沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 7月号

前のページ | 目次 | 次のページへ

国民医療推進協議会主催
「TPP 参加反対総決起大会」

宮城信雄

会長 宮城 信雄

去る4 月18 日(水)、午後4 時より、日本 医師会館(大講堂)に於いて、国民医療推進協 議会(加盟40 団体)主催による標記大会が開 催されたので、その概要を以下に報告する。

司会の三上祐司日本医師会常任理事より開会が宣言され、会が進行された。

挨 拶

主催者代表

1)国民医療推進協議会 横倉義武会長(日本医師会長)

国際的にも高い評価を受けている我が国の国 民皆保険制度だが、政府が参加を考えている TPP 交渉の範囲が医療分野にまで及ぶことに なると、医療の市場化を容認する考えが広まり、 将来にわたって公的医療保険の給付範囲の縮小 を招き、所得によって受けられる医療に格差が 生じる。そういう社会が生まれることを我々は 危惧している。

そのため、国民医療推進協議会では、昨年12 月9 日に開催した「日本の医療を守るため の総決起大会」で採択した決議等をもって、 TPP 交渉に於いては、日本の公的医療保険制 度を除外することを明言するよう政府に対して 強く訴えてきたが、未だにこれに対する十分な 返答がない状況である。

さらにこれまでの米国の要求や米韓FTA の 事例をみると、TPP に参加することで混合診 療の全面解禁や営利企業の医療経営の参加等の 形で医療が営利産業化され、国民皆保険が有名 無実になる恐れが出てくる。

これらの点を踏まえて、日本のTPP 交渉参 加自体に問題提起をするということが、国民の 医療を守るという結論に至った。

折しも、5 月の連休に野田総理が訪問され TPP 交渉参加表明が伝えられるという報道が 一部あった。こうした状況を憂い、我が国の健 康寿命を世界一に押し上げた国民皆保険の存 続を願う多くの国民の声をあらためて国会に 届ける必要があると考え、急きょ国民医療推進協議会として本大会の開催をお願いした次第である。

皆様方のご協力によって、本日の大会が政府 の政策を是正し、国民皆保険の恒久的な堅持へ とつながる大きな一歩となることを祈念して挨 拶とさせていただく。

2)東京都医師会 野中博会長

我々の健康や生命を守る医療従事者にとって 一番辛いことは目の前で苦しんでいる患者を救 えないことである。中でも患者の経済的な事情 から適切な医療を提供することができないこと は全く辛いことである。今から51 年前、全て の国民が連帯して助け合う精神の下に国民皆保 険制度が実施された。それ以前は、病気になる と治療を受けて一家破産となるか、黙って死を 待つかという状況が報告されていた。また地域 の多くの医師会からも経済的な理由で治療が受 けられない患者の存在が報告されている。

このような状況から抜け出すために、国民皆 保険制度が実施され、今世界では高く評価され ているのはご承知のとおりである。

確かに医療のみならず経済が発達すること は必要だが、経済の発達により全ての人が幸福 となり、格差の少ない社会の構築こそが望まれ ている。新自由主義や市場原理は格差の少ない 社会を実現してきただろうか。今弱者を切り捨 てる社会が拡大されている。先日、1 パーセン トの人に富が集中しているアメリカで抗議デ モがあった。またオバマ大統領が実現しようと した医療保険制度が否決されることも予想さ れている。

このような状況でTPP を信じることはでき ない。TPP 参加により、我が国の大切な国民 皆保険制度が崩壊されてはいかなる国益もな い。TPP 参加を表明する前に、我が国はどの ような国、社会を目指すべきか充分に検討し、 明確にすべきである。経済の発展だけを目指す ことは目標のために多くの犠牲者を出しても構 わないことであり、弱者切り捨ての政策そのも のである。

戦後、我が国の復興は国民の連帯と絆で作り 上げたものである。東日本大震災の復興でもそ の絆が確認されている。その連帯と絆を大切に する社会の確立こそが目指すべきものである。

今日のこの会で、我々の意思を確認し、国民 皆保険制度の崩壊を阻止するべく、TPP 参加 に対して明確に説明をいただきたいとお願いしたいと思う。

我が国の大切な国民皆保険制度を守りましょう。

来賓挨拶

民主党衆議院議員・TPP を慎重に考える 会 山田正彦会長をはじめ、 5 名の国会議員 が挨拶に立たれ、国民皆保険制度の恒久的堅 持のためTPP 交渉参加を断固として阻止し ていく旨の挨拶が述べられた。

趣旨説明

日本医師会 中川俊男副会長

我が国の医療制度は世界で最も平等で公平で あると評価されている。国民すべてが経済力の いかんにかかわらず、必要な法水準の医療を受 けることができるからである。これを支えてき たのは、かけがえのない我が国の医療制度を守 っていくという日本国民の熱い思いである。

1961 年の創設から50 年余、我々は世界に誇 る国民皆保険制度をしっかり守り、育んできた。 しかし今、素晴らしい公的医療保険制度に、創 設以来最大の危機が迫っている。

アメリカは1985 年のMOSS 協議以来、日 本の医療に市場競争原理を導入することを強く 求めてきた。それは自民党政権の2001 年の小 泉内閣における年次改革要望書、政権交代後の 2010 年3 月の鳩山政権の外国貿易障壁報告書、 2011 年2 月の管内閣の日米経済調和対話に引 き継がれ、一貫して市場化を迫ってきた。特に 最近の日米経済調和対話では、新薬創出加算の 恒久化など、我が国の薬価政策に直接言及する 内政干渉とも受け取れる要求をしている。

このような中、政府は2010 年6 月に新成長戦略を閣議決定して、医療を日本の成長牽引産 業として位置づけ、政府は医療を営利産業化す ることを宣言したのである。その後も政府は、 医療の営利産業化に向けた国内の規制改革を 次々に打ち出している。野田総理は昨年11 月、 TPP 交渉に参加すると表明した。TPP は多国 間であらゆる産業分野に於いて徹底して市場 原理を導入しようという究極の規制緩和であ る。総理は国民皆保険を守ると述べられている が全ての国民が加入してさえいれば国民皆保 険制度と言えるわけではない。国民皆保険を守 るということはどういうことか。第一に、公的 給付範囲を将来にわたって維持すること、第二 に混合診療を全面解禁しないこと、第三に営利 企業を医療機関の経営に参加させないことの3 点である。

昨年11 月2 日、日本医師会、日本歯科医師会、 日本薬剤師会は政府に対して、第一に、政府は TPP において将来にわたって日本の公的医療 保険制度を除外することを明言すること、第二 に、政府はTPP 交渉参加いかんにかかわらず、 医療の安全・安心を守るための政策、例えば混 合診療の全面解禁を行わないこと、医療に株式 会社を参入させないことなど個別、具体的に国 民に約束することを要請した。

しかし、この2 つの項目に対して、未だに政府からは明確な答えがない。

日本が世界に誇る国民皆保険は断固死守し なければならない。TPP 協定に於いて、公的 医療保険制度が対象にならない可能性は全くな い。政府がTPP 交渉では日本の公的医療保険 制度は対象になってはいない、直ちには対象に ならない、TPP は多国間、数カ国間の協定な ので、アメリカの要求がそのまま通るわけでは ないと言っている。しかし、このままTPP 交 渉に参加すれば、アメリカが主導して医療の市 場化、日本の公的医療保険制度の縮小を要求す ることは明らかである。そのことは、1985 年 のMOSS 協議以降のアメリカの市場化要求の 経緯を見ても明らかである。その結果、受けら れる医療に格差が生じる社会がもたらされることは必至である。

政府はTPP 参加国との交渉や地方説明会を 進め、TPP 交渉参加を既成事実化しようとし ているが、それは拙速ともいえるスピードであ る。それは近々にTPP 交渉に参加しようとし ているからではないか。

もはや猶予はない。政府のTPP 交渉の参加 を断固阻止し、日本の医療、国民皆保険を死守 しなければならない。そのために、本日の総決 起大会で総力を結集し、力強く反対運動を展開 していきたい。

決意表明

1)日本歯科医師会 大久保満男会長

私はこれまで、医療は社会的な存在であり、 社会の中にビルトインされてなければ、医療制 度は存在しないということを申し上げてきた。 この社会というのはグローバルな存在ではな い。一国の歴史が培った伝統、そしてそれを総 合した文化、それらによって生ずる国民の共有 する価値観があってはじめて社会は成立する。

どんな立場の人にもそれなりの理があるが、 社会の中で各々の立場の人が自分の理を主張し たら社会は成立しない。一国の社会の中でそれ ぞれの理の曲直の判断は歴史や伝統やそして国 民の共有する価値観が大凡この理が正しいだろ うと判断をするはずである。

しかし、国が異なった場合はどうなるのか。 アメリカでは過去に於いて国民皆保険制度を実 施しようという政府の動きがあったが、アメリ カ国民がこれに合意しなかった経緯がある。こ れはアメリカ国民の判断であり、これを日本は とやかく言える立場にないが、日本では官も民 も国民皆保険制度は永遠と守り続ける努力を行 ってきた。従って、もともと土俵の違う国同士 が例えばTPP で議論した時に、公的保険制度 をめぐる論議そのものが全く違うとすれば、議 論は成立するのだろうか。我々はそれをたいへ ん危惧している。

TPP に参加する時に、医療の在り方を申し 上げてきたが、本来ならば、TPP に参加してきちっと主張し、その主張が取り入れられな い、或いは失われるものが大きければ毅然と席 を立つことが交渉のスキルだと思う。しかしそ れは極めて困難だろう。また、議論の土俵が違 うということはますます困難だろうという現状 では、我々日本歯科医師会としては、TPP の 参加そのものに反対せざるを得ないという考えである。

国民が共有しているこの制度をなんとか守り 抜くことが医療者の使命であり、これからも皆 様方とこの制度を守りよりよく育てるために努 力していく所存である。

2)日本薬剤師会 児玉孝会長

日本はいつでもどこでもだれでも所得に関係 なく安心して同じ医療にかかれる素晴らしい国 民皆保険制度の中に身近な医薬品を安心して安 定的に供給できる薬価制度があるわけだが、ス トレートに申し上げると、アメリカの製薬会社 等はTPP 参加交渉を通じて日本の薬価制度は 問題であり、これでは自由に高く医薬品を販売 できないと要求してくる大変危険な状況である ということを申し上げたい。

具体的には、知的財産権の保護を強化すると あり、知的財産権の最たるものが特許権である が、例えばアメリカの製薬会社は、特許権の保 護を強化することにより、医薬品の特許期間を 圧倒的に伸ばすことができたり、日本では国を 挙げて国民のために少しでも安く安全に医薬品 を提供するためジェネリックを推進している が、治験データの独占権が認められた場合、既 存薬の特許が切れていてもジェネリック薬を製 造できない等、阻害されることになる。これは 大きなマイナスである。

更に、日本の公的薬価制度に対して、米国の 企業が日本に出資し、不利益を被った場合、投 資家に対して利益をあげることを日本が邪魔を している、不利益だという論点からISDS 条項 を発行することも懸念されている。ISDS 条項 とは投資家の保護とういう名目のもとに、投資家が投資先の国家によって被害を受けた時に、 協定に基づいて投資先の政府を訴えることがで きるという規定である。

今回のTPP を通じて恐らくアメリカはその 条項をつくることを要求してくるであろうこと は充分に予測される。既にTPP の参加国であ るオーストラリアやニュージーランドの両国で は実際にそのような事が起きているのである。  我が国は何も考えずにTPP に参加できるの か。そのような条項は結ばないと国がはっきり 言って頂きたい。

是非、TPP 交渉参加にしっかりと反対していきたい。

決 議

山崎學日本精神科病院協会会長より決議文の 朗読説明があり、全会一致で下記の通り承認された。

頑張ろうコール

最後に羽生田俊日本医師会副会長の音頭で頑張ろう三唱が行われ、大会の幕を閉じた。

決 議

TPP に参加すれば、わが国の医療が営 利産業化する。その結果、受けられる医療 に格差が生じる社会となることは明らかである。

よって、わが国の優れた国民皆保険の恒 久的堅持を誓い、その崩壊へと導くTPP 交渉参加に断固反対する。

以上、決議する。

平成24 年4 月18 日

TPP 参加反対総決起大会
(主催 国民医療推進協議会)

前のページ | 目次 | 次のページへ