理事 平安 明
【はじめに】
平成22 年度の診療報酬改定は診療所関係に とって厳しい結果となったことは周知の通りで ある。
地域医療貢献加算は算定要件がいまだに曖昧 な部分が多く、実務レベルで非常に困惑してい る。この加算については賛否両論様々な意見が 各支部から出されているが、当県医師会として は5 月20 日に行われた地区医師会長会議にお いて地域医療貢献加算が出てきた経緯について 説明した上で、算定要件上も根本的な理念とし てもかなり問題が多いものであることから、会 員医療機関に対して積極的に薦める立場はとら ず、今後の動向を注視し慎重に対応してほしい 旨を報告した。(本誌21 〜 25 ページに地区医 師会長会議報告掲載)
また、入院中の患者の他院受診についても 様々な混乱が生じており、患者にとって適切な 医療の提供や医療機関間の連携に支障が生じて いる。これについては、5 月22 日付で九医連か ら要望書を日医に出すなど行動を起こしてお り、今後の対応が注目されるところである。こ れらの問題についてはまた別に取り上げて状況 の報告等をしていきたいと思う。
さて、今回は施設基準の考え方や保険医療機 関及び保険医療養担当規則(以下、療担)をは じめ保険診療上遵守すべき事項について述べて みたい。療担違反(ex.特定の薬局への誘導等) は意図せず行ったとしても厳しい指導に結び付 くことがあり、医療機関においては保険診療上 の基本的ルールとして十分に把握し、問題がな いように対応してほしい。
【施設基準について】
診療報酬の請求にあっては施設基準が求めら れているものが多い。施設基準が必要なものに ついては、定められた様式で九州厚生局沖縄事 務所に届け出、受理された後に請求が可能にな る。施設基準が必要なものを全て解説すること は無理なので、ここでは注意すべき基本的考え 方について確認しておきたい。
施設基準は平成6 年までは「許認可制」であ ったが、それ以降は「届出制」となっており、 基準を満たしているかどうかは医療機関が当然 把握した上で申請されているものとして扱われ ている。届け出た内容が確実に基準を満たして いるかどうかは医療機関の責任ということであ る。従って、施設基準調査等で“基準を満たし ていない”と指摘された場合、「最初の申請の 時に何も言われなかったのに今頃言うのは納得 いかない」と訴えても当局には通らない。明ら かに書類上不備がある場合は当局も受理できな いため指摘してくるが、施設基準の届け出に際 しては、当局が何も言わなかったから大丈夫、 と安心してはならない。
各医療機関にあっては、診療報酬改定などで 新たに(あるいは改めて)届け出が必要となっ た事項はもちろんのこと、そうでない事項に関 しても定期的に施設基準を満たしているかどう か再確認することが望ましいと思われる。ま た、新たに申請する場合は疑問点を自己解釈す るのではなく、できるだけ当局に直接確認の 上、届け出を行ったほうが無難であろう。
診療報酬の算定要件同様、施設基準に関して も解釈の問題で疑義が生じることは多い。厄介 なことに、各県で解釈が異なる場合もある。そ もそもそういうことがあってはいけないはずな のだが、かといって必ずしも厚労省が取り纏め て見解を示しているわけではない。そのような グレーゾーン的な部分の解釈で(しかも担当者 レベルで差があれば尚更)医療機関に不利益が 生じることがあってはならないが、万が一その ようなことで難儀をすることがあればご一報い ただきたい。
−保険医療養担当規則からみた保険医療−
【療担等保険診療上の遵守事項】
療担規則は、保険医療機関として遵守しなけ ればならない事項として昭和32 年に厚生省令 第15 号として発出されたものだが、診療報酬 改定に合わせて追加等が行われている。青本に 最新版の療担が載っているので一度は目を通し ていただきたい。先の施設基準に関することも 療担の中で「適正な手続きの確保」として述べ られており、青本以前の保険診療の基本的ルー ルとして非常に重要なものとして位置づけられ ている。
○保険医療機関に診療報酬が支払われるため の条件
保険医療機関に診療報酬が支払われるために は、「保険医が」「保険医療機関において」「健 康保険法、医師法、薬事法等の各種関係法令を 遵守し」「療担の規定を遵守し」「医学的に妥当 適切な診療を行い」「診療報酬点数表に定めら れた通りに請求を行っている」ことが条件とな っている。
これらを全て満たした場合に請求できること となっているのだが、現在の医学教育現場では このことをほとんど教えていないといってよ い。研修医のほとんどは保険医療の制度や診療 報酬の算定要件を知らずに臨床研修を行ってい ると思われる。通常、病院の中で何らかの役職 に就くか自身が開業する際に、改めて保険診療 の重要性を認識するという医師も多いのではな いだろうか。保険診療の妥当性はどうあれ、実 際問題として日本(の保険医療機関等)で医療 を行っている以上、保険請求のルールを無視す ることはできない。医者が純粋に医療に専念で きる環境は理想かもしれないが、保険診療上は 医師は診療報酬の責任を担うべき立場にあるこ とをもっと認識し、事務任せで何も知らないと いうことがあってはならない。
○保険診療の禁止事項(無診察治療等の禁止:療担第12 条)
無診察治療は保険診療上不適切なだけでな く、医師法第20 条にも抵触することであり、 極めて不適切な行為として受けとめられる。日 頃適切な診察が行われているとしても、カルテ に全く記載がない等、診察したことが後で確認 できない状況だと指導の際にあたかも無診察治 療をしてはいないかと疑われることになりかね ないので気をつけてほしい。
定期的に通院する患者に対し診察を行わず処 方箋のみを交付する、医師の診察を受けずにリ ハビリやデイケアを行い再診料の請求がある、 といったことも無診察治療を疑われることにな るため、十分に注意してほしい。
(特殊療法・研究的診療の禁止:療担第18 条、 第19 条、第20 条)
「特殊な療法または新しい療法」の実施、 「厚生労働大臣の定める医薬品以外の薬物」の 使用、「研究の目的」による検査の実施などは 保険診療上認められていない。
簡単に言うと、診療報酬点数表で請求が認め られているもの以外は保険診療として請求して はならないということである。
例外として、先進医療として保険診療上認め られているものや、治験による薬剤の投与等は 認められることがある。但し、その場合も必要 な手続きがなされ、当局に届け出ていることが 要件として必要である。
また、通常診療の中で診断や治療経過を確認 するために様々な検査を行うが、検査結果につ いての記載がカルテ上にない場合、患者の疾患に対する医療の一環として行ったということが確 認できない、として個別指導では診療報酬の返 還を命じられることがあるので注意してほしい。
(健康診断の禁止:療担第20 条)
以前もこのコーナーで述べたが、健康診断は 保険診療として行ってはならない。間違って も、保険病名をつけて健康診断を保険請求して はならない。レセプト審査では指摘されなくて も、個別指導でカルテとレセプトを突合すれば ほぼ一目瞭然であるので、厳しい指導を受ける ことになる。
(濃厚(過剰)診療の禁止:療担第20 条)
検査、投薬、注射、手術、処置等は、診療上 の必要性を十分考慮した上で、段階を踏んだ上 で必要最低限に行うこととされている。
このあたりは、国や保険者ら支払い側と医療 機関等診療側ではどうしても意見が対立する部 分であろう。患者のその時その時の状態で何を 優先して行うか、青本に照らし合わせてその通 りというわけにいかないことは医療関係者なら 常識的に通じる話である。しかし、支払い側は その理屈がなかなか通らない。何とか両者が納 得いくように、社保・国保で「この検査は何回 までOK」とか「この疾患にはこの薬は何錠ま では認める」といった審査基準を取り決めたり しているわけだが、全てを網羅しているわけで もなく支部間の差異があったり、実際悩ましい 部分である。
基本的に当県の場合、医師会発行の「保険診 療の留意事項」の事項は尊重してもらっている ようなので、そこに記載している部分について は判断の基準として利用していただきたい。あ まりにも画一的な検査等は指導という前に、ま ずレセプト審査の段階で文書連絡や査定がある かと思われるので、そのような場合は適切に対 応していただきたい。
(特定の保険薬局への患者誘導の禁止:療担第 19 条の3)
患者に対しては、特定の保険薬局に誘導する ことは禁止されている。院内で掲示することは もちろん、特定の関係がなければ通用しないは ずの約束処方等も誤解されかねないので注意し ていただきたい。
【おわりに】
普天間問題をはじめ、その政治手腕には致命 的ともいえる問題があることを露呈した鳩山内 閣だが、難しい問題が山積している医療問題に ついてこれから良い方向に持っていけるのか、 甚だ不安になってきている今日この頃である。 原中会長をはじめとする日医執行部は真摯に医 療再生のために頑張っているようだが、参院選 を前にして奇妙な気遣いをせざるを得ない状況 で、選挙結果次第ではまたまた医療政策が迷走 することにならないか気になるところだ。保険 診療は少なからず政治の影響を受けているた め、我々は政局の行方に無関心ではいられない が、大物政治家の顔色を見ながら政策提案して いる現状をみると、しばらくは偏った医療政策 に振り回されるのではないかと考えてしまうの は自分だけであろうか。
九州厚生局によると、今年度から、初めて保 険医登録を行う医師も集団指導の対象にすると のことである。即ち、新規開業医療機関に加え 初期臨床研修医も集団指導の対象になるという ことだが、先に述べたとおり医学教育の中では ほとんど保険診療について教わることがないた め、これは悪くはないと思う。何故かという と、保険診療のルールを知らないためにきちん と医療を行っているのにもかかわらず指導で大 きなペナルティーを科せられたり、不正な請求 であると判断され保険医療機関の取り消し処分 となったりすることが現に起こっているからで ある。
医療を患者に提供し、その対価として診療報 酬を請求する場合、医師がどんなに立派なことを言おうが、請求のルールを満たしていなけれ ば、それは請求できないことになっている。も しレセプト審査で請求が通ったとしても、個別 指導になった場合カルテとレセプトの突合で要 件を満たしていないと判断されれば診療報酬を 返しなさいと命令されるのである。
研修医の集団指導の参加については、管理型 病院の理解と協力が得られるように、明確な法 的根拠を示してもらうと共に日程等を参加しや すいものにするよう九州厚生局沖縄事務所には 申し入れているところだが、この原稿が会報に 載る頃には明確になっていると思われる。(ま だでしたらごめんなさい)
開業されている先生方の多くは保険診療の重 要性は認識されているが、総合病院等では一部 の医師以外はさほど重要なこととして認識して いない先生方もいるようである。現在勤務医と して医療に専念されている先生方も自身が開業 するといきなり保険診療の洗礼を受ける。その ときになって慌てたり、後々大きなしっぺを食 らったりしないためにも、是非とも保険診療に ついて関心を持っていただきたいと思う。
(追記)この原稿の締め切りは6 月1 日であっ たが、6 月2 日に急遽鳩山首相が辞任を表明し た。小沢幹事長も辞任することになり、結果的 には小鳩内閣は8 ヶ月という短命に終わった。 原稿締め切りから会報の発行まで2 ヶ月足らず だが、その期間すら先が読めない政局の混迷で ある。
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例)1948年1月9日生の場合、「480109」となります。