沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 6月号

地域医療再生計画
〜クリニカルシミュレーションセンターについて〜

  • 日 時 平成22 年3 月3 日(水)19 : 00 〜
  • 場 所 沖縄県医師会館 会議室

出席者

司会:玉城 信光(沖縄県医師会副会長)

発言者:大屋 祐輔(琉球大学医学部第三内科教授・専門研修センター副センター長)
       宮里 達也(沖縄県福祉保健部保健衛生統括監)
       城間  寛(豊見城中央病院副院長・臨床研修管理委員長)
       遠藤 和郎(沖縄県立中部病院内科部長)
       尾原 晴雄(沖縄県立中部病院)

広報担当理事:當銘 正彦(沖縄県医師会理事)

沖縄県医師会副会長 玉城 信光

玉城信光

シミュレーションセ ンターが沖縄にできま す。シミュレーション とは何でしょうか。飛 行機のパイロットは実 際に飛行機を操縦する 前にシミュレーターと いう模擬飛行機で飛行 訓練をするのです。私の同級生のパイロットに よるとシミュレーターを使い、飛行中に落雷が あった時にどのように対処するのかなど模擬訓 練を繰り返し体で覚えていくようです。医療に 関するシミュレーションセンターをつくると話 したら大変良いことだといっておりました。

昨年の5 月頃、救急医療の確保、医師確保な ど疲弊した地域医療の課題を解決するために、 国が各県に100 億ないしは60 億円の基金を設 ける話しが出てきました。宮里統括監の呼びか けで6 月に「沖縄県地域医療再生計画連絡会議 (仮称)関係者会合」がもたれました。琉球大 学、県立病院、群星群、福祉保健部、病院事業 局などに呼びかけ私を含め10 名で会議をもち ました。

北部地区の医師不足、離島医療における医師 確保などが話される中から、これらを担保する ためには研修制度の充実が必要であるとの結論 になりました。そのためにシミュレーションセ ンターをつくろうと意見がだされたのです。シ ミュレーターを使い臨床研修の質をあげようと いうことです。センターの中に救急外来を作る のです。医師、看護師などが協力して急患を治 療する模擬空間を作るということです。ベッ ド、救急セット、輸液も準備されます。内視鏡 手術のトレーニングもできます。医師の再就業 研修や看護師の研修、一般の方のAED や心肺 蘇生の研修もできるでしょう。

この様に大変楽しく役に立つ模擬病院を作る という発想は沖縄以外にはありません。沖縄の 医療人は昨年のインフルエンザの連携に見られ る様に仲が良く、権威主義はないのです。皆で 一緒にシミュレーションセンターを作ろうとい う意気込みが良いのです。このセンターから新 しい医療と新しい産業が生まれると思います。 座談会の皆様の熱い心を汲み取ってください。

座談会「地域医療再生計画 〜クリニカルシミュレーションセンターについて〜」

○當銘

當銘

本日は、「地域医療再 生計画〜クリニカルシ ミュレーションセンター について〜」というタイ トルで座談会を企画し ましたところ、お忙しい 中ご参加いただきまして ありがとうございます。

この地域医療再生計画につきましては、医 療崩壊が叫ばれる中で、夢膨らむ思いで注目 されたのですが、一時、民主党に政権が変わ って事業仕分けの過程で無くなってしまうの ではないかとの懸念もありました。少し予算規 模が縮小はしましたが、何とか生き残って25 億円の各県2 本ずつということに決まりまし た。沖縄県として、琉大を中心に考えており ましたクリニカルシミュレーションセンターが 現実的なものになり、具体的な計画が立てら れる状態になったということで、医師会のほうでもぜひこれを座談会として取り上げようとい うことで、本日の企画となりました。よろしく お願いします。

それでは、玉城信光先生の司会で座談会を 進めて頂きたいと思います。よろしくお願いし ます。

○司会(玉城) 當銘先生からお話があった とおり、県医師会の理事会で何度もあげられ、 半年程前から話は出ています。やっと予算も通 り方向性がはっきりしたので、今回、座談会を 開いて、クリニカルシミュレーションセンター が沖縄県にどのように寄与するのか。また、医 療人にどのように寄与していくかということを 含めて、皆さんから意見を拝聴し、会報に載せ てみんなに周知していきたいと思います。

まず、地域医療再生基金という話が出てき て、その中でなぜこういうシミュレーションセ ンターという話になったのかということについ て、宮里先生にお願いします。

当センター設立の計画に至った経緯について

○宮里

宮里

実は去年の6 月頃、 宮城会長からも国から 全国1 0 カ所に1 0 0 億 円、各都道府県の医療 圏域2 カ所に25 億円ず つ配布するということ で、地域医療再生計画 をつくって、その計画 に基づいて5 年間で執行できるような計画をつ くりなさいという指示が来るはずだから準備を するようにという連絡がありました。医師会か らの情報が早くて、その後、厚生労働省から正 式な文書が来まして我々準備を始めました。

そのときに県庁内ではいろいろな意見があっ たのですが、私としましては、我々事務屋は医 療現場の現実、具体的に今、何が必要なのかと いうのはあまりよくわからないところがありま すので、とにかくゼロベースで、現場の先生に 本当に必要なのは何か、アイディアを聞いてそ れをなるべく反映できるようにしたほうがいいだろうということになりました。

ただし、そうはいっても、私としてはやっぱ り沖縄県の医療の一番の課題はとりあえず人材 育成だろうと。人材育成がなければ、各圏域を 含めて医療の将来はもう暗いということを思っ ていました。県内には県立病院が先導してきた 人材育成の仕組み、そしてそれが県立病院だけ ではなくて琉大に引き継がれ、群星で発展し て、今3 つの研修病院群で、研修医を育てると いう、全国から評価されている仕組みがありま すのでその人材育成の仕組みを1 つの大きなテ ーマにするべきだろうということを考えて、そ の辺を提案しようと思っていました。

そういう趣旨で、研修医をお預かりしている 琉大と群星の先生と県立の先生方にとりあえず 代表者は来てくださいということで、医師会長 も何回か来ていただいたのですが、玉城先生を 中心に何回か検討会を開きました。その趣旨の 話を最初にしたところ、真っ先にだれともなく シミュレーションセンターをつくるべきだ。こ れはまとまったお金が必要である。我々はずっ と素案を持っているが、そのお金がないため に、つくりたくてもなかなか実行できないんだ というお話が、県立病院の先生も、群星の先生 も、琉大の先生からも出ました。それでどれぐ らいの費用でできるんですかという話をした ら、いろいろな規模がありますが、投資額で規 模が決まりますよということでお話がありまし た。前例はあるんですかと聞いたら、日本には あまり前例がないが、アメリカには非常にいい モデルがたくさんあるんだと。ピッツバーグと いう話もありましたし、ハワイという大学のお 話もあったと記憶してます。

とりあえず、これを1 つの人材育成という柱 にして日本でトップクラスのシミュレーション センター、アメリカに負けないようなシミュレ ーションセンターをつくって、研修医募集の1 つの目玉にしていこうという趣旨でこの計画を 立ち上げたというのが経緯だと思います。以上 です。

○城間

城間

我々も平成1 6 年度 に、臨床研修制度が変 わったときに、ピッツ バーグ大学では、いか に研修医を教育してい るかということで視察 に行ってきました。そ のときに、向こうにあ るシミュレーションセンターを見学する機会が ありました。これはもう非常に高度なレベルの シミュレーターがいっぱいあって、我々が今ま で教育を受けたことのないような方法で教育を 受けているということに、本当にびっくりをい たしました。

それで、いずれぜひ沖縄にもシミュレーショ ンセンターをつくりたいということを、センタ ー長とも話しあって、ずっと思っていたのです が、群星は各民間病院の拠出金だけで運営され ている為、そんなに資金が潤沢にあるわけでは ありません。いずれという計画はあっても具体 的な目途というのは立っていなかったのです。

今回、地域医療再生計画ということがあって 委員に選んでいただき、こういうことを議論す る場が出来たときに、研修制度を充実させて、 それに引き続いて地域医療につながっていくだ ろうという思いがありましたので、臨床教育の 充実のためにはシミュレーションセンターをぜ ひつくりたい、シミュレーションセンター計画 を筆頭に挙げていただきたいという発言をした と思っております。

○遠藤

遠藤

沖縄県の医療の強み と弱みについて考えて みたいと思います。沖 縄県の医療の強みは、 臨床研修が非常に充実 していて、多くの研修 医が沖縄県を目指して やってきてくれるとい うこと。そしてたらい回しのない救急医療で す。これは研修医の存在があってはじめて成立 しています。

弱みは、やはり離島県でありますので、地域 医療を担う人材不足です。離島医療を支えてい るのも、実は研修病院からの後期研修医です。 研修を充実させることが回り回って離島の医療 をカバーし、地域医療がより充実することにつ ながるのです。

沖縄においてはいかに人材を発掘し育成する かが重要な課題です。研修医を集める魅力的な 研修システムを作る必要があります。県立病 院、群星、RyuMIC、それぞれが協力して補完 し合いながら、より強固な研修システムをつく る1 つの目玉としてシミュレーションセンター が大きな役割を担うこととなります。シミュレ ーションセンターは、研修医のみならず看護学 生、さらに休職中の看護師さんや女性医師が復 職するときに、もう一度現場感覚を取り戻すた めの訓練機関としての役割を担います。さらに 救急隊員の訓練にも使えます。

日本一のものがつくれれば、全国からシミュ レーション訓練のために若い医療者が集まって くる。その場で沖縄県をアピールすることがで きるので、人材を集める良い機会になります。 ぜひ計画を実行性あるものにしていけたらと思 っております。

○司会(玉城) いろいろな意見が出された のが網羅されてきたかと思います。やはり初期研 修とそれから後期研修も100 名ぐらい沖縄で研 修してもらおうということがあり、さらにその次 につなぐということもあります。琉大の大屋先生 に、期待できる高度医療人を育成しようという ことと、このシミュレーションセンターとの関連 などを聞かせていただければと思います。

期待できる高度医療人の育成について

○大屋

大屋

最初に会議をしてい たときは、このような シミュレーションセン ターが実際に立ち上が ることは夢でしたが、 それが現実になって、うれしいというかむしろ不思議というのが今の 感想であります。

最初の会議のときを思い出しますと、皆さん が言われていたように、カードを「せーの」と 出したときに、全員がスペードのエースだった という感じが、このシミュレーションセンター ではないかなと思います。

そのときの書類を見てみますと私は、琉球大 学としての提案を6 つ持っていました。例えば IT を利用した全県の電子カルテの共通化、地 域医療に関する寄付講座、シミュレーションセ ンターなどです。なぜシミュレーションセンタ ーを考えたかと言うと、まさに先ほど城間先生 や遠藤先生が言われたことなんですね。沖縄の 優れた教育研修機能をさらに強化したいという ことです。

私たち琉球大学では、高度医療人育成事業の 補助金を文部科学省から昨年いただきました。 一昨年、その申請書を作成するときに、沖縄県 の医療における強みは何なのか、魅力は何なの か、それからその中で大学病院が果たす役割は 何なのか。そして、それをさらに発展させるに はどうすればいいのかというのをずっと考えて いました。大学でできる部分は、その連携型専 門医育成プロジェクトとして始めました。他の 大学病院や専門医療施設と連携をとりながら、 専門医を育成するというものです。しかし、県 内での取り組みについては、総論としてはある のですが、具体的には不十分でした。このシミ ュレーションセンターが、県内での発展版と位 置づけられます。ちょうどこういうふうに皆さ んと知り合えて、全県が協力しながら医師の育 成を行うという、そのときは夢だったのがこう やって現実になったのをうれしく思っています。

今、先生方からお話があったように、沖縄の 長所というのはやはり若い先生が集って臨床研 修していることと思います。若い人の医療に対 する思い、それは本当に純粋だと思うんです ね。それを僕も沖縄に来て、ものすごく分けて もらって、その純粋な気持ちで自分もこうやっ て仕事ができています。それをさらに後輩たち にもどんどん広げていきたいと。それが、これ だけの先生方がいろいろな立場や所属などが違 っても、一気に1 つのことで協力し合える。そ れこそ沖縄の強みなのかなというふうに感じて おります。

○司会(玉城) それでは、このシミュレー ションセンター計画のいきさつ、先生方が希望 している今後の方向性というのはある程度見え ていると思うのです。宮里先生、具体的にどの ようなスケジュールで今後展開していくのかと いうことを、お話いただけますか。

今後の更なる発展と連携について

○宮里 スケジュールは、来る4 月から4 年 間のうちに、基本的に14 億円を使ってこれを つくりましょうということです。場所等は新た に土地を買うというのも大変ですので、琉球大 学の今空いている駐車場を使ってつくりましょ うということぐらいしか今決まっていません。

基本的に、沖縄県の医師会を中心に結集した 医療人がどなたでも使える研修センターという イメージで計画する予定です。そうはいっても 管理責任を置かないといけませんので、これも 予算計上中ですが、とりあえずは琉大に地域医 療を包括するための講座みたいなものをつくっ ていただいて、その方々にとりあえずの管理を 任せることを考えています。

今、県議会で予算審議中です。きのう予算委 員会で説明しましたが、必要性に疑問を発する 委員の先生もおられましたが、大方の先生の共 感を得られましたのでおそらく可決されると思 います。それが可決されますと、来年度は、場 所は決まってますけど、実際にどのような建物 で、どういう設計構造で、どういうシミュレー ターを導入するかということについて、具体的 にみんなで相談して素案をつくることになりま す。それに基づいて建物をつくる人は建物をつ くる。設計図の専門家しかできませんのでそう いうところに委託して、工事が1 年後ぐらいか ら始まればいいなと考えています。そして、2 年後には使えるような状態にしたいと。それが 今のとりあえずの腹案です。

○司会(玉城) 琉大の敷地内につくっていくということになりますが、おそらく宮里先生も 言われたように沖縄県全体で利用していくとい うことになると思うので、いろいろな組織から委 員を募って、ディスカッションして、建物の構 造を決めたり、中のシミュレーターをどの様なも のにするかということも選定されると思うので す。琉球大学に委託されるということになって いますので、琉球大学で何か話の進み具合等あ りましたらお願いします。

○大屋 現在、この予算が決定したというこ とで、大学のほうでもこれを積極的に進めてい くためのワーキンググループの準備中です。土 地に関しましては、この施設はコンセプトとし て全県が使うものですので、琉球大学にあった としても、それが一番道路に近くてアクセスし やすいことが重要と思っています。わかりにく いところにあって、例えば離島の先生が来たと きに、どこだろうと探さないといけないような ものではだめだろうということで、道路に面し た地域を2 カ所ほど候補に挙げています。

それと、もう1 点は、できたときに、どのよ うに運営するかというのは、正直なところ大学 のほうでも考えきれないところがあります。だ れがどの程度関与するとか、だれがどの程度教 えるかということは、シミュレーション教育の プログラムを考えていく過程で出てくるのかな と思います。このセンターの利用法や運営法と いうのは、来年、再来年かけて検討委員会や推 進委員会のほうで作っていただくことになるの かなと思います。

私ども大学では、シミュレーションセンターの 設立に先行して、文科省の補助金(高度医療人 育成事業)の予算でシミュレーターの中でも一番 基本的なものは購入しており、それを使いなが ら、具体的に考えていきたいと思います。また、 これもできる限り早目に、全県の先生方にオープ ンにしてシミュレーターを使いに来ていただいた りしながら、そこで計画をより具体的なものにで きたらいいなというふうに考えております。

○司会(玉城) 今回の出席者の中で一番若 い尾原先生。現実に研修医を育てていろいろな ことをしているのでしょう。その目から見てシミュレーションセンターの方向性、使い方とい うか、何かご意見ありましたらお願いします。

○尾原

尾原

このような機会に参 加させていただき、あ りがとうございます。

今先生方がおっしゃ ったとおりで、まさに 沖縄にぴったりの新し い取り組みになり得る だろうと思います。卒 後研修という面から見ますと、初期研修では各 病院が非常に盛んに高め合って、全国でも有数 という状況ですが、後期研修をどう充実させる かという点が沖縄の課題の1 つに以前の医師会 のシンポジウムでも挙げられておりましたの で、そこに1 つの特色としてシミュレーション センターが位置づけられると思います。同時に 各病院でこれまでやや縦割り的に、それぞれの プログラムはそれぞれの中で完結してきた部分 が、横の交わり、他流試合といいましょうか、 そういった場になるのではと非常に期待をして います。

加えてやはり沖縄の特色である離島をどの ように研修に生かすかというところも、沖縄の 後期研修を考える上ではどうしても外せない 部分です。シミュレーションセンターで混じり 合った人たちが離島でもまた混じり合うと。そ ういったこともコーディネートできるような部 門として、シミュレーションセンターは、その 運営だけでも相当リソースも必要ですけれど も、それだけで終わらず研修全体を見れるよう な部門というイメージで、ぜひ今後進めていっ ていただければと思います。

そして、シミュレーション自体については、 新しくてすごく先進的な機械とかに目が移りが ちではあるんですけれども、その本質といいま しょうか、あくまで教育のツール、手法の1 つ ですので、それをいかに現存のプログラムに導 入するかというところをまず真剣に考えて、沖 縄に求められるもの、だれがどのような内容を 学ぶべきかをしっかり委員会の先生方と一緒に話し合いながら、日本一あるいはアジア 1 と いうポテンシャルはきっと先生方がお思いのよ うにあると思いますので、研修医の皆さんから も意見を聞きながら考えていければなと、個人 的には考えています。

○司会(玉城) 沖縄県医師会でも3 つの研 修グループの研修の相互乗り入れをしたり、お 互いのいいところをとり入れ、自分たちの足り ないところを補完し合えるような協議の場があ ればいいなと思っていて、来年度はそういう委 員会も積極的に進めていこうと思っています。

おそらくこのシミュレーションセンターで統 合されるようなお互いの研修システムと、いろ いろな研修の相互乗入れみたいなものが一緒に なると、沖縄の研修制度全体がさらに発展する のではないかと思います。城間先生はいつもそ の様なことを考えているので、これから豊見城 中央病院の研修医を教えたりする場合、研修医 を育てていく課程で、どのようなイメージを持 って考えておられるか。お願いします。

○城間 群星沖縄では、初期研修の教育に関 しては7 つの管理型病院で研修の自由選択の期 間、本当に自由に行き来できる制度がもう既に できていて、いろいろな病院から研修医がそれ ぞれ行ったり来たりして、本当にそういうメリ ットを享受しております。

ただ、後期研修に関しては、まだそれぞれの 病院が後期研修医を採用して、全体的に交流す るところまではいっておりません。ただ、当院 としては、VHJ などの別組織を利用して、後期 研修医の皆さんがいろいろな病院を行き来でき る制度が出来ています。これをぜひ群星のみな らず、琉球大学、県立病院群にまで広げ、沖縄 県内で後期研修医の相互乗り入れを行い、お互 いに補完し合うというのを、ぜひ実現していき たいと考えております。

それが次の後期研修プラス若い臨床医の教 育、そして、ひいては地域医療につながってい くのではないかと考えています。

具体的な事として、実は去年から、うちから 八重山病院に後期研修医を1 人派遣しているの ですが、帰ってきた2 人の研修医が、中部病院 の後期研修医は主治医として患者を診るという モチベーションが高かった。うちよりもそうい う意識が強いという事を報告しております。そ れを受けて当院では、後期研修医の入院患者さ んに対する立場を、主治医にするなどの制度の 変更を行いました。そういう意味でいい影響が 出てきているのが見られています。これは琉大、 あるいは県立病院、それから外科であれ、内科 であれ、救急であれ、いろいろなところである と思うんです。ぜひこれを発展させてレベルを 高めていくということをしていきたいと考えて おります。その目玉になるのが、やはりシミュ レーションセンターだろうと思っています。

○宮里 話はちょっと前後しますけれども、 今、県として、私としては、このシミュレーシ ョンセンターを中心に地域医療再生計画を立て ているんですけど、県の指導的立場の方々にぜ ひご協力を願いたいと。これは医療界だけであ せっても将来的には発展性がなくては意味がな いですので、とりあえず琉大学長だとか、群星 の宮城征四郎先生だとか、そういう研修に携わ っている責任者を知事に面会させて1 時間ほど 懇談する機会を持ちました。それ以後、知事や 周りの三役もこの問題に関して非常に関心が高 まっていると、私は考えております。ですか ら、きっと発展していくだろうと思います。

それと同時に、どこでその情報を仕入れたか よくわからないんですけれども、内閣府が運営 するIT 戦略会議というのがあるらしいんです。 そこの委員として東京大学の名誉教授で現在東 京電機大学の教授で安田先生という内閣府の IT 戦略会議にも入って国に提言する立場の先 生ですが、ぜひ沖縄のこのシミュレーションセ ンターを単なる教育だけで終わらなくて今後の シミュレーション医療を考えてほしいというお 話がありました。シミュレーション医療という 言葉を聞いたのは初めてです。シミュレーショ ン教育だったらわかるんですけど、シミュレー ション医療というのはどういうことなのかな と、ざっくばらんな会でいろいろお話を聞いた ら、どうも先生が言われるには、いろいろな映 像化ができるでしょうと。今CT、MRI、血管造影、超音波、内視鏡とかいろいろありますよ ね。そういう映像化できるもの、それをデジタ ル化する方法というのは多分、簡単にできるん だと。それをすると、要するに個々人患者の病 像というのを個別にシミュレーション化するこ とができるんだと。そのシミュレーション化し たものに、例えば治療を開始する前にシミュレ ーション的にこういう治療をやるんですよと患 者に説明したり、また実際その患者の治療を開 始するときに、全くさらでただ想像だけでやる よりは、そのモデル化されたものでとりあえず いろいろな手術試技とか、そういうのを事前に 行ったら事故とかも減るだろうと。

それも大きなお話の1 つですが、又、いろい ろなセンサーを開発してシミュレーション技術 と組み合わせて、離島の遠隔医療にも資するよ うにもなるだろうと。いろいろなアイディアを ぽんぽん口になさって、これをするためには医 学と工学の連携がどうしても必要だと。今、日 本ではこの医学と工学の連携がほとんどない と。それができる中心地に沖縄はなり得るとい う話をなさっておりました。

どうして沖縄ですかという率直な疑問を私は 投げたんですけど、安田先生いわく、沖縄は医 療界の垣根が低いという話でした。ですから、 工学部等にこういう医療情報がほしいというと きに、共同研究をしたいという声をかけられた ときに、本土の医学会というのは他者との交流 の垣根が結構あるようで、それがどうも沖縄は 低いんだと。ですから、工学の人がそういう情 報がほしいといったら、本当に宝の山のような 生の医療情報をもらえて、それをいろいろなシ ミュレーション化して、それが日本の産業育成 の目玉になっていくだろうと。「直感的な話で す」という前提はありましたが、そういう話も あって。ですから、そういうことにも発展して いってもらいたいなということが話題になって おります。

○司会(玉城) 私が考えていることもそう いうことなんですね。平成26 年度以降をどう するかと。そのためには、これをもとにして産 業を興せないといけないだろうと思います。例 えばある病気の人のCT 画像と、MRI、内視鏡 の画像をシミュレーターに入れる。そしてどの ような手術をするのか判断をする。診断をどう するのかも含めていろいろな考えが出てくると 思います。このシグマンもアメリカ製なので日 本製でできないかと思っているのです。

沖縄の経済産業省の人達と話をする機会があ るので、ぜひとも経済産業省の予算や内閣府の 予算で、将来的にはシミュレーションセンター をモデルにして沖縄で産業を構築できないかと 考えてはいるんです。

今日はシミュレーションセンターとか、シミ ュレーションのいろいろな機械を知っている人 が会話をしているので、話が先走りすぎたかな と思っています。具体的には何をするか。

大屋先生、一般の会員の先生方、あまり知ら ない先生方にまずはわかりやすく解説していた だけますか。

○大屋 このシミュレーションセンターに関 して、シミュレーション教育とは何?というこ とや、どのようなシミュレーションセンターを 作っていくかというようなことについて、私案 をご紹介します。

まず、シミュレーション教育についてです が、シミュレーション教育や研修の基本という のは、いきなり実習していけないものを模擬環 境下で練習して取得することです。

なぜそういうことが必要なのかというのは、 例えば人権の問題で、患者へのぶっつけ本番で いいのかとか、安全管理の面でもちゃんと習熟 した上で実際の人にあたらないといけないとい うことがあります。また、最近の若者たちの気質として、ぶっつけ本番に気後れするとか、逆 にゲーム等で慣れているので、模擬環境下のほ うがむしろすっきりと学べるとかがあります。 また何より、我々が考えていた想像を超えて科 学技術が進歩して、人間そのもののレスポンス が再現できるようなシミュレーターもできてき たとか、あと教育技法の進歩によって、ここで は知識を習得し、ここでは技術的なこと学び、 それを実際にチャレンジして、技能として習得 するというような、それぞれのコンポーネント を生かしたような教育法が必要だと考えられる ようになって、その中でシミュレーターが重要 な位置を占めているという背景があります。

しかし、気をつけないといかないのは、先ほ ど尾原先生のお話にあったように、シミュレー ターがあるからすばらしい教育ができるのでは なくて、すばらしい教育の中にシミュレーター を導入して、さらに内容がすばらしくなる、そ ういうふうに理解したほうがよいと思います。

シミュレーション教育は、応用範囲は非常に 広いということになります。基本的な学生や研 修医の教育、安全管理、チーム医療、そして先 ほども出てましたが、女性医師などの復帰支援 まで行えますし、場合によっては災害発生時の 対応訓練にも発展させることができると思いま す。すべての医療のプロセスを対象にすること ができます。

○司会(玉城) 例えば看護学校では採血の 練習をする人形がある。また、皆さんが救急蘇 生をするときの心マッサージの人形などから始 まって、AED の使い方などいろいろなものがあ る。高度なシミュレーターもあります。飛行中 に雷が落ちたときにパイロットはどのようにして その飛行機の操縦をするのかというのをトレー ニングするようなものが、シミュレーターなので すね。

それでは、このシミュレーションセンターが できていく過程ですけど、建物といろいろな機 器を入れていくということはできても、周りを サポートするソフトが足りないと思うんですね。 何が必要か、シミュレーションセンターがオー プンするまで何を準備していくかというのは、 これからの大きな課題になると思うんです。そ の辺を大屋先生、もう一度お願いします。

○大屋 このシミュレーションセンターの運営 についてイメージを今いろいろ考えております。

必要なものは、まず、土地、建物など施設、 そしてシミュレーターなどの設備があるという ハード面です。次に、それを動かす、シミュレ ーターを管理できるスタッフ。そして何よりも 大事なのは、そのシミュレーターを使って教育 をする人です。これは、教育の技法を学んだう えで、それを有効に生かせるというようなトレ ーニングを、ある程度受けないといけないと思 いますし、そのようなトレーニングを受けた者 が、さらに他に教えて、シミュレーターを使っ た教育をできるような人間を増やしていくこと が必要になってくると思います。

もっと大事なことは、シミュレーターを使っ て教える際に、どういうふうなシナリオやプロ グラムを動かしながら教えていくかというのを 考える必要があります。いわゆる教育のための シナリオ・プログラムの作成です。さらに、そ のシナリオやプログラムをつくるために、臨床 経験や教育のノウハウが必要です。例えば意識 障害の救急医療だったら、まず、こういうこと をするんだよとか、ここが大事だよというもの です。これに関しては、自分たちが得意分野と するものを各施設が出し合って、それをコンテ ンツ化、プログラム・シナリオ化し、それを研 修医、学生など、学びに来る人たちに提供する ことになります。

○司会(玉城) ありがとうございました。

シミュレーションセンターに指導者もいます が、研修医がシミュレーターを十分に利用でき る様にするためには、一緒に指導できる人達の 養成もしていかないといけないと思います。預 けっぱなしではなくて、一緒に行って一緒に学 んで帰ってきてということも必要になるのでは ないかと思います。例えば人材育成を中部病院 だったらどのように考えるか。大学ではどのよ うな形でやるか。シミュレーターを扱える指導 者をどの様に育てていくのかということに関し てはいかがでしょうか。

○遠藤 まず指導者が十分な訓練を受ける必 要があります。日本に充実した施設があるかど うかわかりませんが、先駆的な病院との交流 や、勉強が必要になるでしょう。海外ではすで に定着しつつある教育技法ですので、海外で研 修を受ける等も、同時進行的にやる必要はあり ます。

尾原先生、何か案があればお聞かせ下さい。

○尾原 やはりシミュレーションセンターに 専任というか、核となる人が当然必要なんだろ うとは思うのですが、その方だけですべての病 院の研修医とか医学部の学生さん、看護学生さ んを含め全員を教えきることは絶対不可能で す。沖縄には、経験豊富な臨床家の方々がたく さんいらっしゃるわけで、どのようにシミュレ ーションを使って教えるかというところをだん だん流布していけるように、1 つの教育技法と いう形で各病院の先生方、あるいは看護教員の 方々にも伝えていけるような核に、シミュレー ションセンターのスタッフがなって、どんどん それが浸透していくというような形が一番理想 ではないかなと思います。

先日、シンガポールで開かれたアジア太平洋 医学教育学会に行きましたところ、シンガポー ルのある看護大学では、そこは2 年間の看護教 育課程ですが、そのうちの60 時間をシミュレ ーターを使った教育を行っていました。各教員 がシミュレーションセンターをどういうふうに 使うかというのを、そこのスタッフと一緒にシ ナリオづくりから取り込んで、徐々に大学全体 に染み渡っていったというプロセスがあったよ うです。

いきなりシミュレーションセンターのスタッ フだけではできないので、それぞれの領域の専 門家の先生方に力を貸していただきながら、核 となる部分がそこを支えると。そうすれば、役 割分担しながら負担のない形で、新しい方法を よりよい教育へという形につなげられるのでは ないかと感じます。

○城間 私もまだ具体的なものではないので すが、イメージとして持っているのは、やはり そこに専任のスタッフがいても、彼らが全員を 教育することはまず無理だろうと思います。そ こで大事なのは、やっぱり運営のあり方がまず 基本にあると思うんですね。例えば県立中部病 院はコンテンツからシナリオ化したような、そういう教育のメソッドを作り、群星もそういう のをつくったり、そういうものを持ち寄ってデ ィスカッションして、教育の方法を作って行 く。その中で、例えば救急蘇生のシミュレータ ーを使ったものとか、いろいろなものが出てく ると思うんですけれども、それを琉大の教官と 一緒になって、県立あるいは群星からもスタッ フが来て、ディスカッションする。今、尾原先 生がおっしゃったような、大学でやっていたよ うなことを沖縄県全体で進めれば非常にすばら しい。そして人材も豊富になると思うんです ね。ですから、これは次のテーマになる運営の 仕方のところで、ぜひそれができるような運営 形態をつくっていけたらなと考えています。

○遠藤 今の城間先生のご提案のとおり、各 施設でやっている救急疾患への対応を、お互い に持ち寄ってコンテンツ化する。その過程で標 準化された対応が共有化されてゆく可能性があ ります。

また、尾原先生の提案であったように、学 生、研修医、そして専門医を指導する先生達に 教育のノウハウや新しい資料等を提供する場と して運営されることを期待します。

まず、指導医講習会を利用して、シミュレー ション教育を理解する医者を増やしていく作業 が必要です。

○司会(玉城) おそらく今の話を進めるに は、いわゆるプログラムを書く人たちが必要で すね。だから、先ほど宮里先生が言われたよう に医工連携。岩政学長にもお話はしているんで すが、琉大の工学部がこのシミュレーションセ ンターに興味を持っていただいて一緒にプログ ラムを作っていくことが大切です。

沖縄にはIT 企業が100 社近くあるんですよ。 沖縄のIT 企業の中には、優秀なシステムエン ジニアがいますので、ぜひとも一緒にやれるよ うにしようと思っています。

ぜひとも工学部と一緒になってプログラムを 作っていきたいと思う。業者任せだとお金ばか りがかかりそうだから、その辺も含めて沖縄バ ージョンをつくれたらなと思います。

人材を育成していくということは、お金のか かることでもあるし、いろいろな考えが出てく ると思います。ほかに今の件に関して當銘先 生、何かありますか。

○當銘 いろいろなプランがあると思います が、もう少し具体的にどの程度の準備ができて いるのかをお聞きしたいのですが、いわゆる25 億円の2 本で50 億円が沖縄県に来るわけです が、このシミュレーションセンターにはどの程 度の予算を見込んでいるんですか。

○司会(玉城) 14 億円です。医師会館を つくったのが4 億円ぐらいです。だからこのぐ らいの建物は4 億円でできる。残り10 億円を 中身と見ていますので。

○當銘 とりあえず14 億円を振り分けると。

具体的な行程というか、検討委員会なり、そ ういうのはもう作られて動いているんですか。

○宮里 県議会がオーケーを出せば、その後 国がお金を沖縄県の通帳に振り込んでそこから 始まります。

○當銘 検討委員会に関しては、沖縄県が主 管するという形になるわけでしょうか。

○宮里 基本的には14 億円のお金を使って、 おそらく医師会館よりやや小さめですかね。そ ういう入れ物としての建物を作ります。

○司会(玉城) 医師会館のような内装をや らずに、病室をつくるようなものだから安くな るはずです。

○宮里 ですから、おそらくここに集まって いる人たちが責任持てるレベルというのは、そ ういう建物をつくりましょう。その建物の部屋 割りとか、使い勝手のいい部屋はどうしたほう がいいでしょう。具体的に初期投資としてのシ ミュレーターというのはどういうものが必要で しょうかと。これを決めるのがまず出発点にな りますね。その出発点になったときに、先ほど 尾原先生、遠藤先生、あるいは城間先生もお話 したんですけれども、大学が管理はするんです けど、それをインストラクターというんですか、 それを使って教育する現場はだれがどういう、 それぞれ数十人の研修医を抱えているんですけ ど、その数十人をどういうプログラムでいつや りますかという。

管理運営は琉球大学がもちろんやりますが、 実際使っていく自分の預かっている研修医をこ う育てるんだと。あるいは、専門研修のときに はどの専門家に頼んでやるんだということは、 みんなで話し合って具体的に成長していかない といけない。その成長の過程というのは、これ 我々が今集まっている人たちが具体的に責任を 持たないといけないと思います。

そういう話し合いの出発が来年始まって、建 物とかシミュレーターは何を買いますよとかに ついては来年中に決まります。そういうことで す。そして、再来年には工事が始まって、早け れば再来年の後半ぐらいには運用が始まるだろ うと。運用が始まったら、さっき言った課題を 具体的にああでもない、こうでもないといって みんなで話し合ってどんどん成長していくとい うことが重要です。

○司会(玉城) おそらく建物をつくる段階 から、教師というか教える人のトレーニングを 並行して進めないとスタートできないと思いま す。その辺も見ながらどのようにお金を使うか ということにもなると思うんですよね。ほかに 何かありますか。

○宮里 先ほど私が話したのは、これ我々医 者あるいは研修医を預かっている人たちの責務 ですね。これは我々にしかできないんですよ。 ところが、それ以上に発展するという話も先ほ ど紹介したように、まだ後で大屋先生が追加さ れるようですけど、これはナショナルプロジェ クトにしたいという。ただ夢を語るだけの先生 でなくて、実際に内閣府の審議会の委員をなさ っている東電大の名誉教授の安田先生という方 が、私のところに来て、ぜひ一緒にやりたいの でご協力お願いしますと言って、そういう話に なっているんです。

また国としても相当偉い高位の方がその先生 に引きつられてまた私のところに来て、国のIT 戦略の中でこういう議論をするようなニュアン スの発言をなさっていましたし、これはある種 僕らのレベルを超える話ではあるんですけど、 出発点は我々がそういう生の情報提供をこの人 たちにやらないとできません。先生がおっしゃ るには情報提供する垣根が沖縄は非常に低いで すよとのことです。だから沖縄なんだ。それ に、そもそもシミュレーションセンターという 構想があったから、私はあなたに話しているん ですよというお話がありました。

○大屋 先日、遠隔医療協議会の会合で、安 田先生とお話しする機会がありました。安田先 生の考想では、シミュレーションセンターの機 能を向上させるために、別の予算で、グラフィ ックス、IT、クラウドコンピューティングなど 使った、新しい医療とその支援システム、そし て高度な医療・教育システムを、構築しようと いうことです。我々がそれらにどのように関係 していくのか、また、どれがどの程度可能なの かは今は、まだ解りません。

○司会(玉城) これはできます。沖縄県は IT 津梁パークということでいろいろなIT 企業 があります。沖縄はIT 産業というのが発達し ていると言われているのです。今この先生方が センターを1 つ東京にでもつくったら、ここと 一緒にしながらシミュレーターのデータとドッ キングさせて技術を膨らませることができる。

経済産業省の沖縄の会議の中でも、IT も医 療もお互い情報交換をしてドッキングしようよ と、話しかけているんですね。おそらくこれが できますと、沖縄に予算がもらえるはず。これ ができたらさっきの26 年以降の継続的なこと は、沖縄県の政策ないしは経済産業省、内閣府 の政策として沖縄に整備できることになる。だ から、シミュレーションセンターはいろいろな 人たちに夢を与えられる事業なのです。

皆さんが医療人を育てて沖縄県の命題である 離島で勤務する人、さらには後期研修と専門研 修をどのようにつくっていくかということが大 切です。企画開発部の科学技術振興課というの は、大学院大学をやっているところですが、が ん治療の治験の一相試験を沖縄でやりたいとい う構想を持っているんです。そのためにはそれ をサポートできる、どのようなトラブルが起こ ってもサポートできる病院が必要になる。がん 治療のいろいろなサポートができるためには、 琉大がレベルを上げていかないといけないのです。日本人のだれもやったことがないことを沖 縄でやるためにはね。

そういう意味で、大屋先生は教授になったば かりで大変かもしれないけれど、琉大の教授を 含めて先生方がどのようにしてそういう専門の レベルを上げるかということが大切です。その 辺も含めてこれをもとにして将来どのような構 想を持つのか、先々の夢みたいなものを話して 頂きたいと思います。

遠藤先生は、離島に人を送るためには、離 島に行くのを義務化しようと研修のシンポジ ウムで話をされていましたが、沖縄の基本的 なところは離島医療をカバーするのと、救急 はたらい回しがないという基本をどこまで培 っていくか。おそらくシミュレーションセンタ ーに入ってくるシミュレーターみたいなものを 中心にしながら救急外来をつくってみるとか いうことにもなるかもしれませんしね。その辺 どうですか。

○大屋 シミュレーションセンターの内部で すが、これあくまでも私案ですが、3 つのゾー ンを考えています。これは、別にこれを絶対に やらないといけないということではなくて、た たき台として挙げています。

1 つは医療面接、診察法、基本手技などを学 ぶようなクリニカルスキルの基本を学ぶゾーン です。これはアメリカの大学には、大体こうい うものがそろっています。

もう1 つは、ピッツバーグ大学等に見られる 救急医療を学ぶゾーンです。これに関しては沖 縄県の特徴を出せる場所だと思います。具体的 には、実物と同じ救急外来をつくってしまえ と。そこで、バイタルをコントロールできるシ ミュレーターを設置して、対応を学ぶだけでな く、複数の職種のスタッフがチーム医療を勉強 できるというような環境を作りたいと思ってお ります。

この救急医療に関するゾーンがあれば、アジ ア一、日本一というところまで行くかもしれま せん。

もう1 つは専門医に沖縄に残ってもらうため に、いろいろな専門医に必要な特殊なスキルを 学ぶようなもの、つまり専門スキルを学ぶゾー ンを提案させていただいています。

○司会(玉城) 今、具体的な提案が3 つの 柱として出ていると思うんですけれども、先生 方のご意見を少し出していただけますか。

○遠藤 具体的なお話が大屋先生から出てわ かりやすくなってきました。シミュレーション センターの維持・発展を長い目で考えると、県 民の理解、協力、支援が必要になってくると思 います。

このシミュレーションセンターというのが、 我々医療人にとって、県民にとって、そして離 島にとってどのような役割を担うのかを分かり やすく発信してゆく必要があると思います。

我々医療人にとっては、安心して安全な医療 技術を身につける教育の場になりますね。これ は研修医にとっては非常に魅力的な研修の場に なると思います。学生や研修医に広く宣伝する ことで、より多くの研修医たちが沖縄県に集まってくる。さらには、シミュレーションセンタ ーをきっかけにして、県外の研修医たちが短期 あるいは長期に沖縄県にやってくることによっ て、将来的には沖縄で仕事をしたいと考える若 者が出てくるかもしれません。人を集め、育て る非常に大きな目玉になると思います。

次に、県民にとっては、医療者が安全な医療 技術を確実に身につけることで、安全な医療を 受けることができるようになることを積極的に 伝えたいですね。救急医療や心肺蘇生、更に人 体の構造等を、小・中・高校生に学んでいただ くことによって、医療に対してボジティブなイ メージを持ってもらう。さらに将来的に医療関 係者になってくれたらうれしいとですね。

そして離島に対しては、バスにシミュレータ ーを乗せていって、離島で働いている医療者だ けではなくて、離島の住民にも訓練を提供しま す。全県的にいろいろな職種や住民に、このシ ミュレーションセンターの必要性をアピールで きるのではないかと思います。当初からそのよ うに活動することによって、応援団を得ておく 必要があります。

○司会(玉城) 沖縄の企業の経営者、経済 同友会でも、商工会議所の方々にも1 回シミュ レーションセンターを見せてあげないといけな いですね。そして、何らかの形で寄附講座、人 材育成のためのいろいろな支援をいただきたい と思います。

○當銘 このシミュレーションセンターが研 修教育に非常に大きな貢献をするであろうこと は、みんなの共通認識としてあります。以前か ら沖縄県は臨床研修に関して3 つのグループが 非常にいい形で全国から研修医を集めていると いうことで、これを更に活性化するためには、 医師会が関与して3 つの事務局を束ねてやった ほうがいいのではないかと思うのです。

例えば、群星も、琉大も、沖縄県もそれぞれ が研修教育に金をかけているわけですね。県は 中部病院の臨床研修に関して、以前は3 億円程 かけており、今は予算が大分削られて2 億円ぐ らいかと思いますが、それぐらいの予算をかけ てハワイ大学から優秀なスタッフを呼んで研修 教育しています。ところが中部病院で行われて いる研修教育を、我々南部とか北部とかほかの 県立病院は殆ど享受できていない現状です。そ ういうふうに県立病院の中でも温度差があるの ですが、群星や琉大の中でも、内部における 色々な段差はあると思うのです。それを医師会 が事務局として1 つに束ねれば、もっと効率の いい研修プログラムが可能ではないかと思いま す。このシミュレーションセンターの設立を契 機に、県医師会が事務局機能を司って効率よく 運営する方法は考えられないかというふうな気 がいたします。

○司会(玉城) 実はそれを考えていて、そ の核になる第一歩がシミュレーションセンター を運営していくことです。そこで教育をどうす るかということから情報交換が始まる。

僕のイメージの中では、この建物の中に3 つ の事務局の出先でもいいからそれをつくって、 直接「おい、これどうか」という情報交換がで きればなとイメージを持っているんですよ。

ですから、建物を設計する段階ですけれど も、ほかで事務局を持っていて苦労していると ころがあればセンターへ持っていって、琉大は もちろん研修の事務局も一緒に移してやって、 中部病院や県立病院がどうするかということも 含めて相談できるのではないかなと思います。

當銘先生が言われるのは、わかるんですよ。 思っているけどすぐにはいかないから、一歩一 歩の積み上げではないかなと思っていますね。

そうすると、今、中部病院の予算でこれだけ しかない。ほかの人から寄附が集まったとき、 ハワイ大学研修教育が全県下の研修医に行き渡 るかということまで、考えられるのではないか なと思うんですね。おそらくそのシミュレーシ ョンセンターがかなり活性化すると、よそから いろいろな予算がついてくるし、それをもって 教育のシステムをもう1 回組み直すということ ができてくるのではないかと思っているので す。ぜひともこれを大きなものに育てたいなと いう感じです。

理想は、當銘先生が考えていることに行き たいとは思っています。医師会もそう思っています。

○大屋 私も賛成です。今回はシミュレーシ ョンがテーマの教育センターですけれども、こ れをきっかけに沖縄の様々な教育や研修が相互 乗り入れができればすばらしいと思います。も う1 つは、医学部の学生の教育に関しても、例 えばアメリカの大学であれば、地域の中で教育 に熱心な先生達がボランティアで参加していた だいて学生を教えているというようなシステム があるんですが、もしこのシミュレーションセ ンターができれば、そのようなことも容易にで きるようになるのかなと、思います。とにかく 今、私、いろいろな人とお会いするときに、こ れはもう日本一、アジア一の施設だからという ようなことでお話しています。そういうことを 通じて、例えばこの安田先生のように興味を持 っていただくかたも増えるのだと思います。ま た、医療関係の企業にも興味を持っていただけ るようにご説明しています。これが、沖縄にお ける医療産業の振興につながる可能性があるか らです。

○尾原 研修医の教育についてのお話が中心 でしたけれども、海外の取り組みとかを見ます と、もちろん医師の教育は大事ですが、医療者 の全体の教育と考えると、圧倒的な数が多いの は看護師だと思います。このシミュレーション 教育の中、今のところ世界的にも進んでいるの は、多分、看護領域ではないかとこの前学会に 行って感じました。

看護師不足もかなり大きく叫ばれている中 で、沖縄の地域医療再生という視点で見たとき に、医師の養成・確保は当然大事ですけれど も、看護師の養成・確保も同様に大事だと思い ますし、今国の流れで看護師も卒後研修を必修 化しようという動きがあるというふうに聞いて います。そういったところともリンクすると、 卒後の新卒の看護師さんに良質な研修プログラ ムを提供できる病院に、看護師さんは今後集ま っていくのではないかなという感覚を持ってい ます。

医師の卒後臨床研修に対して気合いを入れて 今までどおりやっていくというのは当然なんで すけど、もちろん卒前教育もそうなんですけれ ども、看護師の卒後教育は今後キーになるかな と思います。

それと、シミュレーションという教育技法 で、だれが一番恩恵を受けるかと考えたとき に、欧米の取り組みを見るとやはり卒前の学生 が中心だと思います。理由は、患者さんから学 ぶということが我々の医師、看護師もそうなん ですけど、これまでの基本でしたが、医療安全 が叫ばれる昨今で、研修医でもなかなか患者さ んへの暴露が制限されている中で、学生さんは それがもっと厳しいということになると、卒前 教育にどう織り込んでいくかが1 つキーかなと いうふうに感じています。

そして、さらにつけ加えると、それぞれの領 域の縦割りの教育だけではなくて、職種間教 育、同時に教える、一緒に学ぶという流れが今 かなり来てます。具体的には、例えば卒前で医 学部の1 年生と看護学部の1 年生が一緒に実習 を行っていく。研修医だったら1 年目の研修 医、新卒の看護師さんが一緒に救急の患者さん の治療を行うシナリオを通じて、看護師役の人 がどんな役割をして、医師役の人がどういう役 割をするというような技術、知識だけではなく てコミュニケーション、チームワークのトレー ニングをする。

そういった多職種が混じり合うというのが多 分キーワードになるのかなと感じていて、今 後、この検討委員会にも各病院あるいは大学か ら多職種の方が混じっていかれることで、より すばらしいものをつくっていけるのではないか なとイメージしております。

平成26 年度以降の継続的運営について

○司会(玉城) 結局ソフトを動かすのに金 がいるんですよね。ハードをつくるのは簡単。 アメリカなんかでは、その利用料、使用料とい うのを取るのですか。全く寄附ですべてを運営 するのか、ないしは例えば公的、県費で動かす のかとか考えないといけない。結局、全部丸が かえの研修になるのか、ある程度自分たちも出 しながら、足りない部分を補助をもらうのかとか、いろいろな角度から考えないといけない。 おそらく持続的な運営をするためにはシミュレ ーターのバージョンアップ等、産業として発達 させて、そこからお金がもらえるように運営に したいのです。

県も建てた手前、何らかの補助、それから国 のいろいろな予算をもらってきてこれにまた応 用するとかいうことも必要になると思います。 どうなのでしょうか。先生方のアイデア、イメ ージ、よそではどのような運営をされている か。ご意見をお願いします。

○大屋 ピッツバーグのシミュレーションセ ンターの話を聞いてみたんですけど、あそこの 場合はピッツバーグ大学がやっていますが、大 学や地域の幾つかの大きな医療システムの共同 の研修施設として、それぞれから資金を得て運 営しているらしいです。

今回も5 年後に補助金がなくなったときに、 どのように運営したらいいのかというような検 討してくださいと言われています。計算上は、 ある程度の利用料をとれば運営はできるように はなります。ただ、運営費を出すのは結局各病 院だったりとか、各学校だったりとか、それを 生徒個人に出させるのは難しいので、いずれに せよ教育機関がそのお金をどこからか集めてき てここに投げ込むという形をとらないと難しい 可能性もある。難しいというか、なかなか大変 だなと思ってます。

○司会(玉城) 僕は寄附講座というのはど のように運営されるかわからないんですけど、 学生さんであれば医学部の学生はどう考える か、看護学校だったら学費の入学金とか、そう いう中である程度の運用をしていくことは可能 だと思うんですよね。大変高いと無理でしょう けど。寄附講座に寄附をするというのはシミュ レーションセンターとは別だから、そこに寄附 をするような格好で無税の扱いにして運営費に プールするか、貯めていくかということができ れば、利用するほうからも幾らかもらいながら 発展させたらいいのではないかと思います。

最初から無料にして後からお金を取るという のはよくないだろうから、最初から利用料と か、みんなに話をしてどのぐらいにするか決定 した方がよいと思う。ある程度は利益を受ける 人たちからもお金をもらって、足りない部分を 沖縄県全体の企業でもどこでも寄附をもらった 方がよい。無税扱いの講座にしてもらうように 税務的なこともちょっと検討してもらう。お金 がなくなったから運営が四苦八苦するのではな くて、利用料を取ってもいいような気がします けどね。そのためには、やはり利用してメリッ トがあったとみんなに思ってもらうようなもの をつくらないといけないだろうと思う。ほかに 何かありますか。

○大屋 質問ですが看護協会も今回再生基金 でお金をもらわれていますよね。看護協会は会 館をつくって、その中にちょっとしたシミュレ ーション教育の部署をつくりたいというふうに 言われているのを聞いたんですけど。ですか ら、うまく話し合いとかがつけば、ある程度合 流してやっていったりすることもできるのかな と考えています。

○司会(玉城) 看護協会はやっぱり建物を つくりたいというのが主で、その予算をお願い しているところで、研修センターという格好で すね。宮里先生、その辺はどうでしょうか。

○宮里 3億円だったと思いますけど、自己 資金で4 億円程度加えて、現在、沖縄県総合保 健協会の近くの南風原のほうにあるものを、南 部医療センターとか医師会もありますし、高速 からも近いですし、この近傍に新しい研修セン ターをつくりたいという希望があるということ です。研修ですからいろいろな専門、最近認定 看護師とかいろいろありますね。そういう部門 にも将来的に対応できるような教育センターを つくりたいという希望がありまして、まだ具体 的なことではないんですけど、とりあえずここ に予算をつけて。3 億円を確保しています。

その中で、先ほど大屋先生がおっしゃったよ うに、研修センターですから、シミュレーション 教育的なことも取り入れるという話は私もお伺 いしますので、その辺の連携もぜひ図れるように 当然考えられるべきだと思います。これは南部 医療センターとも近接していますのでそういう医療機関。繰り返しになりますけど、交通アクセ スの場所としていいですので、各病院の看護師 さんが具体的に活用してよかったというような ところにぜひ発展するような方向で、これも検 討会をつくって、基礎設計の案をつくって設計 が始まってという話になると思います。

○城間 発展していく姿が見えるようで非常 にうれしく思っています。

私自身もこのシミュレーションセンターが、 まずは医学生から研修医教育、まずそれがスタ ートだろうと。ただ、そのシミュレーションセ ンターで教育を受けるのは、それだけではない。 当然看護師さん、それからコメディカルも入っ てくるんですね。それは例えば透析の機械をセ ッティングするとか、レスピレーターの訓練を 受けるとか。ですから、補助金が切れた後にど うやって運営費を稼ぐかというときに、やはり そういったものまで含めてやれば仕事の量が非 常に増えるので、ぜひこういうものもやってほ しいということを出そうと思っていました。

多分シミュレーションセンターとしては今回 のが大きな施設になるので、できたら看護師教 育もできるような形のハードをそろえた施設に していったほうが、今後発展系になるだろうと いうふうに思いますね。

○司会(玉城) 看護実習をするにしても、 学生40 名がみんな行くわけではないから、各 グループ分けした人が2 班ぐらいずつトレーニ ングに行くという格好の使い方になると思うん ですよね。そうすると、やはりみんな車を持っ ているからアクセスで琉大に集まって。あとは 琉大の駐車場確保が大変になるかもしれない。

○城間 今、例えば医師会でもICLS の講習 会をやってますけれども、あれなんかはシミュ レーター集めに非常に苦労しています。また、 人材集めが大変です。シミュレーションセンタ ーができて、そういったものが1 カ所でできれ ば、参加する人はそこに来さえすればいいとい う体制になります。また、決して医者だけでは なくて、看護師あるいはベテランの開業されて いる先生たちも、毎年毎年募集の枠に入りきれ ないぐらいおりますので、医師の再教育や、い ろいろな職種の教育にも非常に有効なハードに なっていくということが考えられますね。

○司会(玉城) 実際の運営の仕方というの は、建物ができる頃だと思います。お金をもら うのか・もらわないのかは、これから検討する ことになると思いますが。

○大屋 今回のセンターは、沖縄県内や日本 国内だけではなくアジアに向けても発信できる ようにしたいと思います。

○城間 消耗品が必要な医療器として、透析 関係とレスピレータ関係はシェアが大きいんで すね。ですから、先生がおっしゃったIT だけ ではなくて、医療器の分野でも改善したり、あ るいは技師の教育と、商品開発にうってつけの ところになると僕は期待してます。

○司会(玉城) アジアから研修生を呼び込 んでくるとだれが喜ぶかって、沖縄の観光商工 部、そして沖縄のツーリスト関係はものすごく 喜ぶ。

沖縄で健康産業ができないかということを模 索をしています。沖縄に来て癒しの島だという ことで帰ってくるのもそうだし、こういう医療 技術を学びに沖縄に来る。しかも、そこの病院 の偉い人たちを連れてきてセンターを見せたり いろいろなことをすることができれば、あとは 安いツアーをどのように組んでいくかという旅 行業者の仕事になる。

だから、シミュレーションセンターをつくる と、沖縄のいろいろな産業が発展する可能性が あると言っているんです。夢を語るには際限な く語ったほうがいいと思いますが、どうでしょ うか。

○城間 もう1 つ、よろしいですか。シミュ レーションセンターに先生がおっしゃった、例 えば各プログラムの部屋をつくってというお話 もありましたけれども、例えばアメリカの大学 医学部と病院の関係を見てみると、日本みたい に附属病院が1 つあるという関係ではなくて、 いくつもの関連病院があって、そこに学生は行 き来をする、そこに大学のスタッフもいるとい うのが一般的ですね。

よく医学教育で、アメリカの医学教育にかかわる人材は日本の7 倍とか8 倍とか、そういう 比較をされて、大屋先生、大学で教育・研究、 そういった三役もされて本当に大変だと思いま す。アメリカは、非常に多くの関連する病院で 学部教育から卒後教育までしている。その分人 材が豊富になるんですけれども、翻って見てみ て、例えば群星や県立中部病院も研修教育とし て、ある程度、学部教育・卒後教育ができる施 設と琉大とが非常にいい関係でドッキングして 学部教育からできるようになったら、そういう 点では琉大のスタッフが一挙に7 倍、8 倍にな ると。そういう構図になります。

○司会(玉城) 先生の発想は臨床教授みた いなものを各病院の研修の責任者になってもら って卒前からいろいろ教えていくという発想で すよね。

○城間 そうです。ですから、今、国の予算 が大学、附属病院、あるいは学部に対する予算 が欧米に比べて非常に少なくて疲労困憊してい るという話はよくありますし、やっぱりそうい うことの改善のためにもぜひ沖縄県で、ほかと は違って県立や民間病院が一緒に教育できると いう、そういうシンボルとしてでき上がるシミ ュレーションセンターを通して、学部教育・卒 後教育まで一緒にできるようになったら、これ は沖縄から日本全国に発信できる非常にいいも のになるかと非常に楽しみにしています。

○司会(玉城) 本当に夢はどんどん広がる 感じだし、おそらく各研修病院で学生さんの教 育をある程度受け持ってもらうと、琉大のスタ ッフとしても相当助かるし、学生さんがまたよ その病院を見に行くというチャンスが多くなれ ばなるほどいろいろなドクターに出会うことが ありますからね。それもまた非常にプラスにな るだろうと思います。

○宮里 先ほど城間先生の発言は非常に重要 な視点だと思うんです。

先ほどの安田先生の話もそうなんですけど、 何で沖縄なのかというところで、本当に病院間 とか医療、例えば看護協会と医師会の関係と か、こういう垣根が本土では考えられないほど バリアがないんだということです。

これは、例えば新型インフルエンザ対策で も、こんなに垣根を越えていろいろな病院間で こうしましょう、ああしましょうと、別に計画 があったわけでもないのに一気にでき上がっ て、それほどの混乱もなく、単なる結果論だろ うという意見もあるんでしょうけど、そのとき 焦りながらやっているときにはやっぱりそれな りに努力したわけですよね。努力して、それを それなりに垣根が低かったからあっという間に できたわけですよね。

そういう垣根の低さ、バリアの低さというの は、我々の基本的な財産としてぜひ今後も続け ていかなければいけないと思います。基本的に沖 縄県の目指すべきは交流のバリアを取っ払うこ となんですね。人々が交流し合うバリアの低さ で勝負していけば大丈夫だと、僕は思いますよ。

○城間 実は群星で研修医教育に携わって、 どうして民間の群星にこれだけ研修医が集まる んだということで、東北や北海道とかいろいろ なところから視察に来ています。僕らはありの ままを見せて、要するによそから来る研修医も 同じように教育すると説明します。300 床程度 の病院で決してすべてを教えることはできない けど、それぞれ得意の分野を、研修医が病院を 移動することによって補完し合いながらやって いると。ですから、よその病院からもうちに来 て、彼らにも同じように教えているというお話 をすると、「どうしてほかの病院の研修医を同 じように教えることができるんだ」というとこ ろに行き着いて、「あれ、どうしてできない の?」と。この4 〜 5 年、よそから来た人に説 明するときにどうしてもその壁ぶち当たるんで す。それを考えたときに、これはやはり沖縄の 県民性かなと。「イチャリバチョーデー(一度 出会えば兄弟)」という沖縄の言葉があります ね。「袖振れ合うも他生の縁」ではないですけ ど、本当によその病院の研修医でも、一度こっ ちに来て一緒に飯を食えば同じ仲間じゃないか という形で分け隔てなく教えることができると いうのは、これは沖縄の県民性のとても大事に すべき風土だなと私は群星で活動していて強く 感じました。

そうであればこの沖縄の風土、県民性を最大 限に生かして、よそに発信するというよりも、そ の沖縄の風土を生かしてどんどん発展していっ て、よそがそれを見てどう考えるかはそこで考え てもらうということで、そういう方法がいいので はないかなと思って。全く宮里先生と同じで、 沖縄の風土ではないかなと考えております。

○宮里 もう1 ついいですか。先ほどから遠 藤先生、尾原先生、大屋先生、城間先生も発言 なさっているんですけど、基本的にこの医療研 修の場としての最低限の形、そして運営方法を 考えるのは、おそらくここに集まっている我々 の責務です。ぜひこれは最低限の出発はしてい こうと思います。

その最低限の出発点ができれば、おそらく付 加価値がどんどんどんどんついてくる可能性が あって、ナショナルプロジェクトにしたいとい う、僕なんかからはとんでもない偉い先生がそ ういう発言をして、副知事のところ、あるいは 学長のところに来られてますので、そういうこ とも視野に入れ、ただし、出発点は我々の中で バリアをとりはらって、最低限の機能はつくり 上げていくんだということをぜひご協力をお願 いしたいなと思います。これはもう県の責任で あるし、琉大の責任であるし、また群星の責任 であるし、県立病院の責任ですので、ぜひその 辺をお願いしたいと思います。

○大屋 もう1 つお願いがあります。これは 夢ではなくて現実に戻ってのお話なんですけ ど、例えばここに出席されている先生方は皆さ ん非常にお忙しいと思うんですね。ですから、 自ら動いてシミュレーションをやるというのが 難しくなっている先生方ばかりだと思います し、実際にこれを開発していくというのは勉強 したり、いろいろなところに出かけて行ったり というような、比較的、若くて柔軟性がある世 代だと思いますね。

逆に、その世代というのは、今、医療現場で 最も求められていて放してくれない世代なんで すね。ですから、これをつくるにあたっては、 やっぱりそのような世代を未来への投資という 形で、一時的にでもこういうプロジェクトに、 すべてというわけではないんですけれども、あ る時間は割けるような支援態勢というのを沖縄 県全体に作っていただきたいです。医師会にし っかり音頭を取っていただきたいなと思いま す。お願い半分、希望ということでよろしくお 願いします。

○司会(玉城) 今、大屋先生が言われたの は、何とか大丈夫だろうと思います。おそらく 中間層が、自分たちが受けてきた教育、これか ら後輩たちを指導しようということと、忙しい けれどそれをつくり上げていくという人たちが 必要なんです。群星の中でも相当話をされると 思うし、あちこちにそういう興味を持っている 人たちがいるので、その人たちをまず発掘して いくことが先になるだろうと思いますね。

○當銘 大屋先生にお聞きしたいのですが、 先日、専門医育成多極連携のシンポジウムをや ったときに、寄附講座をつくるという話をして ましたが、寄附講座はこれと関連するわけでし ょうか。もしそうだとすると、専任の教授とス タッフを2 人用意すると言っておられましたが、 今、先生が話されたシミュレーションセンター の中心になっていく人物というのは、寄付講座 のスタッフを当てると考えておられるのでしょ うか。

○大屋 いや、パターンとして幾つかあると 思いますが、寄附講座は今度沖縄県につくって いただくというのは、つくる分に関して目的は 大体大きく分けて3 つになります。

1 つは、地域枠学生が入ってきていますので、 その地域枠学生のための、より特化したような 教育プログラムを作って運営することです。も う1 つは、このシミュレーションセンターです。 このシミュレーションセンターを運営したり、 いろいろなプログラムをつくったりという責任 を持って関係するものとしての職員。もちろん これに関した研究も行います。もう1 つは、地 域医療や医療政策に関することをいろいろと研 究・調査することです。ただ、そこにいるのは 2 〜 3 人で、複数の仕事を抱えますので、実際 にシミュレーターを動かしたり、プログラムを 考えたり、実際にセミナーをやったりするのは、実際の各病院の指導医の人たちになってく ると思います。もちろん、寄付講座の教員たち が手伝ったり、ティーチャー・オブ・ティーチ ャーとして、指導法のセミナーなどを開いて関 与をしていくと思います。

先ほどのお話の続きですが、シミュレーショ ンセンターやシミュレーション教育を作ってい くときに、例えばシミュレーターを使う沖縄型 ICLS をつくりましょうという企画があったと すると、これに関してミーティングしましょう といったときに、当直がこれだけ入っているか ら僕出られませんというようなことが生じてく ると思うんですね。そういうときに、「沖縄県 全体の取り組みで重要だから、君、行ってきな さい」というような、全体の理解がうまくでき たら、より進むのではないかなと思っていま す。しかし、なかなかそこが現場の目から見る と、こんなに忙しいのに何で出ていくんだよ、 みたいなところが、どうしても出てくると思う んですね。特に人手不足で苦しい現場からはで すね。ですから、そこのところを私も解決方法 はわかりませんけれども、こういう沖縄の未来 のためにやる作業なので協力していこうという 所で、みんなの気持ちがあれば、徐々にそうい うものも優先していただけるようになるのか な、というふうに思います。

○司会(玉城) これはおそらく大丈夫だと 思いますのは、実はがんセンターが地域連携の パスとかいろいろな委員会をつくっている。そ こに参加をしている人たち、各病院や保健所も 入っていてやっていますが、皆さん一生懸命パ スだけではなくて広報もよくやっています。今 回のセンターがみんなに周知されれば、組織の 中で選ばれた人をなるべく会議に出すというこ とになります。医師会を通じてでも一緒にお願 いしていくということになるし、施設長に公的 なところは公的なところからお願いするという ことでできると思います。

これは絶対必要ですよ。そうでないと、せっ かく夢のある話が中途半端になってはいけない ですね。おそらく委員に選ばれる人たちという のが中心になって、また次の人たちに広げる中 核になっていくはずですからね。

○大屋 ここの寄附講座の教員についても県 内からぜひやりたいという人たちも集めたいと も思っています。どうぞよろしくお願いします。

○司会(玉城) シミュレーションセンター の方向性、みんなが持っている夢も語られたと 思うし、これをもとに今度は実際にどのように つくっていくかという具体的な作業に入ってい くと思います。

医師会報を通じて会員の先生方に、沖縄県で はこういうことが起こっていて、沖縄の未来の 医療人を育てるため、そして今いる人たちのさ らにレベルアップのためにこういうものができ てくるという広報をしながら、みんなで利用で きる方向にもっていきたいと思います。

○當銘 きょうは、地域医療再生計画という ことでクリニカルシミュレーションセンターに ついて、非常に夢あふれる座談会になったと思 います。広報委員会としてもこの企画ができた ことをうれしく思います。

きょうは琉大から大屋先生、それから県から 宮里先生、群星から城間先生、中部病院から遠 藤先生と尾原先生という日頃から臨床研修をし っかりやっておられる方々に集まっていただ き、話し合っていただきました。シミュレーシ ョンセンターというのは1 つのツールでしかな いというのは確かにそうだと思いますが、これ が非常に将来的な夢の広がる可能性を持ってい ることを確認できたのではないかと思います。

本日はどうもありがとうございました。