常任理事 宮里 善次
去る8 月5 日(日)、ホテルニューオータニ博多において開催された「第56 回九州ブロック学校保健・ 学校医大会並びに平成24 年度九州学校検診協議会」について、以下のとおり報告する。
また4 日(土)は、関連の諸会議として平成24 年度九州学校検診協議会第1 回専門委員会、平成 24 年度九州学校検診協議会幹事会、九州各県医師会学校保健担当理事者会が開催されたので併せて報 告する。
<1日目:平成24年8月4日(土)>
1. 各専門委員会別協議
1)心臓部門
座長:吉永正夫先生(鹿児島県医師会)
報告1)九州各県における学校管理下の心臓性突然死(平成23 年度)について(福岡県)
<提案理由>
継続調査中、九州各県での状況について報告 する。
<報告内容>
平成23 年4 月1 日から平成24 年3 月31 日 の期間において、学校における心臓性突然死が 1 件発生したとの報告があった。
本件は、佐賀県にて中学2 年生13 歳の男子 生徒がテニス部の合宿の際、朝6 時に起床、8 時から練習を開始し軽いジョギング等を始めた ところ突然、喉が痛いと訴えトイレで倒れこん だ。救急車を要請し(15 分で到着)、病院に搬 送されたが(発症から53 分)、様態が急変し、 心臓マッサージを行ったが改善せず亡くなっ てしまった。当該生徒は、亡くなられる直前に CT スキャンを撮影していたが特定する病変は 見つかっておらず、既往歴もなく、健康状態も 問題はなかったので原因不明の突然死であると の報告があった。
提案1) AED 使用状況、ニアミス症例の状況と調査票の改訂について(鹿児島県)
<提案理由>
平成22 年度からAED 使用状況調査を実施 しているが、各県医師会への報告状況をお伺 いしたい(ニアミス症例もあったらご報告く ださい)。
また、前回(H23.11.26)の専門委員会で学 校管理下でのAED の使用状況のみならず突然 死とニアミス症例の蓄積も行うべきではない かとの提案があった。その後、専門委員間のメ ーリングリストで、我那覇委員からの意見を受 け、石川委員から調査票案の提示があった。そ の後、特に意見はなかったので、この調査票に 調査概要を添付し改めて調査したいと思うが、 いかがか。
※現在の調査票からの主な変更点
1)調査対象項目の追加:幼稚園(保育園)、特別支援学校
2)学校生活管理区分別の記載項目の追加
3)発生時間の項目の追加:登校中、授業中、休み時間 など
4)発生場所の項目の追加:自宅
5)心肺蘇生の有無の追加
6)AED 使用の施行者の項目の追加:生徒、他職員、救急隊員、家族
なお、日本小児循環器学会蘇生科学委員会で も「小中学生の院外心原性心停止登録票」作成 を検討している。
<協議内容>
平成23 年度の突然死は1 例であるが、九州 でAED を使用した例が6 事例も起きており、 またその他4 例についてはAED を使用する予 定であったという事例となっているとの報告が あった。
また、日本では、AED を使用した事例に対 しての報告・調査がされていない現状がある為、 九州からその取り組みを始めようと去年から本 委員会で提案されており、そのため事例調査票 について協議した結果、具体的な記載が可能で あり、かつ1 枚で全て記載ができるような様式 にすることが決定された。
なお、対象は医療機関、教育委員会とし、可 能である地域は救急隊も含め、各県医師会、郡 市医師会を通じて調査を行うこととなった。
提案2)心臓検診時の統一病名について (鹿児島県)
<提案理由>
前回の専門委員会で統一病名について素案を 提示したところ、当日、以下のような意見を頂 いた。
・A 不整脈疾患の【その他】に、「25.J波ERS症候群」を付け加えるのはどうか。
・川崎病は後遺症の有り、無しでいいのではないか。
・心筋症でST 異常はあるが、どうもないという場合フォローしているのか、するとしたらどのようなフォローをすればいいか。その後、特にメーリングリストでの意見交換
<協議内容>
日本全国で心臓検診が行われているが、統一 病名というものはなく、九州内の心臓部門で統 一病名を決め、各県の色々な疾患の頻度を調査することとなった。
また、もう一つの目的として、突然死、 AED 使用例、もしくはニアミス例がどういう 疾患の上で診断されているかという調査目的も ある為、各県医師会並びに各郡市医師会にご協 力いただき、調査を行うこととした。
2)腎臓部門
座長:服部新三郎先生(熊本県医師会)
報告1)九州各県、平成23 年度並びに過去5 年間の診断名集計結果について(福岡県)
<提案理由>
九州各県での平成23 年度並びに5 年間の精 密検診後の診断名の登録状況を報告する。
<報告内容>
九州各県の、平成23 年度並びに過去5 年間 の診断名集計結果(暫定診断もしくは確定診断) の報告があった。
ただし、私立学校等、報告を終えていない学 校もあるため、今年11 月までには集計し報告 することとした。
また、コンピュータの不都合によるデータ紛 失があった為、当初予定していたものには達さ ない集計結果となったので、今年11 月までに は、紛失データを追加した完成版を作成し、再 度報告することとなった。
報告2)日本学校保健会の「学校検尿のすべて平成23 年度改訂」の主な変更点について(鹿児島県)
<提案理由>
日本学校保健会の「学校検尿のすべて平成23年度改訂」が発行された。
主な変更点は
1)医療機関での検診(三次、精密)での尿蛋白の評価は、尿蛋白/Cr 比(g/g)が必須 尿蛋白(+)程度は、尿蛋白/Cr 0.2 〜 0.4 尿蛋白(2+)程度は、尿蛋白/Cr 0.5 〜 0.9をさす
2)暫定診断名・暫定診断の基準
3)専門医への紹介基準
<報告内容>
主な変更点
1)医療機関での検診(三次、精密)での尿蛋白の評価は、尿蛋白/Cr 比(g/g)が必須
↓
医療機関での検診(三次、精密)での尿蛋白の評価は、 尿蛋白/Cr 比(g/g)が推奨 尿蛋白(+)程度は、尿蛋白/Cr 0.2 〜 0.4尿蛋白(2+)程度は、尿蛋白/Cr 0.5 〜 0.9をさす2)暫定診断名・暫定診断の基準
→暫定診断名・暫定診断の基準
3)「専門医紹介基準」 →「事後措置基準」と「専門医紹介基準」 また、専門医紹介基準では、「尿蛋白2 +以 上は尿蛋白/Cr で0.5g/g 以上をさす」という 文言のみとする。
報告3)平成23 年度 九州各県における学校検 尿についてのアンケート調査集計結果報告について(宮崎県)
<提案理由>
九州学校検診協議会は平成13 年度に学校検 尿に関するアンケート調査を行った。
それから10 年が経過し、その間に九州学校 腎臓病マニュアルが完成し、九州各県の検診結 果が毎年集計されるようになった。
検診システムは進歩してきていると考えられ るが、診断基準の統一化や都市部と地方の検診 の地域差など今後改善していかなければならな い課題も多い。
そこで再度検診の実態を把握する目的で、九州 各県における学校検尿の実施状況についてアンケ ート調査を行ったので、その結果を報告する。
<報告内容>
公立の小学校・中学校におけるアンケート調 査結果について集計及び報告があった。また、 私立高校については今年11 月に最終的な集計 結果の報告をすることとなった。
提案1)「九州学校腎臓病検診マニュアル」の運用・方向性について(鹿児島県)
<提案理由>
今回の「学校検尿のすべて」の改訂では、本 会のマニュアルも参考にして改訂が加えられ、 暫定診断名や管理基準、紹介基準等も具体的に 記述された。
他地域のマニュアルも再検討や改訂が予想さ れるが、本会の「九州学校腎臓病検診マニュア ル」の運用・方向性について各県の考えを参考 にし、考案していきたい。
<協議内容>
尿蛋白/Cr 比のパラメータについて、「九州 学校腎臓病検診マニュアル」においては、重症 度の判定基準として尿蛋白/Cr 比に加え1 日 尿蛋白量の基準が設けられているが、「学校検 尿のすべて平成23 年度改訂」においては、尿 蛋白/Cr 比のパラメータのみの採用となって おり、協議の結果、「学校検尿のすべて平成23 年度改訂」の基準を新しく取り入れる方向性で 一致した。
また、専門医紹介基準・暫定診断名につい ては、「学校検尿のすべて 平成23 年度改訂」 と「九州学校腎臓病検診マニュアル」とでは多 少異なり、その統一をするか否かを協議した結 果、「九州学校腎臓病検診マニュアル」の基準で、 当面は行っていく方向で決定した。
提案2)潜血・蛋白のカットオフ値(+)の採用状況について(熊本県)
<提案理由>
九州学校腎臓病検診マニュアルに示されてい る潜血・蛋白のカットオフ値(+)の採用状況に ついては、平成22 年度の専門委員会より九 州各県に考えを尋ねているが、その後の状況(マ ニュアルの利用状況等も)がどのようになって いるのかを知りたい。
熊本県では、今年4 月に九州腎臓病検診マニ ュアルをもとに、熊本県学校検尿マニュアル(第 3 版)を作成し、県内の学校検尿関係者(県内 全ての教育委員会、学校、学校医、検尿実施機 関等)に配布し、マニュアルの利用と(+)の 実施を求めている。
<協議内容>
提案事項3)と併せて協議されたので、提案事 項3)の<協議内容>を参照。
提案3)学校検尿(1 次検尿、 2 次検尿)の検査結果の判定機関へ直接判定基準のアンケート を送り、判定基準の統一化をお願いする。(宮崎県)
<提案理由>
九州学校腎臓病検診マニュアルにより九州内 の学校検尿はシステム化されてきているが、1 次検尿、2 次検尿の判定基準の統一化は十分と は言えない。
学校検尿を更に充実させるために1 次検尿、 2 次検尿の判定機関に直接判定基準のアンケー トを送り、判定基準の統一化をお願いしたい。
<協議内容>
従来は、(+)(−)でやっていたが、それを (+)にすることとする。
県内、全て(+)を採用できているのは、長 崎県、宮崎県、沖縄県である。
他県は、大枠として(+)を採用しているが、 場所によっては(+)(−)を採用しており、 それをなるべく(+)で統一していきたい。
そこで、実際の検査をするのは検査機関(宮 田先生のアンケート結果によると、民間等の検 査機関も多く見られた)であり、検査を(+) でやっているのか、(+)(−)でやっているの かをアンケートにて調査していくこととした。
3)小児生活習慣病部門
座長:田ア考先生(佐賀県医師会)
提案1)各地区で行われている生活習慣病予防検 診の検査(検診)項目について、実施中の内容やご意見をいただきたい。 (佐賀県)
<提案理由>
各地区で取り組まれている小児生活習慣病予 防検診には、地区の事情によりBMI や腹囲測 定などの身体測定と共に、血液検査を同時実施 したり、二次検診として実施されていることは 承知しているが、特に、身体測定を一次検診と して実施後に、二次検診を実施しておられる地 区において、その内容等をご教示いただきたい。
一次検診においては、「肥満度」だけチェッ クしている場合は、二次検診(血液検査)では、 脂質関連と糖代謝関連の検査項目で良いと思わ れるが、いかがか。
また、チェックアップ後の精密検査を精密医 療機関で行う場合には、どのような組み合わせ 検査項目が必要になるとお考えか。
<協議内容>
採血検査については、採血を一次検診から行 っているグループと、一次検診は肥満度のみを 行うというグループに分かれた。
採血を行っているグループにおいても、学校 側の抵抗等もあり数は増えていかない現状であ ると報告があった。
また、肥満度等の結果から二次検診にまわす 場合であっても、採血検査をどこまで行うかと いことが課題となっており、最終的には、費用 を保険診療として行うか、公費として行うかで も、その項目に若干の差が出ることが示された。 公費で行っているグループではインシュリンま で行っているところもあったが、保険診療で行 う場合は、診断名との関係で実施が難しい点も あることが示された。
本事項については、今後も引き続き検討を加 えることとした。
提案2)平成23 年度九州地区尿糖陽性者群集計結果について
<提案理由>
九州各県よりいただいた調査結果について報告する。
<提案理由>
集計結果が各県から示されたが、各県におい て全ての学校から結果が示された訳ではなく、 現時点の総数においてどの程度データとして取 り扱えるか等の問題が提起された。 腎臓検診グループが実施しているような形 で、各小中高における尿糖陽性者の数を確認し、 精密検査の結果等を把握できるよう、引き続き 調査を実施していくこととした。
提案3)成長障害、身体発育 ― 身長と体重の成長低下と減少、貧血を調査する。
<提案理由>
成長障害と貧血、特に小球性低色素性貧血の 出現率を調査し、摂食障害や虐待、ネグレクト、 長期欠席児童、生徒の実態を考える。
長期欠席児童、不登校児童の中に摂食障害に 起因するものがあり、その基礎病態として発達 障害があると考えられる。
<協議内容>
各県より、生活習慣病いわゆるメタボという ことで肥満児が重要視されているが、子供達の 現実をみると、必ずしも肥満だけではなく痩せ ている児童、あるいは発達障害や心の問題から 体に影響が出ているということもあり、そのよ うな面からも何らかの形で検討を加えていくべ きではないかとの意見が示された。
本事項については、検討すべき問題が大きく、 今回だけではまとめることができないため、次 回以降の専門委員会においても引き続き検討を 加えることとした。
2. 平成24 年度(第29 回)九州学校検診協議 会第2 回専門委員会の日程について
1)開催予定日 平成24 年11 月17 日(土)15:00 [ 於 福岡県]
九州医師会連合会の稲倉正孝会長、九州学校 検診協議会の松田峻一良会長より挨拶があった 後、福岡県医師会の原口宏之常任理事より、「平 成23 年度九州学校検診協議会の事業報告並び に決算」、「平成24 年度九州学校検診協議会の 事業計画並びに予算(案)について」の報告が あり、特に異議なく承認された。
その後、平成24 年度(第28 回)九州学校 検診協議会第1 回専門委員会について、各専門 委員会における座長より報告があった。
開催県である福岡県医師会の松田峻一良会長 の挨拶の後、日本医師会の道永麻里常任理事よ り概ね以下の通り挨拶があった。
昨年、東日本大震災が発生し、被災地の内外 を問わず我が国の子どもたちが抱えることとな った心身の問題は非常に深刻となっているが、 その子どもたちの成長過程において心身の傷を 抱え続けないよう取り組むことが重要課題の一 つであると考える。
また、昨今は「子どもたちのいじめの問題」 が深刻化しているので、子どもたちのメンタル ヘルスの問題及び命の大切さ等、医師による健 康教育の重要性を再認識している。
本日は、先生方の学校現場における取組み及 びご意見をいただき、今後の日医の政策にも反 映したい。
挨拶の後、(1)学校において予防すべき感染 症の出席停止期間について、(2)眼科、耳鼻咽 喉科の学校医活動と学校検診の内容について、 (3)各種証明書・文書料の取扱いについて協議 が行われた。概要は以下の通り。
(1)学校において予防すべき感染症の出席停止 期間について(鹿児島県)
<提案理由>
学校において予防すべき感染症の出席停止期 間については、学校保健安全法施行規則で第1種と 第2 種、第3 種に分け期間が定められている。
ただし、「(第2 種の)結核、髄膜炎菌性水膜 炎及び第3 種の感染症にかかった者について は、病状により学校医その他の医師において感 染のおそれがないと認めるまで」とされており、 特に「第3 種のその他の感染症」については、 学校現場と医療現場の解釈の不一致、また学校 医間でも解釈が統一されていない面もある。
そこで本会は、6 月24 日(日)に日本小児 科学会鹿児島地方会との共催で、保育・幼稚園 及び学校保健関係者合同研修会を開催し、保育・ 幼稚園関係者、教育委員会等との意見交換を行 った。
九州各県医師会で、学校において予防すべき 感染症に対する取組み、その他の感染症への出 席停止期間などに関する見解をまとめていれ ば、ご教示いただきたい。
また、平成24 年4 月10 日付、日医発第25 号(地U 4)「学校保健安全法施行規則の一部 を改正する省令の施行について」に添付されて いた「学校保健安全法施行規則改正に関する報 告書」に、「その他の感染症の性格については 更に十分に検討した上で、指導参考資料におい て解説していくこととする」と記載がある。指 導参考資料は、いつ頃出来上がり、学校医にも 配布されるのか、日本医師会で把握していたら お伺いしたい。
<各県回答>
各県ともに、学校において予防すべき感染症 に対する取り組みや、その他の感染症への出席 停止期間等に関する見解は、特にまとめていな い状況である旨の回答があった。
<日本医師会 道永麻里常任理事>
本年4 月に、文部科学省スポーツ青少年局に てインフルエンザの出席停止期間を発症後5 日 かつ解熱後2 日に改正される省令が施行し、本 会から各都道府県医師会に対し、省令改正の通 知を行った。
当該指導参考資料は、感染症予防の啓発及び インフルエンザ等で学校を欠席する期間の明確 化を図ることを目的としたものであり、当面の 計画として本年10 月に文科省にて公表予定を しているとともに、本年度はホームページでの 公表後に必要に応じQ&A 等を追加した形式を とり、来年度に冊子作成の予定をしている。
また、本会から文部科学省に対し、本会議に おいて本件が議題になっていることを伝えたと ともに、冊子が作成された際には学校医に配慮 いただきたい旨を伝えた。
<日本医師会 道永麻里常任理事>
現在、学校保健安全法施行規則における第6 条以降において、児童生徒等の健康診断検査項 目が定められている。
眼科については、目の疾病及び異常の有無、 耳鼻咽喉科については、疾患の有無を見つける ことが法律上、求められている。
先般、文部科学省スポーツ青少年局学校健康 教育課に確認したところ、健康診断は学校にお いて果たすべき義務であることから、法令で定 められた検診項目を実施していない場合、学校 及び学校の責任者、教育委員会等にも責任が生 じると考えられる。また、医師の責任について は、個別事例により異なるとの回答を得た。
眼科及び耳鼻咽喉科の健康診断は、ほぼ全学 年で実施されると定められている。
学校医不足により、法律上定められている学 校健診ができないという問題については、地方 公共団体及び教育委員会、学校において自らの 問題であると認識しているところは殆どないと 考える。
本件については、学校医及び医師会が背負う べき問題ではないが地域行政の意識喚起が必要 なので先生方からも行政に対し、問題意識の共 有を図っていただきたい。
(3)各種証明書・文書料の取扱いについて (福岡県)
<提案理由>
感染症の証明書発行については、新型インフ ルエンザ以降減ってきているが、学校によって は独自の様式の証明書に記載を求められること や、証明書も病名だけのものから、登校許可の 記載を求められるものまで様々なケースがあ る。医療機関の対応も文書料を無料とするとこ ろから様々な料金設定がある。そこで、九州各 県医師会において感染症の証明書・文書料の取 扱いに関する取決め等があればご教示いただき たい。
また、平成20 年11 月の九州各県医師会学 校保健担当理事者会において鹿児島県から提 案のあったアレルギー疾患用学校生活管理指 導表の取扱いについて情報交換を行っている が、その後の進捗状況についてもご教示いた だきたい。
<各県回答>
各県ともに、感染症の証明書・文書料の取扱 いに関する取決め等はない旨の回答であった。
また、熊本県医師会より、本県では、アレル ギー疾患用学校生活管理指導表における文書料 については、公費ではなく自費負担としている。 証明書であっても責任は伴うので、無料ではな く料金をいただいて良いのではとの意見が述べ られた。
<日本医師会 道永麻里常任理事>
昭和56 年に公正取引委員会が示した「医師 会の活動に関する指針」にて、医師会が自由診 療料金及び文書料を決定することは、原則とし て違反であると定められている。これは、独占 禁止法第8 条に規定されている事業者団体の禁 止行為に該当するという考え方である。
また、本件について文部科学省にも確認した ところ、学校保健に係るいかなる証明書も当該 指針に従うとの回答であった。
従って、医師会が統一した文書料の設定は出 来兼ねるが文書料の料金設定については、医療 機関及び医師の個人の裁量に委ねられていると いうことについてご了知いただきたい。
<中央情勢について>
日本医師会の道永麻里常任理事より、中央情 勢について以下の通り報告があった。
昨今、喫緊の問題となっている「いじめ問 題」だが、いじめの認知件数は前年度に比べ 2,500 件増加しており合計で75,000 件、いじめ を認知した学校数は、前年度に比べ549 校増 え15,675 校となっており、全学校数に占める 割合は42.2%で半数近くの学校でいじめ問題 があることとなっている。
児童生徒が減少にある中、このような結果に なっているということは非常に重く受け止める 必要がある。
昨年10 月、滋賀県大津市において発生した 「いじめ自殺問題」に鑑み、文部科学省スポー ツ青少年局学校健康教育課は、全国の学校及び 教育委員会に対し、いじめに関する専門的な指 導並びに助言を行う新組織を8 月中にも文部科 学省に設置する考えを示した。
また、平成24 年5 月より、文部科学省スポ ーツ青少年局学校健康教育課が所管となり、「今 後の健康診断の在り方等に関する検討会」が開 始され現在までに2 回会議が行われている。
日本医師会では、平成22 年3 月「学校保健 委員会答申」において診療科別、学年別の健康 教育の項目を整理し、対象を児童生徒、教職員、 保護者に分け作成した。
学校保健に参加してきた内科及び眼科、耳鼻 咽喉科の学校医に加え、今日的な問題に直接対 応できる精神科及び産婦人科、整形外科、皮膚 科等、各診療科の医師を学校に派遣する事業と して、平成23 年度末まで実施された「子ども の健康を守る地域専門家総合連携事業」は事業 仕分けのため廃止となったが、後継事業として 平成24 年度より、「学校保健課題解決支援事業」 が導入されたので、活用していただきたい。
< 2 日目:平成24 年8 月5 日(日)>
《 第56回九州ブロック学校保健・学校医大会並びに平成24年度九州学校検診協議会(年次大会)》
1. 平成24 年度九州学校検診協議会(年次大会) (09:00 〜 12:00)
午前9 時より「平成24 年度九州学校検診協 議会」が開催された。
平成24 年度九州学校検診協議会では、心臓 部門、腎臓部門、小児生活習慣病部門、特別部 門の4 部門による教育講演が行われた。
<心臓部門>
愛知県済生会リハビリテ―ション病院長の長嶋 正實先生より、「学校心臓検診のあり方」と題 した講演が行われた。
講演では、心電図は安静時・短時間記録(10 秒程度)であり、異常があっても記録されにく く、安静時記録だけでは不十分であるとの見解 が示されるとともに、全員に運動負荷心電図を 記録することは現実的ではないため、どのよう な児童生徒に運動負荷が必要であるかの検討が 今後の課題であると述べられた。
また、地方自治体の財政状況が悪化し検診が 入札方式となると、必ずしも質の高い心臓検診 が行われているとは限らないという危惧がある 為、精度管理が十分に行われ、質の高い検診が 行われることを期待するとともに、学校心臓検 診には地域格差がある為、今後、全国で統一し た方法で同じように実施され、児童生徒が楽し い学校生活を送ることができるように期待した いと述べられた。
<腎臓部門>
東京都立小児総合医療センター副院長の本田 雅敬先生より、『「学校検尿のすべて」の改訂に ついて』と題した講演が行われた。
講演では、学校検尿の成果は明らかになって きており、1999 年には45 歳以下の検尿世代の 糸球体腎炎による末期腎不全に至る率は明らか に減少し、このような減少は米国では見られて いないとの報告があるとともに、小児の末期腎 不全の率も欧米に比し、明らかに少なく、腎炎 の末期不全に占める割合は50%から2%へ減 少すると報告される等、十分な成果が上がって きていると述べられた。
また、今後も日本慢性腎臓病対策協議会の協 力において、各都道府県で小児慢性腎臓病地区 委員をおき、CKD 対策の啓発を行う予定であ るとともに、その活動の一環として、今回の「学 校検尿のすべて」の変更点を含めた啓発を行う 予定であると述べられた。
<小児生活習慣病部門>
産業医科大学小児科講師の山本幸代先生よ り、「小児メタボリックシンドローム:そのリ スクと対応」と題した講演が行われた。
講演では、小児メタボリックシンドローム (MS)が注目される理由として、小児肥満や小 児MS が世界的に増加していること、小児期か ら既に動脈硬化が除除に進行すること、小児肥 満においてもアディポサイトカインの異常など の病態が既に出現していることが挙げられ、学 童期以降の肥満は高率に成人肥満に移行し、成 人肥満やMS の温床となっていることも重要で あると述べられた。
また、小児肥満や小児MS の児童に対して、 学校での情報提供や啓発が重要であり、肥満の 害を学び、生涯にわたる健康的な生活習慣の重 要性を学ぶことが大切であると述べられた。
<特別部門>
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科国際保健 医療福祉学研究分野教授の高村昇先生より、「長 崎・チェルノブイリから福島を学ぶ」と題した 講演が行われた。
講演では、はじめに「今回の福島原発事故は、 1986 年に発生したチェルノブイリの原発事故 と共通する部分が多い」と提起され、その類似 点やチェルノブイリから学ぶべき課題点等につ いて意見が述べられた。
チェルノブイリで放出された放射性核種は、 半減期8 日のヨウ素131 等の核種や、半減期 の比較的長い放射性セシウムが多かったと推定 されており、今回の福島の場合も、ヨウ素131 や放射性セシウム等が主に放出されたとされて いるが、その放出量は同じレベル7 であっても、 現時点ではチェルノブイリの方が約7 倍の放出 量に相当すると説明があった。
このうち、チェルノブイリ周辺地区における 健康被害に最も影響したと考えられているのが 放射性ヨウ素、特にヨウ素131 であったと説明 があり、汚染された牛乳を飲んだ小児が、極め て高い濃度のヨウ素131 によって内部被ばくす るという結果を引き起こしたと報告があった。 その結果、事故当時の年齢が15 歳未満の児童 における甲状腺がんが激増したことが示された として、2002 年までにこの年令のグループで 甲状腺がんの手術を受けた症例数はロシア、ウ クライナ、ベラルーシで5,000 例近くあったと 報告された。
今回、福島の事故においても、放出された放 射性核種で最も多かったのはヨウ素131 や長 半減期の放射性セシウム(セシウム134 及び セシウム137)が主体であったと考えられてい るが、日本政府は、チェルノブイリにおける内 部被ばくの経験を踏まえた措置として、放射性 ヨウ素、セシウムに対して「暫定基準」を設定し、 この基準値を上回る食品、水に対しては出荷制 限や摂取制限をかけ、汚染した植物が国民の口 に入ることを制限する措置をとっており、今後 の健康影響評価を注意深く観察する必要はある が、同じレベル7 であっても、今後の人体への 健康影響という点については多く結果が異なる ことが予想されると意見が述べられた
最後に、今回の福島の現状を見た場合、マス コミ報道を含めた情報の不確実性や一次情報の 欠如による放射線恐怖症が住民の間に広がり、 さらにそれは半ばパニックのような形で福島か ら遠く離れた地域の住民にもみられたとして、 これはネット社会の弊害ともいうべき根拠ない 情報の無責任な流布が大きな原因と考えられる と意見され、福島県民における今後の健康に対 する不安、特に母子の健康に対する不安はチェ ルノブイリと共通する部分も多く、同じ過ちを 繰り返さないためにも正しい情報の伝達ときめ の細かい精神的ケアが極めて重要であるとの考 えが述べられた。
2. 第56 回九州ブロック学校保健・学校医大会 分科会(09:30 〜 12:00)
平成24 年度九州学校検診協議会と並行して 「第56 回九州ブロック学校保健・学校医大会分 科会」が開催された。
分科会では、眼科部門、耳鼻咽喉科部門、運 動器部門の3 部門による教育講演、パネルディ スカッションが行われた。
<眼科部門>
「小児における屈折・矯正について」をテー マに、こやのせ眼科クリニック院長の合屋慶太 先生より「オルソケラトロジー、LASIK の問 題点」について、ウエダ眼科院長の植田喜一先 生より「コンタクトレンズによる矯正、コンタ クトレンズの正しい使い方」について、それぞ れ講演が行われた。
<耳鼻咽喉科部門>
「難聴児の現状とその対応」をメインテーマ に、パネルディスカッションが行われた。パネ リストとして、久留米大学医学部耳鼻咽喉科・ 頭頸部外科学講師の上田祥久先生、並びに、久 留米市立金丸小学校の東欣正先生より「難聴児 の現状とその対応」について、久留米市立大善 寺小学校の久保田尚子先生より「難聴児の現状 とその対応―教諭の立場から―」について、九 州リオン株式会社営業業務部長の西元克茂先生 より「難聴児の現状とその対応―認定補聴器技 能者の立場から―」について、それぞれ発表が あった。
<運動器部門>
「学童期検診と小児のスポーツ障害」をメイ ンテーマに、九州大学病院リハビリテーション 部診療准教授の高杉紳一郎先生より「学童期検 診と小児のスポーツ障害」について、九州大学 整形外科講師の岡崎賢先生より「学童期検診と 小児のスポーツ障害―学童期・中高生期におこ りやすい下肢スポーツ障害の診断・治療・予防 ―」について、九州大学整形外科講師の播广谷 勝三先生より「学童期検診と小児のスポーツ障 害―小児期の脊柱体幹障害―」について、光安 整形外科の光安廣倫先生より「学童期検診と小 児のスポーツ障害―上肢―」について、それぞ れ発表があった。
3. 九州医師会連合会学校医会評議員会 (12:00 〜 12:50)
○報告
大分県医師会の藤本保常任理事より以下の 1)、2)の事項について、福岡県医師会の原口宏 之常任理事より以下の3)の事項について、それ ぞれ報告があった。
1)平成23 年度九州医師会連合会学校医会事 業について
2)平成23 年度九州医師会連合会学校医会歳 入歳出決算について
3)平成24 年度九州医師会連合会学校医会事 業経過について
○議事
福岡県医師会の原口宏之常任理事より、以下 の議案について説明があり協議が行われた。
1)第1 号議案:平成24 年度九州医師会連合 会学校医会事業計画に関する件
2)第2 号議案:平成24 年度九州医師会連合 会学校医会負担金並びに歳入歳出予算に関 する件
協議の結果、特に異議なく承認された。
長崎県医師会の森崎正幸常任理事より、以下 の議案について説明があり協議が行われた。
3)第3 号議案:第57 回・第58 回九州ブロ ック学校保健・学校医大会開催担当県に関 する件
協議の結果、第57 回(平成25 年度)は沖 縄県に決定し、第58 回(平成26 年度)は宮 崎県に内定した。
(1)第58 回(平成26 年)及び第59 回(平 成27 年度)九州ブロック学校保健・学校医大 会開催担当県の交代については、議事第3 号議 案と併せて協議され、承認された。
4. 九州医師会連合会学校医会総会 (13:00 〜 13:30)
午後1 時より「九州医師会連合会学校医会総 会」が開催され、福岡県医師会の松田峻一良会長、 日本医師会の横倉義武会長(道永麻里日医常任 理事代読)、福岡県教育委員会の杉光誠教育長よ り来賓祝辞が述べられ、沖縄県医師会の宮城信 雄会長より次回担当県としての挨拶が述べられ た。次回は平成25 年8 月4 日(日)沖縄ハーバ ービューホテルクラウンプラザにて開催される。
5. 九州ブロック学校保健・学校医大会 (13:30 〜 16:00)
「子どものレジリエンスを高める学校保健安 全教育の推進〜しなやかで力強い適応力の育成 を目指して〜」をメインテーマに基調講演2 題 が行われた。
「レジリエンスの重要性」
鳴門教育大学大学院学校教育研究科教授の阪 根健二先生より、「レジリエンスの重要性」と 題した講演が行われた。
講演では、困難に打ち勝つ力、困難から立ち 上げる力“レジリエンス” を高める重要性につ いて講演が行われた。
昨今の子どもには、“しなやかさ” がないと 言われている。
逆境や困難に対し、克服しようとする意欲が 乏しく頑なに対応することしか出来ない為すぐ に破断してしまうように思われる。
レジリエンスを高めるためには、家族等子ど もの周辺が持っている潜在的エネルギーを引き 出し子どもたちに伝播していく力を生み出すと ともに、子どもの持つエネルギーを生み出す環 境作りが重要である。
また、子どもたちが得意とすること等を体験 させ、その成功体験が今後の生き方に繋がるよ うに仕組む仕掛けも有効である。
自分を否定する感覚を持っている子どもと対 応する場合、なぜそう思っているのか、何が原 因であるのかといった点を意識し、子どもの言 動をしっかりと受容することで子ども自身が心 の安定を確保でき、次第に他者の痛みが感じら れる子どもに育っていく。この他者を重んじる 行為そのものが、自尊心の育成に繋がっていく。
身近な困難だけではなく、過去に大きな事件 や災害に巻き込まれたり何らかの理由で精神的 な抑圧にさらされたりした子どもに遭遇した場 合、対応に苦慮する場合があるが、こういった 場合は精神科医やカウンセラー等の専門家によ る対応が必要となる。
また、大人のいじめ対応姿勢第5 ヵ条として 1)いじめられっ子に非なし(どんな場合でもい じめられっ子に寄り添う)、2)周辺こそがいじ めの元凶(いじめる子よりも周りの子への働き 掛けが大切)、3)昨日と違うちょっとした様子 こそ発見の決め手(深刻な時ほど子どもは訴え ないので、それに気づく感受性が必要)、4)い じめの輪から新たな輪へ(既存の集団と異なる 新しい集団や世界を提供する)、5)いじめっ子 だって泣いている(いじめっ子の抱えるストレ スにも目を向けて)が挙げられる。
これらを踏まえ、大人が主体となり、子ども たちの“回復力” いわゆる“レジリエンス” を 高めていけるような社会作りが出来るようご協 力いただきたい。
「想定外を生き抜く力を育む防災教育〜釜石市 津波防災教育を事例に〜」
群馬大学大学院工学研究科教授・群馬大学広 域首都圏防災研究センター長の片田敏孝氏よ り、「想定外を生き抜く力を育む防災教育〜釜 石市津波防災教育を事例に〜」と題した講演が 行われた。
講演では、釜石市で取り組んできた津波防災 教育を事例として、子どもを中心とした防災教 育について説明された。
災害文化再生プロジェクトとして、はじめは大 人を対象とした防災講演会を繰り返し実施して いたが、聴講者は元々防災に関心の高い住民ばか りで、このままでは防災の広がりを見ないと実感 し、子どもたちへの防災教育に展開を始めた。
災害文化再生に向けた防災教育では、「10 年 経てば大人になる。さらに10 年経てば親にな る。」をモットーに、子どもたちへの防災教育 を契機に世代間で災いをやり過ごす知恵を継承 し、地域にその知恵が災害文化として定着する ことを目指した。
釜石では、1)想定にとらわれるな:「ハザー ドマップを信じるな」浸水想定区域はあくま で“想定外力” に基づくものであって、それ以 上の災害が起こる可能性があると思え。2)最善 を尽くせ:「ここまで来ればもう大丈夫だろう」 ではなく、その時出来る最善の対応行動をとれ。 3)率先避難者たれ:いざというときには、まず 自分が避難すること。その姿を見て、他の人も 避難するようになり、結果的に多くの人を救う ことが可能となるといった「避難の3 原則」を 伝えてきた。
その結果、「避難の3 原則」の教えに基づき、 実際の大津波から釜石市の小学生1,927 人、中 学生999 人のうち、津波襲来時に学校の管理 下にあった児童・生徒については、全員の無事 が確認された。
また、外圧的に形成される危機意識が長続き しない「脅しの防災教育」や与えられる知識は 主体的な姿勢を醸成しない「知識の防災教育」 ではなく、防災に対し主体的な姿勢を醸成する 「姿勢の防災教育」を徹底した。
さらには、津波防災教育の家庭への浸透を図 るため、子どもを介して親の関心を引き出す等、 親子での津波防災教育に取り組んだ。
このように、三陸地方に残る津波から子孫を 残すための知恵として、「津波てんでんこ」の 意味を再考し、自らの命に責任を持つこと、家 族との信頼関係を築くことの本質を踏まえ、「地 震があったら家族のことさえ気にせず、てんで ばらばらに自分の命を守るために一人で直ぐに 避難せよ。一家全滅、共倒れになることを防げ」 を継承し、災害文化の定着に努めていきたい。
印象記
平成24 年度九州学校検診協議会第1 回専門委員会
担当理事 宮里 善次
始めに委員会は1)心臓部門、2)腎臓部門、3)小児生活習慣病部門に分かれて開催されたが、筆 者は心臓部門に参加させて頂いた。
報告事項では、九州各県における学校管理下の心臓を原因とする突然死(平成23 年度)につ いて報告がなされたが、佐賀県の中学生がテニス合宿中に死亡した一例のみであった。
学校における死亡の60%は突然死である。
独立行政法人日本スポーツ振興センター福岡支所のデータによれば、平成23 年度の九州(小 学校〜高校)における死亡は9 人で、そのうち突然死が6 人である。その突然死であるが、以前 と比べて近年は減少傾向を示している。しかし原因は明らかではない。
ただ、AED が普及した頃から減少していることから、ニアミス症例やAED 使用例を調査する ことが提唱された。更に突然死においては死亡原因が心臓ではないかと疑われても証明できない ことが多く、特に心電図異常との関連性を調査する目的で、心臓検診時の統一病名が提案事項に あげられた。
専門外の筆者から見ると、九州の心臓専門医の気概と心臓突然死を食い止めたいと云う熱意を 感じた議論であった。詳細は報告書を参照して頂きたい。
本委員会終了後に開催された「平成24 年度九州学校検診協議会幹事会」において3 部門によ る報告と全体会議が行われた。
腎臓部門からは、学校検尿の1 次検尿、2 次検尿の検査は70%が民間業者で占められている為、 判定基準の統一化を働きかける必要があると提案された。また、3 次検尿で九州学校腎臓検診マ ニュアルを導入している医師会が92.7%に達し、マニュアルにそった判定基準採用が73.1%に及 び、学校検診マニュアルの導入によって学校検診検尿システムの改善に寄与している旨報告があ った。
九州学校腎臓検診マニュアルについては、翌日行われた第56 回九州ブロック学校保健・学校大 会の腎臓部門の教育講演を担当された東京都立小児総合医療センターの本田雅敬副院長から、か なり練られた内容で実践的である旨のお褒めの言葉があった。
小児生活習慣病部門からは成長障害と貧血、特に小球性低色素性貧血の出現率を調査し、摂食 障害やネグレクト、長期欠席児童、生徒の実態を把握するため、「成長障害、身体発育 ― 身長と体重の成長低下と減少、貧血を調査する」との報告があった。
平成24 年度九州各県医師会学校保健担当理事者会
本会議は(日本医師会学校保健担当理事との懇談会)も兼ねていた為、日本医師会の道永麻里 常任理事が同席された。
本会議では、1)学校において予防すべき感染症の出席停止期間について、2)眼科、耳鼻咽喉科 の学校医活動と学校検診の内容について、3)各種証明書・文書料の取扱いについて三点が協議さ れた。
学校保健安全法施行規則で第1 種と第2 種、第3 種に分けて出席停止期間が定められている。 ただし「(第2 種の)結核、髄膜炎菌性水膜炎及び第3 種の感染症にかかった者については、病 状により学校医その他の医師において感染のおそれがないと認めるまで」となっており、その停 止期間は医師の裁量権に委ねられている。特に第3 種は、医療側と学校側あるいは医師間におい ても解釈が統一されておらず、問題となっている現状であり、協議においても昭和20 年代に制 定された規則なので、現代にそぐわないものになっているとの意見がほとんどであった。
また、鹿児島県から平成24 年4 月10 日付・日医発第25 号(地U 4)「学校保健安全法施行規 則の一部を改正する省令の施行について」に添付されていた「学校保健安全法施行規則改正に関 する報告書」に「その他の感染症の性格については更に十分に検討した上で、指導参考資料にお いて解説していくこととする」と記載がある。指導参考資料は、いつ頃出来上がり、学校医にも 配布されるのか、日本医師会で把握していれば教えて頂きたいと発言があった。
それに対し、日本医師会の道永麻里常任理事より、取り纏めの段階に入っていて、当面の計画 として本年10 月に文科省にて公布される。その後、日本医師会のホームページ上に立ち上げて、 会員の皆さんから色々な意見を吸い上げて、必要なQ&A を作成し、来年度に製本化して配布し たい旨の回答があった。
3)の証明書に関しては、新型インフルエンザ以来減少してきているが学校によっては依然とし て要求されているようである。各県の回答は報告書を参照して頂きたい。この問題に関しては、 医師側の学術的な見解だけなら記載する必要はないと思うが、診断書の意味合いをもって請求さ れた場合は医師法が絡んでくるので、断ってはいけない。従って、記載した場合は文書料を請求 すると云う結論に至った。
1)、3)に関する長年の矛盾が10 月の見直しで解決されるよう望みたい。
2)の眼科と耳鼻科検診も学校保健法によって、学校管理者の責任においてなされるべきである が、各県とも医師不足で対応できていない現状である。本会議に出席した理事の耳鼻科の先生は 8 校担当し、ある眼科の先生は20 校担当していると報告があった。現状の医師数から考えると二 次検診のシステムをつくる形で対応せざるを得ないとの意見が大半を占めた。
第56回九州ブロック学校保健・学校医大会並びに平成24 年度九州学校検診協議会
午前中は年次大会の教育講演(1)心臓部門、2)腎臓部門、3)小児生活習慣病部門、4)特別部門) と、分科会(1)眼科部門、2)耳鼻咽喉科部門、3)運動器部門)が開催された。
筆者は教育講演の4 題を拝聴したが、その中でも放射線被害に関する特別講演が強く印象に残 った。
本特別講演では、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科国際保健医療福祉学研究分野教授の高村 昇先生より、「長崎・チェルノブイリから福島を学ぶ」と題した講演が行われた。
講演内容は1)長崎の原爆被害(外部被爆)、2)チェルノブイリにおける内部被爆、3)それ等から 考察される福島における被爆(外部& 内部)の影響等についてと云う流れであった。
広島・長崎の原爆被害は熱風と外部被爆であり、熱風のエネルギーは6 〜 7 割にも達する。投 下直後の被害のほとんどはそれによるものであり、後年、外部被爆で問題になったのは白血病の 発症である。
一方、チェルノブイリでは健康問題に手をつけられたのがペレストロイカ後であり、事故発生 から5 年近くが経っており、その間に食物を介しておきた内部被爆が大きな問題となった。
放出された放射性物質の主たるものは、ヨウ素131 とセシウムであるがヨウ素131 は食物連鎖 を介して、特に牛乳から人間の甲状腺に集積され甲状腺がんを引き起こしたのは周知の事実である。
事故から20 年経って判明したのは、事故当時生後5 か月以内の子供達に甲状腺がんが多発し ており、それ以上の月例や妊娠中あるいは事故後に生まれた子供達では優位な発症が見られなか ったこと。また、長崎の外部被爆で問題になった白血病の発生頻度は被爆していない人達と有意 差がないこと。
セシウムは特異的臓器への集積性がないので、それによって引き起こされると考えられる悪性 疾患が未だに示唆されてないこと。
以上から、福島原発事故の影響を考察すると発生当初から内部被爆を考慮して、演者らの専門 家が介入して食物の被爆状況をチェックし、出荷や摂取に制限をかけたことで、子供達への内部 被爆が健康被害を及ぼすレベルには達していないので、チェルノブイリのような状況は起き難い だろう。
またセシウムは半減期が極めて長いが、放出された量と特異的臓器集積性がないことを考えれ ば、チェルノブイリと同じような結果が期待できるが、長いスパンで見守る必要があると云うの が演者の見解であった。
放射線量やそれによる健康被害は我々医師にもなじみが薄いが、今回、高村教授の講演はとて も印象に残る講演であり専門家としていち早く行動された事にも感動した次第である。
午後は基調講演が2 題行われた。
昨今の“いじめ” に関連して、鳴門教育大学大学院学校教育研究科教授の阪根健二先生より、「レ ジリエンスの重要性」と題した講演が行われた。
Resilience とは困難から立ち上がることで、回復力の事であるが、防災の世界では「防災力」 をさす。
防災ではRISK = Hazard × Vulnerability の定義があり、自然や人間によるHazard(外力)と Vulnerability(脆弱性)によって災害が引き起こされるので、“いじめ” 問題においても、脆弱性 をアセスメントすることが重要であると述べられた。
実際にResilience を高めることは容易ではないが、ポイントとして1)自尊心を高めるための支 援、2)共感性の育成、3)対処方法を教える、4)成功体験を仕掛ける、5) PTSD への対処などが具 体的に述べられたが、詳細は報告書を参照して頂きたい。
最後に演者が強調されたのは、支援者の大人の介在の重要性、その人の生き方の伝播が子供の Resilience に大きく影響すると云うことであった。
基調講演の二つ目は群馬大学大学院工学研究科教授・群馬大学広域首都圏防災研究センター長 の片田敏孝氏より、「想定外を生き抜く力を育む防災教育〜釜石市津波防災教育を事例に〜」と題 した講演が行われた。
演者は2 年前から釜石の小中学校で実際的な防災訓練を行い、その回数は13 回にも及んでいる。
街が壊滅的な状況になったにも関わらず、演者が指導した小中学生の中で亡くなったのはわず か4 人である。その教えは1)想定にとらわれるな、2)最善を尽くせ、3)率先避難者たれ、の3 点 である。
釜石で亡くなった方々をハザード・マップにプロットしていくと、多くは安全域の住民であり、 危険地域の人はいち早く逃げて助かった人が多い。
また、ハザード・マップは前回の津波のデータであり、ハザード・マップを信じてはいけない。 来るべき津波を常に想定外とすべきと強調されていた。
子供達は一旦予定されていた避難所に避難したが、そこから更に高い所へ再移動しており結果 的に最初に避難した所にも津波が襲ったことを考えると、更に上へと云う最善をつくせと云う教 えが生きたと考えられる。
率先避難に関しては人を助けないで逃げるのか?と子供達からかなりの抵抗があったらしい。
この地域では、津波襲来時は各自で安全な所へ逃げろと云う意味の“津波てんでんこ” なる言 い伝えがある。
率先して逃げることは人を助けないことではなく、逃げる人を追って助かる人がいること。
実際、釜石では運動場に居た中学生が「逃げろ!」と大声をあげながら逃げるのを見て教室内 の生徒や先生、その先にある小学校の生徒が続いたと報告があり、更に逃げる途中の保育園では 中学生が乳幼児を抱き上げ、また戸外に出てきた老人の手を引いて、全員が助かっている。
最後に、演者が子供達は率先避難者の意味を知っただろうと述べていたのが印象的であった。