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平成22 年度全国医師会勤務医部会連絡協議会

沖縄県医師会勤務医部会会長 城間 寛

平成22 年度全国医師会勤務医部会連絡協議 会(日医主催、栃木県医師会担当)が、「地域 医療再生〜地域の力、医師の団結〜」をメイン テーマに、去る10 月9 日(土)栃木県宇都宮 市で開催されたので、その概要を報告する。全 国から414 名の参加者があった。

開会式

福田健栃木県医師会常任理事より開会の挨拶 があり、続いて、主催者を代表し原中勝征日本 医師会長から、「長年にわたる医療費抑制策の 結果、進みつつある地域医療の崩壊から一刻も 早く脱却し、再生への道を切り拓いていくこと は、本会に課せられた使命である。総医療費の 大幅な引き上げこそが地域医療の再生に必要不 可欠である。そのためには、本会会員の約半数 を占める勤務医の力強い後押しが必要である。 勤務医は、過重な労働環境、病院の就業規則等 により医師会活動への参画を制限されることも 多いが、今後はより一層、勤務医の意見等を会 務に反映していく仕組みづくりが必要である」 と挨拶があった。

続いて、太田照男栃木県医師会長から、「メ インテーマは、昨年度の島根県医師会のメイン テーマであった『医療崩壊から医療再生へ』を 引き継ぎ、『地域医療再生〜地域の力、医師の 団結〜』と題し、勤務医が地域において働きや すい環境作りをし、勤務医に将来の展望が拡け る体制作りを目指し企画した。本協議会が勤務 医の明るい未来を示唆する有益な協議会になる ことを期待している」と挨拶があった。

続いて、来賓の福田富一栃木県知事と佐藤栄 一宇都宮市長より歓迎の挨拶があった。

特別講演1

「医療の明日のために、今、できること
−日本医師会の変革と地域医療の再生−」
日本医師会長 原中勝征

我々は、財務省や厚生労働省によって、勤務 医と開業医という分け方をされるが、医療再生 のために、医師のエネルギーを分散させられる べきではない。

そのため、医師の団結のために取り組むべき 課題としては、病院勤務医と診療所医師の接点 をそれぞれの医師会で強化し、勤務医の医師会 への参加を促すとともに、医療が直面している 共通の課題解決のために、協働して取り組める ようなフレキシブルな会務の運営に努めること である。また、日医の活動をより透明化し、す べての国民に理解されるよう努力を継続する。 すべての医師、とりわけ女性医師を含む病院勤 務医の労働環境の改善に最善の努力をはらい、 働きやすい職場環境を構築するとともに、国民 の医療への信頼を確保しなければならない。

その他、1)医療費増加政策への転換について は、自民党政権下では、社会保障費年2,200 億 円の削減は最後まで覆らなかったが、民主党 は、昨年の衆議院議員選挙の公約で2,200 億円 の削減方針を撤回し、医療費増加政策に転換し た。引き続き、強力に医療費増加の必要性を主 張していきたい。2)医師不足と偏在の解消につ いては、中長期的に医師数を1.1 倍から1.2 倍 にすることが妥当だと考えている。そのための 前提条件として、(1)財源の確保、(2)医学部 教育から臨床研修制度までの一貫した教育制度 の確立、(3)医師養成数の継続的な見直しが必 要だと考えており、人ロ減少社会の中で、医学 部を新設する必然性はない。3)市場原理主義の 医療への参入阻止については、現政権下で出て きた市場原理主義的な考え方(混合診療の全面 解禁や医療ツーリズム(国際医療交流))につ いて問題を即座に指摘した。(@)保険外併用 療養の範囲拡大は、現在の評価療養等の機動性 を高めるという趣旨であれば賛成だが、最終的 に混合診療の全面解禁を狙ったものであれば反 対である。また、(A)医療ツーリズムは、医 師が診察を行うことは、日本人、外国人にかか わらず当然の責務である。しかし、医療ツーリ ズムという産業をベースとした営利企業が医療 に参入することは、混合診療全面解禁につなが る可能性が大きく容認できない。混合診療の問 題は今後も絶対反対の態度を貫く考えである。

報 告

日本医師会勤務医委員会報告
日本医師会勤務医委員会委員長 泉良平

平成20 ・21 年度日本医師会勤務委員会への 諮問は、「医師の不足、偏在の是正を図るため の方策―勤務医の労働環境(過重労働)を改善 するために―」であった。

答申の概要については、T)医師不足問題概 観、U)医師不足、V)医師偏在、W)勤務医 の労働環境、X)医師不足・偏在・過重労働の 是正の意義、Y)国民と共に考える視点、Z) 社会保障の視座である。

現在、日本は約13 万人の医師が不足してお り、その直接的原因として、医療費抑制政策と 医学部入学定員数削減があげられる。また、間 接的原因として、医療訴訟の増加、新医師臨床 研修制度、女性医師労働環境の未整備等があげ られる。

医師不足の対策としては、医療費抑制政策か らの脱却、医師養成数増員、医学教育の見直 し、勤務医就業環境の改善、女性医師支援等が 考えられる。

地域偏在の実情としては、都道府県格差は 2.12 倍で診療科の偏在も大きくなってきてい る。特に外科、産婦人科はこの10 年間で減少 しており、その原因として、価値観の変化、勤 務医の過酷な勤務実態があげられる。偏在の是 正の方策として、日本学術会議の提言の中に 「量から質の医療への転換による克服」が示さ れており、医師の総数の増加を叫ぶ前に医師の 業務の質を向上させていくことや医師に過重の 負担をかけて疲弊させないことが、良質の医師 を現場に引き戻すことになると考えている。

また、勤務医の大多数は、過労死基準である 1 ヶ月100 時間を超える超過勤務と長時間連続 勤務を強いられているのが現状であり、その原 因として、高齢者の増加、医師の専門・細分化 等、医師のワークライフバランスの実現だけで はなく、医療の質と安全を確保する観点からの 労働環境整備があげられる。主な改善策とし て、多様な勤務形態、育児・介護・復職支援、 人事管理、職域の明確化などが考えられる。

最後に、勤務医と開業医という医師を区分す る議論は好ましくない。全ての医師が医師とし ての社会的使命、医療の理想を具現する団体と して医師会がある。医師会への参画を通して多 くの勤務医の意見を会務に生かし、勤務医が抱 える諸問題を最重要課題として解決に取り組む 事が医師会の社会的使命であり、医師の団結へ 繋がるものと考える。

また、平成22 ・23 年度の諮問は「全ての医 師の協働に果たす勤務医の役割」となっている。

これまで日医勤務医委員会では様々な議論が 行われてきたが、その内容が対外的な面で十分 広報出来ていなかったことを踏まえ、先般行わ れた第1 回勤務医委員会で、その議論の内容を 公開するに決定した。早速、日医のホームペー ジにも掲載しているので、是非ご覧いただきご 意見を賜りたい。

女性医師問題に関するアンケート調査報告
栃木県医師会勤務医部会理事 望月善子

本調査は、栃木県で働く女性医師の勤務実態 を把握するとともに、女性医師が出産や子育 て・家事を行いながら働きやすい環境づくりを 推進するための施策について検討し、今後の勤 務環境改善のための具体的かつ実効ある支援策 の基礎資料とすることを目的に、栃木県の委託 により実施した。

調査概要

(1)期間:平成22 年6 月15 日〜 7 月15 日
(2)対象:栃木県内の女性医師(H20 医師・歯科医師・薬剤師調査による)
(3)方法:県内の女医を対象に調査票を郵送・配布し無記名で回答を得た。
(4)回答:配布数706 件中、回収数299 件で42.4 %の回収率であった。

まとめ

□勤務実態では、時間外労働の時間が長く、宿 直明けは通常勤務をこなし、有給休暇の取得 もままならない状況が示された。

□その上で、女性医師は家事と仕事の両立とい う大きな命題を持ちながら働かざるを得ない 状況が明らかとなった。

□勉強時間の不足は、医師としてのキャリアを 積んでいくためにはマイナスになり、プライ ベートな時間の不足はストレスをため込む原 因となる。

□特に、男女かかわらず若い医師達は仕事のオ ンオフの切り替えを望み、個人の生活を大事 にする価値観の持ち主が多くなっており、ワ ークライフバランスを重視した医師人生を追 求する。

□離職者は299 名中13 名(4.4 %)であり、非 常勤で働く女性医師が1 割いたが、その理由 として子育て、家事、出産などが挙げられた。

□一時的に休職・離職したことのある女性医師 は約半数弱にのぼり、理由としては出産、子 育てが多かった。この部分のサポートの有無 が、女性医師が仕事を継続できるか否かの鍵 になる。

□院内保育所の設置や病児保育、24 時間保育 の整備、学童保育の充実などハード面での整 備だけでなく、短時間勤務制度やフレックス タイム制度、代替医師制度など、女性医師周 囲のカバーを要する場面での職場の理解は不 可欠である。

□常勤を希望しない女性医師も約2 割いた。子 育てが理由ではあったが、仕事と家庭の両立 という労多く余裕のない人生ではなく、パー トやアルバイトとして就労し平穏な家庭人と しての人生を選択する者も出てきている。

□ 介護を経験している女性医師は5 2 名 (17.4 %)であったが、今後ますます進む高 齢化の中で、介護問題は女性だけの問題ではない。

□介護支援対策として、柔軟な勤務体制の構築 が必要であった。こういった環境整備を行う ことで、男性にとっても良好なQOL を保証 するとともに、すべての医師が自信と誇りを 持って医療を実践できるものと考えている。

特別講演2

「すぐに役立つ勤務医のための医療と経済の基礎知識
―そして必要なのは産業論的戦略行動−」
愛媛大学大学院医学系研究科専攻
医療環境情報解析講座教授 石原謙

高額医療費の制度を知っていれば、私的医療 保険は、期待値や合理性の面から日本の医療で は殆ど意味がない。民間医療保険会社(外資) にお金を注ぎ込むことにより、益々勢いを得 て、彼らが公的医療保険を破壊しようとするプ ロパガンダに出ている。

日本の医療は国際的に高く評価されており、 医療行為あたりの医療費は、米の1/10 ほどで、 年30 兆円余は先進国の中で最低のGDP 比であ るにも関わらず、医療費財政問題が常に議論さ れる。我々は、この現実を認識し、遠慮せず 堂々と待遇改善のための行動を取るべきである。

日本の赤字を増やしてきた責任は政府の公共 事業への過剰な投入にあり、景気対策には道路 工事、医療費削減が必要と政府は繰り返してき た。最大の問題は長年にわたる土木工事への過 大投資だったにも関わらず、そのツケを医療費 抑制で帳尻を合わせようとしているのが原因で ある。

日医総研に在籍した6 年間最も力を入れたの が医療政策とオルカプロジェクトのプロモーシ ョンであった。オルカは誰もが無料で自由に使 えるソフトウェアとしてオープンソース化し た。レセコンを扱う民間企業が莫大な収益を上 げるシステムに疑問を持ち、日医独自に医療の IT 化、医療情報の標準化に向けて取り組んだ。

DPC は委縮医療の張本人である。日本に DPC 導入の必然性は無く、医療現場の手間ば かり増えるものである。「いかに医療費行為を 減らすか」と経営姿勢を換えざるをえない。医 療のデータがないというのは全くの嘘である。 毎月レセプトをきちんと出しピアレビューを行 なっているのは日本だけである。しかし、DPC に関わる方々は、DPC を導入するとベンチマ ーキングで客観比較が出来るというが、出来高 制度で行う方がデータの精度・信頼性とともに 高いのが真実である。

是非覚えておいて頂きたいのが、1982 年の 医療費亡国論から医師と医療費は少なければ少 ないほど良いという愚かしい感覚に陥り、DPC 導入機関は萎縮医療にならざるを得ず、これを 見て喜んでいるのは民間医療保険会社である。 医療保険が萎縮する先には、混合診療導入によ る民間医療保険会社の拡販戦略に繋がる。

元来保険には関係の無かった銀行やGEC、 ソニー、オリックス等、ありとあらゆる業界が 保険に参入しているのは経済的分析から儲かる ことの裏づけとだと言っても過言ではない。

GDP/GNP に対する日本の生命保険加入率 は、GDP の6 倍の保険を掛けている異常な状 態である。また、世界の生命保険料の半分を日 本一国で占めている。日本は安くアウトカムは 最高であるにも関わらず不安で苛まれている。 OECD health date 2009 で発表された統計資 料に基づくと、日本の医療は呼吸器疾患の治療 にやや劣る以外は全て最高ランクの治療成績 で、総合治療成績はトップであるにも関わら ず、健康満足度は最低ランクである。マスコミ に抗議したい。

DPC と民間医療保険のトライアングルとし て、1)医療費亡国論&医師抑制→2)DPC&萎縮医療→3)民間医療保険&混合診療(企業 には濡れ手に粟のビジネスチャンス)の悪循環 を生む。公的保険が萎縮するのはやめよう。 DPC は嘘だらけである。混合診療と民間保険 会社が力を持てば、アメリカと同様に医療費の 抑制に働く恐ろしいシナリオが待っている。国 民全体が安心できるのは混合診療を避け、医療 機関が力を持つことである。

最後に、2005 年当時、生命保険会社の不払 いが大問題になった。生保協会は、再発防止の 取り組みとして、「診断書電子化補助」に向け たインフラ整備に取り組むことを決めた訳だが、 「支払いが不足していたケースの大部分が、保 険会社による診断書の誤読や読み落としなど、 診断書に起因するものであった」との理由でイ ンフラ整備に努めるとしている。また、ソフト の導入には補助金も交付されることになってい る。日医もお墨付きを与えてしまった。騙され てはいけない。保険会社が嘘をついているにも 関わらず、上記のように置き換えられ事実が歪 曲されている。全くおかしな話である。本来、 保険会社に出す書類は数種類に纏めて、テンプ レートを作れば、簡単に無料で対応が可能であ る。メンテナンス費やライセンス費などは不要 である。是非騙されないようにして頂きたい。

次期担当県挨拶 富山県医師会長 岩城勝英

来年度の開催期日は、平成23 年10 月29 日 (土)富山市のANA クラウンプラザホテル富山 において開催するので多くの先生方の参加をお 待ちしている。出来るだけ多くディスカッショ ンができるよう企画したい。

ランチョンセミナー

「新型インフルエンザ・総括」
自治医科大学地域医療学センター
公衆衛生学部門教授 尾身茂

国立感染症研究所によるウイルス及び疫学的 分析によると、今回の国内におけるパンデミッ クの初発地域であった関西地域(兵庫・大阪) での流行は、強力な公衆衛生対策の結果、一旦 "封じ込められ"その後の国内感染は、別系統の ウイルスによりもたらされたものである。

我が国の致死率は諸外国に比べ圧倒的に低 く、こうした成果は、医師や医療関係者・行政 官等が過剰な負担に耐え、懸命な努力の結果で ある。

死亡率が諸外国と比べ低かったのは、感染が 主に若年者に集中した点と致死率の高い40 歳 以上の成人の感染が比較的少なかった点が挙げ られる。そのファクターとして、1)医師会の先 生方や保健医療関係者の献身的な努力(抗ウイ ルス剤の早期投与)、2)初期段階における広範 囲な学校閉鎖、3)一般市民の高い健康意識の3 つが上手く関与した結果である。

社会学的な観点から、今回の新型インフルエ ンザは、2003 年のSARS、数ヶ月後に猛威を 振るった鳥インフルエンザ等の経験から国際社 会が新しい感染症に対し、長い間、警戒、準備 していた最中に発生した。感染症の歴史の中で 初めてのことであり、それが最大の特徴といえ る。新型インフルエンザ対策の主要目的である 重症化・死亡化防止という点では一応目標は達 成したと言える。

しかしながら、ワクチンにおける接種回数や 接種順位の問題、10ml、1ml のバイアルの問 題、医療体制におけるリスクコミュニケーショ ンの問題、地方自治体と国の役割、意思決定な どの問題点も残した。

次回の対策として5 つの主な提言をしておき たい。

1.パンデミックの初期には、致死率、感染力 等、疫学情報が不確定あるいは極めて限られ ており、最悪のシナリオを想定し、場合によ っては過剰な対策を採らなければならないこ とを、国民全体が理解する必要がある。

2.既にパンデミックが始まる前に作成された" 行動計画"の見直しが必須である。感染力を 縦軸に、致死率、入院率、病原性等ヘルスイ ンパクトを横軸にしたマトリクスを作り、そ れぞれのカテゴリーに対し、検疫・医療体 制・学校閉鎖等の対策を大まかに予め議論し ておくことが重要である。

3.医療関係者、専門家、官僚等が技術的な議 論を合理的に行い、速やかに政治的判断を求 める仕組みの構築が必要である。また、人材 育成を含め、国の疫学情報分析能力の強化が 求められる。

4.国と地方自治体の役割分担、権限移譲につ いても、上記2 のカテゴリーに則し、あらかじめ国と地方自治体において議論しておく必 要がある。

5.より有効なリスクコミュニケーションの方 法の確立に向けて、国、地方自治体、マスコ ミ関係者が活発な議論を始める必要がある。

シンポジウム

1.「医療再生の新しい取り組み」

医療再生の新しい取り組みと題して、(1)安 心に包まれた暮らしを自分たちの手で守るため に/石本知恵子地域医療を守る会副会長、(2) 地域医療を守り健康長寿のまちづくりをめざし て/福田政憲NPO 法人のべおか市民力市場理 事事務局長・宮崎県北の地域医療を守る会事務 局長、(3)地域医療を守り育てる住民活動の集 いの経過説明/小松憲一自治医科大学地域医療 学センター地域医療学部門助教、(4)社会が求 める医療のあり方/前野一雄読売新聞東京本社 編集委員、(5)医療学の義務教育導入/永井 秀雄茨城県立中央病院病院長の5 名より各分野 からの発表が行われた。

2.「今、勤務医に求められる“医療連携”とは」

地域医療連携、男性医師、女性医師の連携、 在宅医療の連携についてそれぞれの立場からシ ンポジスト5 名による発表が行われた。

(1)地域医療を守るための取り組み−地域における救急医療−
大田原赤十字病院院長 宮原保之

当院は、平成10 年に救命救急センターを開 設以来、一次救急から三次救急まで取り扱って きたが、臨床研修医制度の影響で医師数が激減 し、救急医療体制の維持が困難となった。その ため、地元医師会や二次救急輪番病院・行政と 協議を経て、平成17 年より二次三次救急に特 化した。新しい機能分担では、地域全体の救急 トリアージ体制を整備した。具体的には、1) 医師会が一次救急患者を受け入れる夜間診療所 (365 日応需可能な救急体制)の開設、2)当院 ベテラン看護師による24 時間365 日受付の電 話相談の実施、3)救急隊による現場トリアージ(疾患別重症度別に搬送先を選定)、4)救命 センターにおけるトリアージナースの対応(直 接来院した患者を疾患別重症度別に確認し処置 先を選定)

これら機能分担の結果による成果として、電 話相談件数は年々増加(H21 年−計8,022 件 (650 件/月))している。相談案件の約7 割は看 護のアドバイスや経過観察指示で受診抑制に繋 がっている。救急車搬送も当院が重症・中等症 とも最も搬送件数が多い。軽症患者が減少した ことで本年からドクターカーを導入することが 出来た。一連の取り組みで、患者数は約7 割減 少したが、収益は約1 割の減少に止まっている。

今後の課題は、救急医療の入口の整備は整い つつあるが、出口の整備にまだ課題が残ってい る。当院でも待機患者数が増加傾向にあり、そ の待機理由は後方病院の空き待ちとなっている。

最後に、地域の救急医療を守るためには、施 設単独では限界があり、医師会や行政の協力、 地元住民までを巻き込んだ地域全体で取り組み や医療連携による医師の団結が重要である。

(2)院内連携:男性医師−女性医師のチーム連携
大阪厚生年金病院産婦人科部長 小川晴幾

現在、若手産婦人科における女医の占める割 合は男性医師の2 倍である。女医の大半は挙児 希望を持っている。その様な背景からマンパワ ーを維持するためには女医を辞めさせない手段 が必須である。

当院では、小学校在学までの子育て中の医 師、看護師ともに勤務時間を短縮する等して、 概ね週30 時間程度働けば正規職員として雇用 している。また、院内保育園利用や職員駐車場 使用許可基準も子育て中の職員が優先されるよ うにしている。当院では、医長からレジデント に至るまで約98 %が子育て支援を受けている。

しかしながら、この様なシステムは男性医師 も子育て中でない女医も含め全てのスタッフが 納得できるものでなければ機能しない。これに は経営陣と現場医療者全スタッフの意識改革が必要となる。子育て支援は永久に続くものでは なく、頑張り屋の子育て女医は将来的には十分 なマンパワーになる気概を持って貰わなければ ならい。全スタッフが各自のワークライフバラ ンスをお互いに理解し、思いやりを持ち、助け 合い、医療を維持することが求められる。

具体的には、1)手術、分娩立会いなど、女 医は5 時を迎えた時点で手を下し、男性医師と 交代する。半ば強制的に行い、後は周りがカバ ーする。2)女医も可能な時は、居残り、オン コール、産直(土曜日の日直など)を行う。3) 男性医師の当直翌日は女医がカバーする。お互 いの助け合いが大事である。以上を徹底するこ とが重要である。また、不平等感を抱かせない 制度づくりも必要である。居残り、当直、オン コール、呼び出し等に対する十分な手当てを支 給する必要がある。

また、当院は産科オープンシステムを活用し て、診療所の医師による当直や手術の応援を受 けながら救急母体搬送を引き受けるなどして、 マンパワーの解消に繋げている。オープンシス テムは勤務医と診療所医師の緊密なる連携が必 要であり、地域連携は極めて重要である。

(3)男女共同参画という連携からはじまる病院環境の整備
自治医科大学腎臓内科教授/
女性医師支援センター副センター長 湯村和子

諸外国では女性の社会進出が先で、その後、 女性医師が増加した経緯がある。しかし、我が 国では、女性が働く社会環境が整っていない状 況で女性医師が増加した。女性医師の増加が、 あたかも医師不足を招いたとしてクローズアッ プされるのは問題である。

現在、医師全体に占める女性医師の割合は 17 %であるが30 歳代未満は30 %以上が女性 医師である。また、70 %が男性医師と結婚し ているとのデータもある。こうした中、若い医 師の働く環境整備が急務である。この問題は女 性医師だけの問題ではない。高齢社会で医師も 高齢化し、若い医師が育たない現状を放置すれ ば、取り返すことが出来ない空白の世代が出 来、医療の質までも低下した医療崩壊が起こり うる。

女性医師の支援は必然的に男女共同参画が必 要であり、環境整備を図るためには、早急な全 体の意識改革が必要である。

具体的には、出産後も働ける環境整備、短期 間であっても短時間などで仕事との両立を図 る。子育ては、男性医師も参画する。復職支援 も重要であるが、就業継続支援で若い医師が働 きやすい環境を目指すことが重要である。意識 改革を病院全体で取り組むためには、1)ワー クショップや講演会の開催、2)他大学病院・ 病院との交流や情報交換、3)預けて仕事をす る事の意識のサポートなど、安心して働ける環 境作りを目指すことは、医師全体の支援にも繋 がる。

日本再生は、女性の活用が成長のカギであ る。これまで女性の能力を無駄にしてきた日本 社会は女性を活用することでまだ成長の余地が ある。

(4)離島診療所が必要とする医療連携沖縄県立中部病院
プライマリケア・総合内科 本村和久

離島診療所医師は、24 時間待機で島から出 ることが出来ず、以前行なったアンケート調査 によると、1)教育・研修機会の確保、2)休暇な ど島外での活動が制約させることに不満を持つ 者が多いことが分かった。これらの問題を解決 すべく、教育・研修機会の確保においては、1) インターネットを用いた医療相談を展開(例: 皮膚科の問題で診療所医師が困れば、患者の皮 膚の所見をデジタルカメラにおさめ、メールで 転送、皮膚科専門医がみてアドバイスを得る)、 2)テレビ会議システムの導入(離島診療所と 基幹病院、保健所等とのネットワークを構築)、 休暇など離島外への活動への対処として、3) 代診医師派遣システムの運営などがある。

また、離島診療所が必要とする医療連携と は、人材育成、教育の重要性が挙げられる。当院は、独自の医師研修システムを持ち、1967 年より938 名の医師を育ててきた。また、「島 医者」養成プログラム修了者を約60 名輩出し ている。沖縄県には16 の県立離島診療所があ り、その殆どが当養成プログラムの修了生(9 割)である。優秀な医師を一本釣りするより も、自ら医師を育てていくことが長い目でみて 医師の安定供給に繋がると考えている。

如何に一人で診療していても周りがしっかり 支えていることが実感できれば人材も育ってい く。人と人が支える医療連携は、1)人材育成 システムの確立とその充実、2)いつでも離島か ら連絡できるサポートシステムの確立、3)離島 からの情報発信が必要であると考えている。

(5)がん治療における在宅医療連携
要町病院副院長/
要町ホームケアクリニック院長 吉澤明孝

がん治療における在宅医療連携では、基幹病 院の先生方に在宅医療の現場を理解いただき、 顔の見える連携が取れなければ、患者のための 連携は難しいと考える。病−診、病−病は一方 通行であってはならない。在宅の医師に返した 時に、緊急対応でなかなか直ぐに入院させてい ただけないのが都会の現状である。それぞれ緩 和ケアにおける病診連携の問題点として、病院 側の問題点は、1)顔が見えない連携、2)介護保 険を熟知していない、3)在宅の現場を知らな い、4)緊急入院が難しい、5)併診が困難、6)家 族ケアが不十分などである。また、診療所側の 問題点は、1)顔が見えない連携、2)緩和ケアの 知識不足、3)緊急対応の連携が不十分、4)24 時間対応の困難、5)併診対応を好まず、6)在宅 処置(CV ポート、EG、腎カテなど)の対応 が困難などである。

在宅医療とは「支える医療」であり、支える 体制づくり(かかりつけ医、訪問看護、介護・ 福祉サービス)をしていかねばならない。在宅 緩和ケアは看取るための医療ではなく、楽しく 生きるための「支える医療」である。楽しく過 ごすためには、不安の除去(症状管理、緊急対 応、24 時間体制、傾聴体制等)が大切である。

まとめとして、在宅緩和ケアのポイントは、 1)傾聴、2)共感、3)手当て、4)ユーモア、 5)緩和ケアはチーム医療、6)在宅では医療連 携が大切である。緩和ケアとは、患者さんと平 等の立場でいのちの輝きを支えるケアである。 在宅医療とは家族と楽しく生活すること「支え る医療」である。

栃木宣言採択

全国医師会勤務医部会連絡協議会の総意とし て、地域医療再生や勤務医の労働環境の改善を 求めた「栃木宣言」が提案されたが、一部文言 の修正を求める意見があり、栃木県医師会並び に日本医師会勤務医委員会で協議し取り纏める ことが了承された。

印象記

城間寛

沖縄県医師会勤務医部会会長
城間 寛

今回、10月9日に栃木県宇都宮市で開催された日本医師会勤務医部会連絡協議会に参加してき ましたので、その中で特に印象深く感じたことを紹介します。

3 年前同協議会が沖縄で開かれた時には小泉政権による医療費抑制政策により地域医療崩壊が顕著になった。また平成16 年以降の研修制度の変更で大学に研修医が集まらなくなり、大学から の派遣で成り立っていた地域の中核病院の中には、大学からの医師の派遣がなくなり診療科の閉 鎖や、病院の閉院まで追い込まれる事態となった。そのために起こる地域医療の混乱が医療バッ シングとなり、全国の勤務医部会でも、医療政策が変わらなければ解決にならないと言う声が高 く上がった。その後、世の風潮あるいはマスコミの対応が、医療バッシングから次第に医療の現 状を理解し擁護する姿勢が見られるようになってきているのが現状ではないだろうか。

今回のシンポジウムの中にも、「医療再生の新しい取り組み」というテーマで地域住民の代表と して「地域医療を守る会」の副会長が住民を挙げて地域の病院に赴任してきた医師たちの労働条 件の改善や、生活のちょっとした手助けをして医師の定着を促す涙ぐましい努力が紹介された。

また、女性医師問題についてのアンケート調査が行われていて、その報告があった。まず、厚 生労働省によると1996 年から10 年間で医師数は3 万3,000 人増加しているがその中で女性医師 の人数は1 万5,000 人で実に45 %に及んでいる。それ故今後、女性医師が仕事を継続していくた めの環境整備は絶対必要なことである。アンケート調査の結果、女性医師が仕事を続けていく上 で必要と思われる制度や仕組み・支援対策を尋ねたところ1)病児保育 2)託児所・保育園などの 整備・拡充 3)宿直・日直の免除 4)時間外勤務の免除など、約20 項目が挙げられていた。これ は各病院とも真剣に向き合わないと医師確保は困難な時代に突入してくるだろう。

今回、特に印象深く拝聴したのは、愛媛大学大学院医療環境情報解析学講座教授石原謙先生の 特別講演であった。石原先生は、大阪大学を卒業後国立大阪病院地域医療研修センターに勤務、 その後同院臨床研究部長、愛媛大学医学部医療情報部教授、その後日本医師会総合政策研究機構 (日医総研)研究部長を歴任された後、愛媛大学の現職に就かれた先生です。

その内容は、1)日本の医療はWorld Health Report で常に最高ランクが続いている。しかも 医療行為あたりの医療費はアメリカの10 分の1 程度で、年間30 兆円余は先進国中の最低GDP 比 であるのに医療費財源問題が常に議論されている。それが問題。2)日本人は生命保険・医療保険 などの私的保険に年間50 兆円もの保険料を払っており、これは世界の保険料の半分を占めるほど である。また私的医療保険も急増している。診療報酬を抑制し続け、混合診療しかないという風 潮を放置すれば、今後企業も家庭も高度医療は私的医療保険での混合診療しかないと洗脳される。 しかし、わが国には高額医療制度があり、私的医療保険は特に必要ないとわかるだろう。3)民間 保険会社が「高度医療を受けるために先進医療特約」などと宣伝して私的保険への加入を勧めて いる。高度先進医療は、すべてを含めても年間100 億円程度だから、真に良い医療であれば公的 医療保険に含めても特に医療財政の圧迫にはならない。などの趣旨の講演を明解な資料を用いて 説明していた。

これまで医師会が混合診療(高度先進医療など含めて)に強く反対していると言う認識であっ たが、この様なデータに基づいた説明をうけると、やはり今の流れのままでは、公的保険が破壊 されかねない事が危惧され、我々医師がこのからくりをよく理解し公的保険を守り、国民を啓蒙 する必要があると感じた。

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