沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 3月号

前のページ | 目次 | 次のページへ

医事紛争処理について

稲田隆司

常任理事 稲田 隆司

医療技術の進歩や高度化に伴い、各個人の医 療ニーズが高まっております。また、住民の権 利意識等の高まりにより、医事紛争(医療事 故)が増加の傾向にあります。

このような状況を鑑み、今回、医事紛争(医 療事故)事案が発生した際の注意点と、沖縄県 医師会における医事紛争等のサポート体制につ いてご説明したいと思います。

始めに、日本医師会の医師賠償責任保険制度 についてご説明致します。

「明日は我が身」の医事紛争に対して、医師 会の強力なセーフティーネットが日本医師会医 師賠償責任保険です。

この保険制度は、全てのA 会員が万が一の紛 争に備え、医療行為に賠償責任が認められた場 合の金銭賠償(補償?)に対応し、また、例え 責任がなくても会員が訴えられた場合のディフ ェンス費用をカバーするものであります。

その為に、重要な取り決めがあり、会員の認 識不足から保険が適用されない場合があります のでくれぐれもご注意下さい。

日本医師会医師賠償責任保険制度では、医事 紛争が発生した場合、医師会への報告前に患者 さんとの金銭交渉や支払を行うことを固く禁じ ています。

これに反し、例えば、医師会に相談無く交渉 や支払いを行った場合は保険の適用がなく、せ っかくの日々の備えも保険の享受を受けられ ず、誠に残念な事になります。

是非この点にご留意いただき、医事紛争発生 時には、次の手順で対応をお願い致します。

1.紛争発生時、または紛争になりそうな心配 がある場合は速やかに地区医師会にご連絡下 さい。

2.医師会の指示に基づき、県医師会へ報告書 を提出して下さい(書式があります)。事務 局、担当理事が連絡体制をつくります。

3.患者さん、ご家族には、誠意をもって医師 会の委員会と共に事故の事実認定、対応を行 う旨をお伝え下さい。

4.金銭交渉は行わないで下さい。日医の「賠 償責任審査会」の決定を受けて、具体的な交 渉や対応については、担当理事、顧問弁護士 が行います。

共に病と闘ってきた医師、患者関係が医療事 故を機に対立してしまうことは互いに辛く切な い状況です。患者さんの苦しみ、悲しみは勿論 ですが、当事者の医師やスタッフも負担を背負 い、自責し消耗していきます。ヒヤリ・ハット 運動を始め、日々の安全管理に努めると共に、 医事紛争発生時は、独りで抱えることなく、医 賠責システムで構築された医師会のサポートシ ステムにご連絡下さい。会員のみならず、患者 さんのお気持ちも支えるべく、事務局、顧問弁 護士一同努めて参ります。重ねて、初期対応に ご注意され、事前の金銭交渉はなされぬよう、 お願い申し上げます。

次に、沖縄県医師会における医事紛争等のサ ポート体制として、沖縄県医師会医事紛争処理 委員会や裁判時のサポート委員会等についてご 説明致します。

ある日、患者さんまたはその関係者が先生の 職場を訪れたとします。そこで先生の医療行為について、かくかくしかじかの理由で自分は損 害を被った、それについての説明を求める、あ るいは補償を求める、または誠意が欲しい。ニ ュアンスは様々ですが、医療行為について納得 が得られない旨の主張です。紛争になりそうだ と事前に予想される事例もあれば、唐突でなぜ あの医療行為がと腑に落ちない場合も、これも また様々です。

いずれにしても紛争の発生です。辛い状況で すが、我々にも言い分があれば、患者様側にも 言い分があります。傾聴に徹し、患者さん側の 言い分の理解に努めて下さい。その後、医師会 に報告し、医師会の委員会で医療行為の是非を 審議する、医師会と共に誠意をもって解決にあ たる旨をお伝え下さい。大抵はそれでお待ちい ただけますが、ご納得いただけない場合は県医 師会事務局にご連絡下さい。ケースバイケース ですが、担当理事も出席し患者さん側にご説明 致します。

そして、先生は書式に基づいて報告書を地区 医師会に提出して下さい。地区医師会の承認、 署名、捺印の後、正式に県医師会が受理致しま す。その後、可及的速やかに県医師会医事紛争 処理委員会を開催致します。事例によっては、 小委員会として複数のその科の専門家のみで審 議し、早く結論を得るべく動く場合もありま す。よく患者さん側から、医師会は医者に有利 な審議をするのだろうと問われる場合もありま すが、それはありません。医療人のプライドに かけて真剣な検討が為されています。

医事紛争処理委員会の進め方に関して、先生 のご出席と共に、その地区の医師会長、医事紛 争担当理事が同席、そして、先生の信頼する医 師の出席も可能です。これは当事者の医師の負 担を軽減するための方策です。毎回、委員の先 生方には、当事者の先生のストレス、苦しみへ の配慮を求めております。その科の専門医も複 数名オブザーバーとしてご参加いただき、顧問 弁護士も出席の上、医療、司法双方からの検討 を行っております。この医療行為が医療事故を もたらしたものであるか(医療者側の有責)、 医療事故とは関連付けられぬものであるか(無 責)、不可抗力(責任を問えぬもの)であるか、 あるいはどちらとも判断し難いものであるか (判断保留)、様々な議論を行い、県医師会とし ての意見をまとめ、各種資料とともに日本医師 会へ送付致します。日医でも更に調査委員会、 賠償責任審査会と綿密な検討を行い、最終結論 を致します。これを受けて県医師会担当理事、 地区医師会担当理事、事務局、顧問弁護士が患 者さん側との交渉にあたり、まとまる場合もあ れば裁判に持ち込まれる場合もあります。

裁判となった場合の医師の負担は苛烈なもの です。そこで、沖縄県医師会では全国に先駆け てサポート委員会を立ち上げました。根拠とな る文献の提供、意見書の作成、弁護士との連 携、裁判におけるあらゆる側面を支援致しま す。なお、最終の判決に対しては保険がカバー する体制となっています。勝訴、敗訴いずれに しても医師、患者双方の負担は大きく、ADR (Alternative Dispute Resolution)の議論が盛 んになってきておりますが、日医の方針を待ち たいと思います。

医療事故対策にはシステム論的検討が不可欠 です。自らの医療行為を振り返り、二度と同じ 事故を起こさない為の検討、情報の共有が大切 となります。その為に数年前から、県医師会で は内部的な勉強会を開催しております。また、 平成23 年からは、医療安全の一層の推進を図 るべく体制を強化していく方針です。会員の皆 様のご協力をお願い申し上げます。

前のページ | 目次 | 次のページへ