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第8 回男女共同参画フォーラムに参加して「変わる〜男女共同参画が啓くワークライフバランス」

大湾 勤子

沖縄県医師会女性医師部会副部会長 大湾 勤子


日本医師会主催の第8 回男女共同参画フォー ラムは、オリンピックの開会式の日に、富山県 で開催されました。富山も沖縄と変わらず猛暑 で、開催日の最高気温は35 度でした。

今年は「変わる〜男女共同参画が啓くワー クライフバランス」をテーマに、1. 基調講演、 2. 日本医師会男女共同参画委員会ならびに女性 医師支援センター事業の活動報告、3. テーマに 沿ったパネルディスカッションとして4 人のパ ネリストの講演、総合討論を中心に進められて いきました(プログラム参照)。以下は講演内 容の抜粋です。

1. 基調講演

「医療機関におけるワークライフバランス」

演者の渥美由喜氏は、奥様と共働きで会社に 勤務し、6 歳、2 歳の育児も担当。4 年前より 認知症の実父の介護、また昨年次男が難病に罹 患し看護にも携わっているご自身の5K ライフ (会社員、子育て、家事、介護、看護)を紹介し、 その経験から男女を問わずワークライフバラン スを考えることは仕事面において生産性の向上 につながり、生活面においてはリスクマネジメ ントを意識することができると話された。医療 機関は、対人サービスゆえの難しさ、長時間労 働になりやすい業界特性があるが、1) 業務をオ ープンにして共有化、2) たえざる業務改善、3) お互いさま、思いやりの意識により、職場内の みならず地域も「相手の時間」への敬意を持つ ようになり、働きやすい職場環境になることを 兵庫県の病院の実例を示して紹介した。また職 員満足度と顧客満足度が相関するデータを提示 し、個人と会社の成長スパイラルについて説明 した(スライド)。さらに2006 年イギリスで No.1 のワーク・ライフ・バランス企業にラン キングされたKings College Hospital にヒアリ ングを行った時のことを話され、スタッフに対 してflexible な対応をすることによって、離職 率が減り、採用しやすくなって、他の病院と差 をつけることができたことを紹介した。このよ うな取り組みは過渡期として2 年が目安で、時 間はかかるが、意識が変わると行動が変わり、 働きやすい職場環境になり、優秀な人材が確保・ 定着しやすくなる結果が得られると述べた。

スライド

2. 日本医師会男女共同参画委員会ならびに 女性医師支援センター事業の活動報告

日本医師会男女共同参画委員会活動報告 (一部抜粋)

・委員会が実施した具体的な男女共同参画フォ ーラムの報告(第6 回鹿児島、第7 回秋田、 第8 回富山)

・日本医師会理事の女性医師枠の創設について の要望書提出

・都道府県医師会における女性医師にかかわる 問題への取り組み状況調査  女性医師に関わる委員会や部会の設置されて いる医師会:28(H22)→ 32(H24) 女性役員がいない医師会:14(H22)→ 12 (H24/7/18 現在)

・女性一割運動(委員会委員に女性を最低1 名 登用→委員会委員に占める女性を1 割に) 女性医師が在籍する委員会の割合 53.3% (H24/7/18 現在)

全委員数に占める女性医師の割合 7.7% (H24/7/18 現在)

女性医師支援センター事業の活動報告 (一部抜粋)

・女性医師バンクによる就業継続、復帰支援の 実績(H24/6 月):求人918 件→就業319 件

・女子医学生、研修医等をサポートするための 会を開催依頼→ 57 の開催実績(医師会44)

・都道府県医師会での女性医師支援についての 情報交換として地域ブロック別会議実施

・医師会主催の講習会等への託児サービス併設 促進と補助

・女性医師のキャリア支援のためのDVD 作成

・女性医師支援センターのホームページ作成


3. パネルディスカッション

i . 男性が変わる〜医師夫婦二人三脚のコツ〜

脳外科医の演者と小児科医/ 免疫学者の妻は 3 人の子供を育て30 年の共働きを継続。当初、 夫は若手外科医で多忙、妻が家庭・育児の主体 で一時非常勤を余儀なくされた。2 年半の米国 基礎医学研究留学中は夫婦は研究者として同等 で、それ以降夫が家事・育児に関わる比率は上 昇した。帰国後妻は基礎医学教室に転籍し、協 力し、工夫しながら現在に至った経緯をユーモ アを交えて講演された。東大の同級生へのアン ケートでは19%が1981 年当時家事を半分手伝 うつもりであったが、現実には5%に過ぎなか った。現代の医学生は51%が「将来半分手伝 いたい」と回答し、時代の変遷とともに医学生 の意識は変わってきている。しかしいまだ「医 師を配偶者にもつ外科系勤務医師が十分な男女 共同参画することは困難」な現状である。とい うのも医学生の3 分の1 が女性である2012 年 においても「男女共同参画フォーラム」が開催 されていること自体がその現実を表している。 目指す世界は、「(男女が)お互いを認め合う、 お互いの良さを活かす、それが本当のかけ算。 多様性が世界を拡げる、多様性が医療を豊かに するし医学を発展させる。」と最後のスライド で示された。御夫妻で若手医師、医学生を集め ての女性医師問題を考えるセミナーを開催し、 ご自身で「働く女性医師の夫の会」を立ち上げ 奮闘されている。

ii . 働き方が変わる

平成6 年富山医科薬科大学卒業の若手女性 医師の結婚、出産を通して働き方を変えてきた 変遷についての発表。「仕事を続けること」を 前提としていたが、現場で遭遇する問題に対し て、自分はどのように働きたいのか、どれだけ の仕事ができるのか、勤務先に受け入れてもら えるのか、家族、職場の上司や同僚への負担な どにどう対処するか、決断を迫られたことを述 べた。子育てにシフトする働き方に変えて、葛 藤も多いが働き続けられることへの感謝の気持 ちや、子供の成長を通して自分を見つめなおす 時間がもてたという良い面もあった。今後の目 標として、自身の医師としてキャリアアップを 継続し、子供の成長に合わせて仕事スタイルを 変化させ、後輩医師が「仕事を続けられる」よ うサポートをしていきたいと話された。

B . 意識が変わる

小児科医の演者は、勤務する富山大学で託児 所が開設され、病児保育も可能になってハード 面での支援が整備され、産休後の復職率が向上 したことを発表された。一方、日本循環器学会 男女共同参画委員会アンケート調査より、女性 医師の72%が「男・女による有利不利がある」 と感じ、70%が「循環器医を続けていくうえで 困難を感じた」と回答している結果を発表した。 その改善策として雇用形態の多様化の推進、学 会・講習会の託児制度の充実、職場の意識啓発 を学会に要望する課題としてあげていた。また、 日本小児科学会、女性医師の職域での環境改善 プロジェクト委員会のアンケート結果で、女性 医師は86%が本人が主に家事をしている現状 を提示した。育児は家族だけではなく職場・ 地域・自治体を含めた周囲の人たちの協力が必要 で育児に対する意識を変える必要性を強調し た。また勤務時間に関しては、若い男性を中心 とした小児科医の過重労働が問題であることも 指摘。約1 割の離職している女性医師の動員に より環境改善が期待できることを述べた。職場 の意識が変わり、働き方の多様性が確立される と、男女を問わず仕事を継続できるであろう。

C . 組織が変わる

大阪厚生年金病院名誉院長である演者は、医 療現場のワークライフバランスを守るために、 1)子育て支援制度の確立、2)短時間正社員制度、 3)主治医制度の見直し、4)チーム医療やシフト 制、5)地域連携(地域におけるチーム医療)に 取り組んだ実績を発表。院内にワークライフバ ランス委員会を設置して、工夫した部署には賞 をもうけ、病院全体で取り組んでいる。職員の 増員で増収となり、その成果は地域でも評価さ れ、救急医療功労者として病院は表彰を受けた。 何よりも大事なことは、職員を大事にする病院 であってほしいと結論づけた。

4 人のパネリストの講演の後、総合討論が行 われた。医師の偏在化により、慢性的な医師不 足に陥っている地方では、女性医師の勤務推進 が重要な解決策になっていく可能性があるこ と、特に多様化した勤務形態をスタッフに提供 することにより、自分に合った働き方を選択し ながら仕事を続けていける職場となり、離職し ないことによりさらに組織が強固になることな どが再確認された。この力強いディスカッショ ンが、全国で活かされることを願いつつ、フォ ーラム宣言が採択された。


司会進行を担当された女性理事の鋭い質問や 要望に筆者は只々感服していました。報告によ ると富山県医師会は女性役員の割合が21%で 全国一高いとのこと、猛暑に負けない、ホット で女性パワーを感じたフォーラムでした。その 後の懇親会のご当地自慢料理もメンバーのアレ ンジで美味でした。