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琉球大学医学部附属病院がんセンター長 増田 昌人 先生

増田昌人先生

日頃より、がん医療に対するご指 導・ご協力をいただき、ありがとう ございます。

今後も引き続き、「緩和ケア研修 会」、「がん地域連携クリティカルパ ス事業」、「院内がん登録」及び「地 域がん登録」へのご協力をお願い申 し上げます。

Q1 琉球大学医学部附属病院がんセンター センター長になられて約2 年半が経ちます が、これまでを振り返っての感想と、今後 の抱負についてお聞かせ下さい。

私はがんセンターに異動するまでは、琉大病院 第二内科で造血幹細胞移植を中心とする血液疾 患の診療と教育・臨床研究をしていました。異 動後は、がん対策基本法、がん対策推進基本計 画、厚生労働省健康局長通知を始めとする関連 法規を理解し、国から要求されている案件を琉 大病院ないしは拠点病院、もしくは然るべき県 内の医療施設で実現できるようにお手伝いをす る仕事となりました。非常に多岐にわたる多くの 案件を実現するために、わき目も振らずに走って きたような2 年半でした。慣れない仕事でした が、色々な方に助けられてようやく今日に至りま した。この場を借りて、感謝申し上げます。

今後は、沖縄県が策定したがん対策基本計画 及びアクションプラン等のがんに関連する施策 に関して、既に国が施行したのと同様に中間報 告書を作成すること、計画の見直しをすること の2 点を県に提言していくことと、長期にわた る持続的ながん医療政策実現のために、「沖縄 県がん対策推進基本条例」の制定を強く働きか けていきたいと思います。

Q2 貴センターは、がん診療連携体制の中核 として大変重要な役割を担っていかれると 存じますが、センターの事業内容と今後の 展望をお聞かせ下さい。

当がんセンターには5 つの部門があります。 (1)緩和ケア室(緩和ケアチームによる入院患 者への対応、緩和ケア外来の運営、診断時から の緩和ケアの提供、緩和医療学会ガイドライン の啓発活動)、(2)外来化学療法室(外来にお ける化学療法、化学療法時の悪心嘔吐予防の院 内マニュアル作り)、(3)化学療法レジメン登 録審査管理室(化学療法レジメンの登録、登録 レジメンのエビデンスレベルのチェックと審 査、がん種毎の統一レジメン作り)、(4)院内 がん登録兼拠点病院データ解析室(県内の3 つ の拠点病院のがん登録データの解析)、(5)が ん相談支援室(県民すべてに対する無料よろず 相談)です。また、各種院内研修会の企画運営 を5 部門ごとに行っています。

今後の展望としては、以前から積極的に治験 や、JCOG や研究班での多施設共同臨床試験を 行っていたことを生かして、がんに関する治 験・臨床試験のサポートを行いたいと思いま す。幸い県医師会と沖縄県企画部、そして琉大 病院の三者で「りゅうきゅう臨床研究ネットワ ーク」の構築が進みつつありますので、そのお 手伝いをしたいと思います。

Q3 琉球大学に骨髄移植センターが開設され、 また各科においてもがん診療が行われてい ます。琉球大学のがん診療のレベルアップ の為にはがんセンターが中心になり、各科 の連携と治療部門の統合などが必要と思わ れます。今後の展望についてお考えをお聞 かせ下さい。

骨髄移植センターでは内科小児科の区別なく 移植適応患者を診る予定ですが、他の治療部門 の統合は直ぐにはなかなか難しい状況です。し かし、先ほど申し上げたがんセンターの5 つの 部門(室)自体がいずれも診療科横断的に機能 しています。それぞれ運営のための委員会が組 織され、関係する各診療科・薬剤部・看護部・ 地域連携室・事務部などが関わっています。ま た、室長には関連する診療科の講師から准教授 が就いていますので、これまで以上に連携が取 れてきました。

さらに、今年度内に「キャンサーボード」の 設置を計画しています。これは一人のがん患者 に対して関係する全ての診療科や、いろいろな メディカルスタッフが入って治療方針を決める システムです。単なる診療科同士のカンファラ ンスとは違い、その決定が病院としての決定と なるような委員会になる予定です。

個人的には、がんの診断時から緩和ケアをき ちんと提供すると同時に、高度先進医療のよう な研究的医療を含む最新医療(臨床試験や治験 も含む)や、難治がんや希少がんに対する医療 を提供できることが大学病院としては重要だと 思っています。同種造血幹細胞移植のような確 立された高度医療や、ガイドラインに沿った標 準治療は県立病院等の公的あるいは民間病院で 行うような役割分担が重要ではないでしょうか。

また、D P C データの利用や、いわゆる Quality Indicator を用いることによってがん 医療の質が評価できるようになりつつありま す。これらを導入することにより、より客観的 な評価を自らに課すがん医療のシステム作りが 今後の目標です。

Q4 沖縄県がん診療連携協議会は、増田先生 が中心となって沖縄県5 大がん地域連携クリ ティカルパス事業等様々な事業を展開され ていますが、当協議会の事業概要について お聞かせ下さい。

また、本会会員へ周知し たいことがありましたら、お知らせ下さい。

協議会は国が都道府県がん診療連携拠点病院 に設置を義務付けている組織で、沖縄県と地域 拠点病院である県立中部病院と那覇市立病院、 そして当院の4 者で組織され、年4 回開催して います。県医師会からは会長として宮城信雄先 生、沖縄県政策参与として玉城信光先生に入っ て頂いています。その他にがん患者関係者、県 内外の有識者、医療界を代表する方にも入って いただいて、活発な意見交換をしています。

協議会は下部に7 つの部会を組織していま す。(1)緩和ケア部会(緩和ケア研修会の企 画・実施、緩和ケアチームの増加、緩和ケア外 来の普及等)、(2)がん登録部会(地域がん登 録・院内がん登録を行う施設の増加、登録デー タの解析等)、(3)普及啓発部会(検診啓発、 子宮頸がんワクチンの啓発等)、(4)地域ネッ トワーク部会(各種がんの地域連携クリティカ ルパスの導入等)、(5)相談支援部会(がん相 談支援センターの普及と啓発等)、(6)研修部 会(医師向け早期診断のための研修会やメディ カルスタッフ向け研修会の企画・実施等)、(7) がん政策部会(条例案作成・県への予算案も含 む政策提言等)です。それぞれに10 人から20 人余りの県内(がん政策部会は県外の有識者も 入る)の専門家が揃い、活動を展開していま す。これらの事務局をがんセンターが一括して 行っています。詳細は協議会ホームページ (http://www.okican.jp/)をご覧下さい。

協議会及び部会の実績は、(1)昭和63 年か ら行ってはいるものの、国の定めた方式になっ ていなかった沖縄県地域がん登録を、協議会の 要望書により県が予算を付けて国の標準様式に 改革した(2)沖縄県に対し地域医療再生基金 事業に提言を行い、一部が採用された(3)来 年4 月から国が新規がん患者に無償配布予定の 『がん患者必携』の中の「地域がん情報」の沖 縄県版を先行して作成し、その内容が国の標準 様式に参考にされた(4)5 大がんのクリティ カルパスを先行して作成し、その内容が本年4 月の診療報酬に参考にされたことなどです。

医師会会員の先生方へは3 つのお願いがあり ます。

一つは、拠点病院等が主催する『緩和ケア研 修会』への参加をお願いします。がん対策推進 基本計画(平成19 年6 月閣議決定)により、 がん医療に関わるすべての医師が平成29 年3 月までにこの研修会を修了していることが義務 付けられています。既に10 回(宮古島市、石 垣市でもそれぞれ1 回開催)の研修会が終了し ていますが、今年度は6 回の研修会を企画して います。2 日間合計14 時間の実習主体のプロ グラムで、診療所の先生方にも参加可能なよう に原則として日曜日の開催としています。

二つ目は、本年4 月1 日から沖縄県でも始ま った地域連携クリティカルパス事業への参加を お願いします。これは国が地域がん診療連携拠 点病院に義務付けた事業で、沖縄県では県と県 医師会と当協議会の共催事業となっています。 本年4 月1 日からは診療報酬上の点数も付きま した。専門外の先生方にも対応可能なように、 5 大がん(がん政策では胃・大腸・肝・肺・乳 房を指します)の「非進行期の根治手術終了後 の経過観察のみの症例」から始めました。手上 げ方式で始めています。多くの会員の先生方の ご参加をお願いします。

三つ目は、基本的なデータがあってこそのが ん対策ですので、がん診療に関わるすべての会 員の先生方に、院内がん登録及び地域がん登録 への協力をお願いします。

なお参加方法等の詳細は、協議会ホームペー ジ(http://www.okican.jp/)をご覧下さい。

Q5 沖縄県のがん対策について、今後どうあ るべきか先生のお考えをお聞かせ下さい。

沖縄県のがん対策はまだまだ不十分です。 我々医療者と、行政、そして一般市民も含め 色々な立場の方ががん対策に取り組んでいくこ とが必要だと思います。そのためにも、私たち はがん患者さんや関係諸団体とともに沖縄県 『がん対策推進基本条例』の早期制定を目指し ています。

既にがん条例が制定された10 県では患者/ 患者団体、議会、行政、医療従事者、企業、メ ディア等が一体(六位一体モデル、最近では教 育も含めて七位一体モデルと呼ぶこともある) となって、がん対策を推進し始めています。先 行県の事例をまとめると、条例はがん対策を進 めていく拠り所となり、条例の成立によりがん 対策予算の増額を始め、いろいろな施策(がん 基金の設置、患者サロンの展開、相談事業の患 者団体への委託等)が実現しています。

がん政策部会では、協議会とがんセンターが 主催した過去4 回の『がん対策に関するタウン ミーティング』でがん患者さんを含めた一般市 民の皆さんから頂いた220 余りのご意見を基に して、各患者会の意見と他県で制定済みの条例 を参考に、原案を作成しました。この条例案は 全27 条で、これまでの他県の条例の2 倍の量 です。一般市民の目を大切にした条例案ですの で、この条文に従ってきちんとがん対策を行え ば、素晴らしいがん医療が沖縄県に実現できる と思っています。

6 月の協議会での審議を経た『沖縄県がん対 策推進基本条例(沖縄県がん診療連携協議会 案)』は、7 月に協議会議長(須加原琉大病院 長)から、沖縄県知事と沖縄県議会議長へ早期 制定への要望書を提出しています。現在、私た ちは9 月の県議会でのがん条例制定に向けて、 いろいろな立場の方と協力して活動していると ころです。

さらに、沖縄県はコンパクトな県です。お互 いの顔が見える対策が打ちやすい利点がありま すし、アウトカムに関するデータがとりやすい 有利な面があります。私たちは、「沖縄のがん 対策を近い将来に日本一にしよう、沖縄で私た ちの取り組んでいることが日本のモデルになる ようにしよう」という意気込みで取り組んでい ます。地域情報の沖縄県版が全国標準様式の参 考になり、地域連携クリティカルパスが診療報 酬基準の参考になっていますし、患者必携の配 布やCollaborative staging の日本への導入な どの計画において、いずれも臨床試験も含めて 日本で最初の病院・地域の一つになりそうで す。ごく一部の領域ではありますが、沖縄から 発信できるものができつつあります。対策が遅 れている領域を全国レベルにすることと同時 に、このように沖縄だからできることを見つ け、全国に好事例として発信できるようにして いければと思っています。

Q6 沖縄県医師会に対してのご意見・ご要望 がございましたら、お聞かせください。

平成19 年4 月のがん対策基本法施行後、い わゆる厚労省主導のがん対策が始まりました が、多くの都道府県では拠点病院と医師会との 関係が必ずしもうまくいっていないと聞いてい ます。しかし、沖縄県の場合は、先ほど申し上 げた事業の多くが県医師会理事会でも議論さ れ、共催や後援を頂いています。私は予備代議 員、ふれあい広報委員、グランドデザインを描 く委員を務めさせていただいている関係で、 色々な機会に医師会の役員の先生方にお会いす るので、事業計画の早い段階からご指導やご助 言を頂けたのが良かったと思っています。

宮城会長に院内がん登録制度の件をご説明に 伺ったところ、ご自身の病院で真っ先に導入し て下さいましたし、小渡副会長には精神科医や 臨床心理士のがんへの対応についていろいろと アドバイスを頂きました。がん治療がご専門の 玉城副会長には、個々の問題点について大所高 所からご指導を頂いています。この様に、宮城 会長を始めとして沖縄県医師会の役員の先生方 はprofessional な立場と沖縄県のがん患者さん のためになればという観点から、どの事業に対 しても前向きに取り組んで下さいます。最近、 厚労省関連の会議等で沖縄の現状を話す機会が あるのですが、県医師会との良好な関係や、県 医師会と共催で地域連携クリティカルパス事業 を行っていることを称賛されることが多くあり ます。

しかし、各地区医師会との個別の具体的な連 携となると、私の力不足もあり、まだまだです ので、この点に関してこれからも会員の先生方 のご協力をお願いします。

Q7 最後に日頃の健康法、趣味、座右の銘等 がございましたら、是非お聞かせください。

健康法は特にありません。

趣味は、琉球大学に入学後に茶道クラブに入 部したのがきっかけで、現在まで茶道(裏千 家)を学んでいます。学ぶべきことが多く興味 が尽きないこともありますし、医療分野以外の 方、それも人生の大先輩のお話を伺う機会が得 られることは、仕事にどっぷりと浸かっている 私にとって唯一の社会への窓のような気がしま す。同好会である「沖縄今日会」のことは、以 前に裏千家沖縄支部副支部長の糸数健先生(元 那覇市医師会会長)が本誌にお書きになってい ます(県医師会報2005 年4 月号)が、県医師 会の先輩がいらっしゃるので、私にとっては心 強い限りです。

座右の銘は、「桃李不言下自成蹊」です。

今後とも、医師会会員の先生方のご指導をよ ろしくお願いします。

本日はありがとうございました。

この度は、インタビューへご回答いただき、 誠にありがとうございました。

インタビューアー:広報担当副会長 玉城信光