沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 8月号

第191回世界医師会(WMA)
プラハ中間理事会出席(報告)の件

日本医師会から、標記の件について報告があ りましたので、以下のとおり掲載致します。

第191 回世界医師会(WMA)プラハ中間理事会出席(報告)の件

(国)4
平成24 年6 月8 日
社団法人 日本医師会
副会長  羽生田 俊
常任理事 石井 正三

平素より、本会国際活動にご理解を賜り、厚 く御礼申し上げます。

本年、4 月26 日から28 日にかけまして、チ ェコのプラハにおいて標記世界医師会(World Medical Association、以下WMA)の中間理事 会が開催され、横倉会長と共に出席して参りま した。

また、中間理事会に先立ち、2014 年に50 周 年を迎える「ヘルシンキ宣言」の作業部会が開 催され、出席いたしました。

下記は、理事会における審議内容、WMA 決 議案、声明案等の文書の内容及び取扱いをまと めたもので、6 月6 日、本会定例記者会見にお いて公表いたしました。

今後も、本会の国際活動につきまして、適宜 ご報告させていただく所存でおります。

なお、内容についてのお問合せは、担当事務 局である国際課までお願いいたします。

お問合せ先:日本医師会国際課
〒113-8621 東京都文京区本駒込 2-28-16
Tel:03-3942-6489
Fax:03-3946-6295
Email:jmaintl@po.med.or.jp

1.会 期:2012 年4 月26 日(木)〜 28 日(土)

2.場 所:プラハ(チェコ)

3.出張者:横倉会長(WMA 理事) 羽生田副会長(WMA 理事) 石井常任理事(WMA 理事、理事会副議長、ヘルシンキ宣言作業部会委員) 畔柳参与(ヘルシンキ宣言作業部会委員)

4.日 程
 作業部会
  4 月24 日(火)ヘルシンキ宣言修正のための作業部会
    25 日(水)役員会議、災害に関する声明案についての作業部会
中間理事会
  4 月26 日(木)理事会全体会議、医の倫理委員会、財務企画委員会
    27 日(金)財務企画委員会、社会医学委員会
    28 日(土)理事会全体会議
 中間理事会の議事日程は、冒頭の理事会全体会議に引き続き、常設委員会である医の倫理委員会、財務企画委員会、社会医学委員会が開催される。各委員会では、各国医師会から提案された文書案の 検討が行われる。文書案の審議内容は、最終日の理事会全体会議に報告され、その後の取扱いが決定 される。決定内容は、1)審議するために総会へ付託、2)検討及び意見を求めるため各国医師会に回付、 3)作業部会を設けて審議する、の扱いに分類される。

5.参加医師会数等
  ・加盟40 医師会より約200 名参加
  ・オブザーバー:赤十字国際委員会、国際医学生連盟、国際獣医師連盟等

6.理事会での各議題の審議結果
(1)医の倫理関係
1)審議するために総会に付託される文書
 ○「臓器および組織の提供に関するWMA 声明案」
 作業部会・倫理委員会による提案文書。臓器売買が現実に行われていることを背景に、臓器移植や 組織提供のあるべき姿を再確認する内容。ドナーとなる可能性のある者の意向が最優先されること、 各国においてドナー自身が十分な情報に基づいた臓器や組織の提供の選択を行えることを提唱するも のであり、こうした政策が執られるよう各国医師会は政府に対して働きかけるべきであるとしている。 そして、個人の臓器提供と移植については、その商業化を支持せず、また自由で十分な情報に基づく 決定を行うためには情報の提供だけではなく、圧力や強制がないことが不可欠であり、そのことを確 認するための手続を設ける必要があるとしている。

○「死刑に関するWMA 決議案」
 死刑に関するWMA 決議は、古くは1970 年に採択されている。死刑制度についてはさまざまな意 見があるが、昨年、同テーマについてWMA 決議の再確認をするため作業部会が設置され、その答申 を受けて決議案として提出された。WMA の最も基本的な宣言であるジュネーブ宣言(1948 年採択) では、医師は人間の生命を最大限に尊重し、その知識を人権の侵害に使用するべきでないという趣旨 となっている。この趣旨にしたがって、医師たるものは死刑執行に係わるプロセスに関係することは きわめて非倫理的である、と訴える内容。

2)検討および意見を求めるため各国医師会に回付される文書

○「人間中心の医療に関するWMA 声明案」
 アイスランド医師会提出。「人間中心の医療」の原則は、身体的・心理的・社会的・精神的に良好 な状態という意味での健康促進が前提とされている。そのためには、疾病の抑制のみならず、科学と 人間との調和に基づき、健康の向上、臨床現場でのよりよいコミュニケーション、そして人の尊厳に 対する尊敬と責任について、個人および地域レベルにおける理解を深めることを求めて提案されたも のである。技術進歩や細分化による医学・医療の中で「患者中心の医療」の概念に比べ、「人間中心 の医療」はより全人的な概念であるが、今まで明確化されてきていないので、今回「人間中心の医療」 というテーマの重要性を呼びかけることを目的とするということが提案者の説明である。

3)作業部会に関する件

ヘルシンキ宣言の改訂:作業部会にて2014 年を目途

本年6 月にロッテルダム(オランダ)にて作業部会、12 月にケープタウン(南アフリカ)にて第1 回専門家会議を開催する。2013 年の3 月初旬には、東京にて第2 回専門家会議を開くことで合意を得た。 また、ヘルシンキ宣言採択50 周年にあたる2014 年に、本宣言を記念する行事を開催することとした。

※「ヘルシンキ宣言」

人間を対象とする医学研究の倫理的原則。1964 年に採択され、医療技術の進歩に順応し、過去8 回改訂されてきた。50 周年(2014 年)に向けて、第9 回改訂を行うことを目指して、作業部会、専 門家会議を順次開催する。

4)その他

○「緩和的鎮静の倫理に関するWMA 声明案」
 スペイン医師会提出。既存の「安楽死に関するWMA 宣言」などと内容が重複するので、新たな声 明案として取り扱わないこととなった。

(2)社会医学関係
1)審議するために総会に付託される文書
 ○「武力紛争時及びその他暴力的状況における医の倫理に関するWMA 規定修正案」
 「武力紛争時におけるWMA 規定」(1956 年採択、2006 年までに4 回修正)に対して、イギリス医師会が中心になって作成し、委員会の賛成を得た修正案。
 武力紛争時、その他暴力的状況における医師の義務として、治療、研究等には標準的な倫理規範が 適用されることや、年齢、疾病、性別、国籍、人種、性的志向、社会的地位等いかなる基準にもとら われず、公平に、必要なケアを常に提供しなければならないことに言及。同時に、政府、軍隊、およ びその他権力の立場にあるものは、武力紛争時及びその他の暴力的状況においても、ケアを必要とす るすべての人に医療従事者が医療を提供できることを保障すべきであり、この義務には、医療従事者 と施設を保護するという条件が含まれるとしている。

 ○「電子タバコに関するWMA 声明修正案」
 アメリカ医師会が提出し、委員会の承認を得た修正案。
 電子タバコとは、使用者にニコチンを蒸気の形態で提供するよう設計された製品であるが、投与量、 製造元、成分に一貫性がなく、明確に表示されていないため、科学的に証明済みの禁煙方法と比較で きない。また、臨床試験も不足しているため、禁煙のための補助的治療手段としての価値もタバコの 代替物としての安全性も確立されていない。禁煙のための有効な方法としての電子タバコの販売は、 適切な法的機関による安全性および有効性に関するデータに基づいて承認されなければならない。し たがって、医師は、電子タバコの利用に伴う危険性を患者に知らせる必要があるとしている。

○「医療分野における暴力に関するWMA 声明修正案」
 イスラエル医師会提案文書を各国医師会に回付した上で作業部会が作成し、委員会の賛成を得た修正案。
 患者・患者関係者による医療従事者に対する暴力は、医療制度全体に影響を与える。理由や原因は 極めて複雑であるが、治療の遅れと治療に対する不満であることも明らかになっている。さらに、患 者は病状や服用する薬、飲酒、その他薬物により攻撃的行動をとることがある。また、社会的・政治的・ 宗教的理由により当該医療行為に反対のため、患者が医療従事者に対して脅迫したり暴力をふるう場合もある。これらの問題に有効に対処するには、多角的な取り組み方が必要となる。さらに、警察等 を含めてさまざまな利害関係者間の協力はより効果的である。各国医師会は、医療分野における暴力 との闘いにおいて積極的な役割を担うだけでなく、他の主要な利害関係者にも行動を促し、それによ り医療従事者の労働環境の質と患者に対するケアの質を守るよう努めるべきであるとしている。

2)検討および意見を求めるため各国医師会に回付される文書
 ○「強制的不妊治療に関するWMA 声明案」
 イギリス医師会提出。性別、民族、社会経済的地位、エイズ(HIV)や障害にかかわらず、何人で あっても不妊化を強制または強要されてはならない。不妊手術は、避妊法の範囲内として、すべての 個人に利用可能であるべきである。不妊手術を受ける決定は、本人の決断によるもので、本人の自由 意思による確実な同意が得られた後にのみ、行われるべきである。同意は、選択の自由をゆがめる恐 れのある物的または社会的インセンティブにかかわりがあってはならない。自国における強制または 圧力による不妊化に対して強く反対するよう、各国医師会に要請している。

○「ワクチン接種の優先化に関するWMA 声明案」
 アイルランド医師会、アイスランド医師会提出。WMA はワクチン接種の重要性を認識し、社会的 弱者を多く抱える政府やワクチンで予防可能な疾患の脅威にさらされている国、またそうした国々で 活動する団体を支援し、ワクチン接種の提供、およびワクチン接種を受けるにあたっての制限が軽減 されるよう努めることを勧告している。さらに、ワクチン接種計画の実施にあたっては、地理、人種、 宗教、経済状況、社会的弱者、性別、年齢等の理由により接種を受けることが難しい人々にも行き渡 るような方策を講じること。そして、予防接種の恩恵や、予防接種へのアクセスが優先事項であるこ とについて人々を啓発すること。さらに、各国医師会に対し、国家レベルでのワクチン接種スケジュ ールや本人自身(または扶養家族)のワクチン接種履歴に対する意識を国民の間で高めるよう、強く 勧告するとしている。

3)作業部会(WG)に関する件

○「医師のストライキの倫理的影響に関するWMA 声明案」
 イスラエル医師会提出。近年、労働組合加入割合が高まり、医師の雇用条件に対する満足度が低下 するにつれ、イスラエルを含めて世界各地で医師のストライキが増加している。医師は、雇用条件や 給与の改善のためだけではなく、患者へのケアに直接影響する条件の改善や医療体制の改良のために 抗議行動や制裁を実施している。ストライキの正当性は、目的、活動の種類、国民がアクセス可能な 残存する保健医療サービスといった要因により決定される。声明案では、各国医師会は、ストライキ 行為がなされた場合、医師たちに倫理的義務を確実に認識させ遵守させる責任の一端があるとしてい る。医師のストライキについては各国での社会的、文化的背景があるため、WG にて検討することと なり、日本医師会もこれに参加することとなった。

4)その他

一部の国における医師のプロフェッショナル・オートノミーへの圧力に対する非難を3 件のWMA 理事会決議として採択し発信した。

○「シリア、バーレーンにおけるヘルスケアへの危機に関するWMA 理事会決議」
 WMA 事務局提出。シリア、バーレーン等の紛争地域において医療施設や医療従事者、そして患者 が攻撃の対象とされていることを受けて、政府には、いずれの妨害なく医療施設とそこでの医療行為 がなされることを保証し、攻撃や威嚇が及ばぬよう交渉などをはじめとする行動をとる責務があると している。

○「トルコにおけるプロフェッショナル・オートノミーへの弾圧に関するWMA 理事会決議」
 トルコ医師会提出。患者と医師の関係は、信頼とそして社会契約から生ずるプロフェッショナル・ オートノミーに基づいている。トルコ政府に対し、最近採択された政府法令の撤回を他の問題に優先 して処理し、医学教育計画や倫理規定を策定する権限を専門家と大学に委ねることを保証するよう求 めると共に、各国医師会に対し、こうした圧力に抵抗しているトルコ医師会を支援・保護するよう、 強く訴える内容。

○「西アフリカでの医師のオートノミーに関するWMA 理事会決議」
 セネガル医師会提出。医師主導の職業規範に関するWMA マドリッド宣言と各国医師会の独立性に 関するWMA 決議を重ねて主張し、医師のプロフェッショナル・オートノミーと自己規制が西アフリ カ経済通貨同盟の加盟国内において保証されるよう要請する内容。

(3)財務企画関係
1)今後予定されている会議
2012 年10 月10 〜 13 日 総会 バンコク(タイ)
2013 年4 月11 〜 13 日 中間理事会 ロンドン(イギリス)/ 10 月 総会 フォルタレザ(ブラジル)
2014 年4 月 中間理事会 東京/ 10 月 総会 南アフリカ

2)ブラジル総会(2013 年10 月)について
 学術集会のテーマとして「非感染性疾患について」が了承された。
3)新規加盟について
 ミャンマーとスリランカからの加盟申請を受け、総会に付託することとなった。
4)運営規則の見直し(部分)について
 役員・委員長が選出される場合、被推薦者は選挙の場に出席していることを原則とすることが明 記されることとなった。
5)「災害医療に関する作業部会」について
 日医も委員として加わってきた本作業部会は、作業を継続することになった。
6)WMA 賞について
 WMA の広報活動の一環としてWMA 賞(医療に特別な貢献のあった個人などを表彰する)を設 けるという案がラトビア医師会から提案されたが、選出方法や費用のことを勘案して提案は撤回された。

7.各国医師会との情報交換

会期中に、以下の医師会と個別に情報交換の場をもった。
・アメリカ医師会 ・韓国医師会
・台湾医師会 ・イスラエル医師会