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保険のひろば(4)

平安明

理事 平安 明

【はじめに】

今回は平成22 年度診療報酬改定に関する私 見と、再診料に関連して「外来管理加算」と 「明細書発行」についてふれてみたいと思う。

この記事が掲載されるのは5 月号になる予定 なので、診療報酬改定の内容については既に詳 細な説明が様々な団体の主催により済んでお り、疑義照会、Q&A 等も随時出されていると 思われる。各医療機関にあっては自院に関連す る事項を中心に、まめに情報のチェックをし、 変更点の見落とし等ないよう注意していただき たい。

【平成22 年度診療報酬改定に関して】

今回の診療報酬改定はこれまでと様々な点で 相違があった。中医協委員から日医の代表者が 全て除かれ、前回改定で附帯意見として挙げら れていた再診料に関する議論が中断し、中医協 の審議事項としても後回しにされ結局十分な議 論がなされぬまま診療所の再診料が引き下げら れるという結果になった。このことは医療崩壊 が叫ばれる中、地域医療を支えている診療所の 体力を前回改定に引き続き奪ってしまう結果と なりかねず、非常に危惧される点である。

重点課題となった救急、産科、小児、外科等 は概ね増点となっておりかなり評価できるとい ってよい。特に手術に関しては、外保連(外科 系学会社会保険委員会連合)による「外保連試 案第7 版」をほぼ全面的に採用し、約半数の手 術が増点になったことは画期的といえる。医師 の経験や技術を反映した点は意義深いことで、 今後の診療報酬のあり方に一石を投じるものと なったのではないかと思う。その他、入院料関 係は大病院を中心に入院早期の加算や手厚い体 制に対する加算の新設や増点など、十分とは言 えないまでも様々な部分で過去数回の改定では なかったような評価がなされた。

一方で、外来関係には非常に厳しい改定とな った。先に述べたように、診療所にとっては再 診料の減額に象徴されるように、殆どプラスが ない状況である。再診料の減った分は地域医療 貢献加算の3 点を取れるようにすればいい、と いうむきもあるが、原則24 時間の対応が必要 となるわけで、心身の負担を考えれば現実的に は一部の診療所しか算定できないであろう。こ の加算は準夜帯や深夜帯の病院勤務医の負担を 軽減することも期待して新設されたものとのこ とである。日中の地域の人たちに対する診療が 地域貢献ではないとでも言うのだろうか。名称 の変更を検討しているとの話もあるが、そんな ことが問題ではなく、そもそもの考え方がおか しいと思う。其々の医師が自分のペースを大事 にしながら、長期にわたり地域の人たちの健康 を担ってきたことを、再診料の値下げといった 形で否定し、尚且つ24 時間の対応が出来ない ところは区別するかのような点数設定は如何な ものか。

長妻厚労相は今回の診療報酬改定で「医療再 建の足がかりを作った」と言っているが、実際に 地域を支えている診療所を軽視するような政策 を続けていくと、診療所が体力を失い、結果と して地域の病院にしわ寄せが来ることになり、最 終的に地域医療を担う構造が根本から崩れてい くのではないかと危惧される。次期改定に向け て、早急に影響の検証を行い、医療再建を“足 がかり”だけで終わらさないようにしてほしい。

【外来管理加算について】

点数は据え置きで、5 分要件が廃止になった。 これまでカルテに「5 分超」「時間OK」などの 記載が求められていたが、4 月以降は必要では なくなる。但し、患者からの聴取事項や診療所 見の要点をカルテに記載することは以前同様必 要である。

また、要件の追加として、いわゆる「お薬受 診」での算定は出来ないことが念入りに書き加 えられているので、留意してほしい。

まとめると、時間は問わないが問診・身体診 察・療養上の指導といった医師の診療は当然必 要で、その要点をカルテに記載しないといけな いということである。

【明細書発行について】

医療の透明化のためにとの理由で、電子請求 を行っている医療機関においては原則明細書を 無料で発行しないといけないことになった。領 収証を発行する際に明細書を添付する形になる が、慢性疾患等で診療内容に変化がなくても原 則として毎回発行しないといけない。患者が希 望しない場合はその旨申し出てもらうような掲 示をし、患者の意向を的確に確認できるように した上で対応するとのことだが、現実的には領 収証を発行する前に自らいらないと意思表示す る患者は少ないと思われ、ほぼ対象の患者には 自動的に発行することになろう。

但し、「正当な理由」として以下の2 つの理 由があれば実費徴収での対応等が認められる。

1)明細書の発行機能が付与されていないレセコ ンを使用している医療機関

2)自動入金機を活用していて改修が必要な医療 機関

また、電子レセプト請求が義務付けられてい ない医療機関では明細書発行の義務はないが、 状況についての院内掲示が義務付けられる。

明細書関係については、自動入金機の改修等 対応に時間がかかるものもあり、4 月に間に合わ なかった医療機関もあったかと思われるが、何れ にしても、全ての医療機関で其々の状況に応じた 院内掲示が必要となる。特に明細書発行体制等 加算を算定する医療機関にあっては、院内掲示が なかったりすると算定要件を満たさないこととな り、個別指導等では診療報酬の返還となる可能 性もあるため、十分に留意していただきたい。

【おわりに】

今回の改定においては、中医協の議論に上が る前に入院と外来で約10 倍の差がある予算枠 がはめられた。入院が多く外来が少なかったと いうことではなく、単に外来にあてる予算が少 なすぎたわけである。財源が厳しい中でやむを 得なかった点もあろう。限られた財源を国民全 体が危惧する救急、産科、小児科等へ厚く配分 したことは妥当であり、大きな批判は出来ない と思うし、むしろ評価できる点も多いと思う。

しかし、長妻厚労相や足立厚生労働大臣政務 官が昨年11 月に発言した通り、診療報酬全体 の底上げや小泉政権時の大幅なマイナスを上回 るアップがないと、わが国の医療再建は厳しい 状態にあることに変わりはないことを再認識し ておく必要がある。民主党政権は昨年7 月に民 主党政策集INDEX2009 の中で、「総医療費対 GDP(国内総生産)比を経済協力開発機構 (OECD)加盟国平均まで今後引き上げ」と明 言しており、今回不十分であった点を含め、さ らに医療再建のための取り組みを実行していた だきたいと思う。

この原稿締め切りの前日(4 月1 日)、原中勝 征先生が日本医師会の新会長になったと報道が あった。新副会長3 人は原中会長の推薦候補以 外の候補者から選出されたが、同日の会見で 「日本の医療、地域の医療をよくするとの思い は新執行部で共通」と述べられている。どのよ うな方向であれ、日医内部でこれ以上政治的ス タンスの違いで争っている場合ではなく、一致 団結して地域医療を再建するための議論を行っ ていただき、積極的な政策提言をしてもらいた いと思う。