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保険のひろば(6)〜連載一年を振り返って〜

平安明

理事 平安 明

【連載1 年を振り返って】

平成21 年11 月号から隔月で連載を始めて今 回で6 回目になり、ちょうど1 年目を迎えるこ ととなる。政権交代劇に象徴された1 年であっ たが、落ち着くどころかますます混沌としてお り、未だ先が見えない状況に変わりはない。

この「保険のひろば」は個別指導等で指摘さ れることを主に取り上げ、その具体的な内容に ついて解説を行い、日頃の保険診療の一助とし ていただければとの思いで連載を始めた。会員 の先生方からは様々な反響があり、熱心に勉強 されている先生も多い一方で、ほとんど関心を 示さない先生もいる。保険診療の良し悪しは別 にして、現実的に医療機関は指導を受ける事態 が生じうるが、その際に「私は保険診療には興 味ないです。知りません。」という訳にはいか ない。保険医はルールを遵守した上で保険請求 に当たることが求められているが、保険診療の 問題点をしっかりと議論していくためにも、先 生方には保険診療に対して、より一層の関心を 持っていただきたいと思う。

政権交代後、今のところ最も評価できること は、社会保障費毎年2,200 億円の削減を撤廃し たことであろうか。しかしこれは、医療崩壊の 危機的状況を目の当たりにし、さすがにこのま までは大変であると国民目線でも見える状況に なってきたので、政権交代がなくても何らかの 対策を講じざるを得なかったはずで、特別に現 政権の手柄というわけではないであろう。

良くも悪くも様々なことが変化している1 年 であるが、診療報酬に関してはどうであろう か。大病院を中心に入院に関してはかなりのプ ラスがあるようだが、DPC 関連の結果も見な がらもう少し経過を見る必要がある。診療所に 関しては生命線とも言える再診料の減算等非常 に厳しいことに変わりなく、レセプト調査でも それを反映する結果が出てきている。次期改定 では地域医療の再生に不可欠な診療所関連も底 上げしないと、医療の全体像を語ることすら絵 に描いた餅のようになってしまうかもしれない。

一方で、ここのところ、厚生局の指導が厚労 省の指示でより厳しくなる動きが見てとれる。 7 月に行われた厚労省内の政策コンテストで象 徴的な出来事があった。医療関係で2 つの政策 が二次選考に残ったが同一の医療指導管理官に よる「対医療機関に対する指導監査部門の統合 等」「保険医療指導監査部門の充実強化」の2 つで、どちらも医療機関に対する指導監査の強 化を目指すことを趣旨とする内容である。後者 は“指導監査の場に警察官等の犯罪捜査のプロ を活用する”という内容で、さすがにこれは最 終的に表彰対象外となったが、前者は優秀作と して表彰されている。しかし後者も第二次選考 には残ったわけで、指導監査に対する国の考え がチラついて見える。

医療崩壊の再生云々言いながら、一方で複雑 な請求ルールを少しでも満たしていないと「不 正請求が疑われる」として犯罪捜査の手法を導 入しようという考えが出てくること自体理解で きない。

現に行われている指導での指摘事項の大部分 が悪意のない、いわゆる誤請求であることは周 知のとおりである。患者のために行っている診 療を適切な請求であるように指導するという本来の指導の目的から大きくかけ離れた“ルール 違反の取り締まり”であることを露呈したよう なもので、国が医療機関に対しこの程度の考え しかないのなら、我々は今後何を信用して医療 の理念を語り、地域貢献を語っていけばいいの だろうか。政治家、官僚が根本的に考えを変え ないと、今後も罪のない医療機関がスケープゴ ートにされる状況が続いてしまうかもしれない。

請求のミスは正すべきであり、返還もやむを 得ない場合もあろう。しかし、ミスがあったから あるいは医師が記載を忘れたからと言って無診 察等の不正が疑われるなどの指導は問題である。 悪質な不正請求をやっているところとは診療の 姿勢等で全く質が異なる。この選別ができない からといって、犯罪捜査の手法を入れるという ものの考え方自体がおかしい。悪意のない医療 機関に対し萎縮医療を結果として押し付けるよ うな指導の在り方は早急に改善すべきである。

因みに当県においては比較的適切な指導が行 われていると言ってよい。指摘事項や算定要件 を満たさないとされた事項に関しても概ね他の地 域と比べてかけ離れた事案はないようである。し かし全国的にみると厚生局と医師会の関係性が 悪かったり、指導も非常に厳しいものとなったり しているところもある。

そのような中、全国的に標準化する方向で国 は調整中のようであるが、その際にどの程度医 療機関側の意見が反映されるのか。先に述べた 厚労省の政策コンテストのような動きがある以 上、指導の在り方に関しては日医もかなり強力 にアピールしていかないと、善意の医療を行っ ている大方の医療機関にとっては甚だ迷惑な方 向に指導が強化されるのではないかと危惧され るところである。

さて、今回はこの一年で取り上げた項目を整理 し、今後取り上げていくことをまとめてみたい。

【これまで取り上げた事項】

保険のひろば(1)
○未収金対策はされているか。管理簿が作成さ れているか。
○家族・職員の一部負担金を請求しているか。
○保険診療の診療録と保険外診療の診療録(自 由診療、インフルエンザワクチン等)の診療 録とが区別されていない例がある。
○診療録1 〜 3 面が整備されているか。傷病名 等の整理がされているか。
○医師の診察に関する記載が乏しいものがあ る。「薬のみ」の記載だけでは、無診察診療 (医師法第20 条で禁止されている)と誤解さ れかねない。
○実施した検査・画像診断に対する医師の所見 が乏しいもの。
○外来管理加算において医師の聴取事項や診察 所見の要点及び5 分要件の記載がないものが ある。
○特定疾患療養管理料について
○特定薬剤治療管理料(いわゆる血中濃度測 定)について
○薬剤情報提供料について
○診療情報提供料(T)について
○創傷処置等について
○創傷処理について

保険のひろば(2)
○保険診療の流れ
○指導の根拠
○指導の種類

保険のひろば(3)
○保険証の確認が定期的に行われているか。
○職員の健康診断を保険診療として行っていな いか。
○実費徴収分を分かりやすく院内掲示してあ るか。
○請求までの医事業務の確認。
○レセプトの最終チェックは医師(院長、主治 医等)が行っているか。
○外来管理加算について
○処置等
○悪性腫瘍特異物質治療管理料について。
○ビタミン剤の投与は適切か。
○リハビリやデイケア実施前の診察がなされて いるか。
○入院基本料等の算定上の留意点(4 つの事項 が満たされているか)

  • ・入院診療計画書
  • ・院内感染防止対策
  • ・医療安全管理体制
  • ・褥瘡対策

保険のひろば(4)
○平成22 年度診療報酬改定に関して
○外来管理加算について(5 分要件の撤廃)
○明細書発行について(原則義務化、院内掲示)

保険のひろば(5)
○施設基準について
○療担等保険診療上の遵守事項
○保険医療機関に診療報酬が支払われるための 条件
○保険診療の禁止事項

  • ・(無診察治療等の禁止:療担第12 条)
  • ・(特殊療法・研究的診療の禁止:療担第18 条、第19 条、第20 条)
  • ・(健康診断の禁止:療担第20 条)
  • ・(濃厚(過剰)診療の禁止:療担第20 条)
  • ・(特定の保険薬局への患者誘導の禁止:療担第19 条の3)

ランダムに取り上げていて纏まりはないが、 それぞれに重要な内容も含まれているため、必 要に応じてバックナンバーを参照していただけ ると幸いである。また、外来管理加算のよう に、今回の診療報酬改定で内容に変更があった 事項もあるので、最新の情報を参照していただ くようにお願いしたい。

【今後の予定】

これまでは主に全科に共通の項目を取り上げ てきたが、今後各科毎の注意点を取り上げてい く予定である。その際集団的個別指導において 用いられている類型区分に沿って行っていこう と思うので、以下に現在用いられている類型区 分を挙げておく。

(類型区分について)

集団的個別指導では、診療所を11、病院を4 タイプに類型区分し、区分ごとに1 件当たりの レセプト平均点数が各都道府県平均(沖縄なら 沖縄県における平均)と比較し、診療所で1.2 倍、病院で1.1 倍を超える医療機関のうち上位 8 %が対象とされている。この類型区分は以下 の通りである。

診療所 内科(人工透析以外)、内科(人工透 析有)、精神・神経科、小児科、外科、 整形外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人 科、眼科、耳鼻咽喉科

病 院 一般病院、老人病院、精神病院、臨床 研修病院・大学附属病院・特定機能病院

【おわりに】

個別指導は決して特別な医療機関のみが受け るものではない。集団的個別指導は先に述べた 類型区分ごとにレセプト点数が上位8 %に入っ ていれば選定されうるし、その翌年、翌々年も 高点数が続いていれば一般の個別指導に格上げ されてしまうのである。レセプトの点数が高い からといって診療の中身に問題があるわけでは ないことは医療関係者なら皆知っている。むし ろ患者のために質の高い医療を提供するために 頑張っている結果であることが殆どではないだ ろうか。そのような医療機関が結果として個別 指導の場に駆り出され、行政の指導を受け、心 理的にも経済的にもかなりの重圧を受け、指導 の結果によっては指導後もレセプトの動きを監 視され、改善(請求が減ること?)がなければ さらに翌年再指導を受けるといったことが当た り前のように行われている。

指導の理由として行政は「健康保険法等の趣 旨を理解し、適切な保険請求に当たってもらう ため」というが、それであれば医療機関に対し、新規開業時の集団指導をもっと充実させた り、医師会等が主催する保険指導等にもっと協 力したり、などいくらでもやり方はあるはずで ある。ところが現状では国の指導に対する考え 方は“医療機関性悪説”と言ってもおかしくな く、医療機関側もそのような現状を鑑みると必 然的に防衛的にならざるを得ない。一部の医療 機関の不正と同列に扱う傾向を早急に払拭して ほしいと切に思わざるを得ない。

先に述べたように、各都道府県の指導官らは 地域で差はあるものの多くは適切に対処してい るようである。当県においても大きな問題はな い。しかし国の指示の下で動いている以上、萎 縮医療を強いるような不適切な指導強化の方向 に国が指示をしたら、当県でもそのような指導 が行われるかもしれない。何れにしても保険診 療に関して医療機関側の認識が甘いと、結局そ のことに対する指導を通して“保険診療に対す る理解が乏しく、ほっておくと不正な請求につ ながる可能性があるため、今の段階で厳しい指 導を行う意味がある”と行政側に言われても二 の句が継げない。そうならないためにも、医師 会は医療提供団体として自浄作用を機能させて いかなければならないであろう。

今後も各地区、あるいは希望する医療機関等 に対して保険診療に関する勉強会等企画してい く予定だが、各医療機関においても日頃から保 険診療についての研究等積極的に取り組んでい ただき、疑問点・問題点の共有を図っていけれ ばと思う。