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「がん征圧月間」に寄せて

友利寛文

那覇市立病院 外科 友利 寛文

毎年9 月は「がん征圧月間」です。

がんに対する知識を深めがんの早期診断・治 療を考えていただきたいと思います。

日本人の死亡原因の第1 位はがんです。 1984 年にそれまで第1 位だった脳血管疾患を 抜いて以降、死亡原因の第1 位はがんです。そ してがんの死亡者数はいまなお増加し続けてい るというのが現状です。

会員の皆様ご存知のように日本では、2 人に 1 人ががんになり、3 人に1 人ががんで死亡し ています。がんは初期のうちは自覚症状がほと んどありません。自覚症状が現れたときには、 病状がかなり進行している場合が多いのです。

現在、日本におけるがん死亡率の部位別トッ プ5 は、男性では、1 位から肺癌、胃癌、肝臓癌、 結腸癌、膵臓癌、女性は、1 位から肺癌、胃癌、 結腸癌、膵臓癌、乳癌です。

今回はがんの中でも早期診断・治療が困難と されトップ5 に名を連ねる膵臓がんを取り上 げ早期診断治療に役立てていただければと思 います。

膵癌による死亡者は2010 年には27,989 人で 全死亡者数の2.3%を占めています。癌死亡に おける膵癌の割合は2009 年に男性6.8%・女 性9.2%(1965 年では、2.9%・2.7%)でした。 膵癌の死亡者数の増加は画像診断の進歩による ものが多いのですが、罹患率と死亡率がほぼ同 数であることは膵癌が根治治療困難な疾患であ ることを意味しています。

膵癌診療ガイドライン 2009 年版では、膵癌 の危険因子として1) 家族歴 2) 合併疾患 3) 嗜好の 3 つがあげられています。

1) 家族歴:膵癌、遺伝性膵癌症候群(遺伝性 膵炎、家族性大腸腺腫症ポリポーシス、Peutz- Jeghers 症候群、家族性乳癌など)

2) 合併疾患:糖尿病、肥満、慢性膵炎、遺伝 性膵炎、IPMN

3) 嗜好:喫煙

膵癌における糖尿病の合併率は25.9%とも っとも高頻度の合併疾患として報告されていま す。糖尿病は血管病変だけではなく癌の死亡リ スクともいわれています。また新たに発症した 糖尿病の患者は、膵癌の発生が高いと報告され ています。

最近では肥満と膵癌のとの関連も報告され BMI が30 をこえるとハザード比が1.19 にな ると報告され、また肥満は膵癌の予後にも影響 するとの報告もあります。

これらの危険因子を複数有する場合は膵癌を 念頭においた検査を行うことが推奨されていま す。糖尿病に関しては、急激な発症や悪化を見 逃さずに膵癌の合併を疑い検査が勧められま す。またIPMN は癌へ進展・癌を合併するこ とがあるため診断と経過観察が勧められます。

診断のポイントとして、エコーでの膵癌の診 断は、2 p程度までの膵管癌は一般に低エコー 像としてとらえられること、胆管拡張や膵周囲 の血管の狭窄やリンパ節の腫大を見逃さないこ とが挙げられます。早期診断を行うためには、 膵管拡張や膵のう胞を認めた場合、膵癌の合併 を考え積極的にCT・MRI・EUS・ERP を行うか、 行える施設への紹介を行ってください。

がん検診の目的は、がん検診による早期発見、 早期治療によって、がんが治る確率を高めがん 患者本人の肉体的、精神的、経済的な負担を軽 くすることです。

がんの罹患は、本人だけの問題ではありませ ん。このがん征圧月間を機会に患者本人と家族 を守るために、定期的ながん検診の受診を勧め、 日ごろからがんを防ぐための食習慣・生活習慣 の実践を勧めてください。