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平成21 年度感染症危機管理対策協議会

理事 宮里 善次

去る3 月11 日(木)、日本医師会館小講堂に おいて標記協議会が開催されたので、その概要 を報告する。

日本医師会の飯沼雅朗常任理事(感染症危機 管理対策室長)の司会により会が開かれた。

挨 拶

日本医師会の唐澤人会長より、概ね以下の とおり挨拶があった。

昨年、発生・流行した新型インフルエンザは 全国的に猛威をふるった。

第1 波が終焉したとの判断もあるが、予想さ れる第2 波に備え、引き続き警戒が必要な状況 である。

今回の新型インフルエンザ対応については、 インフルエンザが特異なウイルス感染症である が故にその対策は困難であったと考える。この ような状況の中、国内発生以後、特にワクチン 接種事業については、全国の医師会より多くの ご意見ご質問ご要望を受けている。国の対応が 二転三転する中、非常事態の対応として、本会 としてもやむを得ない苦渋の選択を迫られたこ ともあった。全ての点で、皆様方のご理解を得 られたとは考えていないが、諸般の事情をご賢 察いただき、ご協力いただいている医師会の皆 様に改めて深く感謝を申し上げる次第である。

本日の検討内容を踏まえ、本会としてもこれ までの新型インフルエンザ対策の総括を近々に 行いたいと考えている。

日本医師会においては、平成9 年に感染症危 機管理対策室を設置して以来、迅速な情報提供 を試みているが、国民の生命・健康を守るた め、更なる万全の態勢を期する必要があると考 えている。

報 告

(1)新型インフルエンザA(H1N1)対策

厚生労働省健康局結核感染症課長の福島靖正先生より、国における新型インフルエンザA (H1N1)の対策について報告があった。

はじめに、新型インフルエンザの発生状況と して、「本国においては5 月16 日に新型インフ ルエンザが確認され、11 月の最後の週に定点 39.63 とピークを迎えた。その後、定点数は減 少傾向(2 月22 日の週では1.36)にあるが、 イギリスとアメリカの流行分布では、第1 のピ ークと第2 のピークでは約18 週の間隔がある ため、引き続き緊張感を持って危機管理に当た る必要がある」旨の説明があった。

新型インフルエンザによる入院患者の概況に ついては、3 月2 日までに入院された患者の累 計数は17,567 人で、その内訳は、5 〜 9 歳が 7,025 人と最も多く、次いで1 〜 4 歳3,556 人、 10 〜 14 歳2,537 人、1 歳未満806 人の順とな っていると報告があった。男女別でみると男性 11,027 人、女性6,540 人となっている。重症 度を各国比較でみると、人口10 万対の死亡者 率は0.2 %と最も低く、各国から日本の感染症 危機管理対策について評価されていると説明が あった。

本国における新型インフルエンザ対策につい ては、「地方自治体と連携した適切な感染症防 止対策の実施」、「大規模な流行に対応した医療 体制の整備」、「ワクチンの確保と接種の実施」、 「的確なサーベイランス」、「広報の積極的展開」 等を組み合わせ、総合的に対策を実施している と説明があり、具体的に、4 月から6 月は水際 作戦による時間かせぎ、5 月から6 月は封じ込 めによる時間かせぎ、5 月から12 月は医療体制 の整備、7 月から3 月はワクチン供給、また4 月から現在に至るまで普及・啓発活動の実施等 が図られていると報告があった。

その他、予防接種制度の見直しとして、今回 の新型インフルエンザの予防接種については、 国の予算事業として実施するとともに、必要な 法的措置を講じたところだが、「健康被害救済 の給付額が低い」、「別の新型インフルエンザが 新たに生じた場合には、今回と同様の対応を行 うために、その都度、新たな特別の立法措置が必要となる」、「自治体の役割を法律上明確に規 定する必要がある」等の問題点が生じたと説明 があり、予防接種法を改正することにより緊急 に対応すべき事項として「1)予防接種法におい て対応するための『新たな臨時接種』の類型の 創設(接種の勧奨、救済給付額の引き上げ)」、 「2)新型インフルエンザ等のパンデミックへの対 応(損失補償契約、接種の優先順位付け)」の2 項目が挙げられ、更に抜本的な見直しが必要な 事項として「1)予防接種法の対象となる疾病・ ワクチンのあり方」、「2)予防接種により健康被 害が生じた場合の対応のあり方」、「3)接種費用 の負担のあり方」、「4)予防接種に関する評価・ 検討組織のあり方」の4 項目が挙げられた。

最後に、今回の対策から得られた教訓として、 「備えあれば憂いなし」、「最悪の事態を想定した 危機管理意識」、「迅速かつ透明性の高い意思決 定過程」、「医療や公衆衛生の現場の意見を直接 聴取する仕組みや直接国の情報を現場に伝える 仕組みの検討」を更に検討していきたいと説明 があり、今般発生した新型インフルエンザA (H1N1)に関する対策の総括を行い、今後の新 型インフルエンザA(H1N1)の再流行及び H5N1 対策へ還元していきたいと意見された。

(2)各地域の取り組み

1)仙台市医師会

仙台市医師会の永井幸夫会長より、仙台市医 師会の取り組みについて報告があった。

仙台市医師会では、2006 年から仙台市と新 型インフルエンザに係る基本方針や行動計画に ついて検討を開始し、2009 年1 月、医師会が積 極的に関与しメディカル・アクションプログラ ム(素案)を策定、2009 年4 月28 日に第1 回 仙台市メディカルネットワーク会議が開催され、 2009 年5 月11 日にメディカル・アクションプ ログラムが正式に策定されたと報告があった。

メディカル・アクションプログラムでは、医 療の確保として、「地域の診療所が、通常の外 来診療において軽症新型インフルエンザ診療機 能を担い、抗インフルエンザ薬の処方による自宅療養を基本とすると共に、重症患者について は、入院治療施設で治療を行う体制を構築す る」という医療提供体制が明記され、その為の 支援として、「市内の診療所が軽症患者に必要 な医療を提供できる体制の確保に向け、仙台市 は、軽症新型インフルエンザ診療機能を担う診 療所に対し医療スタッフ用の感染防護用品等を 配布する」という支援体制等が明文化されてい ると説明があった。

また、上記の医療提供体制を整備するにあた り、会員の理解を得るための方策として、医師 会理事会でコンセンサスを得るとともに、会員 へパンデミック時の診療体制の説明、医師及び スタッフの安全の確保(研修会の開催)、会員 の疑問・不安に速やかに答える体制整備、最新 の適切な情報の共有化(新型インフルエンザニ ュースの発行)等の取り組みを行っていると説 明があり、メディカル・アクションプログラム に基づく軽症の新型インフルエンザ診療協力医 療機関を募った結果、328 診療所の手挙げがあ り、仙台市からスタッフ1 人当たり、予防用タ ミフル30 カプセル(1 日1 カプセル)、N95 規 格マスク50 枚(1 日2 枚)の支援物資供給が開 始されていると報告があった。

第1 波を経ての課題として、患者激増に対応 するための休日・時間外診療体制の構築、一 次・二次・三次医療の連携に係る重症患者への 対応等の必要性が述べられ、新型インフルエン ザへの心構えとして、過剰に不安視せず、楽観 もせず、市民に正しい情報を啓発することでパニ ックに陥らないことが肝要であると意見された。

2)豊橋市医師会

豊橋市医師会の鈴木敏弘理事より、豊橋市医 師会の取り組みについて報告があった。

豊橋市医師会では、平成20 年4 月に、新型 インフルエンザ対策に係る行動計画の策定と、 実施訓練計画を策定することを目的に、豊橋市 医師会と市保健所との合同で新型インフルエン ザ対策委員会を設立していると報告があった。

また、新型インフルエンザの発生に備え、平成21 年1 月と5 月に、新型インフルエンザに関 するアンケート調査を実施し、本調査におい て、パンデミック時の診療体制の意向、発熱者 の受け入れの可否、発熱外来への協力体制等に ついて事前に確認を行ったと説明があった。調 査結果については、パンデミック時に診療を継 続すると回答した施設は全体の47 %、発熱者 を受け付けると回答した施設は13 %、発熱外 来への出動を全面協力可能とした施設は6 %、 出動を難しいとした施設は41 %となっている こと等が報告された。

今回の新型インフルエンザ流行を受けての課 題として、正確かつ迅速な情報伝達システムの 構築、医療体制の充実、一般市民への啓発、学 校・保育園・幼稚園への関与、新型インフルエ ンザワクチン接種に係る体制整備等の重要性に ついて説明された。

3)沖縄県医師会

沖縄県医師会理事の宮里善次先生より、沖縄 県医師会の取り組みについて報告があった。

沖縄県では、当初、国内で被害が最も少ない 地域となることが予測されていたが、実際には 予測に反し、最も感染が広がった地域となった と報告があり、6 月29 日の県内発生から現在 に至るまでの経緯とこれまでの対応策等につい て説明があった。

また、第1 波を終えての教訓として、休校措 置のあり方、会員への情報伝達、マスコミの活 用、小児重症例の適切な管理と継続的な日常診 療の実施体制、ワクチン接種等、各課題を12 項目に整理し、それぞれの取り組みの重要性に ついて説明があった。

協 議

厚生労働省:最も多かった質問が返品問題で ある。

これは非常に難しい問題で、当初から考えて いたことが、季節型インフルエンザと同様にワ クチンの返品を認めてしまうと、当初はただで さえ足りないと思われていたので、抱え込んでしまう医療機関が出てくるだろうということで 原則返品は認めないという方針で、この方式を 繰り返しアナウンスさせていただいた。都道府 県等に対しても、極力医療機関で抱え込みがな いよう、できるだけ医療機関からの必要本数を きちんと把握し、過不足ないよう配給してほし いということを再三お願いし対応してきた。そ れでも残念ながら余ってしまったということ で、是非これの返品を認めてほしいというご要 望をいただいているが、現段階では、少なくと もパンデミックは終わってなく、また今でもワ クチンを打ちたいという方は少なからずいる。 それから第2 波がいつ来るか分からないので、 現段階では少なくとも今まで通り返品について は、申し訳ないが今すぐ認めるということはで きない。ただ、先ず我々がとった行動は、特に 評判の悪かった10ml バイアルを1ml と交換す るということを今行っているところである。い ずれにせよ、しばらくは保管をしていただき、 来るべき第2 波に備えていただければと考えて いる。

飯沼常任理事:ワクチンが余ったことの最大の 理由は、重複予約として、お母様方が子供のた めに何件もの医療機関にオーダーをしていると いう事実がある。また、オーダーをされた方々 が、いたるところでキャンセルを始めたという こと、それから三つ目が10ml バイアルの問題 がある。これは医療機関の先生方が、ご自分の 方でたくさん仕入れ余らせたという話ではない ので、この点は十分にご理解いただきご検討を 続けていただきたいと考える。

厚生労働省:ワクチン接種の優先順位について は、都道府県において次のカテゴリーに打って も良いという状態になれば、どんどん前倒しし て良いということはずっと言い続けてきたの で、そこはご理解をいただきたいと考える。

マスコミの方が情報が早くて、こちらが流す 通達が遅れてしまい、結局住民はマスコミの情 報を見て医療機関に駆け込み、残念ながら医療 機関はその情報が国から未だ届いていないとい うことで大混乱したというご指摘を多々いただ いている。これは大いなる反省と思っている一 つである。沖縄の例にもあったが、日本の国内 の医療機関と我々もメーリングリストに入らせ ていただき、直接やり取りするようなそういう 仕組みがとれなかったのかと一つ反省として思 っている。

発熱相談センター、発熱外来等のスキームに ついてもご質問ご意見いただいている。私ども の考えた発熱相談センターや発熱外来について 本来願った主旨は、感染が始まった当初に、い きなりその方が備えをせずに普通にかかりつけ 医を受診してしまい、そこの待合室で次から次 へと感染を広げてしまうという事態をどうやっ て防ぐかということを、以前から専門家との会 議等で議論し、一つの方策として、熱がある方 がいきなり医療機関を受診するのではなく、先 ず発熱相談センター(保健所)に電話をしてい ただき、保健所はどこがそういう診療をしてい るか、特定の医療機関を予め指定しておいてい ただき、そこを一応発熱外来と称すと、保健所 は発熱外来に予め連絡し、こういう患者さんが 行くということで、発熱外来においては予め連 絡を受けてから患者さんが来られた時に、入口 を他の患者さんと違う対応をとる等、何とか一 般の患者さんに感染を広げないようにするとい う形をとるために、発熱相談センターや発熱外 来を提案させていただいた。その形態が大きな 病院の中にあったり、あるいは診療所であった り、形態は地域によって実情様々であるから、 形態をこちらが問うつもりはない。さらに言う と、発熱外来は各地域にもう少し多いものを当 初イメージしていた。でないと患者さんが大量 に発生した時にパンクしてしまうかと、ならば それに対応できるだけの発熱外来を用意してお いた方が良いかと思っていたが、残念ながら発 熱外来が最初からかなりの数用意されていた地 域は無く、大阪、兵庫でも早速パンクしてしま った。何よりも一番パンクした最大の理由は、 発熱というネーミングが付いているがために、熱がちょっとある方が皆自分が新型インフルエ ンザだと思い、そこに駆け込んでしまった。そ ういったことを反省しつつも、H5N1 等、そう いうのが来た時にどうしたら良いかということ を、今回の経験も踏まえ、いろいろ考えていき たいと思っている。

評判の悪かった10ml バイアルを作らざるを 得なかったかということについては、9 月の段 階で、これから製剤化をするという時に、メー カーから1ml と10ml バイアルを提案された。 その時にメーカーから聞いた説明として、1ml の生産ラインの1 本は、季節型のワクチンの製 造に既に使われており、どうしても1ml バイア ルで新型インフルエンザのワクチンを作るので あれば、季節型のワクチンの製造を止める必要 がある。更に言うと1ml と10ml では、製造効 率が全然違い、10ml バイアルであればより早 くより多くの本数を用意することができるとい うことであった。勿論、10ml は使い勝手が非 常に悪く、特に診療所の場合は被接種者を集め ることは結構大変である。そういうデメリット もある。ただ、季節型のワクチンを完全に止め るということができるのかどうかを考え、なお かつ一刻も早くより多くのワクチンを製造する ということが必要だということと、何とか集団 的な接種ということを工夫していただけないか ということで10ml バイアルを選んだ。

季節型の製造が一部終わった12 月には、直 ちにそのメーカーには季節型を止めてもらい、 年明け以降は1ml バイアルの製造を開始しても らったところである。残念ながら10ml バイア ルが診療所に配布されてしまったり、集団接種 をやろうと試みたが、それが必ずしもうまくい かなかったり、結果として10ml が使いづらく 評判も悪く残ってしまった。これは大変大きな 反省だと私どもは思っている。

飯沼常任理事:日本のワクチン行政が非常に劣 悪だということで、かねてから日医もいろいろ なことを申し上げているが、厚労省の方でも、 そういう部会ができ検討が始まった。生産に関 しては非常に品質は良いが、種類が少ないとい うこともある。ワクチンの接種率を良くするに は集団接種の問題についても議論しなければな らないところである。どこまで公費でワクチン をもってもらえるかという問題も含め、検討が 始まっているということを申し上げる。

総 括

日本医師会の岩佐和雄副会長より、本協議会 の総括が述べられた。

印象記

宮里善次

理事 宮里 善次

平成22 年3 月11 日(木)、日本医師会館において“平成21 年度感染症危機管理対策協議会” が行われた。

先ず、厚労省の健康局結核感染課長から「新型インフルエンザA(H1N1)対策」として、国 内第一波のまとめとして報告がなされた。

神戸での発生を受けて、兵庫県、大阪府の全県下の学校を休校処置としたことが、第一波の感 染拡大を遅くした(2 ヶ月近く)可能性があり、初期において重症化や死亡例がなかったと述べられていたが、WHO もその点を高く評価していると、文献が示された。

欧米では第一波と第二波のピークの間隔は18 週と報告されたが、沖縄県のそれも欧米型に酷似 している。

沖縄県で流行が始まった6 月中旬には対応が季節型扱いとなったため、個別の休校となった。

3 週後に夏休みに入ったにも関わらず流行がさらに拡大し、9 人の重症化例と全国初の死亡例を 出したことは、休校処置のあり方が変わった影響があったように思う。第2 波に至る流行のパタ ーンを見ても、同様な処置をとってきた欧米と流行の感覚が似ている。

WHO から1)なぜ死亡率が低いのか、2)妊婦の感染率と死亡率がなぜ低いのか、などが宿題と して与えられている旨の報告もなされた。

各地医師会の取り組みとして仙台方式を確立した仙台医師会と豊橋市医師会、第2 波まで経験 した沖縄県医師会の3 医師会から報告があった。内容は報告書を参照にしていただきたい。

興味をもって拝聴したのは仙台方式(開業医が最初から診察)である。市長と医師会長の情熱 が大学と医師会を動かしていった経緯が良く理解できた。

新型インフルエンザがA 型H1N1 と分かった段階で、侵襲性は低いと予想し、大学の専門家と タイアップして、医師会を巻き込んだプロジェクトに築き上げたとのことである。

当初のアンケートでは診察に参加しないと答えた医師会員の説得にあたり、講習会を何回も行い、 情報誌を発行し、最終的に会員のほとんどが参加する仙台方式を作り上げたと報告されていた。

協議会は20 分オーバーとなったが、在庫ワクチンから厚生労働省のワクチン行政まで批判がお よび、予定を50 分越える白熱した議論がなされた。