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世界エイズデー(12/1)に因んで

仲村秀太

琉球大学大学院医学研究科感染症・呼吸器・消化器内科学講座
仲村 秀太

はじめに

今年も世界エイズデー(12/1)を迎える季 節となった。世界規模でのエイズ蔓延の防止、 HIV 感染者に対する差別・偏見の解消を目的 とし1988 年に世界保健機関により定められた 日である。本邦は世界の中でHIV 低流行国と いう位置づけであるが、毎年1,500 人程度の新 規患者が報告されており国内で約1 万5,000 人 の患者がHIV とともに生活をしている。本県 においても患者数は増加しており2007 年以降、 人口10 万人あたりの患者数が全国3 位以内を 占めている。

抗HIV 薬の多剤併用療法(いわゆるHighly active antiretroviral therapy ; HAART)の 登場によってHIV 感染者は非感染者とほぼ同 等の平均余命を送れることが可能となりHIV 感染症は慢性疾患として長期療養を送る時代と なった。しかしながら、多くの日和見感染症が 克服されてきた一方で21 世紀に入りこれまで とは全く異なる問題が新たに出現している。ま た、HIV/AIDS が患者や社会に与えるスティ グマ(烙印)に関しては未だ完全に解決されて はいない。本稿ではHIV/AIDS の最新の話題 や当院でのHIV 診療活動について触れていき たい。

1.Acquired immunodeficiency syndrome からAcquired Inflammnation Disease syndrome へ

近年のHIV/AIDS に関するリサーチで最も トピックなのはHIV 感染に伴う慢性炎症がも たらす様々な合併症である。欧米での大規模な コホート研究の結果からHIV 感染者は非感染 者と比較して脂質異常症や糖尿病などの代謝性 疾患や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患、さらに は悪性腫瘍の罹患率が高いことが明らかになっ てきた。この背景には抗HIV 薬の有害事象と いう側面やHIV そのものが動脈硬化促進に関 わっているという事実があり感染者におけるバ イオマーカー(高感度CRP やIL-6、D-ダイマ ーなど)の上昇がその裏づけの一つとなってい る。当院通院中の患者においても大部分の患者 に脂質異常症を認め、心筋梗塞や脳出血といっ た血管障害もすでに経験している。

また、COPD や骨粗髭症などもその有病率 の高さが指摘されている。当院通院中の男性 HIV 感染者を対象とした症例対照研究では人間 ドック受検者と比較して、より若年から閉塞性 換気障害を有することが示された(第23 回エ イズ学会、名古屋、2009 年)。年齢中央値が 40 歳(25 〜 67 歳)の当院通院HIV 患者75 名 において、骨粗髭症のバイオマーカーである尿 中DPD は約24 %で異常値を認め、骨塩定量で は約20 %に骨減少症を認めた(第24 回エイズ 学会、東京、2010)。さらに、HIV 感染に伴う 認知機能障害に関しても本学教育学部と共同研 究を開始している。このように、HIV/AIDS 診療は感染症を取り扱うというより幅広い内科 領域全般をフォローアップせねばならない状況 へと変化している。本県においても今後ますま す複数診療科との連携が求められることになる であろう。

2.全県体制での診療システム構築

筆者が平成19 年に国立国際医療センターエ イズ治療研究センター(ACC)にレジデントとして在籍していたときに、ある患者からこん なことを言われたことがある。「先生方はHIV は慢性疾患だ長期療養の時代だというけれど、 同じ慢性疾患である肝炎とは社会の受け止め方 が全然違うじゃないですか。病名を言えない、 受け入れてくれる病院も限られている。長生き できるようになったことはその間に糖尿病や腎 障害などのさまざまな疾患を合併するというこ と。でも、透析になったからってHIV であるこ とを理由に受け入れてくれない病院がたくさん ある。肝炎ではこんなことありますか?」実際 に透析を経験している当事者の言葉にハッとさ せられた。

本県では、エイズ中核拠点病院の本学および 拠点病院である県立中部病院、県立南部医療セ ンターとともに診療体制の構築につとめてき た。前述の脳出血の患者の例をあげると、その リハビリ療養のために患者受け入れを快諾して いただいた施設へ出張講演を行い受け入れ態勢 を整えた。また、離島で生活する患者はそのコ ミュニティの狭さから地域の医療圏へアクセス すること自体に困難を感じる。そのため離島協 力病院に対しても患者受け入れに対する出張講 演を行ってきた。

患者自身の長期療養を支援するために季刊パ ンフレットの作成や患者同士のピアカウンセリ ングを目的として臨床心理士が中心となった県 内初となる陽性者交流会も今年度開催してい る。このような活動がHIV に対する社会的ス ティグマの軽減につながればという想いが県内 各拠点病院のHIV 診療チームの願いである。

おわりに

今年の世界エイズデーのキャンペーンテーマ は〜 Keep the promise, Keep your life 〜であ る。HIV に感染しても仕事をやめることはない し生活も続けられる。治療の進歩は安心して検 査を受けられる条件を整え予防対策にも貢献し ている。エイズに取り組み続けたたくさんの人 がいてここまできた。社会の理解が広がり、関 心を持つ人が増える。治療も予防もそのことに 支えられている。そんな想いがこめられてい る。最後に、執筆の機会を与えていただいた県 医師会の関係諸氏に深謝申し上げます。

平成22 年度「世界エイズデー」ポスターコンクール最優秀賞受賞作品