琉球大学大学院 医学研究科・皮膚病態制御学講座 助教
眞鳥 繁隆
【要旨】
近年高齢化社会の到来とともに本邦の悪性腫瘍発生数は増加している。そのた め、各診療科の日常診療においても悪性腫瘍症例を経験する機会は多いことが推察 される。
皮膚は眼で直接見ることのできる臓器であり、露出部位に病変があれば早期に異 常を見いだせる。特に悪性腫瘍では早期発見・早期治療が望ましく、皮膚悪性腫瘍 もそれに違わず早期の確定診断が重要である。
皮膚悪性腫瘍の中でも基底細胞癌、有棘細胞癌は特に頻度が多い腫瘍であり、ま た悪性黒色腫は早期発見が予後に大きく関わる重要な疾患である。いずれも悪性 腫瘍の治療としては手術療法が基本である。手術療法に加えて、最近では化学療法、 放射線療法のほか、免疫療法、分子標的薬を用いた集学的治療の研究も行われて いる。
皮膚は生体の表面を覆う最も重要な臓器のひ とつであり、外界からの様々な刺激に対しての 免疫反応など、生命を保護するバリア機能も発 揮する。そのほか、毛、爪、汗腺、結合組織、 脂肪などの組織も有し、その皮膚に発生する疾 患はアレルギー、感染症、腫瘍など多種多様に わたる。皮膚は体表に位置する器官であること から、露出部位に発生する病変がある場合皮膚 科以外の診療科でも皮膚の異常に気付くことが あり得る。また、患者さんからかかりつけ医へ の皮膚疾患に関する相談もあるであろう。多種 多様な皮膚疾患の中でも見逃したり誤診したり すると予後に大きく関わるものの代表が皮膚悪 性腫瘍である。
皮膚悪性腫瘍はその発生母地によって上皮系、付属器系、神経外胚葉系、間葉系、リン パ造血器系、その他と多くの種類がある。日常 診療上よく遭遇する疾患の中で、特に注意しな ければならない代表的皮膚悪性腫瘍は基底細胞 癌、有棘細胞癌、悪性黒色腫である。本稿では これらの3 疾患の特徴や治療について簡単に説 明し、2011 年の琉球大学皮膚科の皮膚悪性腫 瘍の内訳等を報告する。
A. 病因
基底細胞癌(Basal Cell Carcinoma;BCC) は局所侵襲性は強いが、遠隔転移がまれな皮膚 腫瘍である。皮膚悪性腫瘍の中では最も頻度が 多く、男女比はほとんど差がない。顔面に好発 するためその発症に紫外線の影響が示唆されるが、紫外線高曝露部位に好発部位が一致してい ないため、紫外線のみではBCC の病因のすべ てを説明できない。発生母地になり得る既往疾 患には慢性放射性皮膚炎、熱傷・外傷瘢痕、慢 性ヒ素中毒、色素性乾皮症、脂腺母斑、基底細 胞母斑症候群などがある1)。
B. 好発部位・年齢
顔面の発生が多く、特に下眼瞼、鼻、上口唇 部の顔面の正中部分に好発することから毛包の 分布との関連も示唆される。体幹では主に表在 型(臨床病型分類のひとつ。後述参照)の発生が多い。
好発年齢は高齢であるほど多く、70 歳代以 上が多くを占める。前述の発生母地を有する患 者の場合には若年でも発生しうる。
C. 臨床像
BCC は3 つの病型が主である。
1)結節潰瘍型
BCC のなかで最も頻度の高い病型である。 病初期には黒子を思わせる黒色斑で、徐々に増 大し、進展すると中央部が陥凹、潰瘍化する。 周囲との境界は比較的明瞭であることが多い(写真1)。
写真1 基底細胞癌(結節潰瘍型)
左顔面・頬部に生じた結節潰瘍型BCC を示す
2)斑状強皮症型(モルフェア型)
斑状強皮症に類似した瘢痕様の硬い局面を呈 する。境界不明瞭であることが多いため、不十 分な切除を行うと再発する。
3)表在型
境界明瞭で扁平な病変を呈する。体幹・四肢に 多い。腫瘍辺縁に小丘疹が多発することが多い。
4)その他
破壊型など強い浸潤傾向を示すものや皮下腫瘤や潰瘍だけのものなど多彩である。
D. 治療
遠隔転移はまれであるという点から、治療の 第一選択は手術療法である。完全に切除するこ とで治癒させることができる腫瘍である。ただ し、顔面の中心に発生することが多いためその 手術法は腫瘍組織の完全切除かつ皮膚欠損を必 要最小限にとどめることが望まれる。すなわち、 腫瘍切除後の機能・整容面での再建を考慮する ことが重要である。しかし、全身状態などによ り手術不可能な症例では局所化学療法・凍結療 法・放射線療法・免疫調整療法などを考慮する こともある。
A. 病因
有棘細胞癌は皮膚科以外の科では扁平上皮癌 と言えば理解しやすいかと思われる。有棘細 胞癌(Squamous Cell Carcinoma;SCC)は表 皮ケラチノサイトへの分化を示す悪性腫瘍で ある。表皮を構成する有棘細胞に類似し、多 くのSCC は角化傾向を有する。顔面に発症す るSCC は紫外線が最も重要な発癌因子である。 その他の重要な発生因子には、放射線、ヒト乳 頭腫ウイルス(HPV-16,18,33,58 などの粘膜型 高リスク群)、瘢痕、慢性炎症、発癌化学物質 などがある2)。
B. 好発部位・年齢
発症要因のひとつに日光紫外線による影響が 重要であることから、高齢者の顔面が好発部位 である。また、SCC の前癌病変である日光角 化症(SCC in situ)も含めるとBCC よりも頻 度は高くなる。
C. 臨床像
SCC の臨床像は基本的には腫瘍表面に角化 を伴う紅色の結節や腫瘤である。角化が強く乳頭状や皮角を形成するものもある。進行すると びらん・潰瘍・壊死を形成し、中央が陥凹する こともある。その場合、二次感染を伴い独特の 悪臭を発する(写真2a、2b、2c)。
写真2a 有棘細胞癌(臀部の紅色隆起性腫瘤)
写真2b 有棘細胞癌(左頬部)
写真2c (2b の病理組織像)
D. 治療
SCC の治療の第一選択は手術である。切除 マージンについては皮膚悪性腫瘍診療ガイドラ インにて、臨床所見、病理組織学的所見よりそ れぞれのリスク分類に応じてマージン設定を行 っている3)。リスクの高い症例には術後放射線 療法も行われている。なお、手術不能症例、リ ンパ節転移症例や神経浸潤症例なども放射線療 法の適応となっている。
化学療法も治療手段の一つであるが、その効 果は一定ではないため患者の全身状態を考慮 しレジメンを選択する必要がある。ぺプロマイ シン単剤、ぺプロマイシン・マイトマイシンC 併用(PM 療法)、シスプラチン・アドリアマ イシン併用(CA 療法)、シスプラチン・フル オロウラシル・ブレオマイシン併用、イリノテ カン塩酸塩単剤など各種化学療法のレジメン は存在するが、実際の臨床では高齢者に対する 治療となることが多いため、比較的副作用の軽 度なCA 療法が最近ではよく選択されることが 多い。タキサン系薬剤の併用も今後は考慮すべ きSCC に対する化学療法の候補と考えられて いる。
その他、転移性皮膚癌や手術不能症例の局所 コントロールの手段としてMohs ペーストとい う塩化亜鉛をベースとした外用製剤を用いる皮 膚科ならではの治療方法がある。これは腫瘍組 織を乾固化し、出血・滲出液・悪臭などに非常 に効果を発揮する。欠点として外用時の疼痛が 問題となる場合もあるが、患者のQOL 改善が 期待できる治療方法である。
A. 病因
日本人では従来掌、足の裏のほくろから発生 した悪性腫瘍が多くを占めていたが、最近では 躯幹、顔面、下肢などが増加傾向にある。悪性 黒色腫(Malignant Melanoma;MM)はメラノ サイトが癌化した悪性腫瘍である。メラノサイ トは皮膚以外にも、口腔、外陰部、肛門など の粘膜や眼の脈絡膜や脳軟膜にも存在することから、それら部位にも発生することがある4)。 MM は極めて転移を生じやすく、治療抵抗性で あり、皮膚科医にとって特に重要な悪性腫瘍で ある。通常MM は黒い腫瘍として認識されて いるが、まれにメラニン産生能を欠如し色素沈 着を伴わない、無色素性(低色素性)黒色腫 (amelanotic melanoma)も存在することを認識 しなければならない。amelanotic melanoma の 場合、ダーモスコープ(皮膚拡大鏡)で詳細に 診ると、部分的には色素沈着を伴うことが多い。
B. 好発部位・年齢
MM は人種により発生頻度に相違がある。フ ェオメラニンは日光紫外線によるフリーラジカ ル産生を増強するという報告があり5)、白人に MM が生じやすい理由の一つと言われている。 有色人種の日本人では手掌、足底に発生するタ イプが有名である。MM の発症年齢は60 〜 70 歳代にピークがあるが30 〜 50 歳代にも多数 の患者がおり、基底細胞癌、有棘細胞癌とは発 症年齢分布が異なる。また、巨大型先天性色素 細胞母斑ではMM の発生が若年者にみられる ことが知られている。
C. 臨床像
MM の臨床像は黒色斑や結節を示すことが基 本であり、左右非対称の不規則な形状、多彩な 色調、不均一な境界、大型の皮疹(診断時に多 くが7 o超であることが多い)、斑状の皮疹か らはじまり、その後、拡大、隆起、結節、潰瘍と進行する経過が特徴である(写真3)。無色 素性のこともあるため注意が必要である。
病型分類ではこれまでClark 分類が広く用い られてきた。すなわち、表在拡大型、悪性黒子型、 末端黒子型、結節型の4 型に分類するものであ る。日本人では手、足に発生する末端黒子型が 多いとされている。Ackerman はこの分類に異 論を唱えている。近年ではBastian 分類により、 日光弾性線維症の目立つ部位・目立たない部位、 掌蹠、爪部、粘膜といった解剖学的な部位で 分類する傾向にある。近年、MM のシグナル伝 達系の解析が進み、mitogen-activated protein kinase(MAP kinase)系(BRAF)と増殖因子 のstem cell factor の受容体であるKIT 遺伝子 異常が指摘されている。KIT 遺伝子では部位特 有の遺伝子の異常も報告されていることから、 今後それら遺伝子を標的とした分子標的治療が 期待されている。
写真3 悪性黒色腫(末端黒子型)
足底のMM。隆起し結節・潰瘍をみとめる。
その周囲には「衛星病巣」をみとめる。
D. 治療
MM の確定診断には病理所見が不可欠である が、容易に転移を起こす腫瘍であることから、 もし生検を行う場合には全切除生検または手術 を予定した計画的な生検が必須である。
治療は、放射線や化学療法に抵抗性であるこ とから第一選択は手術である。American Joint Committee on Cancer(AJCC)によるTNM 分 類、病期分類に従って切除マージン、術後化学 療法などを選択する。最近ではセンチネルリン パ節生検も積極的に行っており、その際センチ ネルリンパ節への転移をみとめた症例では所属 リンパ節郭清が行われる。
センチネルリンパ節生検の意義としては、1) リンパ節郭清の適否を明確にすること、2)微小 転移のうちに完全切除することで予後を改善す るといった利点が考えられる。転移様式はリン パ行性のほか血行性もあり得るためその点も留 意しなければならない。いずれにせよ、センチ ネルリンパ節生検は治療を行う際に重要な方法 となっている。
術後補助化学療法としては、本邦では DAVFeron 療法(ダカルバジン、ニムスチン、ビンクリスチン、インターフェロンβ局所注 射)が広く行われている。進行期ではこれにタ モキシフェンを加えたDAC − Tam 療法も行 われているが、化学療法の奏効率はそれほど高 くはない。QOL の向上のため症状緩和目的に 放射線療法を行うこともある。また、悪性黒色 腫は免疫原生の高い腫瘍であることから免疫療 法の研究も以前から行われている。そのほか、 最近では分子標的薬の開発が進み、その実用化 が望まれるところである。
2011 年の当科における皮膚悪性腫瘍の手術 症例数は、入院・外来を含めて62 例であった。 その内訳は基底細胞癌25 例、有棘細胞癌16 例、 悪性黒色腫6 例、Bowen 病7 例、日光角化症4 例、 悪性リンパ腫3 例、皮膚線維肉腫1 例であった (表1)。発生部位をみると基底細胞癌、有棘細 胞癌は顔面に多く、特に基底細胞癌では顔面の 正中部分に多い傾向であった。悪性黒色腫では、 本邦では手足にみとめる末端黒子型が多い傾向 にあるが、当院の1 年間に限ってみると症例数 が6 例と少ないため、特に好発部位に一定の傾 向はみられなかった。Bowen 病、日光角化症 は比較的露光部位に多かった。
進行期悪性黒色腫に対して、海外では抗 CTCL-4 抗体(イピリムマブ、ipilimumab)、 など分子標的治療の臨床試験が行われており、 その効果が報告されている6)。今後は抗癌剤、 分子標的治療の組み合わせなど治療法の新たな 展開がみられると思われる。その際重要である のは腫瘍細胞の遺伝子解析を行い、遺伝子変異 のある症例を適切に選択することである。
皮膚悪性腫瘍は発生母地により、数多くの種 類があり、様々な外観、症状を呈するものであ る。今回、その中で重要な3 疾患について概説 した。日常診療の際に皮膚に異常をみとめた際 には、是非皮膚科受診を勧めていただければと 願っている。
(参考文献)
1) 小野友道, 他: 基底細胞癌, 最新皮膚科学体系12, 中山書店,2002;82-98.
2) 斎田俊明, 他: 有棘細胞癌, 最新皮膚科学体系12, 中山書店,2002;66-81.
3) 日本皮膚悪性腫瘍学会: 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2 版, 金原出版株式会社.
4) 斎田俊明, 他: 悪性黒色腫, 最新皮膚科学体系11, 中山書店,2002;225-268.
5) WangSQ,Setlow R,Berwick M,et al.Ultraviolet A and melanoma:A review.J Am Acad Dermatol 2001;44:837-846.
6) Ribs A:Anti-CTLA4 Antibody Clinical Trials in Melanoma.Update Cancer Ther2:133-139,2007.
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悪性脳腫瘍に対するナビゲーション下画像誘導手術
問題
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