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九州ブロック学校保健・学校医大会関連行事

V.第54 回九州ブロック学校保健・学校医大会
  並びに平成22 年度九州学校検診協議会(年次大会)

1.平成22 年度九州学校検診協議会(年次大会)

心臓部門、腎臓部門、小児生活習慣病部門の 3 部門による教育講演が行われた。

心臓部門では、鹿児島大学大学院医歯学総合 研究科小児科学分野准教授の野村裕一先生よ り、「学校心臓検診における川崎病患児スクリ ーニング」と題した講演が行われた。

鹿児島市学校心臓検診として、平成11 年か ら実施している「川崎病問診票」について報告 が行われ、川崎病問診票は学校心臓検診の川崎 病スクリーニングの精度向上に有用であり、鹿 児島市の川崎病問診票を利用した学校心臓検診 における川崎病患児スクリーニングは十分機能 していると言えると説明があった。

腎臓部門では、熊本赤十字病院第一小児科部 長の古瀬昭夫先生より、「学校検尿異常のこど もをどう受けとめるか〜生活管理指導とその問 題点〜」と題した講演が行われた。

九州学校検診協議会腎臓専門委員会では「学 校腎臓病検診マニュアル」を刊行し、最も重要 な「事後措置」の標準化を確立し、事後措置の 主要部分を占める「生活指導管理」は、学校保 健会での新管理指導表の導入により、統一した 基準で尿検査に異常のある児を管理できるよう になったと報告があった。しかし、事後措置 (生活指導管理)で最も問題となる、運動が病 気を有する腎臓にどのような影響を与えるのか といった運動の役割と生活指導管理にどう結び けるかについては、明確なエビデンスがないと 説明があり、生活指導管理と運動の関与等につ いて報告が行われた。

小児生活習慣病部門では、国立病院機構鹿児 島医療センター小児科部長の吉永正夫先生よ り、「小児肥満の現状と介入の費用対効果につ いて」と題した講演が行われた。

鹿児島市医師会で行われている休日の無料の 生活習慣病相談室受診と平日の医療機関(中核 病院)受診という2 つの小児期肥満治療方法の 効果と小児期肥満治療の費用対効果を検討した 結果、小児期への肥満介入の短・中期的効果は 考えられている効果より良好であり、使用され た医療資源よりはるかに高額(約20 倍)の将 来の医療費削減を行うことができると推測され たとの報告があった。

2.第54 回九州ブロック学校保健・学校医大会分科会

眼科部門、耳鼻咽喉科部門、運動器部門の3 部門による教育講演、パネルディスカッション が行われた。

眼科部門では、鹿児島県眼科医会理事の田畑 賀章先生より「鹿児島県の眼科学校保健におけ る色覚検査の現状」について、社会保険中京病 院眼科主任部長の市川一夫先生より「色覚の成 り立ちと色覚異常の見え方」について、帝京大 学医学部眼科学講座主任教授の溝田淳先生より 「小児における視神経疾患」について、それぞ れ講演が行われた。

耳鼻咽喉科部門では、「学童期における鼻呼 吸障害」をメインテーマに、パネルディスカッ ションが行われた。パネリストとして、鹿児島 大学大学院医歯学総合研究科耳鼻咽喉科・頭 頸部外科学教授の黒野祐一先生より「小児アレ ルギー性鼻炎の診断・治療におけるピットフォ ール」について、鹿児島大学大学院医歯学総合 研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科学准教授の松 根彰志先生より「小児の鼻呼吸障害と睡眠時無 呼吸症候群」について、でぐち耳鼻咽喉科院長 の出口浩二先生より「小児睡眠時無呼吸症候群 症例の現場での苦悩」について、それぞれ発表 があった。

運動器部門では、宮崎大学医学部整形外科 学分野教授の帖佐悦男先生より「小児の運動 器疾患と学童期検診―ロコモ(ロコモティブシ ンドローム)対策を含め―」と題した講演が行 われた。

3.九州医師会連合会学校医会評議員会

○報告

佐賀県医師会の徳永剛専務理事より以下の 1)、2) の事項について、鹿児島県医師会の鮫島 秀弥理事より3) の事項について、それぞれ報告 があった。

1) 平成21 年度九州医師会連合会学校医会事業 について

2) 平成21 年度九州医師会連合会学校医会歳入歳出決算について

3) 平成22 年度九州医師会連合会学校医会事業経過について


○議事

鹿児島県医師会の鮫島秀弥理事より説明があ り、下記の通り承認決定された。

1) 第1 号議案

平成22 年度九州医師会連合会学校医会事業 計画に関する件

2) 第2 号議案

平成22 年度九州医師会連合会学校医会負担 金並びに歳入歳出予算に関する件

3) 第3 号議案

第55 回・第56 回九州ブロック学校保健・学 校医大会開催担当県に関する件

協議の結果、第55 回(平成23 年度)は大 分県に決定し、第56 回(平成24 年度)は福 岡県に内定した。

4.九州医師会連合会学校医会総会

午後1 時より「九州医師会連合会学校医会総 会」が開催され、鹿児島県医師会の池田哉会 長、日本医師会の原中勝征会長、鹿児島県の伊 藤祐一郎知事(代理人)より来賓祝辞が述べら れ、大分県医師会の嶋津義久会長より次回担当 県としての挨拶が述べられた。次回は平成23 年8 月7 日(日)全日空ホテルにて開催される。

5.九州ブロック学校保健・学校医大会

「子どもたちの抱える心の悩みと学校医の役 割〜地域の関係機関との連携について〜」をメ インテーマにシンポジウムが行われた。

「保健室登校・不登校の現状(中学校の保健室から)」
   鹿児島市立清水中学校養護教諭 深町富美子先生

文部科学省が先般行った「平成21 年度児童 生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する 調査」によると、小・中学校における不登校児 童生徒数(30 日以上欠席している児童生徒) は122,432 人とされ、平成13 年をピークに高 止まりの状況にあるが、欠席せずに保健室登校 や相談室登校をしている児童生徒はこの中に含 まれておらず、統計では見えてこない不登校も 多くある実態があると説明があり、全国養護教 諭連絡協議会が平成20 年度に行った調査によ り、1 校あたりの保健室登校児童生徒数は、小 学校2.2 人、中学校3.8 人、高等学校3.4 人と いう結果が示されていることが説明された。

また、具体的な事例として3 例が紹介され、 これらの事例等から、学校と学校医との密な連 携が非常に重要であるとの見解が示された。

「スクールカウンセラーの活動状況について」
   鹿児島心理オフィス臨床心理士(スクールカウンセラー) 堂籠やよい氏

スクールカウンセラーは、平成7 年度に文部 省が「スクールカウンセラー活用調査研究委託 事業」として全国154 校にスクールカウンセラ ーを派遣したことを機に、平成18 年度には全 国の小学校1,697 校、中学校7,692 校(全学校 の4 分の3)、高等学校769 校にスクールカウン セラーが派遣されているが、その活動の実態に ついては未だ十分に理解されているとは言い難 い状況にあると説明があり、スクールカウンセ ラーが担う役割等が示された。

スクールカウンセラーは、不登校やいじめ等 の児童生徒の心理カウンセリングや教職員や保 護者へのコンサルテーション、講演や研修等を 通じた学校へのメンタルヘルス教育等の活動を 行っていると報告があり、この10 年程で、児 童生徒向けの個別カウンセリングから、児童生 徒を取り巻く学校コミュニティへの援助といっ たアプローチが多くなったことで、教師からの 相談が増え、スクールカウンセラーと養護教諭 を中心とした学校の連携は軌道に乗ってきつつ あると説明があった。

最後に、これからの連携については、子ども が訴えることを教育・医療・心理の観点でしっ かりとキャッチし、それぞれの専門的手法で子 どもに関わり、情報や対応を一本化することで 分かりやすい支援の流れを作ることが重要であ ると意見された。

「地域ネットワークと学校医の役割」
   まつだこどもクリニック院長 松田幸久先生

京都市学校医会が2005 年に行った調査より、 学校長が抱える一般的な課題として「不登校 (33 %)」、「心の健康(27 %)」と全体の半数以 上をこれらの課題が占めていると報告があり、 学校医へのニーズも、従来の健診のみではな く、心の問題への関わりが重要となってきてい ると説明があった。

しかし、地域の学校医の多くは、内科医や小 児科医であり、必ずしも心の問題を専門として いる訳ではないのが実情であり、学校医自身が 関われないものは責任をもって専門機関に紹介 する等、地域の社会資源を有効に活用できるネ ットワークを予め把握しておくことが重要であ ると意見された。

また、不登校児童生徒がでた場合、学校関係 者(担任、養護教諭、スクールカウンセラー 等)とチームを作って対処にあたり、場合によ っては、地域の医療、教育、福祉等のネットワ ークと協働して対処していくことも必要である と述べられた。

「子どたちの心の健康を支える地域精神保健福祉」
  鹿児島大学教育学部准教授(精神科医) 橋口知先生

地域精神保健福祉は、子どもたちを支える大 切な環境の一つであり、学校精神保健はその中 に位置づけられると説明があり、平成21 年4 月1 日施行の学校保健安全法では「第8 条 学 校においては、児童生徒等の心身の健康に関 し、健康相談を行うものとする」として、学校 で行う「健康相談」に心の問題が明記され、更 に、学校保健安全法施行規則職務執行の準則に おいて、学校医、学校歯科医、学校薬剤師の職 務として、健康相談が法規上明確に規定された ことにより、学校医に子どものメンタルヘルス について医療的な見地から学校を支援すること が求められていると説明があった。

子どもたちは、自分の抱える心の悩みをそれ ぞれの発達段階に応じた方法で表現するため、 言葉にならないもしくはできないメッセージを 様々な症状や行動という形でサインを発してお り、子どものサイン出現の背景には養育者の状 況も含めた生活環境の問題が疑われる場合等、 学校内だけではなく、地域の関係機関との連 携・協働が欠かせなくなってきていると説明が あり、今後、学校医には、子どものメンタルヘ ルスについて医療的な見地から学校を支援する こととともに、学校と地域の医療機関等とのつ なぎ役になる役割も大いに期待されていると意 見された。




印象記

宮里善次

理事 宮里 善次

九州各県医師会学校保健担当理事者会

8 月7 日、鹿児島県の城山観光ホテルにおいて、九州各県医師会学校保健担当理事者会が開催 された。協議事項は二題であった。

一題目は沖縄県の提案で、「未成年者への禁煙指導について」である。

最も積極的に行っているのが佐賀県であった。禁煙指導のシステム作りを県の健康保健課と教 育委員会が推進し、各学校医が指導者となって行っている。その際、指導に使う教材は同一とし、 学校医は事前に講義を受けることで、ばらつきの少ない教育内容となっている。

佐賀県以外の他の県ではそれぞれの地区医師会や学校医ごとの努力に委ねている現状である。

佐賀県と他県との差異はシステム作りを県(健康保健課と教育委員会)が関わるか、関わらな いかの差が大きく、医師会(学校医)は協力機関でしかありえない印象を受けた。また、佐賀県 の担当理事から「喫煙は麻薬を最終とする全ての薬害の入り口である」と云う認識で、禁煙教育 に取り組んでいる旨の発言があったのが印象的であった。

二題目は福岡県から「新型インフルエンザワクチンの再接種について」の提案があったが、在 庫ワクチンの買い上げがされないと云う条件下での提案であったため、議論とはならなかった。

会員の先生方もご存知のように、8 月2 日の国会答弁で在庫ワクチンの買い上げが決定し、9 月 いっぱいで具体策が出される予定である。また、今年のインフルエンザワクチンは10 月1 日から 施行予定であるが、今期のワクチンは新型インフルエンザ一価ワクチンと、従来の季節型二価ワ クチンに新型を加えた三価ワクチンの二種類が製造されている。

厚生労働省は予防接種法の一部改正を行い、上記ワクチンを接種する予定であったが、予防接 種法一部改定は継続審議となったまま、通常国会は閉会となった。現行法ではH1N1 新型インフ ルエンザワクチンは次の新型が発生するまではパンデミックワクチン扱いであり、季節型のよう な二類扱いはできない。そのため、10 月1 日施行の二種類のワクチンはいずれもパンデミックワ クチンとして国が主体となって行うことになる。

8 月下旬に厚生労働省から今期のインフルエンザワクチン接種の通達があったが、現段階では (案)の状態であり、決定事項ではない。日程が詰まっていることや法的な問題、料金設定などク リアーすべき課題が多い。

日本医師会常任理事の石川先生の中央情勢報告を受けて、会場では前回の二の舞にならないか と不安の声も聞かれた。

第54 回九州ブロック学校保健・学校医大会

8 月8 日、「未来を担う子どもたちの心と体 ―見つめ直そう、もう一度―」をメインテーマに、 第54 回九州ブロック学校保健・学校医大会が鹿児島県の城山観光ホテルで開催された。

午前中は1) 心臓部門、腎臓部門、小児生活病部門と、2) 眼科、耳鼻科、運動器部門の二つに 分かれて、それぞれ教育講演が行われた。筆者は1) 心臓部門、腎臓部門、小児生活病部門を拝 聴した。

心臓部門では川崎病でフォローされている症例が増加傾向にあり、現在では先天性心疾患と変 わらないくらいの数で、学校における心臓病としては第1 位を占めていると報告があった。しか し、治療の変遷(アスピリン療法、γ―グロブリン療法等)により、冠状血管後遺症は当初の3 % から0.3 %と顕著な減少を示しており、仮にあったとしても軽症化が著しい。特にγ―グロブリ ン大量療法(2g/kg)がスタンダードな治療法になってから、その傾向が著しいと報告があった。 また、突然死の症例に占める割合で、不全型の割合が高いことから、不全型は軽症ではないとの 認識が必要ではないかとの意見があった。

生活習慣病部門で「小児肥満の現状と介入の費用対効果について」と云う演題で鹿児島医療セ ンター小児科部長:吉永正夫先生の講演があった。バブル期に5 〜 7 歳であったグループの肥満 率が抜きんでて高く、現在の年齢でもその前後の人たちより肥満率が高いと報告があった。また、 小児の軽度肥満のインシュリン抵抗性は大人の重度肥満と同じであり、決して看過できない問題 であると指摘があった。

吉永先生の指導はジュース類以外の食事制限はせず、30 回以上噛む。また、一万歩歩くと云う 方法である。多く噛むことで食欲が抑えられ、食事量が減ると云う化学的根拠なども示された。 治療初期に減量できたケースほど、成功率が高いと報告されていた。治療法としては簡単に思え るが、患児のモチベーションを維持するには、最終的には患児と主治医の信頼関係が大きいよう に感じた講演であった。

また、午後から「子どもたちの抱える心の悩みと学校医の役割〜地域の関係機関との連携につ いて〜」をテーマに、養護教諭、臨床心理士、学校医、精神科医の発表があり、シンポジウムが 行われた。

精神科に相談したいケースで、いきなり精神科に紹介するのは抵抗があるが、保健所を介した 紹介だと、スムースにコンサルトできる旨の提案が精神科医からあった。