沖縄県立南部医療センター・
こども医療センター耳鼻咽喉科
又吉 重光
耳鼻咽喉科では救急疾患症例は少ないと考え ていた。しかし、2010 年度、特に後四半期の 11 月から1 月の間は相当、治療困難な疾患が 集中していた。
耳鼻咽喉科領域の救急は鼻血を代表とする、 出血。そして、扁桃周囲膿瘍を代表とする嚥下 痛。気道異物を代表とする、呼吸困難などがあ る。救急患者は、1)入院を必要としない軽症症 例、2)入院を必要とする症例、3)生命の危機が 切迫いている症例、に分類されている。このう ち2)、3)の症例について数名、紹介する。
2010 年度の救急からの入院は総数、64 名だ った。月別に8 名以上は1 月、2 月、3 月、4 月、8 月であった。
疾患別に多い順に、扁桃周囲膿瘍1 3 例 (20 %)、Bell 麻痺6 例(9 %)、BPPV5 例 (8 %)、前庭神経炎5 例(8 %)、突発性難聴5 例(8 %)、鼻出血症4 例(6 %)、急性喉頭蓋 炎4 例(6 %)などが多く、これらで約66 %を 占めている。
(症例1)23歳、男性。咽頭痛、発熱。口蓋扁 桃周囲膿瘍。切開排膿、補液、抗生剤点滴で軽快。(図、症例1)
(図、症例1)左口蓋扁桃周囲膿瘍
(図、症例1)左口蓋扁桃周囲膿瘍
(症例2)16歳、女性。右眼瞼が閉じ難い、右 口角から水が漏れる。右ベル麻痺。ステロイド 点滴、徐々に軽快していった。
(症例3)63 歳、男性。呼吸苦、喘鳴、発熱。 急性喉頭蓋炎。喉頭ファイバー下の挿管、気管 切開、補液、抗生剤点滴で軽快。(図、症例3)
(図、症例3)急性喉頭蓋炎
(図、症例3)急性喉頭蓋炎、軽快中。
(症例4)11 ヶ月、男性。吸気性喘鳴。喉頭乳頭 腫。レーザーなどで切除、再発のため4 回の切除 術後、経過観察中。気管切開が必要かと思える ほどの喘鳴だったが、気管切開はしていない。
(症例5)51 歳、女性。2 日前、大きな魚フラ イを食べ、のどに掛けた。食事で落とす努力を したようである。ファイバーでは、咽頭、食道入り口まで魚骨見えず。CT では入口部に甲状 軟骨に沿うように魚骨陰影認めた。まず、全身 麻酔下に硬性内視鏡で咽頭、食道入り口まで魚 骨を捜索するも、傷も見えなかった。輪状軟骨 側方部皮膚切開、甲状腺、輪状軟骨部を捜索、 輪状軟骨、甲状軟骨間に魚骨を見つけ、除去し た。触診で硬い骨が触れにくい場所に侵入して いる場合はいじっているうちに顔を出してくれ ると思われる。(図、症例5)
(図、症例5)左梨状窩部魚骨迷入
(図、症例5)左梨状窩部魚骨迷入
(図、症例5)魚骨
(症例6)9 歳、女性。左外耳道異物、もち状、 鼓膜にも付着、全身麻酔が必要だった。
2011 年1 月は出血の始まりであった。耳鼻 科領域での出血は出血だけではなく、呼吸困難 も同時に生じることがある。
(症例7)15 歳、男性。重症心身障害。私がた またま日直当番の日だった。朝8 時半の勤務、 すぐにもER からCALL あり、気管内肉芽、気 管軟化症で耳鼻咽喉科外来を定期的に気管カニ ューレ交換していた小児だった。呼吸困難が昨 夜から始まっていた。ファイバーでカニューレ 先端を見ると肉芽で3 分の2 閉塞していた。そ こを越すためのカニューレは長さを必要とし、 太いので出血の可能性あるかも知れないと気に はしたものの、アジャストフィットなど適度な 長さの物が無く、気管カニューレのカフなし、 長め、太めを挿入した直後、大出血が生じてし まった。ER での処置だったので、大勢の先生 たちの応援、カフ付き経口挿管チューブ、AIR 注入、バッグでの換気、安静のための睡眠誘導剤の静注、気管からの出血の吸引。急ぎ、血管 造影、腕頭動脈出血を確認、血管外科での緊急 腕頭動脈結札術、その直後から出血は完璧に止 まった。幾つかの合併症が生じるも無事克服、 退院している。この症例の治療には、耳鼻咽喉 科、救急科、前期研修医、後期研修医、心臓、 血管外科、放射線科、麻酔科、小児科、小児外 科などが貢献している、チーム医療の結晶だっ たと記憶している。(図、症例7)
(図、症例7)気管腕頭動脈瘻出血
(図、症例7)側湾症、アジャストフィット。
気管腕頭動脈瘻出血は進行する側湾症などで 発生頻度が増加する。緊急手術を行うことでの 救命率は5 割と言われている。
(症例8)65 歳、男性、左鼻出血。ガーゼタン ポンを処置室で4 回行うもすぐにも再出血。人 生で2 回目の手術場、全身麻酔下、ESS 使用 でのタンポンを施行。左中鼻甲介の後上内側部からの出血を確認、ガーゼで圧迫しても、ガー ゼの浮き上がりが認められた。そして血の色は ピンクだった。術場での止血は完了、しかし病 棟での状態ではわずかながら出血は持続してい た。翌日午後5 時放射線科での血管造影、蝶口 蓋動脈の塞栓術。その後ピタッと出血は止まっ た。(図、症例8)
(図、症例8)難治性鼻出血タンポン時
(図、症例8)蝶口蓋動脈造影
(図、症例8)蝶口蓋動脈塞栓後
(症例9)4 歳、男性。吸気性喘鳴、声門下の腫 瘤。翌日から私は出張、相棒はインフルエンザ で病休中。近くの病院に移送、全身管理しても らい、翌週、全身麻酔下の喉頭肉芽腫切除術を 施行した。(図、症例9)
(図、症例9)声門下腫瘤
(症例10)1歳。男性。名護在住。耳漏、発熱、 左耳介後上部発赤腫脹。両側急性中耳炎、左急 性乳様突起炎。全身麻酔下の膿瘍切開排膿、ド レーン留置術。両側鼓膜チューブ留置術、抗生 剤点滴で軽快した。(図、症例10)
(図、症例10)左側頭部、乳突部膿瘍
(症例11)8ヶ月、男性。声門部異物、お菓子 のビニール。全身麻酔下、挿管せずに除去し た。(図、症例11)
(図、症例11)喉頭異物
(症例12)69歳、男性、左鼻出血、抗凝固剤 内服中。某病院救急科から難治性、大量出血と のことで移送。すぐに前回の経験を生かし、放 射線科による血管造影、蝶口蓋動脈塞栓術施 行。順調に止血した。
耳鼻咽喉科の救急は、突然の高度難聴、突然 の顔面神経麻痺、炎症性疾患の発熱、痛み、嚥 下痛、嚥下困難、そして気道狭窄による喘鳴、 呼吸困難、そして鼻出血などがある。中でも呼 吸困難をきたす疾患は早急な対応が必要で、出 血も合併すれば相当、厳しい生命の予後を悪化 させる。救急医を中心に多種の診療科が活躍し てはじめて患者の救命が達成できるものと痛感 している。