沖縄県医師会労災部会会長
久場 長毅(久場整形外科医院)
平成22 年9 月12 日、品川プリンスホテルで 開催された上記会議について、県医師会自賠 責・労災担当理事の金城忠雄先生から是非県医 師会報に掲載して頂きたいとのご要望と事務局 からのご要望があり、報告します。
1.主 催:日本臨床整形外科学会
自賠責・労災委員会2.日 時:平成22 年9 月12 日
15:45 〜 17:45(社保・国保・労災審査委員会議終了後に引き続き)3.場 所:品川プリンスホテルメインタワー26 階「日光」
4.次 第:司会:理事 子田純夫先生
開会の辞:理事長 藤野 圭司先生(日本臨床整形外科学会理事長)
基調講演:「労災診療費と福岡労災指定病院協会」
光安整形外科医院 光安 元夫先生
講 演:「日本医師会労災・自賠責委員会報告」
社団法人日本医師会 常任理事 藤川 謙二先生
「アンケート調査をもとにした各県の状況報告」
自賠責・労災委員会委員長 山下 仁司先生
討 論:光安元夫、藤川謙二、葉梨之紀、山下仁司 各先生
(葉梨先生は「Q&A 交通事故診療ハンドブック」編集WG 委員長)
閉会の辞:葉梨 之紀先生
挨 拶
最近、労災診療や交通事故診療においても、 労災審査基準変更や人身傷害補償を保険会社に よる健保強要など様々な変化、問題点が指摘さ れています。これらの労災診療・交通事故診療 の問題点を共通の認識とする為、日本臨床整形 外科学会としても各県の担当者が一同に集まり 平成22 年度日本臨床整形外科自賠責・労災担 当者会議を開催させていただきます。
基調講演
先生は社会保険の成立当時のことや、労災診 療の流れについて話された。
昭和2 年から17 年までは社会保険は政府と 日本医師会の間で臨床請負制度を決め、日本医 師会の決めた全額を各都道府県で保障するよう に決められていた。この頃は労災災害補償等は なかった。昭和18 年健康保険法の改正、以後 昭和33 年政府は日本医師会の診療報酬点数表 に準じて各医療機関に支払われた、これでは不 十分と考え、昭和33 年9 月に8.7 %値上げされ た。その時点数表は甲表と乙表に分けられてい たが、外来診療に有利な乙表と入院に有利な甲 表があるのは、おかしいとの批判で、平成4 年 4 月に全国一律化された。
さて、労災は昭和22 年に労災災害保険法が 出来て、労災診療に関しては、各診療機関と労 働監督署との間で協議の上、慣行料金として勝 手に決めていた。(実は、沖縄も福岡県に習っ て慣行料金を決めていた。)所が、慣行料金と 云えども学問的根拠をもって労災診療をすべき であるとして、福岡労災指定病院協会は昭和 28 年米国の医療と物資がはいるのを機会に大学教授を招へいして勉強会を開き医師の資質の 向上を図り、福岡県の場合は診療に問題がある と思われた場合、その医療機関に治療方法につ いて問い合わせ、根拠が正しくはっきりしてい ればそのまま治療を認める、そうでなければ治 療方法を考慮してもらうことになった。ところ が、労災診療の請求点数はまだ統一がされてな かった、統一しようとの流れは当然であった が、福岡、東京、神奈川、大阪、その他の県で 特掲料金を上乗せして請求していた事、労災事 故の多い県、殆どない県、社保の税率が28 % に対し労災は50 %等の問題が絡み合って全国 統一が出来なかったが、どうも健保の点数表に 準じた方が面倒でないとして、昭和33 年一点 単価12 円できまった。これは当時の日医理事 遠藤先生と厚生大臣村上氏との協定によるもの である。平成元年各県に会計検査が入り、健保 に準じている以上不要な支出として特掲料金の 廃止がきまった。
光安元夫先生は、健保と労災は元来異なるも ので、社会保険は相互補助の上に成り立ってい るが、労災保険は無過失労災補償に立脚してい る。従って、労災診療が健保点数表に準拠する のは不合理の事、労災保険独自の点数表を作る 事、労災担当医師の全国組織を作る事、現在の 点数表が労災に不適当と思うのは日本医師会を 通して改定すべく主張する事。
以上の主旨であった。
講 演
労災保険に関する主な検討事項
1.医療現場又は審査会等における労災算定基 準の問題点
社保と労災は財源が違う、右肩上がりの日 本の経済状態時は保険点数も上げる事ができ た、現時点では労働局は労災独自の点数表は 考慮してない。
2.労災認定および後遺症認定に係る適正な運 用について
労働者は高齢化が進み加齢的疾病と労災災 害をどう区別して取り扱うが問題だし、更に 障害認定が問題になっている。
3.労災レセプトに係る審査会等に関する調査
審査会では9 割以上が事務的審査で通り、 1 割が医学的に審査されている。
○通勤途上の交通事故
○労災認定および後遺症認定に係る適正な運用 について
厚労省が発表している年齢別労働人口の将来 推計によれば、2012 年以降、60 才未満の労働 人口は減少し続け、2030 年には5,000 万人を 下回り、反対に60 才以上の労働人口は増加し 続け、1,200 万人を超えることになると推計さ れている。
先に述べた様に加齢的な基礎疾患と労災認定 および後遺症認定の問題をどのように考えるか。
○労災保険に関する主な検討事項
構成メンバーについて…
整形外科270 人、外科133 人、脳外科42
人、内科33 人、
眼科29 人呼吸科6 人、形成外科5、その他30 人
近年精神障害者等の労災補償状況が増加して いる事を考えると、精神科や診療内科の医師を 増強する必要がある。
審査委員の選任方法は医師会の推薦および労 働局の指名が多くを占めている
自賠責保険に関する主な検討事項
1.最近の自賠責保険の問題点
通勤途上の交通事故は労災保険が自賠責に 優先する。
近年、交通災害を社会保険、国民健康保健 で請求することがあり、第三者行為である事 で社保、国保では認められない事をはっきり すべきである。
2.今後の日本医師会の自賠責保険への対応
日本医師会として、交災は第三者行為であ ることをポスターなどで認知させる事。
3.日本損害保険協会、損害保険料率算出機構 との意見交換会の実施
1 年ないし2 年に一回は医師会、日本損害 補償協会、損害保険料率算出機構との意見交 換会を実施する事。
4.「第三者の行為による傷病届」等に基づき、 医療保検者が行う求償に関する調査
(以下「アンケート結果(概要)」のまとめ)
・交通事故において健康保険を用いた場合の手 続き等(第三者行為の「傷病届の提出」)に ついて、各医療保険者から被保険者への周知 が必要。
・各損保会社においても、被害者が健保を使用 した場合には、第三者行為の「傷病届」提出 するよう説明する等の取り組がもとめられる。
・健康保険、労災保険の財源が適正に使用され ているかは国がチェック機能を担い、データ を把握し、国民に示すことが必要。
・交通災害における保険金詐欺案件における医 療費支払い問題。
加害者と被害者がぐるの事があり、突然、弁 護士から医療費の支払いができないとの連絡 がくる事がある。各医療機関で保険金詐欺を 見抜く必要がある。
5.行政刷新会議「事業仕分け」について
・平成22 年3 月11 日、第6 回行政刷新会議に おいて、独立行政法人や政府系の公益法人が 行う事業について、「事業仕分け」を実施す ることが決定。
・労災保険情報センター(RIC)が行う「労災 診療費審査体制等充実強化対策事業」が「事 業仕分け」の対象として選定された。
・民間業者が審査に参入しやすい条件に改め る。契約単位を地域分割、事務所設置条件を 見直し。
・国がマニュアルを整備し、活用する。
・早急に労災レセプト電算処理システムを整備 し、効率化、迅速化に対応する。
・労災診療費の審査業務は、国が主体となっ て運営すべきものであり、RIC に委託して いるこれらの業務も本来は国が行うべきもの である。
・地域から「RIC が医学的審査そのものにまで 関与している。」等の声も聞かれる中、審査 業務運営の在り方を見直す機会。
・RIC の現在のレセプト審査業務を労働局に 移行する。
・RIC の業務は支払いの貸付、補償金の支払 い等に縮小。
・沖縄県のRIC への加入率は外科系病院・診 療所合わせて240 施設で98 %。
・民主党は労災保険の8 兆円の積立金は財政投 融資によるものも含まれていると考えている 様だ。つまり一般財源の一部に繰り入れられ る恐れがある。8 兆円余りの積立金は事業所 から提供した保険金であり、災害治療、補償 の為の資金であることで、当然守らなければ ならない。
・自賠責の積立金が1 兆円あったが、7,000 億 を国土交通省にかしつけたが、5,000 億しか 返還してない。交通被害者補償の為に自動車 労連、医療界もふくめ一般財源から返還する よう求める。
◆省内事業仕分室作成資料から見た労災保険の 現状(参考資料 厚生労働省 省内仕分け業 務の中の「労災保険業務」http://www.mhlw.go.jp/seisaku/jigyo_siwake.html)
<基礎データ>H22年度
<主な業務・事業>
<審査>
レセプト審査件数350 万件
査定金額 36億2,800万円(H21年度)
1)業務委託者(RIC)による事前点検
2)都道府県労働局における審査(21 年度実績)
担当者審査(労働局担当職員)
疑義提出件数(48 万件)
医学的審査(診療費審査委員会)
疑義提出件数(48 万件)の4 割程度
3)監督署における労災認定の為の調査
<労災保険財政>
労災保険「積立金」残高
8 兆1,534 億円(H21 見込み)
労災保険年金受給者
233,033 人(H21 見込み)
労災保険率5.4(単位1/1,000)
「討論」
北海道、鹿児島県、佐賀県からの質問があ った。
沖縄県からの質問
最近、沖縄県労災指導委員会で問題となった 事があったので他府県の対処方法について質問 した。(アンケートとは違った事ではあったが) 質問内容は、近年、労働者の高齢化に伴い、高 血圧、変性疾患の他に糖尿病などの私病が労働 者にもふえている。審査に当たり混乱する事が 増えている。
その例として、糖尿病の労働者が災害を受傷 した場合、
1)受傷した後、糖尿病とわかった場合…糖尿病 の治療も労災のレセプトで算定できるか?
2)既に糖尿病を内科的に加療していて、受傷し た場合…内科と労災にレセプトを別々に算定 すべきか、又はこの場合も糖尿病の治療も合 わせて労災のレセプトで算定できるか?
以上の事について他府県ではどうされているか調査して頂きたい。
回答
類似した問題はいくつか起ってきています。 いま、この様な事例に対し他府県の状態がどう かは時間がないので今は調査は出来ないが、今 回が第一回の会議であるので、近いうち調査を して、臨床整形外科労災部会議で調査検討した い。しばらくは、ケースバイケースで判断して おいて下さい。との感触のある返事であった。