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内科初期研修医と指導医の徒然

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター内科
仲里 信彦

臨床医の世界では、まだまだ若手といわれ、 自分自身でもそう思っている。しかし、年齢的 には他のプロフェッショナリズムの世界ではど うだろうか?“角界においては、すでに引退 し、親方になっている人もいるレベル。プロ野 球界でもすでにいぶし銀から引退し、コーチに なっている。”状況であろうか? 私が指導い ただいた指導医の一部は、すでに引退され、私 自身も初期研修医時代に出会った指導医の年齢 に達してしまった!初期研修医との出会いを繰 り返しているが、そのたびに自分の初期研修医 時代のことが、まだまだ、最近のように目に浮 かぶ。かつての指導医もそうだったのだろうか と考えが巡る。しかし、ここ最近の回診時に、 経験・体験談をEBM の前に言い出してしまう 事が、精神的には老いてきたといわれ、研修医 に対して注文が多くなってくるのは自身の初期 研修医時代を忘れかけている証拠ともいわれ る。その点を、時々、反省をしている。

現在、私が属している科が総合内科というこ ともあり、ダイナミックな検査手技を自ら行う ことは少ない。実際、研修医指導の場面のほと んどは、入院患者のプレゼンテーションを受 け、そのアセスメント・プランを確認する事や 患者回診の場面で、病歴を再聴取したり、身体 所見を一緒に取り直すことに費やしている。初 期研修ローテーションの中で、内科研修が最も 期間が長いというのは、なぜだろうか?単に成 人人口が多く、高齢が多いと言うだけではな い。内科研修においては、どの科に進もうとも 必要とされる“診断能力”を獲得するための基 礎の期間と考えたい。病気の診断のための各種 検査方法や検査項目を覚えるのが中心ではな く、医師が患者から病歴を聴取して、身体診察 をする過程の中で診断を進める事を学ぶ場であ ろう。学生時代に数学を学んだ理由に似てい る。私が所属しているような市中病院に初期研 修を望んできた研修医からも“検査診断学を学 びたいのではなく、患者診察の中からの診断能 力を獲得したい”と口々に言う。これをつぶさ ないように私たち指導医の努力が必要である。

診断能力の獲得のために、主訴・年齢・性別 からある程度の診断を思い浮かべて、病歴聴取 の際にはopen-ended question だけではなく、 思い浮かべた診断を元にclosed question を付 け加える。鑑別診断は、主訴や病歴聴取から浮 かべたものだけではない。一連の全身の身体診 察に加え、鑑別診断を思い浮かべながら取った 特異的な身体診察の情報から、再度病歴に立ち 返り、追加の問診を行う。これらの繰り返す作 業から鑑別診断をさらに絞り込んだり、追加す ることが可能となり、より正確な方向性が見い だせるだろう。ただし、最も可能性の高い疾患 のみではなく、必ず対立した鑑別診断も挙げる 努力を惜しまないことを初期研修の際に忘れて はいけない。患者を直接診察しないカンファレ ンスの時のように、単に鑑別疾患を分類し、数 多く挙げる方法ではなく、これらは効率よく正 確に診断を進めるための方法である。しかし、 そのためには幅広い患者さんを数多く診る経験 がなければ、なかなかうまくいかないという矛 盾はある。だからこそ、そのための指導医が存 在するのではないだろうか? そこで、指導医 は、方法論のみを伝えるのではなく、その経験をうまく伝えるために、常にベッドサイドに立 ち寄り、自ら実践する態度を見せる必要があ る。そこで、指導医は、患者を診察した際に専 門外として切り捨てる部分をなるべく少なく し、可能な範囲で“問題解決型の学習態度”を 繰り返す姿勢を示すべきだろう。救急外来のみ では、いわゆる患者さんが“一見さん”となっ てしまい、研修医が初療医としてたてた診断・ 評価が正しかったかどうか疑問も少し残る。入 院患者を中心に初療医は、患者の診断・治療に 伴うストレスを感じながら経験するとより効果 的ではないかと考える。それに加える形で、外 来患者の疾患の違いやそれへの対応を行えれば さらに良いと考える。

“学ぶ仕方”は、現に“学んでいる”人から こそより学べる。教える立場にあるもの自身 が、“学びの当事者”であることが必要といわ れている。指導医自身をもって“学ぶ”とはど ういう事かを示す(ベッドサイドに立ち寄る) ことが、最も研修医へ伝えることだろうと考え る。これまで、初期研修医時代からお世話にな ったかつての指導医がそうであった。ネタバレ してすみませんが、映画“ディアドクター”の 偽医者ですら、患者をケアする際に必死になっ て学び、それを見た彼の元にいた研修医が“医 師たる態度”を学んだ場面があった。初期研修 医も“医療に対する真摯な態度を示す指導医” を見分けられなければ、いつまでも“青い鳥症 候群”や“隣の芝生は青い”状態に陥ってしま い、自分の居場所を探し続けてしまう。

最後に、映画“STAR WARS”のオビ= ワ ン・ケノービはメンターとなる師クワイ= ガ ン・ジンと出会い、マスター・ジェダイとして 大成した。途中でメンターを見誤ったアナキン はダークサイドへ落ちた。指導医自身も目標と した(目標としている)メンターとなる医師像 があるはずであり、それがなければ、初期研修 医へ指導することは困難であろう。初期研修医 の方々も我々も、メンターを誤り、ダークサイ ドへ落ちないようお互いがんばりましょう!!