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「女性医師」から見えるもの

知花なおみ

那覇市立病院 内科 知花 なおみ

女性医師が増えている。今年の医師国家試験 の合格者7,538 人中、女性の合格者は2,499 人 (33.2 %)で、那覇市立病院の初期研修医も24 名中、半分の12 名を女性医師が占めている。 県内の医療施設にも多くの女性医師が働いてい ると思うが、「女性」医師として働いている女 性医師はおそらくいないだろう。

私自身もそんなつもりは毛頭なく、普通の 「医師」として毎日の診療を行なっているのだ が、患者さんも含め、周りの目線はもしかする と違うのかもしれない。例えば髪の毛が少し (?)乱れていたりすると、私の場合は周りの 男性医師から「ちょっとちょっと」と指導を受 けるが、これが他の男性医師だとあまり言われ ていないような気がする。これは、気のせいだ ろうか。他にも、女性なのによく頑張っている ねとか、逆に女性だから、などと言われること もあり、女性医師は身だしなみのみならず、い ろいろな事に気をつかいながら仕事をしなけれ ばならないと感じることがしばしばある。「女 性」医師は医療行為以外にも気を使うのだ。

私が初めてお会いした女性医師は、那覇市に あった吉田小児科の吉田春子先生だ。小さい頃 からすこぶる健康だった私は、病院に行く機会 はそれほど多くなかったが、ある日おたふく風 邪にかかったため、先生のところに連れて行か れた。その頃まだおしゃぶりが抜けていなかっ た私に、先生は「おしゃぶりを止められないな ら指を切ります」とおっしゃられ、その横で平 然と「切ってください」と言っている母と先生 の間くぐり抜け、病院を飛び出し、走って逃げ た久茂地の路上で、後から追いかけてきた看護 婦さんと母に捕まえられたことを今でもよく覚 えている。私の心の中に今も強く残っている吉 田先生は、厳しいながらも愛情にあふれたとて も素晴らしい先生だ。

今年の4 月初め、東京で開かれた日本内科学 会の中で行われたACP(American College of Physicians ;米国内科学会)Women's committee のランチョン・ミーティングに参加する 機会があった。Women's committee のoriginal mission は、「日本の女性内科医がキャリア を積み、社会において活躍・貢献する上での問 題点の整理と解決法をACP 女性会員の立場か ら提言・活動する」というもので、この目標を どの程度達成できたのかを振り返り、今後取り 組むべき課題は何かを話し合うのが、このミー ティングの目的であった。このWomen's committee 、ならびにACP 日本支部の素晴らしい ところは、これまでの3 年間に、日本支部内の 全ての委員会に女性を登用することを目標と し、それを実現してきたことであった。その登 用の仕方は、各委員の募集に対して、会員各自 が自身で応募することでマッチするのである が、どうしても女性が手をあげる事が少なく、 男性の委員が多くなりがちだったのだが、 Women's committee の檜山桂子委員長の力強 い働きで、女性医師が手を挙げるようになり、 この3 年間で全ての委員会に女性委員が入る事 を実現した。

このランチョン・ミーティングの中で、私は 女性医師の問題が何かがわからない、女性医師 の働き方は男性医師と比較するととても多様で、出産、育児に焦点 をあてるのか、それと もキャリア形成につい て焦点をあてるのか、 バリエーションが多く、 どれを問題としたらい いのかわからないとい うことを発言した。こ れに対して、フロアか らは「個々の問題では なく、もっと基本的な ことに目をむけるべき だ」という意見がでた。 日本支部長である黒川 清先生からは、トヨタ、 キャノンなど日本の大 手企業でも女性取締役 がいないこと、OECD のデータでも日本企業に おける女性の登用率はとても低く、女性医師の 問題以前の問題だという発言もいただいた。ま た亀田総合病院のグレミリオン先生からは、 ACP では「メンター制」を取っていて、性別 を問わず、もし何か困ったとき、迷ったとき に、ACP に同じような問題を経験したメンタ ーが必要であることをメールなどで連絡する と、登録されている適当な先生をメンターとし て紹介してくれるとのシステムを教えていただ いた。この他にも、リーダーシップについての 講習会や、女性医師ならではのメリットをもっ とエビデンスを持って発信することを提案する など様々な意見がでて、1 時間のミーティング は終了した。

さらに今回の日本内科学会の中では、専門医 部会から女性医師に関するワーキンググループ の発表があった。この発表で、「女性医師のキ ャリアを阻むものは何か」との問いについて、 男性と有意差のでたものに「妊娠、育児、介 護」以外に、「ロールモデルの不足」、「上司か らの低い期待」、「正当に評価されないこと」な どが指摘された(スライド1))。「ロールモデル の不足」に関しては、キャリアを重ねてきた医 師として私自身も反省し、改善できる範囲で改 善を目指すべきだと思ったが、「上司からの低 い期待」や「評価」については、さらに周囲の 人を巻き込んだ議論が必要だと思う。冒頭で触 れたとおり、実際の現場では、「女性」医師と して働いている女性医師はほとんどおらず、性 差にかかわらず一人の「医師」として働いてい る。しかし本当に女性医師を「女性」医師とし て見ていないだろうか。私自身も含め、女性医 師に対して他の男性医師と同じように期待して いるか、正当な評価をしているか、ということ を再考する必要があるし、また、他方で「男 性」医師に対して、「女性」医師と比較すると より過剰な期待と負担を負わせていないか、と いったことなどを振り返って考える必要があ る、と気づかされる機会でもあった。

上記の内科学会の他にも、4 月末に、京都で 行われた呼吸器学会に参加した。すると、ここ でも学会初の試みである将来計画委員会企画の 「女性が呼吸器病学を志し、継続するには?」 という特別企画が開催された。そのシンポジウ ムでは、総合病院の院長をされている女性医師 から、彼女の病院で「クオータ制」を取り入れ ているという発表を聞いた。「クオータ制」とは、政策決定機関での男女間の格差を積極的に 是正するための方策のことを指し、「割り当て 制」とも呼ばれるもので、男女比に偏りがない よう人数枠を制度として割り当てる方策で、人 事に関する男女比を均等にする制度だ。前述の ACP 日本支部では、すべての委員会に女性を 登用することを実現したわけであるが、これに 対して、先日トロントで行われたACP 本会は、 日本支部のWomen's committee が「各委員会 での多様性をもたらしたこと、女性会員を1.4 倍に増やしたこと」に対して、Evergreen Award を授与した。

スライド1)

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出典:日本内科学会専門医部会 女性医師に関するワーキンググループ

沖縄県医師会の女性医師部会の活動は積極的 で、メーリングリストも作成されており、シン ポジウムや勉強会も多く開催されているが、女 性医師の働きをより効率的、機能的にするため には、女性医師部会の活発な活動だけでは十分 でなく、やはり男性医師、そして管理者の協 力、援助といった多方面からの協力がなければ 実現しない。前述した内科学会での専門医部会 の報告では、内科学会の女性の登用が他の学会 と比較して、著しく低いことが報告されている (スライド2))。同じ内科学会員が所属している のに、日本内科学会とACP 日本支部(注; ACP 日本支部は内科専門医に入会する資格が ある)でこれだけ女性の登用が異なるのは、恐 らくトップの考えが異なり、そこに女性を受け 入れる土壌、文化の醸成に違いがあるからなの だろう。

これから団塊の世代が老齢期に入るにあたっ て、患者数はますます増加し、医師不足がさら に深刻になると言われているが、ここ沖縄でも 離島医師不足、小児科医、産婦人科医不足など といった「医師不足」問題は以前から取り沙汰 されており、勤務医の過剰な労働時間とあいま って大きな問題となっている。このような状況 の中で、女性医師の増加は、私たち医師がこれ まであまり考えてこなかった「働き方」、「多様 性」、「ワークライフバランス」を考える良いき っかけになるのではないだろうか。これからも 男性、女性ともにお互い助け合いながら、それ ぞれのステージに合った働き方ができるよう、 それぞれの多様性を受け入れ、働き方に柔軟性 を持たせることによって、個々のパフォーマン スを最大限に発揮、活用できるようになれば、 相乗効果でさらに良い働きができると思う。病 院内で、女性医師という立場から見えることは 多い。そして、その多くはこれからの時代を見 据えて、取り組んでい かなければならない課 題ばかりだと思う。後 進の医師たちの働く環 境を考えると、必要と されるロールモデルの 役割を少しでも果たす ことができるようにな るために、今後は性差 を超えたコミュニケー ションと協力体制を重 視して、数年先を見据 えた制度の構築、実施 について、真剣に考え る必要があると思う。

スライド2)

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出典:日本内科学会専門医部会 女性医師に関するワーキンググループ