沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 9月号

第44 回九州地区医師会立共同利用施設連絡協議会

本竹秀光

理事 本竹 秀光

去る7 月7 日(土)宮崎観光ホテルに於いて、 標記連絡協議会が開催された。協議会では、九 州地区内における医師会立の病院や臨床検査・ 検診センター、介護保険関連施設等における運 営管理の事例紹介や諸課題解決に向けた取り組 みなどについて発表が行われた。

翌8 日(日)は、葉梨之紀日本医師会常任理 事による「今後の医師会共同利用施設のあり方 ―平成22・23 年度医師会共同利用施設検討委 員会報告書より―」と題した講演が行われた。 その他、引き続き行われた特別講演では、勤務 医で作家の石黒耀先生より「あまり知られてい ない九州の巨大火山災害」と題した講演が行わ れたので、その概要を報告する。九州各県から 752 名の参加者があった。

なお、本協議会は、九州各県の輪番制で開催 されており、次回の開催担当県は本県「南部地 区医師会」が務めるとのことで、名嘉勝男南部 地区医師会長から懇親会(579 名)の席で挨拶 が行われた。

当日は「医師会病院部門」「検査・健診部門」「高 齢社会事業部門」の3 つの分科会に分かれ同時 進行されたため、本会は医師会病院部門へ参加 した。


○平成24 年7 月7 日(土)

(1)電子カルテを利用した入退院管理につ いて

臼杵市医師会立コスモス病院(安田正之 院 長)は、レセコンORCA と電子カルテを用いて、 各部門(看護・薬剤・検査・放射線部・検診・ 介護等)相互の連携を図っており、経営分析の ためのデータ抽出やマネージメントを行いなが ら、診療報酬改定時には収支バランスの予測や 経営戦略などを立てているとの紹介があった。

また、効率よく病床管理を行うため、ベッド コントロールの可視化に努めており、入退院予 定や転床・転棟の予定をきめ細かく管理してい けるようシステム化に向けて調整中とのことで ある。実現すればベッドコントロールレベルの 大幅な向上が期待できる。

また、市内の医療機関を結ぶ診療情報連携ネ ットワーク「石仏ネット」を構築している。当 システムでは、利用同意を得た会員からの検体 検査や画像情報が共有化され、医療機関毎に割 振られたID カードと患者が保有するカードを 同時にリーダーに読み込ますことで、診療情報 が閲覧できるシステムとなっている。治療経過 や種々の検査データが参加医療機関で共有され ることが、安全で質の高い診療を提供すること できると説明があった。

また、今後、拡張すべき機能としては、住民 検診データの病院・開業医との共有、介護部門 との連携、老健施設との情報共有を図っていき たいとし、興味のある医療施設があれば是非お 声かけいただきたいと呼びかけた。


(2)当院における診療報酬改定の影響につ いて

同じく、臼杵市医師会立コスモス病院(五嶋 哲也 医事課職員)は、一般病床198 床、感染 症病床4 床の計202 床を有する地域医療支援 病院である。平成24 年度診療報酬改定の影響 を検証し、増収結果を得ることができたとして 報告があった。

  • 平成24 年1 月の診療データに対して、入 院費− 129 万(− 1.35 %)、リハビリ− 51 万(− 3.46 %)、手術+100 万(+ 15.64%)を見込み、全体で− 80 万(− 0.5%)の減収予測を立てた。
  • 亜急性期病床数は、現20 床から28 床に変 更し、80.5 万円の増収対策を立てると共に、 再シミュレーションを行ったところ、全体 で100 万円(0.64%)の増収予測をした。
  • 平成24 年5 月の診療結果と予測値を比較 したところ、全体で43 万円(0.29%)の 増収となり、プラス改定となったが予測よ り57 万円少なかった。
  • 今回の改定による減収の予測と、その対策 として、亜急性期入院基本料の病床数を 増やし、リハビリテーション初期加算を 取り込むことで5 月の実績でプラス改定 を得た。
  • 今後は亜急性期病床上限の40 床での運用 を視野に検討する予定である。

レセコンORCA のデータ分析を行い、対策 を講じたことが増収結果を得ることに繋がっ た。今後は、更に迅速な分析方法の確立やシス テムでのデータ管理、検査まるめ項目のデータ 抽出方法の確立などを進めていきたい。医事課 の役割は病院経営の把握と分析、戦略を立てる ことにある。このような大きな変化があった際 には直ちにその影響を評価し、対策を講じ業務 体制を整えることが必要であると述べた。


(3)DPC 導入1 年後の現状と今後の課題に ついて

朝倉医師会朝倉医師会病院(矢野賢一 医事 課課長代理)は、一般病床300 床(亜急性期 30 床)、医師数36 名、診療科数21 科、7:1 看 護体制を敷き、平成22 年7 月よりDPC 対象病 院に認可されている。同院におけるDPC 導入 後の現状と今後の課題について報告があった。

先ず、DPC 導入に向けた対策として、1) 係数、 2) コスト削減、3) コーディング、4) パスの対策 を講じた。とりわけ、コスト削減については、 1) 薬剤の見直し、2) 持参薬使用の推進、3) 検査 の外来シフト化、4) セット検査の削減などのポ イントを掲げ、年間4,000 万円の薬品費削減効 果があった。コーディングは、医療資源病名が 適当であるかを精査し、精査結果を医事課から 主治医へフィードバックさせるなどして、収入 をあげた。パスに関しては、データを分析し、 クリティカルパスの作成に活用、適用率向上の 取り組みを行っている。

考察および今後の課題として、各診療科の主 要な疾患群のDPC/PDPS の最適化や疾患別に よるクリティカルパスの評価と見直し、コーデ ィングの最適化、更なるコスト削減や医療機関 係数の向上が求められると述べた。


(4)法人内ナースプラクティショナー制度 の導入と効果

糸島医師会病院(冨田昌良 院長)は、深刻 化する医師不足に対応するため、法人内ナース プラクティショナー(iNP/ 協働者)制度を新 設しており、その概要について紹介があった。

同院におけるiNP 育成指導方法は、外科医 がiNP 志望看護師を1 対1 で指導を行い、外 来・病棟診療における初期診察から検査・IC・ 治療まで外科医が同行し、診断方法・治療手技 および指示形態まで把握・実践し育成を行って いる。数週間に1 回の割合でテキストに従い、 指導医から各疾患別の講義を受ける。手術手技 向上を行わない外科研修医と同等業務及び看護 指導を行っている。

外来・病棟における指示系統に関しては、指 導医師のチェックを全て受けることを原則とし ている。入退院時の書類作成に関しても作成後、 指導医師のチェックを受けた後、提出とする。 責任の所在は医師としている。

平成21 年6 月から当該制度を実施し、現在 3 人のiNP が活動中である。

その効果として、1) 外科医の診療業務時間の 短縮、2) 外来・病棟・検査部・手術部間の連携 性の充実、3) 患者および家族とのコミュニケー ションの充実、4) 医師・看護師間、医師・患者 間の架け橋的存在、5) 病棟看護師への指導によ る個々のスキルアップが図られているとし、緊 急避難的制度であるが、協働者を育成し医療崩 壊を救うにはiNP が最適な手段だと主張した。

医療に関する情報量が爆発的に増加してきた 現代、医師だけでは追いつかない。患者の権利 を尊重するという基本は今後縮小することはあ り得ない。増大する医師の業務を全て医師だけ で担おうとする考えは非現実的である。さまざ まな職種とチームワークによりのみ、高いレベ ルの医療が維持できると訴えた。


(5)都城地域健康医療ゾーン整備事業につ いて

都城市郡医師会病院(中津留邦展 副院長) では、現在、医師会と行政が協力し、三施設(都 城市郡医師会病院、都城救急医療センター、都 城健康サービスセンター)を新築移転する「地 域健康医療ゾーン整備事業」が進行中であり、 その経過及び内容について報告があった。

当該三施設については、当初より医師会が運 営し、地域(隣接する県域を含め約27 万人)の 救急医療体制の要として機能を果たしている。

新築移転の理由は、1) 施設の老朽化、2) 施設 の狭隘化、3) 療養・職場関係の悪化、4) 地域的 偏在、5) 広域救急医療体制の整備が挙げられた。

当整備事業にかかる行政との連携について は、平成16 年に「医師会から都城市へ三施設 の新築移転」の提案。平成18 年に「都城市(1 市4 町の合併)が医療・救急体制の充実を基本 政策」として発表。平成21 年に「都城広域定 住自立圏(総務省)」を形成され、行政側の事 業の骨格が定まる。同年「地域医療再生基金(宮 崎県)」による支援が明確化された。

当整備事業の基本方針として、三施設をより 効率的に運用するため、一体的に一棟建てによ り整備し、都城市と医師会が各々区分し施設を 所有する「共同整備・区分所有方式」とする。(註: 救急医療センター、健康サービスセンターは「指 定管理者制度」で運営されており、三施設とも 医師会の職員が従事し運営されている。予算の 決定権は無い。)

施設整備事業費は約68 億円と定められ、医 師会が15 億円(負担割合22.2%)、都城市・ 三股町が41 億円(60.1%)、加えて「地域医療 再生基金」より12 億円(17.7%)を充て、平 成26 年度中の開院を目指している。

当地域には長年、医師会と行政とが協力し救 急医療体制を維持してきた歴史があり、救急に 対する行政の見識が当事業を進展させたとし、 このような歴史を継承する本整備事業の意義は 深く、今後の医師会立病院のあり方を示唆する ものと述べた。


○平成24 年7 月8 日(日)

講演

「今後の医師会共同利用施設のあり方―平成 22・23 年度医師会共同利用施設検討委員 会報告書より―」 講師 日本医師会 常任理事 葉梨 之紀

医師会共同利用施設検討委員会は、平成22 年・23 年の2 年間に亘り、会長諮問である「地 域社会に貢献する医師会共同利用施設の今後 の方向性について―医療と介護の連携を見据 えて―」について検討を行い、昨年度末、答 申をまとめ会長へ報告した。委員会では、(1) 公益法人制度改革と医師会共同利用施設、(2) 医師会病院(3)医師会臨床検査・健診センタ ー(4)介護保険関連施設−などについて見解 をまとめた。

医師会共同利用施設については、平成23 年 4 月現在、全国で1,310 事業所が活動を展開し ている。そのうち、介護関連事業所は950 ヵ所 (全体の7 割を占める)を超え、医師会病院は 84 ヵ所(九州地区に36 病院あり全体の4 割以 上を占める)、臨床検査・健診センターは175 事業所となっている。

公益法人制度改革への対応については、医師 会共同利用施設の事業の多くは本質的には公益 目的事業であり、共同利用施設を持つ地域医師 会が公益法人化を進めることで、保健、医療、 福祉・介護の三本柱の一体化を進め、地域医療 に貢献することができる。

医療法31 条における公的医療機関認定につい ては、医師会病院は、診療所と病院の連携によ る地域医療の拠点であり、公的病院に匹敵する 公益性の高い病院であることは間違いない。公 的医療機関には行政より多額の補助金が出てい るが、同様に公益性の高い医師会病院には補助 金は殆どない。積年の課題である医療法上の公 的医療機関として位置付けられる必要があり、 そのための方策を推進することが重要である。

地域医療支援病院のあり方については、地域 の病院や診療所などを後方支援する形で、医療 機関の機能を役割分担させ、連携を進めること を念頭において制度が創設されたと思うが、今 や診療報酬上の加算算定という目的にすり替わ っているケースが見られる。本来の趣旨を満た さない施設も増えており、認定要件等を見直す 時期に来ている。

日医公衆衛生・がん対策委員会については、 平成22 年・23 年の2 年間に亘り、会長諮問で ある「特定健診、がん検診の受診率向上」につ いて検討を行い、本年2 月、答申をまとめ会長 へ報告した。委員会では、受診率低迷も含めて 原因や問題点を整理し、諸課題解決のために、 (1)法制度的見直し、(2)行政責任の明確化、(3) エビデンスと精度管理による健診項目設定と指 導手法の充実、(4)魅力ある健診−についての 考えをまとめた。

この他、東日本大震災における日本医師会 の活動状況や特定健診・特定保健指導の保険 者別実施状況、厚労省の動向等について報告 があった。

また、5 疾病・5 事業および在宅医療におけ る医療連携体制について説明があり、救急医 療から亜急性期・回復期、慢性期、在宅療養、 介護までの切れ目のない医療・介護は、医師 会共同利用施設としての大きな役割であると 述べた。


特別講演

「あまり知られていない九州の巨大火山災害」 講師 勤務医・作家 石黒 耀 先生

九州地域における活火山は、全国110 のう ち17 を有している。本島のみの面積比では密 度の高い地域である。さらに、鹿児島湾と桜島 を囲む巨大カルデラ「姶良カルデラ」を有して おり、現代社会を脅かす巨大カルデラでもある と考えている。桜島の噴火は活発だが、それで もマグマが蓄積して姶良カルデラ底は次第に上 昇していると考えられる。桜島大正大噴火直前 の状態に近づいている。今、カルデラ内の断層 で地震が起これば、一気に巨大火砕流噴火を起 こす可能性は否定できない。仮にそうなった場 合、九州にある原発は火砕流堆積物に埋まって しまう。津波とは違い退かない。原発が爆発し てしまうと、死の灰が一緒に舞い上がり、偏西 風に乗って日本から韓国を覆う。これが北海道 のカルデラとの最大の違いである。日本中の土 地と水は汚染されてしまい、国家の再生は非常 に厳しいものとなる。ほぼ全国民が被ばくし不 幸になる。従って危険が高い九州の原発を廃止 することが最大の予防医学であると述べた。

印象記

理事 本竹 秀光

第44 回九州地区医師会立共同利用施設連絡協議会が宮崎観光ホテルで開催された。おりしも 九州地区は豪雨災害の真っただ中であったが、主催者側の心配もよそに600 人有余の参加があり 盛会であった。会は医師会病院部門、検査・検診部門、高齢社会事業部門の3 会場で行われ、私 たちは医師会病院部門に参加した。沖縄県からは南部地区医師会(来年の主催側)が高齢社会事 業部門に、中部地区医師会が検査・検診部門に参加されていた。医師会病院部門では5 演題が発 表された。臼杵市医師会立コスモス病院からは「電子カルテを利用した入退院管理について」と 題して、病院長の安田正之先生が発表された。レセコンオルカと電子カルテを組み合わせて、ベ ッドコントロールの可視化による客観的・容易化ができ、無駄な空床を少なくすることで経営に 役立てているとのことであった。また、石仏ネット(地域の医療ネットワーク)を利用してコス モ病院、医師会員、患者間の情報の共有化に向けて調整中であるとのことであった。朝倉医師会 病院からは「DPC 導入1 年後の現状と今後の課題」と言うテーマで医事課課長代理の矢野賢一氏 が発表した。DPC 導入後に約1 億円の増収があったが、その要因としては1) 医療機関係数の改善 2) コスト削減(セット検査の削減、薬剤のゼネリック化)3) コーディングの最適化4) パス活用な どを挙げていた。また、抗菌薬の使用方法を含め医師の診療の標準化につながったとDPC の導 入を評価していた。都城市郡医師会病院からは「都城地域健康医療ゾーン整備事業について」の テーマで、医師会病院副院長の中津留邦展先生が発表された。都城市北諸県郡医師会は昭和60 年に医師会病院を都城市は同年に救急センター、健康サービスセンターを設立、運営は郡医師会 がこれに当たり、都城市の救急医療体制の要として機能してきた。従来、行政と医師会が一致協 力して都城市の救急医療を中心とした医療体制を築いてきた経緯がある。現在先の3 施設を一棟 建てに整備する事業が進行中である。施設整備事業費は約68 億円で、医師会が15 億円、都城市・ 三股町が41 億円、地域医療再生基金より12 億円を分担、運営はすべて医師会が行い、これまで の3 施設の機能をさらに強化、連携を図るとしている。本事業の意義は深く、今後の医師会立病 院のあり方の一つを示すものと考えられると述べておられたのは、本県の唯一の北部地区医師会 立病院の今後のあり方を考える上で参考になると言う印象を持った。二日目は今後の医師会共同 利用施設のあり方(平成22・23 年度医師会共同利用施設検討委員会報告書より)と言うタイト ルで日本医師会常任理事の葉梨之紀先生が講演された。その中で地域医療支援病院のあり方に関 して、2004 年に承認要件が緩和され現在330 病院が認定されているが、本来の趣旨(紹介患者に 対する医療提供などを通じて、地域医療を担うかかりつけ医、かかりつけ歯科医などを支援する 目的で創設された)から外れ、診療報酬上の加算算定という目的にすり替わっている感は否めず、 本来の目的に戻すべく施設認定要件の見直し時期に来ていると述べられた。連携と継続の地域医 療体制の再構築と題しての説明では、救急医療から亜急性期・回復期・慢性期・在宅療養、介護 まで切れ目のない医療介護を達成するために医師会共同利用施設の果たす役割は大きいと述べて おられた。