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地域向け医療講演会による医療情報発信の取り組み

田名毅

首里城下町クリニック第一
*田名 毅
比嘉 啓

はじめに

平成13 年に開業した際、小さいながらも多 目的ホールをつくることにした。50 名ほどでい っぱいになる寺子屋的な雰囲気の中で正確な医 療情報を提供する場を作りたかったからであ る。このアイディアは、妻の叔父にあたる饒波 保先生が座間味の診療所に勤務していた際、高 血圧の講演依頼を受け、座間味の公民館で夕方 の時間帯に話をしたことがきっかけである。こ の方法なら、「医師が日常診療を通して考えて いる医療情報を顔と顔とを合わせ、地域の方々 に提供できる」と感じた。開院3 カ月目から開 始し、12 月を除く毎月講演を行っている。台 風で2 回は順延したものの、平成22 年9 月現 在で合計93 回開催してきた。今回、日本プラ イマリ・ケア連合学会の第1 回の総会におい て、これまでの当院における地域向け医療講演 会を総括し発表したので、この場をかりて内容 を紹介したい。本総会は日本プライマリ・ケア 学会、家庭医療学会、総合診療学会が合併して できたプライマリ・ケア連合学会の記念すべき 第1 回目の総会であった。

演題「地域向け医療講演会の参加人数から 一般社会の関心事を探る」

(目的)当院ではより正確な医療情報の地域へ の発信を目指して毎月地域向け医療講演会を院 内において開催しているが、その参加人数がテ ーマによって偏った傾向があることに気付いた ため、今回解析を行ない今後の企画の参考にし たいと考えたので報告する。

(経過)平成13年11月開業。平成14年1月か ら地域向け医療講演会を開始

講師は自院からもしくは専門の先生を招聘

毎月最終火曜日(19 時開始、20 時半終了)に定例化。

定員収容人数: 50 名
開催場所:当院多目的ホール
広報方法:院内ポスター掲示
     近隣の4 自治会・スーパーなどにポスター掲示

※参加者の半数以上は通院患者

平成19 年1 月からクリニックを改築し開催場所を広げ開始

定員収容人数: 100 名 ※図1(講演会の写真)
開催場所:当院待合室(2F)
広報方法:院内ポスター掲示
     近隣の4 自治会・スーパーなどにポスター掲示
     新聞広告(月3 回、演者顔写真入り)
     ※図2(新聞広告サンプル)

※参加者の半数以上は非通院患者

図1

図1 院内講演会の様子

(対象・方法)これまで開催してきた合計86 回 の講演会のテーマごとに参加人数、その男女比 について統計をとった。参加人数に関しては定 員収容人数の何%参加したかについてその比率 を計算し、比較検討した。男女比については女 性参加数を男性参加数で除した値を計算し、比 較検討した。

図2

図2

(結果)

参加者総数

  • (1)定員収容人数 50 名 ※改装前
     開催回数 54 回 延べ人数 1,615 名(男性598 名、女性1,017 名)
     平均参加人数 30 名(男性11 名、女性19 名)
  • (2)定員収容人数 100 名 ※改築後
     開催回数 32 回 延べ人数 2,330 名(男性775 名、女性1,555 名)
      平均参加人数 73 名(男性24 名、女性49 名)

参加人数/定員収容人数 図3 ・4

女性参加人数/男性参加人数 図5 ・6

(考察)

参加人数に関する考察

(1)禁煙・消化器(胃腸検査)など特定の人の みが興味を持つ内容、救急・感染(インフルエ ンザ対策)などの平常時には問題意識が低い内 容に関しては参加者が少なかった。更年期障 害、骨粗鬆症は女性の関心が高そうな内容であ るが、意外と参加者は少なかった。

(2)逆にめまい、下肢静脈瘤は女性に関心が高 く、この分野は他で講演を聞く機会がないため か、期待以上の参加者であった。がん対策は一 般の人の危機意識があるのか、参加者が多かっ た。その他、高血圧は頻度が高いという現状 や、虚血性心疾患・脳卒中も危機意識がある現 状から参加者は多かった。うつ病・認知症など の生活に直結する精神疾患、肥満・睡眠時無呼 吸などの現代病、また当院が専門にしているリ ウマチ、腎疾患は参加者が多かった。

図3

図3 結果2

図4

図4

男女割合に関する考察

(3)乳がん・更年期障害・ホルモン・下肢静脈 瘤・めまい・骨粗鬆症・リウマチなど女性に頻 度の多い疾患は女性の参加者が多かった。救 急・感染(インフルエンザ対策)など予防的な 対策が必要な内容も女性が多かった。その他、 参加人数が多かった内容は女性の参加の影響が 大きかった。

(4)男性の参加が比較的多い内容としては、高 血圧・脂質代謝異常症・睡眠(不眠症)・眼科 (白内障)など一般的に頻度が高い内容であっ た。呼吸器、消化器も同様であった。

禁煙、前立腺がんの二つだけが男性参加者が女 性参加者を上回っていた。

図5

図5 結果3

図6

図6

(結語)今回の結果は解析前にもっていた印象 を裏付ける内容であった。参加人数の違いは講 演会の際に準備する際の参考にはなるが、大切 なことは地域、社会にどのような内容の啓発を 行うかということであり、参加人数が少なくな ることが予想される内容こそ、どのように広報 すれば人を集められるか考える必要がある。全 般的に女性の参加者の方が多く、この方法によ る啓発方法に男性の参加者を期待すること自体 難しい面もある。しかし、内容によっては男性 参加者が多い場合もあり、今後も広報方法を工 夫するなど取り組んでいきたい。

おわりに

私が開業した当時は「あるある大辞典」とい う番組があったが、あまりに大衆受けを狙った 内容に加え裏付ける役割として医療関係者のコ メントが使われるというやり方に疑問をもって みていた。また、インターネットの情報を媒介 とした民間療法が「手術を受けたくない」と考 える患者さんの動向を惑わし、がんの適切な治 療がなされないケースの存在を現場でもしばし ば経験している。このような社会環境を考えた とき、医療現場において患者さんの苦しみを目 の当たりにしている医師が感じていること、そ してそれに基づいて地域住民や患者さんに是非 知って欲しいと考える正確な医療情報を、医師 自らが伝える場の提供こそ重要なのではないか と考え、講演会を継続している。参加者の感想 を毎回アンケートで拝見しているが、日頃の診 療時間ではこのようなまとまった話は聞けない ので、とても有意義だったとする回答が多くみ られる。

他のクリニック、総合病院においても、地域 向け医療講演会が行われるようになり、これら の案内を目にする機会が増えてきている。現場 で患者さんを待って真摯に診療していく地道な 姿勢が医師の基本と考えるが、情報が氾濫して いる現代社会においては医師が積極的に地域や 社会にでて水先案内人として情報発信していく ことも重要なのではないかと考える。

※当院の講演会は、各専門の分野においてご活 躍中の先生方にお世話になって行っておりま す。これまでご講演頂きました先生方に、こ の場をおかりしまして厚く御礼申し上げます。