理事 平安 明
昨年暮れに平成22 年度診療報酬の改定率が 発表された。ネットで+ 0.19 %、本体部分が+ 1.55 %(医科+ 1.74 %、歯科+ 2.09 %、調 剤+ 0.52 %)と微増で決着した形だ。医科に ついては急性期入院医療に概ね4,000 億円程度 を配分することとなっており、再診料や診療科 間の配分の見直しを含め従来以上に大幅な配分 の見直しを行い、救急、産科、小児科、外科の 充実等を図るとのことである。マイナスとなら なかっただけマシという意見もあるが、全ての 領域をカバーできる訳ではないので決して喜べ る内容とは言えない。この原稿が掲載される頃 には具体的な事項が見えてきているかもしれな いが、今のところ何がどうなるか不明である。
個別指導で指摘される事項を取り上げ解説し ていくことをこのコーナーの主な目的としてい るが、ひとつご理解いただきたいのは、ここで 解説していることは今現在の指導において通用し得ることであり、今後の医療保険政策の動き 次第で指導内容も変わり得るということであ る。以前は指摘されなかったことを指導された り、逆に以前指摘されたのに今回は何も言われ なかったり、といったことが起こり得る。例え ば、外来管理加算の時間要件は今のところ指導 の対象となるが、次期改定で見直しされる可能 性が高く、そうなると指導の対象ではなくなる かもしれない。医科点数表の解釈(いわゆる青 本)や保険医療機関及び保険医療養担当規則 (いわゆる療担)等の内容が変わればそれに応 じて指導内容も変わり得るということである。 医療の本筋とは大きくかけ離れているが、保険 診療は限りある財源の中でやりくりしているも のなので、医療提供側の理屈だけではどうにも ならないことがある。
前回は保険診療の流れや保険指導の種類等を 解説したが、今回は第1 回目に引き続き、個別 指導の際指摘される事項についていくつか取り 上げ解説したい。
T.総論的事項
○保険証の確認が定期的に行われているか。
最低でも月一回、出来るだけ受診のたびに確 認することがのぞましい。資格喪失等の見落と しがないように。
○職員の健康診断を保険診療として行ってい ないか。
健康診断は、保険診療として行ってはならな い(療担第20 条)。外部委託の場合は特に問題 ないが、自院で行う場合は、保険外診療として 全て自費で行わなければいけない。自費分をど のように徴収するかは医療機関毎に工夫があっ てよいと考えるが、基本的に健診が保険適用外 であることは間違えないでほしい。
○実費徴収分を分かりやすく院内掲示してあ るか。
保険診療上認められている実費徴収分につい て、内容が分かるように院内に掲示しておく必 要がある。(医科点数表の解釈平成20 年4 月版 P838 〜 840 参照)
但し、青本に記載していないものの実費徴収 に関しては基本的に認められておらず、“保険 医療機関で行うこととしては不適切なので改善 するように”、といった指導を受けることがあ る。実費徴収が可能かどうかの解釈が難しい場 合は、直接九州厚生局沖縄事務所に確認する か、県医師会まで問い合わせていただくとよい でしょう。
○請求までの医事業務の確認。
いわゆる自動算定になっていないか。医学管理料の算定等で医事部門のみの判断で一律に請 求を行ういわゆる「自動算定」は指導側が最も 気にする行為の一つである。
患者が窓口に受診してから最終的に自己負担 分を支払って帰るまでの流れが保険診療上適切 かどうか一度確認しておいた方がよい。
原則的には、医師が算定要件を満たしている としたものについて医事部門は請求することに なる。つまり医師が行った医療行為がカルテか らも見てとれ、それに基づいて請求が行われて いることが前提である。指導の場では指導官ら は、担当医が請求内容を知らないはずがない、 との認識でチェックしてくるため、医師も保険 請求の流れを把握しておかないといけない。医 事部門でカルテをみて請求可能な医学管理料等 があれば、医師に診療内容の確認をした上で請 求してよいかどうかを判断している場合もあろ うが、何れにしても、医師の判断とその根拠と なるカルテ記載が重要で、医事部門の判断のみ で請求に挙げることは不適切とみなされる。
○レセプトの最終チェックは医師(院長、主 治医等)が行っているか。
先に述べたように、診療報酬の請求は医師の 判断によって行われるのが原則であり、審査支 払機関にレセプトを提出する前に、主治医自ら (あるいは管理者である院長等)がレセプトの 点検を行うことが求められている。
医事部門が最終チェックでは、不適切と見な される。
U.診療に係る事項
○外来管理加算について
外来管理加算は、処置、リハビリ等行わずに 計画的な医学管理を行った場合に算定できるも のである。創傷処置等を実施した場合に誤って 算定するケースがあるので注意してほしい。
○処置等
基本診療料に含まれ別に算定できない耳処 置、鼻処置を誤って算定しているケースがあ る。基本診療料に含まれることになっている簡 単な処置については、医科点数表の解釈平成 20 年4 月版P454 を参照のこと。
○悪性腫瘍特異物質治療管理料について。
上記医学管理料は、悪性腫瘍であると既に確 定診断がされた患者について腫瘍マーカー検査 を行い、当該検査の結果に基づいて計画的な治 療管理を行った場合に限り算定できるものとな っている。
算定のための要件として、腫瘍マーカー検査 の結果及び治療計画の要点をカルテに記載する ことが求められており、腫瘍マーカー検査を行 っただけでは算定できないので注意してほしい。
○ビタミン剤の投与は適切か。
内服、注射剤ともにビタミンC、B 群製剤は 使用の都度、その必要性や効果についてカルテ に記載する必要がある。
平成20 年改定の際から縛りが厳しくなって おり、青本にも明記されているため、指導の際 はカルテに必要事項の記載がないと診療報酬の 返還となる。
審査支払機関での審査ではレセプトに傷病名 とコメントがあれば査定とはならないが、個別 指導ではカルテに必要事項の記載がないと不十 分と見なされるので、注意が必要である。ビタ ミン剤については長期漫然投与と見なされるケ ースも散見され、使用の際は必要事項のカルテ への記載を忘れないようにしてほしい。
○リハビリやデイケア実施前の診察がなされ ているか。
診療報酬点数は大きく基本診療料と特掲診療 料に分けられている。基本診療料が基本的な医 療行為に対する費用であるのに対し、特掲診療 料は基本診療料に含ませることが妥当でない特 別の診療行為に対しての費用として算定するこ ととなっている。従って一人の患者に対する診 療報酬は、基本診療料と特掲診療料を合算した 額となる。特掲診療料は基本診療料に加えて特 殊な医療行為を行った場合に算定できるもの で、特掲診療料だけの請求は特に規定されてい る場合を除いてあり得ないこととなる。
リハビリやデイケアも診療報酬点数表上、特 掲診療料に含まれており、前提として基本診療 料(初診、再診料等)を算定することになる。 基本診療料の算定は医師による対面診察が基本 にあることから、リハビリやデイケアの際にも 保険請求のルール上は医師の診察が要求される こととなる。
継続した利用者が多いことから、利用者の利 便性のためにと診察を省いたりすることは算定 要件上も療担規則上も問題があることとなる。大規模の施設等は現実的に対応が難しい面もあ ろうが何とか工夫して保険請求上の問題がない ようにしてほしい。
○入院基本料等の算定上の留意点
入院基本料を算定するために必要な4 つの医 療提供体制が出来ているか。
1)入院診療計画書---必ず患者に交付。写しを カルテに添付。様式に必要事項が含まれてい るかの確認(医師、看護師、その他必要職種 の記載、チームで関わっていることが必要。 本人または家族の署名欄)。入院後7 日以内 に計画書に沿って患者に説明。
・「主治医以外の担当者名」が記載されてい ないことがある。
・本人・家族の署名の漏れ。 等に注意。
2)院内感染防止対策---院内感染対策委員会の設 置、月一回程度の開催、議事録の作成。週一 回程度の感染情報レポートの作成。職員に対 する手洗い励行、必要な消毒機材の設置など。
・議事録がなく、開催されているか確認でき ないことがある。
・感染情報レポートが作成されていないケ ース。
3)医療安全管理体制---安全管理指針の策定。 医療事故・インシデント報告制度の整備。委 員会の設置、月一回程度の開催。職員への研 修を年2 回程度実施。
・安全管理指針が文書として作成されている こと。
・研修会に参加した職員名簿等。
4)褥瘡対策---専任医師、看護師等による褥瘡 対策チームの設置。日常生活自立度が低い入 院患者について「褥層に関する危険因子評価 表」に沿って危険因子の評価がされている。
・チームの構成メンバーや活動内容が分かるような資料。
・評価表等には日付と評価者のサインを。
病院又は有床診療所にとって、これは非常に 重要である。これが1 つでも欠けていると算定 要件を満たしていないとして、入院基本料の返 還につながる可能性があるので、日頃からこれ らのシステムがうまく機能しているかどうか確 認してほしい。
再々確認となるが、保険医療機関に対する個 別指導は保険請求上のルールを満たしているか の確認と指導を行うもので、医療水準や質、内 容を検証することが目的ではない。健康保険法 等に則り保険者の視点に立った指導が行われる ので、どうしても無駄な投薬や検査が行われて いないか、漫然とした治療が行われていない か、といった“医療機関性悪説”に立った指導 が行われる可能性を孕んでいる。
医療保険担当理事の主な役割は、実際に個別 指導に立ち会い、指導が適切に行われたかを見 届けることである。もっと端的に言うと、根拠 もなく医療機関が不正を行ったかのような不適 切な指導が行われることがないように監視する ことである。
実際には当県ではそのようなことはなく、丁 寧で適切な指導が行われていると言っていい。 一方で、稀にではあるが医療機関側に保険診療 の理解が不十分と言わざるを得ないところもあ り、出来るだけ日頃から保険請求に関する情報 収集等を医事担当者のみでなく医師も積極的に 行ってほしいと感じることがある。
保険請求のルールづくりには政治や経済が大 きく関わっており、今回の新政権下で保険医療 がどのように動いていくのか、会員の皆様も大 きな関心を持っていることと思う。
ここで書かせていただいていることは、あく まで保険請求上参考になると思われる事項であ り、平成20 年4 月版医科点数表の解釈をもと に指導を行っている九州厚生局沖縄事務所等の 実際の指摘事項を参考としているため、今後の 診療報酬改正や厚生労働省の様々な通知等で内 容は変化していくと思われる。最終的には其々 の医療機関で判断すべきものだが、最新の通知 等は厚労省や厚生局のHP、あるいは医師会の HP でも掲載しており、随時ダウンロード可能 なため、定期的に最新情報を確認するよう心掛 けていただきたいと思う。
医事担当者のみならず、医師(管理者、院 長、主治医等)も保険診療の責任者として必要 な情報は把握しておかれることが望ましい。