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カミキリムシと菩提樹 (前編)

長嶺 信夫

長嶺胃腸科内科外科医院  長嶺 信夫

1. 菩提樹が枯れてしまった

あの「お釈迦さまの菩提樹」が枯れてしまっ た。2011 年11 月のことである。

菩提樹協会会員のM氏から「菩提樹の様子が おかしい」との連絡である。半信半疑で「4、5 日前も菩提樹苑に行ってきた。葉が落ちている だけだろう」と答えたものの、気になって早速 菩提樹の様子を見に行った。

糸満市米須にある沖縄菩提樹苑には2004 年 5 月30 日に植樹した「お釈迦さまの菩提樹」 が3 本植えられている。

2011 年夏の台風は強烈で、菩提樹苑に防風 林として植樹していた「オオバアカテツ」の直 径15cm の幹が5 本途中から折れるほどであっ た。菩提樹も台風の都度、落葉し、枝先はまる で竹箒のようになる。それでも、しばらくする と枝先に新芽がでる。菩提樹は元来成育が旺盛 な樹なのだが、それだけに強風には弱く、簡単 に枝が折れ、落葉する。

2. 強烈な台風襲来

その菩提樹が瀕死の重症である。度重なる台風 に菩提樹も持ちこたえることができなかったのか。

ちなみに、昨年(2011 年)沖縄県に襲来し た台風の記録を見てみると、発生した台風21 個のうち7 個が沖縄に接近している。

沖縄菩提樹苑に大きな被害を与えた台風 は、5 月22 日に発生した台風2 号:最大風 速55m、防風林のオオバアカテツの太い幹 が折れ、

6 月22 日に発生した台風5 号:24 日から25 日にかけ先島地方を通過、

7 月28 日に発生した台風9 号:最大風速 55m、沖縄本島を40 時間以上も暴風雨に巻き 込み、

9 月13 日発生の台風15 号:南大東島近海で1 回転し、沖縄本島にも長時間強風をもたらした。

これほどの台風が沖縄県に襲来したのは、お よそ10 年ぶりのことである。

3. 菩提樹の被害

菩提樹の被害状況は時系列で菩提樹の写真を 見るとよくわかる。

写真1は2009 年7 月12 日の菩提樹の様子で ある。樹は大きく育ち、枝を広げている。その 年の11 月にダライ・ラマ法王14 世を菩提樹苑 にお迎えした。

写真1. 最も勢いがある時の菩提樹(2009 年7 月12 日撮影)

写真2は法王を迎えるにあたって、台風対策 として菩提樹を防風ネットで保護している写真 である。

写真2. 台風対策時の菩提樹(2009 年10 月11 日撮影)

これほど大きく育つと、台風の都度実施する ネット張りには、大きな枝も剪定しなければな らない。かなりの作業量である。そのため、法 王訪問後の2 年間は台風が来ても防風ネットを 張らず、特に肥料も与えずに放置していた。そ れは、植物専門家と称する糸満市在住の植木職 人が「あまり過保護にしないで、沖縄の風土に 慣らすように」と助言していたので、その助言 を受け入れたためでもあった。

幸いにも、2010 年は大きな台風はなかった。 しかし、2011 年は先に記載したように激烈な 台風が繰り返し襲来したのである。

台風後の菩提樹の写真を供覧しょう。写真3 は 台風2 号が沖縄に接近した2011 年5 月28 日午後 撮影したもので、写真4は台風が通過した直後、 5 月29 日に撮影した写真である。菩提樹は一夜 にして竹箒のような無残な姿に変わっている。

写真3. 台風2号被害直前の菩提樹(2011 年5 月28 日撮影)

写真4. 台風2号被害直後の菩提樹(2011 年5 月29 日撮影)

菩提樹はその後の台風5、9、15 号の来襲の たびに傷めつけられ、落葉しては枝先に新芽を 出すことを繰り返していた。

4. 原因究明

枯れ死寸前の菩提樹の状態に11 月24 日、菩提 樹協会会員や関係者を非常招集した。現地での被 害状況の調査および被害対策の協議のためである。

3 本の菩提樹のうち、中央前方の樹はまだ枝 先に葉をつけているが、後方の左右2 本には葉 が見られない。これまで、前方の樹の枝葉を見 て、一時的な落葉だと勘違いしていたのである。 後方2 本の幹を観察したところ、樹皮に割れ目 がめだち、確かに弱っている。

このような事態になった原因はいったい何なの か?会員は口々に自分の考えや意見を披露した。

想定された原因は1).台風の強風と塩害 2). 肥料の問題 3).外部からの除草剤などの散布、 いわゆる破壊工作である。

1)については当然考えられた。海岸に近い上、 強風や塩害をさける遮蔽物もない。オオバア カテツの防風林の太い幹も折れた。場所柄、 塩害も相当ある。地上の塩を除去するため、 構内の表土を入れ替えることを提案する会員 さえいた。

2)に関しては、11 月21 日に筆者の通報でかけ つけた、前に過保護にしないようにと筆者に助 言した植木職人が「菩提樹の根元に化学肥料が おいてあるのを見て、直ちに除去した」と言い、 「樹が枯れたのは、その化学肥料のせいだ」と 発言した。しかし、その肥料は当日、これも筆 者の通報でかけつけた菩提樹協会の会員が経営 する病院の職員が重症の菩提樹を見て、仰天し、 化学肥料を撒いたものであった。この職員が肥 料を撒くのは極めて例外的なことである。また 筆者は化学肥料を好まず、一度も使用したこと はない。また筆者は1 〜 2 週間ごとに菩提樹苑 を訪問しているが、化学肥料が撒かれているの を見たこともない。菩提樹が植えられている構 内は施錠されていて、鍵を持っている人以外塀 に囲まれた構内に入れないのである。

なかには、「肥料のやりすぎ」という会員も いた。しかし菩提樹苑を管理している筆者はダ ライ・ラマ法王を迎えた2009 年秋以降の2 年 間肥料は一切使用していない。むしろ、2 年前 までは肥培管理を徹底していたため、写真1の ように立派な樹に成長していたのだが、この2 年間肥培管理をおこたったことが樹勢を衰えさ せ、枯れ死させた原因になったと反省し、急い で有機肥料の施肥を施したほどである。

3)に関しては万一の可能性があるが、構内に薬 物をいれていた容器が見つからないうえ、菩提 樹の周囲に生えているシバに異常は見られない ので否定的であった。

いずれにしても、容易ならざる事態である。 2011 年12 月3 日の臨時理事会で、とりあえず 菩提樹の周りの塀を2mから4mの高さまでか さ上げすることが決定された。

5. アショカ王の故事にならい牛乳を注ぐ

それにしても、これほど大きくなった樹が台 風だけで立ち木のまま枯れるというのは納得が いかない。

構内の御影石の塀が完成し、落成式を挙行し てから6 年目にあたる12 月18 日の日曜日、ス ーパーで新鮮な牛乳を買い、菩提樹苑にむかう。 「アショカ王が伐採させ、寸断し、焼却させた 菩提樹が煙や炎がまだ静まらないうちに2 本の 樹が生えだした異変をみて、自らの行いを後悔 し、香乳を残りの根に注ぎかけたところ、翌朝 になると樹は元のように生えていた」という故 事にならい、菩提樹に牛乳を注ぐためである。 遊び心ではあるが、妻・尚子は樹根に神妙に牛 乳を注ぎ、2 人で笑いながら、樹勢回復の祈り を捧げた(写真5)。

写真5. 菩提樹の樹根に牛乳を注ぐ妻・尚子 (2011 年12 月18 日撮影)

ところが、枯れかかった菩提樹の樹皮をはが したところ、樹皮の下に数ミリから数センチま で、大きさが異なるゴマダラカミキリの幼虫が 沢山出てきた(写真6,7)。樹根の樹皮下にもいる。

写真6. カミキリムシ被害の樹幹、幼虫が見える (2011 年12 月18 日撮影)

写真7. 妻・尚子の手掌上のカミキリムシ幼虫 (2011 年12 月18 日撮影)

菩提樹にカミキリムシの被害、2011 年11 月 24 日に非常招集で菩提樹苑に関係者が集まっ たとき、菩提樹にゴマダラカミキリの成虫がと まっているのをみかけたものの、誰一人カミキ リムシが菩提樹を枯れ死させた犯人とは気付か なかったのである。

(12 月号へつづく。)