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辰年の抱負

高良聖治

琉球大学医学部附属病院 高良 聖治

医師会のみなさま、あけましておめでとうご ざいます。4 順目の干支を回り始めたばかりの 琉球大学精神科の高良聖治といいます。琉球大 学を卒業後、精神科に入局。県内外の病院で研 修を重ね、4 年前に大学病院に戻り、さらなる 研鑽に励んでおります。去年より医局長業務に 従事することとなり、社会勉強もさせてもらっ ています。その中で、この頃では、下記3 つの 言葉が頭に浮かぶようになりました。まず一つ 目は、「有意味感」という言葉です。確か筑波 大学大学院産業精神医学・宇宙医学グループ教 授松崎一葉先生の講演会で耳にした言葉でし た。有意味感とは、例えると、与えられた仕事 が本当に自分にプラスになるものなのかよくわ からないけれど、将来この経験が自分の人生に 活きてくるかもしれない(有意義なものになり うるかもしれない)と感じること、そして、そ の上でその仕事をこなしてみることという意味 合いの言葉です。二つ目は、春日武彦先生(都 立墨東病院精神科部長など歴任)の言葉で「中 腰力」という言葉です。武田信玄のように相手 が動くまで待つ力、と考えていいと思います。 特に、精神科の分野では重要な力です。精神科 で扱う患者の悩み・問題点は医療や福祉だけで 解決できない事が多く、即結果を求めようとす ると、逆に、ど壺にはまってしまう事がありま す。打てる手を打った後で、あとは時期がくる までじっくり待つ、だらんと弛緩した状態で待 つのではなく、何か起こればすぐに対応できる ように中腰の姿勢で待つという力です。その 間、苦しんでいる患者につきそい続けるという 中腰力も要求されます。内科で例えれば、患者 の生命の危険が低い時点での不明熱を原因が特 定できてない段階で抗生剤を使用するのではな く原因が特定できるまでその使用をぐっとこら えて待つ姿勢とよく似ています。その間、熱に 苦しんでいる患者につきそう力も求められるか と思います。これら2 つの言葉は特に、教育や 研究、組織運営の場面でよく頭に浮かぶように なりました。三つ目は、「人は壊れ物である」 というフレーズです。芥川賞受賞作家の平野啓 一郎氏が取材で発したフレーズでした。私は彼 の小説を読んだことがないので、私の受け取っ たニュアンスと彼のいうこのフレーズのニュア ンスが同じかどうか定かでありませんが、とて も衝撃的でした。私が臨床場面で感じていたこ とは、人は一度でもある一線を越えてしまって 壊れてしまうと、例えどんなに状況が好転した としても、この一線を越える前の状態に戻るこ と(完治)はなかなかないということです(回 復はできますが)。一度壊れてしまうと、元の 状態に戻すことは容易なことではありません。 壊れて散らばった破片がすべてみつからない可 能性も十分あります。壊れずに済むにはどうす ればよかったのかといった問いやその後の解決 策や対応策は私の本業の負うところですが、人 は生き物であり、出せる力に限りがあることを 常に意識した上で人と接し、その上でマネジメ ントすることが管理職者には必要であると強く 感じるようになりました。上記3 つの言葉と人 を「褒める」事が人の成長や社会の発展を支え る上で欠かせないものだと思うこの頃です。

今年の抱負は、壊れない程度にお互い成長で きるような周囲との関係作りや働きがけを行う ことです。上記のようなたわい無い考えに時々 耽けながら、これから自分はどの方向に進んで 行こうかと模索する年にもなりそうです。こん な私ですが、今年もよろしくお願いします。