沖縄県立南部医療センター・こども医療センター小児循環器科
高橋 一浩
【要旨】
近年のtechnology の進歩により、不整脈の非薬物治療および管理は飛躍的に進歩 しました。即ち、不整脈非薬物療法では、頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレ ーション治療が普及しました。デバイス治療では頻脈性致死性不整脈に対する植込 み型除細動器(ICD)の有効性が広く認められ、重症心不全に対する心臓再同期療 法(CRT)も行われています。また、そのようなデバイス埋め込み患者においては 電話回線を使った遠隔モニタリングにより、病院に来ることなく患者やデバイスの 状態を知ることができ、よりきめ細かな管理ができるようになりました。また、診 断においても、植込み型ホルターが原因不明の失神の原因検索のために非常に有効 なことが分かってきました。
小児科領域では、先天性心疾患患者の生命予後が改善し、成人期に達する患者 (成人先天性心疾患、adult CHD)が急激に増加しています。これらの患者の多く の方が、不整脈や心機能低下などの問題を抱えていますが、基礎心疾患の複雑性や、 循環器内科医には馴染みのない心臓手術が行われていることから、小児循環器医が 継続して診療していることが多いです。従って、そのような診療施設では、成人同 様、上記のような不整脈治療、デバイス治療が必要となり、実際に診療が行われて います。沖縄県でも当院にて1 年半前から上記診療を行っております。今回は、小 児科および成人先天性心疾患領域における頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレ ーション治療、デバイス治療とその管理について紹介させていただき、成人先天性 心疾患診療についても少し触れたいと思います。
はじめに
不整脈治療には、大きく分けて薬物療法と非 薬物療法があります。非薬物療法の中には、頻 脈性不整脈に対するカテーテルアブレーション 治療や、ペースメーカ治療が含まれます。後者 には、古典的な徐脈性不整脈に対するペースメ ーカ治療以外に、致死性心室性不整脈に対する 植込み型除細動器(ICD)治療、および、心不 全に対する心臓再同期療法(CRT)が含まれま す。これらの非薬物療法は、薬物治療に限界が あることのエビデンスが蓄積されたことと、テク ノロジーの発達に伴い、ここ10 年で飛躍的に進 歩し、近年の不整脈治療におけるトピックです。
また、そのようなデバイス植込み患者におい ては、電話回線を使った遠隔モニタリングシス テムが可能となり、病院に来ることなく、デバ イスの状態を知ることができ、患者の不整脈の 状態やペーシング状態も知ることができるよう になりました。小児科領域でも、限られた施設 ではありますが、心房細動アブレーションを除けば、成人同様の不整脈治療が行われていま す。沖縄県でも当院にて1 年半前から上記診療 を行っており、乳児から成人先天性心疾患患者 に対するカテーテルアブレーション(図1)、小 児の重症心不全患者に対する心臓再同期療法(図2)、原因不明の失神患者に対する植込み型 ホルター植込み術(図3)など全国的にも最先 端のリズムマネジメントを行っております。
図1.生後3 ケ月の無脾症、単心室患者における難治性上室頻 拍(twin AV node)に対するカテーテルアブレーション
図2.先天性房室ブロック、心房中隔欠損、僧帽弁閉鎖不全に よる心不全の8 才児に対する心外膜リードシステムによ る心臓再同期療法
図3.原因不明の繰り返す失神に対する植込み型ホルターによる原因検索
A)カテーテルアブレーション
カテーテルアブレーションとは、不整脈に対 するカテーテル治療です。まず、電極カテーテ ルと呼ばれる細い管を心臓の中に入れて、プロ グラム刺激により、不整脈を誘発し、心臓電気 生理学的手法を用いて不整脈の原因を解明しま す。その原因部位を同定して熱により不整脈の 原因を治療します。近年は、三次元(3D)マ ッピングシステムが進歩し、複雑な不整脈の原 因解明も可能になり、また、透視時間の短縮に もつながっています。
カテーテルアブレーションの適応
いわゆる、発作性上室頻拍(WPW 症候群、 房室結節回帰性頻拍、心房頻拍)以外にも心房 粗動、心室頻拍、心室期外収縮、心房細動など が現在のカテーテルアブレーションで治療可能 な不整脈です。(全ての不整脈がカテーテルア ブレーションの適応ではありません)。
小児カテーテルアブレーションでは、各頻脈 性不整脈の自然歴、有効性・安全性、個々の患 者の年齢・体重、特殊性(突然死ニアミス例、 抗不整脈薬の効果・副作用、心室機能、先天性 心疾患の有無、術後にアブレーションカテーテ ルの挿入が可能か否か)などを考慮 しなければいけません。更に、小児 頻脈性不整脈例に対するカテーテル アブレーションを施行する施設は日 本では限られており、各施設、各医 師の経験を考慮しなければなりませ ん。本邦におけるガイドラインには、 小児の以下のような特殊性を考慮し カテーテルアブレーションの適応を 決めるよう記載されています1)。
1)乳児期では頻拍の自然軽快を 考慮して薬物治療が原則であり絶対 適応はない。ただし、心原性ショック既往、頻拍誘発性心筋障害などの重症例は症 例に応じて適応を考慮する。2)1 歳以上では 重症例は適応となり、ジギタリス及びβ遮断薬 では頻拍の管理が困難で、Na 及びK チャネル 遮断薬必要例は症例に応じ適応を考慮する。ま た先天性心疾患症例に関しては、術後予後を改 善するために術前に適応を考慮する。3)5 歳 以上では、抗不整脈薬を必要とする頻拍は適応 を考える。4)13 歳以上では、症状を有し、 QOL 低下があれば適応。症状のないWPW 症 候群は、副伝導路不応期からハイリスク群と判 断されれば症例により適応を考慮する。5)い ずれの年齢においても心機能低下のない無症候 性頻拍は適応としない。
小児科領域における不整脈非薬物治療の特異性
1)対象年齢・体格が小さいこと
われわれ小児循環器科領域における不整脈非 薬物治療の対象は、当然、小児が中心で乳児も 含まれます。以前は体重15Kg 以下で合併症の リスクが高いとされていましたが、現在は 10Kg との報告があります。当院でのアブレー ション施行患者における最小年齢は生後3 ケ月 で体重は4Kg です。カテーテル留置のためにブ ラッドアクセスする血管が成人に比し細いた め、1 本の血管に留置するカテーテルの本数は 1 〜 2 本です。従って、複数のカテーテルを留 置するためには複数の血管穿刺が必要です。カ テーテルアブレーションにはその前後に行う心 臓電気生理学検査を含めると時間がかかりま す。従って、当院では原則、全身麻酔下で行っ ています。小児麻酔に慣れた麻酔科医の存在も 重要です。麻酔導入から覚醒も含めて、手技時 間は全部で4 時間前後です。
2)成人と異なる不整脈基質、特に、先天性心 疾患に起因する場合
成人と同様の不整脈基質以外に、先天性心疾 患患者の場合は、成人とは異なる特殊な不整脈 基質があります。基礎心疾患によって、ヒス束 の位置が通常とは異なっている場合があります。 特に、多脾症や無脾症に合併する単心室患者や 修正大血管転位症では、房室結節が2 つ存在 (twin AV node)することがあり頻拍の原因に なります2)。基礎心疾患の手術時期による特殊性 もあります。姑息術後、例えば、単心室患者に 対するグレン手術後には、上半身の血管からの アプローチでは心内にカテーテルを進められませ ん。フォンタン術後は順行性には心室にカテー テルを進められません。また、チアノーゼがある 患者では、右左短絡があるため、脳梗塞など血 栓症に注意が必要など、不整脈以外の小児循環 器科的知識に基づいた注意が必要です3)。
3)成人先天性心疾患(adult CHD)患者の増 加に伴い不整脈の問題が増加
先天性心疾患術後の成人(成人先天性心疾 患)患者の増加に伴い、不整脈が大きな問題に なっています。この領域では循環器小児科と循 環器内科が協力して治療に当たる必要がありま す。先天性心疾患患者の術後遠隔期に生じる一 部の上室頻拍(非通常型心房粗動、関心術後の 心房頻拍)や器質的心疾患に伴う心室頻拍は、 たとえ機序がリエントリーと判明してもその回 路が必ずしも同定できず、治療に難渋する場合 があります。Electro-anatomical mapping (CARTO)システムや、Ensite Navix システ ムなどの三次元マッピング装置の普及により、 そのような複雑なリエントリー回路の解明、標 的部位や病的心筋範囲の同定が可能になり、以 前よりカテーテルアブレーシヨンの有効性が向 上しました(図4)。しかし、これらの3D マッ ピングがきわめて有用なのは興奮波の旋回が可 視的に示される一部のマクロリエントリーに限 られます。従って、多くのリエントリー性頻拍 では、電気生理検査で得られた電位とその解釈に基づいてカテーテルアブレーションの標的が 判断されます。
図4.成人先天性心疾患患者における頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレーション
B)デバイス(ペースメーカー)治療の進歩
成人期に達した先天性心疾患C H D 患者 (adult CHD 患者)において、心臓突然死SCD は大きな問題です。そのSCD の原因の多くが 危険な心室性不整脈であることが認識され、そ の突然死予防としての植込み型除細動器ICD 治療の有効性が広く認められるようになりまし た。Adult CHD 患者におけるICD 治療を考え る場合、以下のような問題点、キーワードがあ ります。
1)適切なICD 植込み適応患者の選択(適応基準) 一次予防、二次予防、EPS(VT study)
2)実際の植込み方法の選択 経静脈システム、心外膜システム
3)不適切作動を抑え確実に適切作動するよう にプログラムすること
適切作動、不適切作動、electrical storm、 抗頻拍ペーシング
4)デバイスシステムの寿命が比較的短く、再 手術の可能性が高いこと
5)リード抜去
6)遠隔モニタリングに関する問題
7)運転免許などの社会的問題
8)精神心理学的サポート
9)その他(心室再同期療法の必要性 の有無、心臓手術介入の考慮など)
ICD 治療は、adult CHD 患者にお ける致死性心室性不整脈による突然 死を予防する有用な手段であること が広く認められてきました。しかし、 未だに、その適応を決めるための十 分なevidence がなく、十分なリスク 階層化ができていません。そして、 ICD 植込み手技自体も、基礎疾患や 複数回の外科手術などのため非常に challenging です。小児循環器医、循 環器内科医、心臓外科医が協力して 問題解決していく必要があります。
まとめ
小児科領域における頻脈性不整脈に対する非 薬物療法が当施設で可能になりました。この領 域はテクノロジーの進歩に伴い、著しく進歩し ています。カテーテルアブレーション以外に も、例えば、心不全に対するペースメーカ療法 (心臓再同期療法)、植込み型ホルター、そし て、遠隔デバイスモニタリングなどのデバイス が近年使用できるようになりました。頻脈性不 整脈で長期に薬物療法が必要であったり、頻回 に頻拍発作を生じ来院をしなければいけない患 者は、カテーテルアブレーション治療など非薬 物治療が可能かどうか、あるいは未修復で、心 不全やチアノーゼが残存している先天性心疾患 の患者さんで、不整脈でお困りの方は、お気軽 にご相談ください。
参考文献・この領域における主な著書
1)新・目で見るシリーズ 成人先天性心疾患ICD
2)成人先天性心疾患診療ガイドライン(2006年改訂版)
3)イラストで学ぶ心臓ペースメーカー
4)臨床発達心臓病学:非侵襲的不整脈診断、電気生理学検査、非薬物治療
5)小児循環器学会不整脈ガイドライン(2010): ICD
6)植込み型除細動器の臨床― ICD/CRT-D に慣れ親しむ:乳児突然死症候群
7)成人先天性心疾患診療ガイドライン(2011年改訂版)
8)ICD とCRT-D の臨床―心不全・致死性不整脈への対応(循環器臨床サピア3)
次の問題に対し、ハガキ(本巻末綴じ)でご回答いただいた方で6割(5問中3問)以上正解した方に、 日医生涯教育講座0.5単位、1カリキュラムコード(84.その他)を付与いたします。
問題
次の設問Q1.〜Q5.に対して、○か×印でお答え下さい。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の診断と治療
問題
次の設問に対し、○か×印でお答え下さい。
正解 1.× 2.× 3.○ 4.× 5.×