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当院思春期外来からみえる若年者の現状と諸問題
〜「性の健康週間(11/25 〜 12/1)」に寄せて〜

宮良美代子

美代子クリニック 宮良 美代子

はじめに

思春期は、小児期から成熟期への移行期であ り、性機能の発達開始に始まり、第二次性徴の 完成までとされるが、身体的にも精神的にも発 達途上にあるため、さまざまな異常が起こりや すく、しかもこれらが将来の健康問題につなが る恐れもある。特に女子においては、個人の健 康問題という点以外に、妊娠や出産と関連して、 次世代に影響を及ぼす事にも成りかねない。

近年、青少年を取り囲む環境は複雑で価値観 は多様化し、ストレスや誘惑の多いものとなっ ている。このような状況にあって、健康や発育 に影響を及ぼす諸問題(生活習慣、喫煙、飲 酒、性感染症、妊娠など)について、小児期・ 思春期より対処する事が重要と考えられている。

思春期外来について

思春期女性には、成人女性とは異なる心身の 状況があり、診察上も特別な配慮が必要となる ことから、欧米では1955 年頃より、思春期女 子の診察を特化して行う外来が開設されるよう になった。我が国においても1963 年に初めて 思春期外来が開設され、その後一時中断はされ たものの、必要性が再認識され、今日では各所 で診療が行われている。

当院では、平成14 年12 月の開院以来、毎月 第2、第4 土曜日の午後を思春期外来としてい る。思春期にも月経に伴う異常、性感染症や卵 巣腫瘍などさまざまな婦人科的な問題が起こり 得る。しかも、成人女性でも婦人科受診は敬遠 される傾向があり、十代ではなおのこと受診が 遅れがちになる。そこで決まった時間を設定す ることで、待合室に同世代が多くなり、心理的負担が軽減されて受診が促される事を期待して いる。

平成21 年思春期外来受診者

今回、平成21 年の思春期外来新患受診者に ついての概要を示す。

受診者の総数は203 名で、主訴を(図1)に 示した。月経痛などの「月経随伴症状」や「月 経不順」、「無月経」といった月経に関連した異 常が合わせて61 %と最も多く、「帯下、外陰の かゆみなど」の訴えが19 %、「腹痛」が5 %、 「その他」15 %となる。「その他」の中には、妊 娠、緊急避妊、ピル希望、月経の調整などが含 まれる。当院での受診理由も、思春期の診療に ついて書かれた諸家の報告とほぼ同様の傾向と 思われる。

図1

(図1)21 年思春期外来受診者の主訴内訳

思春期には器質的な疾患がなくても強い月経 痛を訴える例があり、卵巣機能の未熟さに起因 すると思われる過長・過多月経も見られ、出血 の持続する例も多い。一般的に思春期における 月経異常は、長期的には改善されるものが多い が、婦人科受診が遅れ、重度の貧血になっている場合もある。当院でも、初経より2 年経過し た13 才の中学生で、出血が3 週間持続し、受 診時にはヘモグロビン値4.6g/dl とかなり低下 していた例があった。また、1 年間ほぼ毎日、 出血が続いていたにも関わらず、一度も病院を 受診しなかった例もあり、思春期の月経異常に 対する認識の低さ、婦人科受診に抵抗を感じる 保護者の心理などが、病状を悪化させる一因と なっている。

これら月経に関わる異常も、思春期を対象と する診療において非常に重要で、時に治療に苦 慮する問題も含まれているが、今回は「性の健 康週間」に因んでと言うことで、直接的に性に 関連した問題を以下に取り上げたいと思う。

思春期の性に関する問題

若年者において初交年齢の低下、性交経験率 の増加、性交相手数の増加が進み、その結果と して、十代での性感染症、妊娠、妊娠中絶が問 題となって久しい。これらの問題は、沖縄県に おいても同様の傾向があるものと思われる。

当院の平成21 年に受診した未成年者の年齢 別性交経験率を(図2)に示した。受診者203 例(4 〜 19 歳)のうち性交経験者は61 例、 30.0 %になる。15 歳以上に限ると、34.9 %で、 婦人科受診者というバイアスはあるものの、かなり高いと言える。主訴別に見てみると(図3)、「帯下や外陰の異常」、「不正出血」、「腹 痛」、「その他」で受診の者に性交経験率が高く なっており、それぞれ 58.3 %、40.0 %、60.0 %、50.0 %であった。性交経験があるこ とから、帯下や外性器の異常に神経を尖らせ受 診している者もあるが、若年者において感染率 が高いとされるクラミジア感染症が、腹痛や帯 下、不正出血の原因となっている場合もある。 また主訴が「その他」の中には、妊娠4 例、緊 急避妊又はピル処方希望が6 例あり、性交を前 提とした訴えであるため経験率は高くなってい る。緊急避妊については、若年者にも認知度が 上がってきていて、好ましい事ではないが人工 妊娠中絶という悲惨な結果を避けるためには必 要で、従来のヤッペ法から、今年初めて認可さ れ使用可能となった薬剤もある。

図2

(図2)平成21 年 思春期外来受診者の年齢別性交経験率

図3

(図3)平成21年 思春期外来受診者の主訴別性交経験率

参考までに、同年の当院で検査したクラミジ ア感染症の年齢層別陽性率を示す(図4)。検 査対象者は帯下や腹痛などの症状があった者と 性感染症を心配して検査を希望した者との合計 である。一般的な罹患率と言う訳ではないが、 十代と二十代前半で陽性率が高いことが分かる (20.8 %、19.7 %)。ちなみに、少し前のデー タになるが、日本性感染症学会初代理事長の熊本悦明氏は、2001 年の感染症サーベーランスの結果より、十代のクラミジア感染症の罹患率 を推定しているが、15 歳で83 人に1 人(1.2 %)、18 歳が最高で15 人に1 人(6.7 %)などとしている(表1)。

図4

(図4)平成21 年 年齢層別クラミジア感染率

(表1) 10代女性のクラミジア感染症の推定罹患率
(2001年疫学調査より)

表1

また初診時には性的な問題はなく、ただ帯下 や腹痛、月経痛の相談と思われた受診者でも、 問診や診療を進めていくうちに、背景に性被害 があり受診していたことが明らかになる例もあ る。若年者は性暴力の被害者となりやすく、強 姦の45 %、強制わいせつの66 %で未成年者が 被害者となっているとする報告もある1)

当院でも、強姦、強制わいせつ、性的虐待や デートDV などの性暴力の被害者は数的に多く はないが無くならない(21年は2例)。しかも 被害を受けてから時間がたって受診する場合が 多く、被害の実態は見えていない部分も多いと 思われる。

このような深刻な問題も含め、当院では受診 者の年齢分布、主訴、疾患などに、毎年大きな 変化はなく、開院した平成14 年当初と比べ、 十年近く経った今でも思春期をとり巻く環境や 問題はあまり改善されていないと言う事なのか も知れない。

思春期に対する支援

若年者の性行動は大人が想像する以上に開放 的で、日常的なものになっており、性に関わる 問題や疾患が発生し易い状況がある。その一方 で、トラブルを事前に回避する能力や、心身に 問題が生じた際の対処法については、置き去り にされている感がある。

厚生労働省は「健やか親子21」の提言の中 で、主要な課題の一つとして、「思春期の保健 対策の強化と健康教育の推進」を挙げ、十代の 自殺率、人工妊娠中絶率、性感染症罹患率の減 少を主な目標としている。沖縄県でも「健やか 親子おきなわ 2010」として思春期保健問題 に関する取り組みが挙げられていた。

今後さらに、保護者、学校、医療機関、公的 機関、行政などが有機的に連携して、思春期を 支援する体制を作っていくことが必要で、若年 者に対して、

1)思春期にも様々な疾患や問題が起こり、健全 な発育と将来の健康のためにも、安易に考えないよう啓発していく事。

2)正しく、有用な情報を必要に応じて随時提供 すると共に、周囲に氾濫する情報を選別する能力を身に付けられるよう支援する事。

3)実際に問題が発生した際に、必要な支援や医 療・保健サービスを身近に提供できる事

などが求められる。

専門的な知識を持つ医療関係者に期待される 役割は大きい。

1)小西聖子:性暴力への誤解「トラウマの心理学、NHK 人間講座、p46-58、日本放送出版協会、2000