沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 1月号

*「楽しく学ぶ身体所見−呼吸器診療へのアプローチ」
近畿大学医学部堺病院・内科学教授 長坂行雄著

當銘正彦

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター副院長
當銘 正彦

何と言おうと、丁寧な病歴の聴取ときめ細か な身体所見の観察・評価は医療の基本であり、 且つ王道である。そこから導き出された診断 に、治療を繋げるのが一般的な診療の手順であ るが、折しも診断が困難な場合、或いは幾つか の鑑別診断が要求される場合に諸種の検査が必 要となる。その意味で検査は診断を補助する大 切な手段ではあるが、昨今の時勢では、検査は 診断に必要不可欠な、あたかも医療の主役であ るかの如き検査至上主義的な印象を強く感じる ものである。確かに、検体検査、画像診断、光 学機器等の華々しい開発は、基本的には生物学 である医学を化学的、物理学的な分析を通して 科学へと押し上げる多大な貢献を果たしている ことに間違いはない。しかしながら、どんなに 物理学、化学、生物学による科学的分析が発達 しても、医学の対象となる人間の病態を的確に 把握する為には、病態の継時的な変遷である病 歴とその現象的な表現である身体所見をしっか りと診ること以外、確かな術は無いのである。

今年10 月に上梓された長坂行雄先生のこの 本は、呼吸器疾患を中心とした様々な疾病の身 体所見を病態生理学的な裏付けによって丁寧に 解説し、その診断学的意義を理解することを目 的として書かれたものである。私は、個人的に も県立中部病院・宮城征四郎門下の一員として 敬愛して止まない長坂先生であるが、本書は氏 の臨床家としての一貫した実践的な診療スタイ ルから導き出された知識と知見が全編に横溢す る好著に仕上がっている。

本の構成は診察の仕方の実際(CDROM つ き)、症状の生理学、そして症例を呈示しての 具体的な解説となっているが、ふんだんに「挿 話」や「Column」も織り込まれており、飽き る暇もなく読み進むことのできる工夫が心憎い ばかりである。読者は、タイトルの“患者を診 ることの楽しさ”が文字通り沸々と湧き上がっ てくることを、必ずや実感されるでしょう。

従って本書は、ひとり呼吸器科医のみならず 総合内科医や研修医、そして開業されている先 生方の内科的一般常識としても大いに役立ち、 また心肺相関の生理学的観点からは循環器科医 にとっても、非常に参考となる良書であるもの と、自信を持って推薦したい。