間隔で改正されていたが、最近は10 〜 20年に1 回しか改正されておらず、法律改正の遅れが新たなワクチン導入の大きな障壁となっている。予防接種の種類の規定自体を排除する予防接種法の改正も待たれている。
D)定期接種が望まれる新規ワクチン:日本小児科学会HP には、定期化されるべきワクチン(ムンプス、水痘、HBV)を含む推奨予防接種スケジュールが掲載されている(資料2)。しかし、法律改正で検討されているのはHib、PCV、HPV のみで、今後他の3 ワクチンも早期の定期接種化が望まれる。
資料2
3)実施体制の違い(もう一つのワクチンギャップ)
実施基準: 米国では、ACIP、AAP、 AAFP など予防接種に関連する行政と学 会などの団体が共同で予防接種の機会確 保、利益と危険性の説明、同時接種などの 実施基準を定め、Redbook に掲載している。
わが国の予防接種ガイドラインでは、予 防接種副反応や同時接種などについて接種 に消極的な姿勢がうかがえる。同時接種に ついては約20 年の遅れがある。また、ワクチン間隔、診察の必要性、軽度の発熱児 への対処などエビデンスに乏しい規制も多 い。今後、予防接種の機会確保のための環 境整備が必要である。
<質疑応答>
1)実施要綱の改正への取り組み
→小児科学会から提言しており、接種間隔の改正が検討されている。
2)行政による任意接種の勧奨、早期の情報提供への要望
→定期接種は行政の義務であるため積極的に
勧奨しているが、任意接種は義務ではないため積極的な啓発を行っていない。
3)皮下注と筋注の海外との違い
→生ワクチンは皮下注であるが、不活化ワクチンは日本以外の海外では筋注である。皮下組織に比べ筋肉は血流豊富で免疫細胞も豊富のため、筋注の方が効果的であり、注射法の変更も検討されるべきである。
小児科外来では小児感染症は最も多い疾患 であり、小児期診療において感染症の知識は 必須である。集団生活の中では集団感染につ ながる可能性があり、患児への適切な治療、 出席停止などの社会的措置、周囲への予防策 などのために、的確な診断が必要となる。診断は、問診(現病歴、既往歴・予防接種歴、 周囲の流行状況、海外渡航歴など)、診察(発 疹の性状と分布、口腔内所見、その他の所見)、 臨床検査(迅速診断キットで診断可能な疾患 あり)による(資料3)。
資料3
1)小児感染症の流行時期と好発年齢
A)感染症の流行時期:それぞれの感染症流行の季節性の理解や、サーベイランス情報による流行状況の把握は、発症予測・予防に有用である。例)インフルエンザ、RS ウイルス、感染性胃腸は冬に多い。
B)感染症の好発年齢:小児(特に2 歳未満)は免疫系の未熟性(特に液性免疫)、身体構造の違い、衛生観念の欠如、何でも口に入れるなどの行動により感染症にかかりやすい。また、年齢によって罹患しやすい感染症が異なる。
2)ウイルス性気道感染症
A)インフルエンザ:脳症などの重症例や死亡例がある。早期受診、早期診断、早期治療が重要。ワクチンの年齢による接種量は、昨年海外並に変更。2 回接種が効果高い。治療は、発症2 日以内に抗インフルエンザ薬(軽症例は経過観察のみで可)、多くの種類があり使い分けの指針が必要。
登園・登校基準は「発症後5 日を経過し、かつ、解熱後2 日(幼児では3日)」。日数は発熱や解熱した日は含まず、翌日から起算する。
B)流行性耳下腺炎:唾液腺だけでなく、中枢神経系(髄膜炎2.4%、脳炎、難聴)・内分泌系など全身に感染、耳下腺の腫脹は1 〜 3 日がピーク。ワクチン接種により合併症発症抑制効果がある。登校基準が「腫脹が発現した後5 日を経過し、かつ、全身状態が良好になるまで」(腫脹の有無にかかわらず)に変更されたが、保育園における登園基準は「耳下腺の腫脹が消失するまで」。
C)RSV 感染症:12 〜 1 月をピークとする。1 歳未満は下気道炎が主、1/3 〜 1/4は下気道炎合併でも発熱を伴わない。約2/3 に中耳炎合併。加齢に伴い軽症化。迅速診断キットで診断可能。早産児、慢性肺疾患、先天性心疾患などで重症化しやすい。早産児、慢性肺疾患にシナジス適応。
D)アデノウイルス感染症:亜型が多く反復感染しやすい、咽頭結膜熱、流行性角結膜炎など。
E)EB ウイルス感染症:初感染は軽微な上気道感染症、一部に伝染性単核球症を起こす。発熱、扁桃炎、頸部リンパ節炎のほか、眼瞼浮腫、肝脾腫がみられることがある。異型リンパ球、血清学的検査で診断、1/3 でA 群溶連菌と混合感染。
3)ウイルス性消化管感染症:感染力強く、時 に重症化・死亡例もあり、輸液など適切な治療を要する。
A)ロタウイルス:5 歳未満の急性胃腸炎の主な原因、2 歳未満に入院する割合が高く、時に重症化し死亡例もある。血清型が多く感染力が強いため複数回罹患する。適切な時期のワクチン接種が大切(副反応に腸重積症)。
B)ノロウイルス:非常に感染力が強く、食中毒症状を起こす。ヒトの消化管でのみ増殖し、感染者の糞便、嘔吐物に大量にウイルスが含まれ、乾燥に強い(嘔吐物の処理にも注意:次亜塩素酸 ナトリウム消毒)。後遺症は少ないが、集団発生(食品取扱者の感染など)しやすい。
4)細菌感染症
A)肺炎球菌・インフルエンザ菌:髄膜炎・菌血症などの全身感染症、中耳炎、副鼻腔炎などの局所感染症を惹起する重要な感染症であるが、ワクチンによる予防が可能。肺炎球菌は莢膜を有し90の血清型に分類、インフルエンザ菌は莢膜型(全身感染症:ヒトに感染するb 型= Hib)と非莢膜型(局所感染症)がある。頻度の高い気道感染症と関連疾患(中耳炎や副鼻腔炎)や、髄膜炎、敗血症、肺炎など侵襲性疾患の主な原因菌であり、薬剤耐性化とその伝播が問題となっている。侵襲性疾患予防にワクチン接種が重要。
B)A 群レンサ球菌 発熱、嘔吐、前頚部リンパ節腫大、発疹などがみられ、急性糸球体腎炎、リウマチ熱を起こすことがある。長期間の抗生剤投与はリウマチ熱の発症抑制に有効。10 〜 20%は保菌者となるが、感染力は弱くリウマチ熱発症もないため治療の必要はない。
5)発疹を伴う感染症:発疹症の原因はさまざ まであるが、流行性感染症も多く含まれ見 過ごしてはいけない。診断が確定するまで は他者との接触を避けさせる。
A)麻疹:感染力がきわめて強く空気感染する。カタル期(発熱、咳、眼脂など)・ 発疹期に分かれ、発疹出現1 〜 2 日前に頬粘膜にコプリック斑出現。数週間 の免疫抑制期間を伴い、肺炎、脳炎などの重症合併症・死亡を引き起こす。 日本はアジア・アフリカ諸国と同様の流行状況にあり、ワクチン接種による 予防が重要(「1 歳のお誕生日にワクチンを」)。第二期接種に対する時限措置終了後の対応が問題。
B)風疹:発熱、発疹の症状は軽いが血小 板減少症や脳炎などの合併症がある。 妊婦の妊娠初期の初感染で児に先天性 風疹症候群の危険性があり、ワクチン 接種による流行抑制が重要。2011 年か ら流行、8 割は成人(特に20 〜 40 代)、 男性に多い。
C)水痘:発疹は紅斑・丘疹・水疱・痂皮 化が混在する。1 歳以下と15 歳以上 で二次性細菌感染、中枢神経合併症な どが多い。持続感染し免疫低下時に帯 状疱疹となる。ワクチン接種率が低い。
D)エンテロウイルス:腸管から全身組織に感染。何度も感染し、手足口病、無 菌性髄膜炎、ヘルパンギーナの原因となる。手足口病は予後良好だが急性脳症の合併例あり。
E)突発性発疹:原因ウイルスはHHV6、7。 一般的に予後良好、時に髄膜炎や熱性けいれん誘発。
<質疑応答>
流行性耳下腺炎の出校停止期間について:学 校感染症予防法は改正されたが、保育園は厚労 省管轄で、未だ「腫脹が取れるまで」という基 準を採用し、同じ年齢でも対応が異なる。今後 の対応は?
→厚生労働省によれば「保育所における感染症 ガイドライン」を改定し保育園も同様の対応をとる予定。
1)先天性心疾患:心臓の構造的異常で小児心臓疾患の8 〜 9 割を占める。
A)診断検査法の最近:形態診断は、専門家が行う心エコーで99%診断可能。特に、 3D 心エコー、3DCT は治療方針決定に有用。心機能は、小児先天性心疾患では 右心室機能の評価(容積、機能)が重要であるが、心エコーでは十分な評価が難しく、心臓MRI が有用。
B)治療:カテーテル治療と外科手術
・カテーテル治療:疾患によってはバルーンカテーテル、ステント、閉鎖栓による治療が可能(動脈管開存、肺動脈弁狭窄・
閉鎖、大動脈弁狭窄、心房中隔欠損症など)。
・複雑になる外科手術:複数の複雑な手術
同時施行やHybrid 手術(外科手術+カ
テーテル治療を同時に行う)により重症
の心疾患の救命率は上昇したが、診療報
酬の改正が望まれる。
C)複雑化する術後管理:術後乳び胸水、低心拍出症候群(LOS)による腎不全(腹 膜灌流)、術後肺高血圧クリーゼ(NO/N2 吸入療法)、重症LOS(ECMO +持 続緩徐式血液濾過)など。治療に必要な薬剤の多くが小児への保険適応がなく、海外または成人とのドラッグラグが大きい。
D)増加する一方の成人先天性心疾患患者:重症先天性心疾患の救命率改善により、成人期への移行が大きな問題。成人期になって長期合併症(肝硬変・肝細胞がん、低酸素血症による多臓器障害など)が出てくるが、現状では循環器内科医への移行が難しく、成人先天性心疾患の医療体制の整備が求められる。
2)不整脈
複雑心奇形に合併するものや、QT 延長症 候群(乳児突然死症候群の原因の約10%)。 特にカテコラミン誘発性多型性心室性頻拍症 は、家族歴なく急に発症し、予防接種後や学 校での突然死の原因となる可能性があり要注 意(AED で救命可だが根本的治療法はない)。
3)心筋炎・心筋症
劇症型心筋炎:発症から数時間で死に至る。 治療は体外補助循環(PCPS/ECMO)、早期 の治療開始により救命率上昇、長期予後も改 善。ECMO が可能な施設に迅速に搬送する ことが重要。
拡張型心筋症:抗心筋抗体陽性例では、血漿 交換が劇的に効果を示す例がある。補助人工 心臓は、小児への国内治験が開始されたが海 外とのラグがある。最終的は心臓移植。
4)肺高血圧
特発性肺動脈性肺高血圧(原発性肺高血圧):以前は致死率高かったが、肺血管拡張薬の急速な発達により生存期間が劇的に伸びているが、治療は高額。
5)川崎病
治療方法は、IVIG 治療不応例(2.3%)に 対しステロイド療法の併用が復権(保険適応 未)、他に免疫抑制療法や血漿交換療法など。 冠動脈合併症リスクの予想が今後の課題。
6)胎児における心臓病の診断
重症先天性心疾患の7 〜 8 割は胎児エコ ーで診断される。左心低形成症候群に対して 海外では胎児カテーテル治療が開発されてい る。胎児期不整脈も診断可能、薬物治療は効 果があるが、健康な母親の服薬に倫理的な問 題がある。
7)子どもの心臓病医療の問題点
思春期とは:Adolescent(体とこころ、10 〜 18 歳)とPuberty(体、10 〜 15 歳)。外見 は大人に近づいているが、自分の経験などの言 語化や社会的応答が苦手、「子ども扱い」には 拒否反応を示す。
思春期の面接のポイント:子どもを尊重し、 受け止める姿勢を明確示す、子ども扱いをしな い。静かな落ち着いた場所で行い、本人のアウ トライン(好きな食べ物など、将来してみたい こと、楽しかった思い出など)を聞く。子ども が自分の言葉で話すためには、ゆるやかな関係 性の構築に心がけ、当たり障りの無い共通の話 題を作っておく。急がさない。いきなり問題点 に入らない。善悪の判断を行わない。
思春期・青年期のこころの問題(資料4)。
資料4
1)うつ病とその関連:意欲低下や倦怠感が代 表症状であるが、思春期には過眠・過食も 多い。病像は多様化し非定型うつ病が増加。 「気力の問題」と受け取られて、診断が遅れたり重症化する例が多い。治療は、カウ ンセリングと身体活動性をあげること(朝、 軽く汗ばむ程度の運動)が基本、薬物療法 はSSRI など。
2)双極性障害:小児ではそう状態が目立たな い2 型がかなり見られ、うつ病と誤診され ることが多い。状態の移り変わりが早く1 日の中で変わることもある。薬物療法は非 定型抗精神薬。
3)パニック障害:発達障害に見られることが ある。1 回でもパニック発作に襲われると、 予期不安が強くなり行動制限に陥ることが 多い。治療はカウンセリングと予期不安に 対する対応、場合により薬物療法。
4)強迫性障害:発達障害に合併することがあ る。治療はカウンセリングが基本、場合に よってはSSRI 使用など。
5)不登校:行きたくても行けない子どもが多
い。疾患による登校困難が不登校として
取り扱われる場合があり要注意(資料5)。
中学校で不登校の場合、卒後5 年で23%
は就労・就学せず、予後は良くない。
資料5
不登校への対応としては、再登校が解決 とは限らず、将来の目標を持つ、笑顔でい られる、生活の質やself-esteem の改善す ることを目標とする。学力の維持も重要で、 特に小学校高学年以上になると2 ヶ月以上 の不登校で学業低下は避けられず、塾や家 庭教師などの利用を相談する。
6)いじめ:5.2%が週1 回以上いじめられ、 2.5%が週1 回以上いじめており、15%は加害・被害両方を経験しており、どちらの 立場にもなり得る。
加害者・被害者の共通点:精神保健状況 がよくない、不定愁訴が多い、孤独になり やすい。
いじめは人権侵害であり、何らかの対応 が必要、Self-esteem の低下もあり、social skill straining を行うこともある。学校の 中だけで解決を試みるのではなく、子ども が守れない場合は医療、警察、弁護士など に相談する必要がある。
7)発達障害:うつ病、双極性障害、パニック 障害、強迫性障害などでは、少なからず背 後に発達障害が見られる。不登校の率が高 く、不登校を契機に診断される例が少なく ない。いじめの問題も避けて通れないが、 いじめとは認識されず、ADHD では「ふ ざけ」、高機能自閉症では「からかい」と 認識されやすい。ADHD と学習障害で学 業不振、高機能自閉症で孤立、ひきこもり につながりやすい。
8)性の問題:
A)若年(中高生)妊娠:妊娠20 週頃の 相談が多く、出産か中絶かの決定ま での時間がない。性教育が不十分の ため緊急避妊を含めて正確な知識に 乏しく、希望しない妊娠が多い。その 後のフォローが重要。出産例では、シ ングルマザーとなり十分なサポートが 得られず貧困に陥る場合も多い。中絶 例では、妊娠を繰り返すことがある。 登校や非行などの問題行動を合併しな い「普通の子」の妊娠が増加。
B)レイプ被害:警察のレイプ対応チーム が対応、時間が経っての相談が多く心 理的なフォローが重要。
C)避妊と性感染症の予防:正確な避妊、緊急避妊、性感染症についての情報提 供が必要。HPV ワクチン接種を、緊急避妊や性感染症を含めた性教育の良 いチャンスとして活用する必要がある。「子どもを生みたくなったときに、安全 に安心して生めることが一番大切」であることを伝える。
思春期は誰でも通るステップであるが、経過 はさまざまである。思春期の相談外来は時間が かかり対応できる医療機関の増加が望まれる。