沖縄赤十字病院 脳神経外科 笠井 直人
5 度目の年男の還暦を迎えるにあたって、こ れまでと一味違った感慨深いものがあり、来し 方行く末に大いなる反省と、ささやかな希望に 思いをはせる今日この頃です。
農学部志望だった私は、体力が残っている 50 歳頃から近所の市民農園に空きが出れば貸 してもらおうと目論んでいました。残念ながら 未だ実現していません。
妻の故郷(福島県中通り)の本家は専業農家 で、子供達と押しかけては田んぼでザリガニや カブトエビとたわむれて泥んこになっていまし た。イチゴハウスでは手伝うふりをして、たら ふく胃袋に収穫していました。ふるさとの象徴 の柿の木にのぼり、シブガキをもごうとして見 事転落、悪ガキ親父もしました。
親戚の農家のおじさんに「まんずオメェ、仕 事ナ二シデンダァ?」と聞かれ、「ノーケンで 研修してます」と答えると、『農業研究所』と 勘違い歓迎され、『脳疾患研究施設(略称:脳研)』 と訂正するのにひたすら恐縮しました。
さて、その福島県の農魚介産物が放射能被害 や風評被害(放射能検査に合格しても売れない) 等で大変困窮しているとのこと、せめてもの微 力支援のつもりで合格農産物を購入し、当地か らはカボチャやマンゴーやゴーヤーを送りつ つ、 農業に安易にあこがれていた私は恥じ入 っています。所詮プランターでネギやオクラや 二十日大根と戯れているレベルなんですね。
老義父母の沖縄移住も勧めてみましたが、諸 事情あり叶いません。私自身には先輩から「お めぇでもいいがら、往診の手伝いに来れねぇ か?」と声を掛けられましたが、応援に行けず チムグルサン思いをしています。
ところで脳ですが、最近は開頭せずに、脳血 管病変を治療する『脳血管内治療』が当県でも 数か所の病院で行われています。MR 検査によ って、未破裂脳動脈瘤が脳ドック等にて発見さ れるようになり、破裂脳動脈瘤も含めて瘤のコ イル塞栓術が(クリッピングより)治療の主流 になりつつあります。またエコー検査で頸動脈 狭窄が高度な場合、風船治療(ステント留置) がなされるようになってきました。
脳腫瘍も開頭摘出術等が困難な場合には、γ - ナイフ治療が効果を上げています。
思えば 30 数年間、日進月歩の脳の検査や治 療についていくのが精いっぱいで、還暦を期に リタイヤ(リボーン:再生)し、晴耕雨読の第 二の人生を思案中です。
農は末娘が農学部で建築廃材等を再利用す るバイオマスエネルギー研究の道に邁進して いるようで、羨ましくも私の夢を叶えてくれ ています。
脳は、優秀な後輩達に脳神経外科手術と脳 血管内治療のバトンタッチができて安堵して います。
医師会員皆々様の益々のご健勝ご活躍をお祈 りしつつ、行く末の充実を肝に脳に銘じ、還暦 記念拙文を綴り終えます。