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平成21 年度日本医師会医療情報システム協議会
〜医療のIT 化、その先にあるもの−光と影−〜

去る2 月13 日(土)14 日(日)、日本医師会 館大講堂において、標記協議会が開催されたの で、以下のとおり報告する。

(1 日目:平成22 年2 月13 日(土))

日本医師会中川常任理事の司会により会が開 かれ、冒頭、唐澤人日本医師会長並びに塩見 俊次委員長(奈良県医師会長)より、下記のと おり挨拶が述べられた。

挨 拶

○唐澤人日本医師会長

ご承知のように、昨今の医療界を取り巻く状 況は大変厳しく、財政主導による医療費抑制政 策により医療の各分野は完膚なきまでに疲弊さ せられ、医療崩壊の状況を来している。

医療分野におけるIT 化として、レセプトオ ンライン請求については、電子媒体での請求も 可能ということになった。現在、レセコン未使 用で手書きの病院や診療所は、免除等の例外措 置つまり免除と猶予が認められた。

本会の意向を組んだ内容と見直しが行われた が、今後、現場を無視した政策に戻ることがな いよう厳しい目で監視していくつもりである。

本会では、医療分野におけるIT 化が、安全 で効率的な医療提供体制を実現するための手段 であり、医療と患者に貢献するIT 化であって こそ推進する価値があると位置付けている。

今年度の協議会は、医療のIT 化という幅広 い分野の中で、「医療のIT 化、その先にあるも の−光と影−」をメインテーマに取り上げ、医 療のIT 化によるメリットだけでなくデメリッ トも考慮し、多くの先生方に役立つ活かされた IT 化を推進するための議論を深めるプログラ ムを用意している。

2 日間という日程だが、中身の濃いより実践 的な内容となっているので、先生方にとっても 必ずや有意義なものになると思われる。

○塩見俊次委員長(奈良県医師会長)

今回、「医療のIT 化、その先にあるもの−光 と影−」をメインテーマに取り上げさせていた だいた。

医療のIT 化は、他の分野に比べても遅れて いるように感じる。遅れている理由として、医 療という特殊な分野であることが最大の理由と 考えられる。

医療のIT 化とは、もともと我々医療機関が 自分たちに便利になるよう考えられ進められて きた。しかし、このまま医療のIT 化が進んだ 際、はたして国民の幸福に繋がるのか、我々が 便利になるだけで終わるのか等、もっと違う目 で医療のIT 化を見ていく必要があるのではな いかと考え「光と影」という負の部分を検討す る事が必要ではないかと考え、メインテーマに させていただいた。

本日のシンポジウムTでは、「医師会事務局 のペーパーレス化はどこまで可能か」というこ とで、どの都道府県、郡市区医師会事務局でも 紙の山に埋もれて仕事をしている状況かと思 う。その状況を少しでも改善するためにどうい ったことができるのかということでテーマを取 り上げた。

シンポジウムUとして、昨年問題になった新 型インフルエンザのような未知の病気、あるい は感染症等が広がっていった際に、果たして IT をどのように使い危機に対応したのかとい う現状を、各演者の先生方にご報告いただき、 今後の危機管理の対応の参考にしていただきた いと考えテーマとして取り上げた。

シンポジウムVでは、メインテーマに沿った 協議を行いたいと考えている。

また同時進行で、特別企画としてレセプトオン ライン化の話として、その際の注意点等を討論 頂きたいと思う。

二日目の午後には、東京大学の山本先生に 「医療のIT 化、その先にあるもの」と題して特 別講演をお願いしている。また、日医総研よ り、認証局の報告等を予定している。

今日、明日と長丁場になるが、熱心な討論を お願いしたい。

シンポジウム

T「医師会事務局のペーパーレス化はどこ まで可能か」

(1)「栃木県医師会のペーパーレス化は続くよ、 どこまでも!!」

栃木県医師会事務局の永橋英和氏より、栃木 県医師会におけるペーパーレス化の取り組みに ついて報告があった。

栃木県医師会では、平成14 年に当時の宝住 会長の主導により、常任理事会の電子会議化を 行い、また平成19 年4 月に内部文書管理を目 的にドキュワークスとアークウィズシェアを使 用したペーパーレス化に取り組んでいると報告 があった。

ドキュワークスを起用した理由として、使用 方法が簡単でありパソコンが苦手な職員にも簡 単に操作可能であった点等が挙げられた。

システム導入後に得られたものとして、事務 作業の効率の向上(文書検索の迅速化、紛失防 止等)、内規改正により文書整理作業の削減、 事務内での情報共有化が促進された等の説明が あった。

今後の展開として、郡市・大学医師会通知文 書のペーパーレス化を予定しているとの考えが 述べられた。

(2)「沖縄県医師会におけるペーパーレス化の 取り組みについて」

本会事務局(平良)より、沖縄県医師会にお けるペーパーレス化の取り組みについて報告を 行った。

報告は、事務局ペーパーレス化と理事会ペー パーレス化という2 部構成で行い、事務局ペー パーレス化については、平成19 年11 月より全 職員に導入しているデュアルディスプレイ方式 の導入経緯から導入後の効果等について報告を 行い、理事会ペーパーレス化については、平成 20 年12 月より実施しているノートPC を活用 した理事会運用並びに理事会資料のホームペー ジ掲載等の取り組みについて報告を行った。

なお、本会事務局においては、情報システム 担当職員一人で検討を行うのではなく、複数の 職員で課題を共有し、職員一丸となって課題解 決に向けた取り組みを行っているため、スムー ズな事務のICT 化が図られているという点を強 調し説明した。

(3)「小規模医師会における業務電子化の方向 性」

川西市医師会の深町隆史氏より、川西市医師 会におけるペーパーレス化の取り組みについて 報告があった。

はじめに、「ペーパーレス化や電子化は仕事 の効率化の一環であって、それを目的にしては ならないと考える。ペーパーレス化は書類の電 子化とイコールではなく、書類の電子化を行っ ても紙は減らないのが現状である。」と発言が あり、まだ電子化をしていない医師会の問題点 として、1)予算がない、2)費用対効果、3)使え る職員がいない等を挙げ、「書類、書籍の電子 化は個人でも簡単に行える時代なので、事務局 で書類を電子化する事は実は簡単である。」と の見解が述べられた。

費用の問題については、医師会の仕事は特殊 ではないので、フリーソフト、バンドルソフト でほとんどがカバーできるのが現状であり、事 務レベルでは業務システムを一から構築するの ではなく、フリーアプリを組み合わせて使い、 コンテンツを共有し、自分の医師会に合うもの を組み合わせて使う事が望ましいと意見された。

(4)「全国の医師会事務局のペーパーレス化は どのような状況なのか〜医師会事務局情報 化調査報告〜」

名古屋工業大学大学院社会工学専攻准教授 の横山淳一先生より、医師会事務局情報化調査 について報告があった。

本調査は、平成21 年12 月より日本医師会を 通じ47 都道府県医師会及び890 郡市区医師会 に調査協力を依頼して行われたものであり、 937 医師会のうち426 医師会から回答が得られ たと報告があった(回答率45 %)。

調査により、「資料を電子データで配布して いる(79 医師会)」、「理事会で一部の資料を紙 で配布or 紙で配布しない(104 医師会)」、「何 らかの情報機器を活用して理事会を開催してい る(89 医師会)」、「理事会資料をアーカイブ化 している(80 医師会)」となっていること等が 報告された。

おわりに、ペーパーレス化を実現するために は、ペーパーレス化の目的を再認識し、「ペー パーレス化」の言葉に惑わされない実践が必要 だとの見解が述べられた。

U「危機管理とIT 新型インフルエンザ」

(1)「会員ML から発展したインフルエンザ発 生状況マッピングシステム(医療機関・京 都府内市町村別)の試行」

京都府医師会の藤井純司理事より、会員ML から発展したインフルエンザ発生状況マッピン グシステムの施行について報告があった。

平成19 年4 月17 日に、府医情報企画広報委 員会並びに委員会ML で京都府医師会会員ML の立ち上げの協議を行い、平成19 年8 月2 日 から稼働を開始したと報告があった。

本ML の規約の中で重要視した点が、匿名投 稿の禁止として所属と氏名を必ず記載する、投 稿内容の無断持ち出しは禁止、添付ファイルは 受け付けないという条件を設け、安全性に重点 を置いたと説明があった。

現在は、A 会員2 , 2 7 6 名に対し7 2 3 名 ( 3 1 . 8 %)、B 会員1 , 5 3 1 名に対し1 7 1 名 (11.2 %)が登録しており、地区医師会も15 地 区登録していると報告された。

また、新型インフルエンザの発生に伴い、 「インフルエンザ発生状況マッピングシステム」 構築の提案があり、システム開発費用約120 万 円、システム運営費用約15,000 円(月間)を かけてシステムの運用を行っていると説明があ り、本システムでは、ML 登録会員の先生方約 60 名のボランティアにより、日別発生報告状況 の詳細や日別発生グラフ、発生区域等のマッピ ング等の情報が掲載されていると報告された。

(2)「岐阜県におけるリアルタイム感染症サー ベイランスの構築と運用」

岐阜県医師会の河合直樹常任理事より、岐阜 県におけるリアルタイム感染症サーベイランス の構築と運用について報告があった。

はじめに、感染症サーベイランス構築の背景 と概要について説明があり、説明の中で、「従 来の感染症サーベイランスは定点数が限られ FAX 週報のため発生から公表まで約2 週間を 要し敏速な流行把握に限界があった。」と発言 があり、新型インフルエンザの国内発生に伴 い、全県化のリアルタイム感染症サーベイラン スの構築が望まれたことから本システムの構築 が図られたと説明があった。

リアルタイム感染症サーベイランスでは、従 来の87 定点に新たに206 定点を加え、随時イ ンターネット上で数値を入力するシステムとな っており、本システムの稼働により、岐阜県内 の流行状況の変化を日々把握でき、県内の流行 も若者が中心で、かつ12 月末に流行が一旦小 康状態に入ったこと等を速やかに把握できたと 報告があり、本システムはインフルエンザ患者 の迅速かつ正確な把握に有用と考えられると意 見された。

(3)「ML インフルエンザ流行前線情報データ ベース」

西藤小児科こどもの呼吸器・アレルギークリ ニック院長の西藤成雄先生より、ML インフルエンザ流行前線情報データベースについて報告 があった。

小児科医が多く参加するメーリングリスト で、2000 年より有志を募り、インフルエンザ の迅速診断を行った症例をインターネットのデ ータベースに自主的に報告していただき、各 地・日本のインフルエンザの流行を知らせ合う プロジェクトを展開していると報告があった。

ML-flu では、現在385 名の有志の先生方に登 録いただいており、最も迅速性のある情報収集 と情報還元、地理情報の一元管理、質的情報の 迅速な還元が可能となっていると説明があった。

(4)「新型インフルエンザニュース:ホームペ ージを介した情報の一元化」

仙台市医師会の草刈千賀志理事より、ホーム ページを介した情報の一元化について報告があ った。

本取り組みを検討した理由として、「今回の インフルエンザに関する情報が多く、会員の先 生方へ何からお知らせするべきか迷ったのが始 まりである。」と発言があり、仙台市医師会が 取り組んだWEB 上での情報配信の内容につい て報告があった。

WEB を使うメリットとして、情報のコンパ クト化(詳細はリンクでフォロー)や、ばらば らな情報源の窓口機能(ポータルサイト化)、 迅速な情報発信、情報更新が挙げられると説明 があり、課題として、膨大な情報を取捨選択す る困難さ(日本医師会や県のレベルで整理して 欲しい)、一般公開に不向きな情報の管理(初 期の感染者情報・クラスター感染者情報)、実 施主体が県レベルの施策の情報不足(ワクチン 配布・接種情報など)、メディア発先行情報の 正誤判断、等が挙げられると説明された。

(5)「諫早医師会インフルエンザ流行調査」

諫早医師会の小野靖彦理事より、諫早医師会 におけるインフルエンザ流行調査について報告 があった。

諫早医師会では、平成15 年よりインフルエ ンザ流行調査を行っており、平成21 年度は85 医療機関が調査に参加し、諫早医師会の流行状 況を正確に捉えていると報告があった。

調査の方法として、「医療機関は、患者ある いは患者の保護者の同意を得て、性別、年齢、 住所(町名まで)、発症日、診断日、診断名、 保育所・幼稚園・学校名とクラスを記入した表 をFAX で医師会に送信し、医師会事務局は、 正午までに送られたデータを確認しながらエク セルに入力し、データを担当理事にメールで送 っている。午後2 時までに日報を作成し、医師 会から午後2 〜 3 時頃にメールとFAX で会員 に報告している。」と報告があった。

また、新潟大学公衆衛生教室と連携し、1 週 間毎に型別・年齢別の感謝発生数をグラフ化 し、患者発生マップを作成していると説明があ り、この調査結果は、諫早市教育委員会、諫早 市健康福祉センター、長崎県中央保健所、諫早 ケーブルテレビ、諫早市歯科医師会に提供さ れ、諫早ケーブルテレビではインフルエンザ流 行状況と患者発生マップを放送して市民に情報 提供を行う等、諫早の状況を共有するシステム が整備されていると報告された。

(2 日目:平成22 年2 月14 日(日))

V「医療のIT 化、その先にあるもの−光と影−」

(1)「緩和ケアのための地域プロジェクトにお けるIT の活用」

鶴岡地区医師会の土田兼史副会長より、緩和 ケアのための地域プロジェクトにおけるIT の 活用について報告があった。

山形県鶴岡三川地区は、平成19 年度厚生労 働科学研究がん対策のための戦略研究における 「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」の 研究対象地域に選定され、緩和ケアの普及を目 指した様々な取り組みが行われていると説明が あり、本プロジェクトの内容等について報告が 行われた。

本プロジェクトにおいては、医療連携型の電 子カルテである「Net4U」が活用されていると説明があり、Net4U を利用することで、介入 患者の退院カンファレンスシート、退院サマ リ、往診時・訪問時の所見、処方等を、在宅主 治医、訪問看護師、病院の緩和ケアチーム等と の間で共有することで、在宅緩和ケアの普及に 貢献できていると説明があった。

(2)「自作ソフトとの連携による日医特定健康 診査システムの活用事例」

高崎市医師会の有賀長規副会長より、自作ソ フトとの連携による日医特定健康診査システム の活用事例について報告があった。

はじめに、「日医特定健診診査システムは、 日医標準レセプトソフトとの連携機能を備え、 クライアント・サーバー型の運用がサポートさ れる等、優れた特性を持っているが、ソフトの 操作性、利便性の部分では、未実装の機能も残 っている。」と発言があり、有賀先生がファイ ルメーカーPro を使用して自作した補完ソフト の内容等について報告があった。

補完ソフトの機能として、1)請求明細書の印 刷、2)データ整合性チェック、3)FD ラベル/ 媒体送付書の印刷、4)検査結果データのインポ ート、5)QR コードによる受診券情報自動入 力、6)マスタ自動設定ツール、7)検診結果履歴 の時系列表示・結果表出力・ファイル出力、8)事業所健診データのインポート、等が実装され ていると説明があった。

(3)「自動化した健診の新しいかたち 自動健 診システム『健診オートボーイ』」

佐世保市医師会の福田俊郎会長より、自動健 診システム「健診オートボーイ」について報告 があった。

福田先生が所属する福田外科病院では、健康 診断の自動化をコンセプトとして、1)スピーデ ィーにデータの自動入力が可能か、2)多人数の 各種健診に対応できるか、3)健診結果の異常値 を病名として自動表示でいないか、4)自動化す ることでよりコスト削減と省力化ができるか、 5)電子ファイリングして健診結果の報告と請求 等の一元管理、等を目標に、自動健診システム 「健診オートボーイ」を開発していると説明があ り、本システムの内容等について報告があった。

健診オートボーイでは、全ての検査機器、測 定機器から数値データの自動取り込みを可能と するため、RS232C 出力端子からデータを取り 込み、中継機器を通してネットワークデータを 健診サーバーへ登録し、数値データに基づき異 常判定、病名、所見を自動出力する機能を実装 していると説明があり、データの自動入力によ り、人手をかけることなく多人数に対応が可能 となり、また病名、所見も自動で出力されるた め見落としや入力ミスもなくなったと報告があ った。

(4)「『岐阜県医師会ソフトGMS』日常診療・ 診察におけるIT の利用・活用」

岐阜県医師会の川出靖彦副会長より、岐阜県 医師会ソフトGMS(岐阜メディカルステーシ ョン)について報告があった。

岐阜県医師会では、平成14 年度から始まっ た医療機能分化推進事業により、予約及び情報 提供書の手書きとFAX 利用による病診連携シ ステムづくりを開始し、その後、IT 利用の病 診連携システムの開発も行っていると報告があ り、平成20 年度には、本システムを日常診療 に役立つ総合的な診療支援システムとして発展 させるよう「Gifu Medical Station」と名称を 変え、様々な医療・診療情報等の収集閲覧も簡 単に行えるよう取り組んでいるところであると 説明があった。

終わりに、今後、他県の医師会員にも本ソフ トを提供し、ともに協力し発展させていきたい と考えていると意見された。

(5)「日常診療におけるIT の活用」

東京都医師会の大橋克洋理事より、日常診療 におけるIT の活用として報告があった。

はじめに、「私の日常診療に今やなくてはな らないものは「電子カルテ」と断言して良い。」 と発言があり、大橋先生が開発改良を重ねている「電子カルテNOA」の概要等について報告 があった。

電子カルテNOA は、1)診療中のいろいろな 処理が省略化される。2)患者の概略をページめ くりすることなく一目で把握できる。3)断片的 なキーワードでも目的のカルテを検索できる。 4)これらにより診療中のストレスを大きく減ら すことができる。等を目的に開発・改良を行っ ていると説明があり、世の中の医療現場で少し でも役立てていただければと、昨年よりオープ ンソースとして誰でも自由に使えるよう公開し ていると述べられた。

(6)「クラウドコンピューティングと医療情報 システム」

飛岡内科の飛岡宏先生より、クラウドコンピ ューティングと医療情報システムについて報告 があった。

クラウドコンピューティングとは、ネットワ ーク(インターネット)上に存在するサーバー が提供するサービスを、それらのサーバー群を 意識することなく利用できるコンピューティン グ形態を表す言葉となっている。

飛岡先生より、クラウド化を行う目的とし て、1)ランニングコストの抑制、2)操作・業務 の広域化(社外・在宅でも同じ仕事ができる)、 3)障害に強いシステム(端末が壊れても、別の 端末で対応可能)、等が挙げられると説明があ り、クラウドコンピューティングの仕組みを活 用し、情報共有領域を作ることができれば、在 宅医療や診診連携、病診連携を効果的に機能さ せることが可能となると見解が述べられた。

特別企画

(1)「レセプトオンライン請求義務化の国の 動き」

日本医師会総合政策研究機構主任研究員の 上野智明先生より、レセプトオンライン請求義 務化の国の動向について報告があった。

レセプト電算処理システム年度別普及状況が 国から発表される際、レセプト件数ベースでの 発表が多いが、本来であれば医療機関ベースで の発表が現実的であると発言があり、それぞれ のデータの違いについて説明があった。

平成21 年12 月末現在における、レセプト件 数ベースでの発表では、病院が95.6 %、診療 所が61.1 %、全体70.3 %となっているのに対 し、医療機関ベースでは、病院が90.5 %、診 療所が48.7 %、全体52.5 %と、かなりの差が 出ることが説明された。

また、レセプトオンライン請求義務化から電 子請求義務化となった経緯について説明される とともに、医療のIT 化に関する国の動きとして 「新IT 戦略素案骨子」の概要の説明があった。

(2)「レセプトオンライン化及びその義務化 に係る法的論点について」

日本医師会総合政策研究機構主席研究員の 尾崎孝良弁護士より、レセプトオンライン化及 びその義務化に係る法的論点について報告があ った。

レセプトオンライン義務化を巡って訴訟が提 起される等、その法的課題が論点となってお り、その主たる争点は「職業選択の自由(憲法 22 条1 項)」から導かれる「営業の自由」とな るが、営業の自由は経済的自由権といわれ、思 想信条の自由や言論の自由のような精神的自由 権よりは価値の低い権利と解されていると説明 があり、このため、営業の自由に対して、合理 的な範囲で法律で一定の制限をかけることは許 されているとして、医療提供者側からかような 主張をすることは「地雷」を踏むに等しいとの 見解が述べられた。

よって、医療における「営業の自由」につい ては、むしろ人権を制約する側に立って、自由 を抑制しつつも公平性を図るという立場にある ことを再認識する必要があり、かかる観点から 「行政的による解決」が望ましい領域であると 考えるとして意見された。

(3)「レセプトオンライン請求のためのセキ ュリティ対策『医療情報システムの安全 管理に関するガイドライン』を分かりや すく」

富士通FOM 中四国支店松山営業所サブマネ ージャーの山下さやか氏より、医療情報システ ムの安全管理に関するガイドラインに基づき説 明があった。

はじめに、各医療機関における情報の取り扱 い状況がどのようになっているかを確認するた めのセルフチェックが行われ、各医療機関にお いてどの程度情報漏洩の危険性を呈しているか という解説が行われた。

また、全国で報道されている医療機関による 情報漏洩の事例が報告され、医療機関におい て情報を守らなければならないという意識の低 下は、セキュリティ被害の“加害者”となる危 険性をもっていることであると強調して意見さ れた。

情報漏洩になりうる危険性として、USB メ モリからのウイルス侵入やWEB サイトからの ウイルス感染、パソコンを廃棄する際の注意点 等について説明があり、医療機関においては、 最悪の事態を予測したリスク対策として、規約 を作成し対応策を整備するとともに、研究会の 実施や誓約書等の整備等、安全管理責任は自身 にあることを念頭に置いた対策が非常に重要で あると説明があった。

特別講演

「医療のIT 化、その先にあるもの」

東京大学大学院情報学環准教授・一般社団 法人日本医療情報学会長の山本龍一先生より、 「医療のIT 化、その先にあるもの」と題した講 演が行われた。

はじめに、「医療のIT 化は我が国では1960 年代に始まり、現在まで紆余曲折を経て進めら れているが、IT 化の速度や達成度は見方によ って異なっている。」と述べられ、IT 化の学術 的研究や行政によるIT 化施策にも目的が明確 で達成度も明らかなIT 化もあれば、目的が曖 昧で、その結果として当然ではあるが評価も曖 昧なものもあると意見があった。

このような状況を鑑み、山本先生が会長を務 める日本医療情報学会は、「医療情報学に関す る研究・教育、技術向上その他の社会応用の推 進のために、会員相互の交流を図り医学及び医 療の進歩向上に貢献することを目的に運営を行 っていると説明があり、現在、本学会は、会員 数が3,400 人であり、医療情報技師育成部会や 医療情報総合戦略研究部会等により、情報パラ ダイムシフトへの対応と促進などを責務とする 医療情報に関する専門職の育成や医学情報学に 関する研究・教育研修活動の助成等を行ってい ると報告があった。

また、沖縄県浦添市で展開されている「3 省 連携健康情報活用基盤実証事業」についても紹 介があり、当該事業等を「新世代セットワーク を活用したアプリケーション」と述べ、誰もが 生涯を通じた健康情報をもてる仕組みや、医師 の偏在に起因する医療格差の解消、在宅医療の 充実や医師の就業改善・教育充実が、今後図ら れていくことに期待したいと意見された。

日医総研からの報告

(1)「日レセの現状報告」

日本医師会総合政策研究機構主任研究員の 上野智明先生より、日レセの現状について報告 があった。

はじめに、日医標準レセプトソフトの稼働状 況について、2010 年1 月15 日現在で9,238 施 設(全国レセコン利用医療機関に占める割合 9.3 %)となっていると報告があり、これは、 2006 年5 月23 日の日医記者会見において、 2011 年までに日レセ利用医療機関を1 万ユー ザーに拡大するとした目標までもう少しである と意見された。

また、日レセの出現により、レセコンの市場 価格が大幅に下落したことや、電子カルテの開 発が活発となり、新しく開発される電子カルテ の多くがORCA 連動型電子カルテとなってき ているとして、日レセの波及的な効果についても説明があった。

おわりに、日本医師会が今後も厚生労働省等 に対し、公正な医療政策の提言を行っていくた めには、日レセを利用した定点調査研究事業の 拡大は重要な取り組みの一つであると説明があ り、日レセ導入医療機関の定点調査研究事業へ の参加協力を是非お願いしたいと述べられた。

(2)認証局の本格的稼働について

日本医師会総合政策研究機構主任研究員の 矢野一博先生より、日医認証局の稼働状況につ いて報告があった。

日医認証局は、平成21 年3 月末に電子証明 書の発行環境の整備(審査体制、IC カードの 発行システムの整備)が完了しており、平成 21年4 月より、保健医療福祉分野PKI(HPKI) 認証局証明書ポリシ準拠性監査が実施され、正 式にHPKI として厚生労働省認証局と接続する ことが可能となっていると説明があった。

現在では、普及に向けた取り組みが行われて いるところであるとして、沖縄県浦添市で展開 されている3 省連携健康情報活用基盤実証事業 による電子紹介状にて、日医認証局が活用され ていると報告があった。

今後は、治験契約文書の電子交換や診断書の 電子的送付に係る実証実験を経て、さまざまな 分野による認証局の活用が期待できると述べら れた。