長嶺胃腸科内科外科医院 長嶺 信夫
1.はじめに
2009 年11 月4 日から6 日まで、ダライ・ラ マ法王14 世を沖縄にお招きすることができた。
法王は空港から直接訪れた魂魄の塔の前で祈 りを捧げたあと、沖縄菩提樹苑を訪問、海外メ ディアを含むマスコミを前に、沖縄における最 初のスピーチをなされた。
多くの感銘をうけた法王滞在中のスピーチの中 から、心に残るスピーチを紹介することにする。
2.菩提樹の前で法王は、
「今回、はじめて沖縄を訪問させていただい たのですが、沖縄の地に降り立って強く感じた ことは、沖縄の地は戦争で亡くなられた方々に 対する祈りが息づいているということです」と 話した後、悲惨な戦争に言及し、相手を思いや る「愛と慈悲のこころ」を高めることと「問題 を解決するためには、平和的な手段を用いるこ とによって、解決していくべきである。その方 法、手段は何かというとそれが対話である」と 対話の重要性を強調し、異なった哲学的見解を もった宗教間の親密な交流と、共に努力してい く必要性を強調した(写真1、2)。
写真1.沖縄菩提樹苑における記者会見の模様。
写真2.沖縄菩提樹苑における記念植樹。福木を植樹した。
そして「この世界は1 人の体のようなもので ある。隣人は自分の体の一部であると考えなけ ればならない。自分自身の繁栄は隣人の繁栄に よってもたらされる。隣の人を破壊することは 自分自身を破滅にいたらしめることになる」と。
また、記者の質問に
「祈るということは、何らかの効果をもたら すということはあるが、祈るだけで平和をもたら すことはできない。単に平和を望むというだけで 平和を達成することはできない。私達自身の努 力が必要である」「ただ寝転んで何もしないで平 和がくればいいと願っているだけでは平和は実 現しない」とジェスチャーを交えながら微笑を絶 やすことなく答えていた。まわりにはボランティ アを含む大勢の人達がつめかけ、法王のことば に熱心に耳をかたむけていた。なかには感極ま って涙ぐむ女性の姿もみられた(写真3)。
法王の後方には、2003 年にインド大菩提協 会から沖縄県民に贈呈されたブッダ(釈迦)ゆかりの聖なる菩提樹が葉音をたて、小鳥のさえ ずりが聞こえていた。
写真3.ダライ・ラマ法王のスピーチを聞くボランティアの皆さん。
3.法王のメッセージ
記者会見の前に色紙にメッセージを記してい ただいた。
「あらゆる事実を考察し、智恵と思いやりを もって取り組むならば、暴力に頼らずとも地球 上の全ての問題を解決することができます。こ の世界に平和と調和があまねく広まりますよう 祈念しています。2009 年11 月4 日 仏教僧 ダライ・ラマ」(写真4)
写真4.ダライ・ラマ法王直筆のメッセージ色紙。
4.日本の国こそ平和運動の先頭に!
翌日、「平和の礎」を訪問した法王は、敵味 方の区別なく戦没者の名前が刻銘された石碑に 深く感動するとともに、平和を希求する沖縄県 民へのメッセージの最後に
「皆様の国は、世界の中で唯一原爆を体験され た国である。そのような体験に基づいて、原爆 という恐ろしいものが、いかに私達人間にひどい苦しみをもたらすか本当に実態をもって味わ ったわけです。お互いに殺戮をおこなうことは、 してはいけないことを学ばれたわけですから、 皆様方、日本の国こそ、世界の中で平和運動を 先頭にたって指導する立場にある方々である。
私達人間の苦しみをなくす実際の平和運動を 日本の方々がますます高めていかれることを心 から願っています」と語られた(写真5)。
写真5.平和の礎訪問時のダライ・ラマ法王。
「平和と慈悲のこころ」と題した県立武道館 での講演(写真6)を含め、3 日間にわたり法 王猊下を案内する中で、法王に強い親しみを感 じるとともに、世界中の方々が敬愛するその人 柄にあらためて尊敬の念をいだいた(写真7)。
写真6.3,500 人の聴衆を集めた県立武道館における特別講演。
写真7.ダライ・ラマ法王およびダライ・ラマ法王日本代表部事務所のラクパ・ツォコ代表および筆者。
ダライ・ラマ法王の沖縄招聘に際し、御支 援・御協力をいただきましたダライ・ラマ法王 日本代表部事務所ラクパ・ツォコ代表をはじめ 多くの皆様にあらためて感謝を申しあげます。 有難うございました(戦後65 年目の慰霊の日 を前に)。