おもろまちメディカルセンター 玉木 正人
<始めに>
会員の皆様、特にこの原稿を読む時間さえ大 変な、若手医師の皆様、初めまして、おもろま ちメディカルセンターの玉木と申します。
私はミニFM 局(FM80.6MHz:周波出力が弱 いため、那覇市を中心にしか電波は届かないか も知れません)で、毎週水曜日の午後6 時から 7 時までの1 時間、生放送番組をかれこれ、5 年間近く続けています。その日に話すテーマを 予め決めて、原稿を書いて番組に臨んでしま す。インフルエンザ、感染性胃腸炎などのタイ ムリーな話題から頭痛、腰痛、各種癌や、沖縄 県の肥満の状況、メタボの定義や対策などにつ いてなど音楽を挟みながら、お話しさせて頂い ています。
<医療とマスコミについて>
どうして、そんなことをしているかと言いま すと、純粋に病気や健康の話題を提供しなが ら、医療人と一般の方との隔壁を埋めたいと思 ったのが直接理由です。医療を提供する側と医 療を受ける側の敵対関係がマスコミを通して生 まれてきているのでは無いのだろうか、医療は 信頼関係が根本なはずなのにお互いが不信感を 持っているのではないかと日々悩んでいます。
例えば「たらい回しで患者さんが亡くなっ た」とマスコミが報道し、それを聞いたり読ん だ一般の方としては、けしからんと思うわけで す。しかし、医療現場では、これ以上受け入れ られない状況や、この状態の患者を受け入れる 訳にはいかない理由があるわけで、其処を丁寧 に説明しない限り、溝は埋まらないと思うのです。こんなに、一生懸命に仕事をしているのに 非難ばかりでは堪ったものではないと私達医療 側は思うわけです。
しかし、私達も、説明責任やスタンダードな 医療をしていない医師や行政を放置した責任は あるのです。一般的に医師と患者間では患者さ んは弱い立場です(勿論モンスターペイシャン トはいます)。私自身はマスコミは力関係に差 がある場合は、弱い側に立つ必要があると思っ ています。私達は「たらい回し」報道を単純な 非難では無くて「医療側だけでなく、社会全体 で考えないといけない緊迫した状況である」こ とをマスコミを通して伝えて行かなければなら ないと思います。又、マスコミ側へもそれを報 道した責任者としてきちんと検証するように求 めて行かなければならないのです。
<人に伝えることの大切さ>
若手の先生に伝えたいのは、相手が理解して いなければ説明したことにはならないというこ と。病気そのものの勉強も必要ですが、素人に 説明ができる能力を磨く必要も臨床医には求め られています。もう四半世紀も前のことです が、私の研修時代に術前のムンテラを一緒に聞 かして貰いました。その時私が主治医で執刀す る大先輩が手術の説明をしたのです。患者さん やその家族5 〜 6 名いたでしょうか、「患者は胆 石胆嚢炎で総胆管結石・膵炎も合併しています ので、明日のオペは胆摘と総胆管切開・砕石後 T チューブを入れます」と・・皆さん真剣に聞 いていらして、最後に全員で「よろしくお願い します」と頭を下げたのです。その後承諾書を頂く時間となり、私一人となったため、折角皆 様集まっていらっしゃいますので、補足させて 貰ってもいいでしょうかと・・その後30 分ぐ らいかけて、胆嚢の位置や機能、胆石や総胆管 結石の話、手術の方法やT-チューブがどんな 物であるかなどを話したら、初めて病気のこと がわかった、どんな手術をするのが判ったと感 謝されたのです。
若手の皆様はベテランの医師よりは当然経験 や知識不足です。でも一生懸命説明し伝えるこ とは、医学部を卒業し国家試験を通った皆様な ら誰よりも上手くやれるはずです。医療は信頼 関係です。自分の意見や考えを、偏った情報か らではなく、一般的に認められた教科書を通し 学んだことを、言葉を選びながら伝えて欲しい と願っています。それは直ぐにでもできること ですが、意識しないと学び取ることも出来ない のも事実です。
<公共性・普遍性>
公共の電波を通して放送すると言うことは、 不特定多数の対象者に呼びかけることになりま す。そこで重要なのは、公共性と普遍性ではな いかと思っています。特に私の番組は生放送で すので、間違った情報や、病んでいる方を傷つ けてしまう言葉を発してしまう可能性もありま す。一度出た言葉は取り返しがつかないことも あります。これは、医師としても重要なことで もあります。若手のドクターであったとして も、患者側からすると、命を預ける存在です。疲れたから、上級医から叱られたからと嫌な事 があったとしても、ひとたび、患者サイドに立 った場合、笑顔で言葉を選びながら話さないと いけないのです。
私の場合、この様な訓練としては、ラジオ番 組も良い経験になります。私の様な口べたな人 間でもどうにか放送を続ける事が出来ています ので、若手の皆様も忙しいと思いますが、機会 があれば、ラジオやテレビに出演されたら良い と思います。
<最後に>
忙しい若手医師の皆さんにおいては、いつも 仕事に追われているかも知れません。しかし、 私自身が怠け者ですから、自分にも言い聞かせ ているのですが、医療に入ったからには一生涯 勉強だと思っています。専門医、あるいは家庭 医、色々な選択はあると思いますが、私達の不 勉強は直接患者さんの不利益になることを肝に 銘じないといけないと思います。理想論と言わ れるかも知れませんが、夢や理想がなくなった ら辛いことだと逆に思ってしまいます。私は外 科医ですが、FM レキオの放送の内容の殆どは 私の専門以外の話となるため、専門外の勉強を するよい機会と思って続けています。
会員の皆様もお時間がございましたら、お聞 き頂いてご感想をお知らせ下さい。まだ時間が なくて現実にはなりませんが、いつかは会員の 先生方に参加して頂ける様な番組が出来ないか と希望を持っております。