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中部管内小児科おける新型インフルエンザ対策

小濱守安

沖縄県立中部病院小児科 小濱 守安、比屋根 真彦
内科 遠藤 和郎
中頭病院小児科 桑江 涼子、砂川 信
中部徳洲会病院 小児科 新里 勇二

流行の経緯

2009 年4 月24 日にメキシコでブタインフル エンザ患者が多数発生し、4 日後にはWHO が フェーズ4 を発表、2 日後にはフェーズ5 に変 更した。本邦でも5 月8 日には米国から帰国し た高校生の感染が確認され、5 月16 日には神 戸で国内初の感染を確認し、関西地域で大流行 となった(図1)。

図1

図1.世界・日本・沖縄県・中部地区の変遷

このような状況の中で5 月11 日、中部福祉 保健所、中部地区医師会担当者、救急告示病 院、中部地区薬剤師会、中部病院内科遠藤和郎 感染症内科医師が集まり、新型インフルエンザ 情報の共有、医療体制の整備を図るために、第 1 回中部管内新型インフルエンザ関係機関実務 者会議を開催した(図1)。

中部病院では5 月16 日より、また6 月8 日に は中部管内の救急告示3 病院(中頭病院、中部 徳洲会病院、ハートライフ病院)で発熱外来を 輪番制で開始した。6/12 にはWHO がフェー ズ6 を発表し、パンデミックと認定した。この ような中で6 月22 日に中部管内小児救急調整 会議を中部福祉保健所で開催した。中部福祉保 健所長、中部地区医師会小児救急担当、救急告 示病院小児科部長、中部病院感染症科医師が出 席した。

図2

図2.沖縄県・中部地区の変遷

中部管内各救急告示病院の小児科医師数は限 られており、きびしい勤務状況であることを確 認し、インフルエンザ患者の救急外来への殺到 は中部管内の小児救急の崩壊につながる。流行 時に救急外来への患者の殺到を回避する対策と して、(1)時間内にかかりつけ医を受診する啓 発、(2)開業医院の診療時間の延長ができない か、(3)電話相談の設置、(4)学校(養護教諭 など)への病院受診方法の啓発等が提案され た。流行時の各救急告示病院の役割分担とし て、(1)中部地区医師会は小児科開業医への受 診時間の変更や住民への啓発、電話相談体制な どを検討していく。(2)中頭病院、ハートライ フ病院、中部徳洲会病院の各救急告示病院は、 中等症以下の患者の受け入れを行う。(3)中部 病院は中部管内で発生した重症患者の受け入れを重点的に行う。(4)市町村には保育所、小中 学校への啓発や在宅看護の取り組みなどを検討 してもらう。(5)保健所は各関係機関との調整 を図り、また県対策本部や教育長などへの働き かけを行うこととした。

このような状況下で8 月15 日最初の死亡症 例が沖縄県で発生し、以後9/5 までに8 例の重 症患者が発生した。また8 月24 日には小児の 入院可能施設の小児科責任者が南部医療センタ ーに集まり、インフルエンザ小児医療情報ネッ トワークが構築された。

中部管内においては、8 月17 日発熱、呼吸 苦で近医を受診、肺炎と診断し中部徳洲会病院 に入院となった13 歳小児が急速に呼吸障害が 進行し、中部病院へ紹介となった。児は新型イ ンフルエンザによる肺炎と診断し、中部病院で 挿管後3 日間のICU 管理を要した。また中頭 病院で新型インフルエンザの10 カ月乳児が急 速に呼吸条件が悪化し、南部医療センターへ搬 送しECMO 治療を要し救命された。

中部地区CME におけるインフルエンザ症例 の共有

中部地区CME は知念小児科医院の知念正雄 先生を代表世話人として、1993 年12 月7 日に 第1 回を開催し、以後2 カ月毎に開催している 勤務医と開業医の研修会である。中部地区での インフルエンザ流行状況と対策や問題点を検討 する目的で、10 月13 日の第96 回CME におい て、救急告示病院における新型インフルエンザ の状況、現状を報告し議論した。その経過を報 告する。演題は以下の通りである。

1)中部徳洲会病院におけるインフルエンザ流 行の状況。演者:新里勇二先生

2)中頭病院を受診した新型インフルエンザ患 者の検討について。演者:桑江涼子先生

3)中部病院におけるインフルエンザ流行。演 者:比屋根真彦先生

CME の出席者は中部地区の小児科開業の諸 先生方に加え南部地域からも参加してくださっ た。また中部福祉保健所より松野先生にもご参 加いただきコメントをいただいた。

1)中部徳洲会病院におけるインフルエンザ流 行の状況

新里勇二先生は、最初に新型インフルエンザ 流行の変遷をメキシコでの発生から経時的に解 説(図1、2)し、沖縄県内の流行状況と対応 を示した。中部徳洲会病院では6 月より発熱外 来を設置し、内科、救急科、外科、麻酔科が輪 番で対応した。小児に関しては日勤帯は小児科 医が対応した。中部徳洲会病院の発熱外来受診 者数と迅速A 陽性者数を示す(図3)。8 月第1 週より急激にインフルエンザ症例が増加し、9 月には収束したように見える。8 月の中部地区 管内の迅速A 陽性患者数では、中部病院190 人、中頭病院638 人、ハートライフ病院210 人、949 人であった。小児の入院症例は10 例 あり5 例が喘息を合併していた。

図3

図3.当院の新型インフルエンザ患者推移

2)中頭病院を受診した新型インフルエンザ患 者の検討について

桑江涼子先生は、中頭病院におけるインフル エンザ関連データをまとめ、2009 年4 月1 日か ら9 月30 日までに、インフルエンザ迅速検査 数3,708 件で陽性率28.3 %であった。A 型陽 性470 人中入院は3.2 %、B 型陽性580 人中入 院はなかった(図4)。検査を行った患者の入院 率は9.5 %であり、その中から小児4 例を提示 していただいた。特に1 例は急速に進行し、南 部医療センターに搬送しECMO 管理を行い救 命できた1 例であった。

図4

図4.インフルエンザ関連データ(2009/4/1 〜 2009/9/30)

3)中部病院におけるインフルエンザ流行

比屋根真彦先生は、最初に中部病院の救急室 における小児患者の状況を説明し、7 月〜 9 月 の3 ヶ月間に361 人の小児が入院し15 人が ICU 管理となった。インフルエンザA 型による 入院は19 人(生後26 日から15 歳)であった。 9 例が酸素投与を要し、6 例に喘息の既往があ った。けいれんを合併したものが4 例で人工換 気を要したのは1 例であった。外来および救急 患者も増加はみられなかった。

まとめ

8 月中旬の中部地域で流行時に病院機能が左 右される様な受診患者の増加がみられなかった のは各救急告示病院、開業医院へ効率よく分散 されていたためと考えられる。5 月より開催し てきた実務者会議や、6 月に開催した、中部管 内小児救急調整会議でインフルエンザ流行への 各救急病院、開業医、地域への働きかけなど対 応と役割を再確認したことが大きいのではない かと考えられる。インフルエンザ小児医療情報 ネットワークが構築されたことにより、地域と しての搬送システムが明確になった。8 月末に は南部医療センター小児ICU 満床時に南部医 療センターに依頼のあった重症溺水症例を中部 病院に搬送し管理を行い、また中頭病院での ECMO 適応症例の搬送など、医療情報ネット ワークは有効に運用された。しかし8 月下旬に 発生した集中的な重症患者の発生が全県的に発 生した場合の対応は未解決である。今後も保健 所を中心とした管内の実務者会議、小児救急調 整会議を開催し、情報の共有、協力体制を密に していく必要がある。

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