稲福内科医院 稲福 徹也
新規開業して1 年半経ちました。これまでの 経緯を振り返ってみたいと思います。
●基本方針の設定
初心を忘れることがないように基本方針を立 てました。ノートによると開業する1 年8 ヶ月 前のことです。当院の基本方針は、
としました。1 は患者さんが満足することで医 院全体の満足度も上がると考えて、2 は自分を 含めた職員が勉強し成長することで楽しい職場 になるように、3 はこれまでの経験から次世代 を育てることが必要と思われたので、4 は当然 のこととして、それぞれ考えました。
●開業立地の選定 診療圏調査
何処で開業するか随分前から悩んでいまし た。最初は住み慣れた那覇地区で探していまし たが激戦区なのでなかなか見つかりませんでし た。実家のある那覇市久米も考えましたが駐車 場の確保が困難なのであきらめました。結局現 在の浦添市経塚になりましたが、隣に郵便局と コンビニ、後ろに大型ショッピングセンター (当時計画中)があり、駐車場も十分確保でき るので即決断しました。浦添は以前からよく知 っている土地柄なので診療圏調査はしませんで した。
●事業計画と資金調達
これは全く未知の世界であり最も難航しまし た。事業計画を業者任せにしてしまったのです が、もっと時間をかけて主体的に取り組んだほ うが良かったと反省しています。実際には診療 単価が計画ほど高くなく、患者数は増えても収 入はそれ程増えない状況となりました。自己資 金が少なかったので出来るだけ低金利の公庫を 優先しました。市中銀行はたくさん貸してくれ ますが、結局返済するのは自分ですからなるべ く負担が少ないほうが楽です。そういう意味で 将来開業を考えておられる勤務医の先生方は貯 金しておくことをお勧めします。
●建築(内装工事)の設計と発注
医院は建設会社ビル1 階のテナントを借りま した。これにも紆余曲折あり、ある開業支援業 者を通じて進めていましたがうまく進まず、最 終的に会社側と直接交渉しました。その際いっ しょに開業を進めていた同級のK 先生には交渉 面でいろいろ助けてもらいました。その後はビ ルの設計段階から関わり、医院の内装はこちら の思い通りにやらせてもらいました。設計で重 視した点は、待合室は広く明るく、受付付近は 患者さんのプライバシーを考慮した配置にした ことです。
●医用機器の選定
かかりつけ医(プライマリ・ケア医)の視点 から検査機器は最低限にしました。尿検査、血 算検査、心電図、単純レントゲン、超音波など です。医療機器業者はいろいろと勧めてきますが本当に必要なのかよく考えるべきです。当院 は神経内科も標榜していますが、病歴と神経学 的所見からある程度診断は可能です。画像検査 が必要な場合は近隣の連携病院へ検査依頼して います。
●行政・医療保険診療関係の諸手続き
これも各機関に連絡すれば丁寧に教えてくれ ます。ただ私の場合は時間に余裕がなく開業支 援業者の方にやってもらうことが多かったです。
●職員の募集・採用・教育
これも初めての経験であり、採用の広告、面 接の設定など、開業支援業者にやってもらいま した。開業後のスタッフ教育については、1)朝 と夕方のミーティングは必ず行い、その司会を スタッフで持ち回りとする。2)月1回勉強会を 開き各スタッフに得意分野をプレゼンしてもら う。3)接遇セミナーやNTT が行っている電話 対応セミナーに参加してもらう。4)プライマ リ・ケアに関する勉強会があれば参加してもら う。以上のような対応で職員も成長していると 思います。
●広告・宣伝活動と院内見学会
本当に効果的な宣伝方法は未だ手探り状態で すが、患者アンケートの結果から効果が少ない ものは中止しています。現時点で最も効果的な のは新聞で、最も効果がないのはバス広告と思 われます(あくまで私見ですのですべてに当て はまるわけではありません)。内覧会は規模が 大きくなりすぎて当日てんやわんやでした。ご 来賓の方々に十分なお礼が出来ず申し訳なく思 っています。
以上が開業までの経過ですが、開業後は基本 方針通りに琉球大学の医学生や専門学校の学生 の実習を積極的に受け入れています。学生が来 ることで職員にも緊張感が生まれ、良い効果だ と思います。今年度から琉大病院の協力施設に なりましたので、初期研修医も受け入れること になります。開業医の先生で、もし教育へのハ ードルが高いとお感じの先生方には、まず学生 実習を受け入れることから始めることをお勧め します。特別教えようとしなくても大丈夫です。 ただ自分がやっていることを見せるだけで、学 生にとっては強烈なインパクトがあるようです。
最後に、開業してから少し考え方が変わりま した。ある雑誌記事に書かれていたことです が、開業にあたり一番大切なものは自分を支え てくれる家族、2 番目に共に働く職員、3 番目 に受診していただける患者さん、4 番目がパー トナーである業者の方々です。全くその通りだ と思います。勤務医時代は患者さんが一番大切 だと思っていましたが、経営者として職員を抱 えるようになりその責任の重さを感じていま す。そして今も昔も「医は仁術」と言うことに 変わりないと思います。しかし経済的な事柄を 抜きにして仁術の話をしても寝言にしか聞こえ ません。医療が経済の歯車の中に複雑に入り組 んでいる現代では、医師も経済学を学ばなけれ ばならないと思っています。