琉球大学医学部病態解析医科学講座育成分野
金城紀子、比嘉 睦、太田孝男
【要旨】
小児期の慢性関節炎の代表的疾患である若年性特発性関節炎(Juvenile idiopathic arthritis : JIA)は、その疾患概念や治療に関して、昨今の進歩は目覚ましものが ある。臨床病型は成人の関節リウマチ(Rheumatoid arthritis : RA)と異なり、近 年使用されている国際リウマチ学会(ILAR)分類で7 型に分かれており多彩であ る。さらに診断に際しては、他の自己免疫性疾患や悪性疾患(特に白血病)、自己炎 症性疾患等の鑑別が重要であり、診断確定には慎重でなければならない。
治療に関しては、成人同様に非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)とメトトレキ サート(MTX)の併用療法が関節予後に重要な役割を担っている。さらにTNF α 遮断薬や抗IL-6 受容体モノクローナル抗体の開発に伴いJIA においても適応され るようになってきたが、その適応や使用の際の注意点については、十分な理解が必 要である。
JIA の診断・治療について、当科で経験した患者背景をまとめて報告する。
【はじめに】
若年性特発性関節炎(Juvenile idiopathic arthritis : JIA)は、小児期リウマチ性疾患の 中では最も頻度が高い慢性炎症性疾患の代表で ある。さらに、成長期にある小児期において確 実に身体的機能を障害し、「こころの発達」に も大きな影響を及ぼす難治性疾患である。その 頻度は、我が国では小児人口10 万人当たり10 〜 15 人であり、欧米の頻度と変わりない1)。沖 縄県では、小児慢性特定疾患申請者数から推定 すると2005 年の調査では、約30 人の患者が存 在すると考えられた。近年、リウマチ学の発展 による治療の進歩が目覚ましく、成人の関節リ ウマチ(Rheumatoid arthritis : RA)のみな らずJIA においてもその選択の幅が広がってき た。しかし、その治療の成功の鍵は、診断がい かに正確であるかという事にかかっている。
ここでは、JIA の疾患概念と各臨床病型の特 徴とそれに応じた治療法について、自験例も含 めて報告する。
【小児慢性関節炎の分類の歴史】
16 歳未満に発症した原因不明の慢性関節炎 に対して、我が国では米国リウマチ学会 (A C R)が定義した「若年性関節リウマチ (Juvenile rheumatoid arthritis : JRA)」とい う呼称が長い間使用されてきた。定義としては 6 週間以上持続する特発性の関節炎で、臨床病 型は全身型、多関節型、少関節型の3 型であっ た。一方、欧州では3 ヶ月以上持続する慢性関 節炎を慢性関節炎(Juvenile chronic arthritis : JCA)と定義していたが、国際的に疾患概念 の混乱がみられたため、1997 年に国際リウマ チ学会(ILAR)と世界保健機構(WHO)から「若年性特発性関節炎: JIA」」を新しい用 語とする7 つのカテゴリーの分類基準が発表さ れた2)3)。現在では、我が国でもJ I A の ILAR/WHO 分類が使用されている4)5)。
【JIA のILAR 分類基準について】
1980 年代から小児の慢性関節炎に対しても メトトレキサート(MTX)少量パルス療法が 導入され、予後が大いに改善された事をきっか けに、1993 年に国際リウマチ学会(ILAR)は 小児リウマチ委員会を設置した。JRA とJCA との国際的統一を目的に、1997 年に若年性特 発性関節炎(JIA)の名称で統一し表1 のよう なILAR/WHO の分類案として発表した2)。
琉球大学医学部附属病院小児科において、 1995 年以降2009 年までにJRA またはJIA と 診断され経過を観察しえた23 人(男児10 人、 女児13 人)について、ILAR 分類で検討した。 患者内訳は、全身型6 人(男児5 人、女児1 人)、少関節型8 人(男児3 人、女児5 人)、リ ウマトイド因子(RF)陰性多関節型3 人(男 児2 人、女児1 人)、リウマトイド因子(RF) 陽性多関節型6 人(男児0 人、女児6 人)であ った。
【JIA の病型による治療チャート】
JIA の治療については、小児期で投与の認め られている非ステロイド系抗炎症剤(イブプロ フェン、ナキロキセン)に加えて、関節予後を 改善するためにはMTX の少量パルス療法を発 症早期から導入するタイミングを逃さないこと が重要である。この事を踏まえて、2007 年に 日本小児リウマチ学会より「若年性関節リウマ チの初期治療の手引き」が報告された1)。さら に、この手引きは、病型に応じた治療チャート が示されており、初期治療の選択に非常に有用 であると思われる。図1 に全身型と関節型にわ けた治療チャートを示す。
全身型JIA(s-JIA)の治療は、 ステロイド療法またはシクロスポ リン併用療法が標準的治療法とし て導入されてきた。またマクロフ ァージ活性化症候群(MAS)の 合併が特徴的であり、高サイトカ イン血症(サイトカインストーム) から汎血球減少をきたし播種性血 管内凝固に陥り重篤な症状を呈す る事がある。その治療としては、 大量ステロイド療法とシクロスポ リン療法やその他の免疫抑制療法 が必要な場合があるが、その迅速 な診断が重要である。
s-JIA では、反復する再燃の度 に大量のステロイドを要する症例 やステロイドの減量が困難な症例では、その副 作用(成長障害、骨粗鬆症、緑内障や白内障 等)が重大なQOL の低下を招いている。近年、 生物学的製剤の登場によって、より根本治療に 近い抗サイトカイン療法が実現した。この治療 の変革が一部のs-JIA の患児のステロイドから の離脱を可能とした。
関節型JIA の治療には、非ステロイド系抗炎 症薬(NDAID)が基本薬とされてきたが、近 年MTX 少量パルス療法が国際的標準治療法として導入された。MTX は滑膜炎に対する著明 な抑制作用を有しており、小児の関節型JIA に おいてもRA 同様にアンカードラッグである。 NSAID では無効と判断された場合、早期に併 用する事で関節予後を改善する可能性が高い。
【当科におけるJIA 患者の背景】
当科で経験した症例についての初期治療およ び背景を検討した。
6 人のs-JIA に対してはステロイド療法が主 軸であるが、1 例を除きほとんどの症例がステ ロイド療法(またはシクロスポリン療法併用) で寛解を維持しており、現在のところ生物学的 製剤使用に至った症例はいなかった。平均発症 年齢は1 例を除き、ほとんどが3 歳以下の幼児 期であった。再燃は全例で認められているが、 関節型に比較すると寛解に至る可能性が高いタ イプと言える。しかしながら、1 例にマクロフ ァージ活性化症候群(MAS)の合併が再燃時 に認められ、高サイトカイン血症による急激な 汎血球減少をきたし播種性血管内凝固(DIC) に至った。血球減少早期に、速やかに大量ステ ロイド療法とシクロスポリン療法を併用するこ とで症状の改善を認めた。生物学的製剤(特に 抗IL-6 モノクローナル抗体)を使用している 場合、炎症反応(CRP など)が抑制されてい るためMAS を修飾してしまうことがある。全 身型JIA に生物学的製剤を使用する際には、末 梢血血球数の変動に対して注意深い観察が必要 であると警告されている。
関節型JIA は、平均発症年齢は少関節型は7.3 歳、多関節型は8 歳であった。し かし、多関節型の中でもRF 陽性 型で発症年齢は高い傾向にあった。
治療については、RF に関わら ずほとんどの症例でNSAID + MTX 少量パルス療法が施行され ている。当科のMTX の平均最大 投与量は8mg/m2/week(max 15mg/week)であった。成人と 異なり、小児期のMTX の代謝は 速く血中濃度が上昇しにくい事が わかっている。成人のMax dose が8mg/week であるのに対して、 小児の投与量は10mg/m2/week まで認められており成人量を超え る事もしばしばである6)7)。(体重 30kg の小児の場合は、体表面積は約1.0m2 で あることからMTX=10mg/week となる)副作 用としては消化器症状、間質性肺炎や肝機能障 害等があるが、MTX 投与24 時間後に葉酸の予 防内服(3 〜 5mg/week)を行う事で、重篤な 副作用を認めた症例はいない。
生物学的製剤を使用した症例は、少関節型1 例、RF 陰性多関節型1 例、RF 陽性多関節型4 例であり、やはりRF 陽性のタイプは治療抵抗 性のため生物学的製剤の導入が多く、関節予後 が悪いことがうかがえる。
合併症と予後については、RF 陽性多関節型 の1 例で間質性肺炎の合併で死亡がみられた。 一方、約1 年以上の無治療の寛解に至った症例 は5 例あり、全身型に多くみられた。関節破壊 の進行の評価をLarsen 分類(Grade 0 〜 V) でみると、多関節型の中でも、RF 陽性型に進 行例(III)が多く、生物学的製剤の適応にな っていた。
【JIA の今後の治療展開と問題点】
生物学的製剤の導入は、今までの治療アルゴ リズムを一変させた。TNF α遮断薬(インフ リキシマブ、エタナルセプト、アダリムマブは 小児では治験中)については、MTX 不応例に 対しても著明な有効性を示しており8)、関節型 JIA の中でも関節予後が悪いRF 陽性多関節型 JIA では、中核になる治療法と思われる。ま た、抗IL-6 モノクローナル抗体製剤(トシリ ズマブ)については、特にs-JIA においてその発症病理はIL-6 システムの過剰反応が指摘さ れており、ステロイドに代わる治療として著明 な効果が認められている9)10)。
しかし、これらの治療法には重大な注意点が ある。TNF α遮断薬については、2009 年8 月 米食品医薬品局(FDA)が、若年者へ使用し た場合に悪性リンパ腫の発症頻度が増加すると の警告を発表し、今後日本における使用につい て注意が必要である。また、トシリズマブ使用 中にs-JIA にマクロファージ活性化症候群が合 併すると、潜在的に急速に進行した高サイトカ イン血症による播種性血管内凝固で重篤な症状 を呈することがある10)。そのため、トシリズマ ブ使用中は注意深い観察と迅速な対応が必要で ある事を肝に銘じなければならない。
【まとめ】
近年のリウマチ学は、ベッドサイド(臨床) とベンチ(基礎)が相互に影響し、速いテンポ でRA ・JIA の治療法の変革がもたらされてい る。さらに新しい診断・分類法により、予後を 考慮した的確な治療法の選択が可能になった。 一方、小児期は成人とは異なり、その治療法の 選択の幅は成人RA と比較するとまだ狭く、適 応についても慎重に検討しなければならない点 が多く残されている。
今後RA 同様にJIA の治療についても、関節 破壊が進行し機能低下をきたす事のないよう に、NSAID やステロイドの漫然とした使用を 避けるべきである。さらに、次の治療の導入の タイミングを逃さないように、生物学的製剤を 始めとした新しい治療法について理解を深める 努力が求められている。
<文献>
1)横田俊平,他.若年性特発性関節炎−初期診療の手引き.
日本小児科学会雑誌 2007, 111(8): 1103-1112.
2)Petty RE, et al. : Revision of the proposed
classification criteia for juvenile idiopathic arthritis. :
Durban, 1997. J Rheumatol 1998, 25(10): 1991-
1994.
3)Fink CW. Proposal for the development of
classificasion criteria for the idiopathic arthritis of childhood. J Rheumatol 1995, 22: 1566-1569.
4)武井修治.小児慢性関節炎の分類,治療選択,その評価.
臨床リウマチ 2003, 15(1): 38-43.
5)今中啓之.「若年性特発性関節炎の診断・分類基準」
の国際的な趨性と意義.
最新医学 2007,62(5): 14-20.
6)森 雅亮.関節型若年性特発性関節炎に対する国際的
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2007, 62(5): 61-65.
7)柏崎禎夫,他.慢性関節リウマチに対するL-377(メ
トトレキサートカプセル)の至適投与量検討試験.炎
症 1996, 16: 437-458.
8)Russo RA, et al. Clinical remission in patients with
systemic juvenile idiopathic arthritis with anti-tumor
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1082.
9)De Benedetti F, et al. Serum soluble interleukin 6
(IL-6) receptor and IL-6 / soluble IL-6 receptor
complex in systemic juvenile rheumatoid arthritis. J
Clin Invest 1994, 93: 2114-2119.
10)Shumpei Y, et al. Effcacy and safety of tocilizumab in
patients with systemic-onset juvenile idiopathic
arthritis. : a randomised double-blind,
placebo-controlled, withdrawal phase III trial. Lancet
2008, 371: 998-1006.
問題:若年性特発性関節炎に関する記載の中で 誤っているものを1 つ選んでください。
大動脈ステントグラフト治療の現況
問題:大動脈ステントグラフト治療について、 正しいものを選べ。
A(1,3,4), B(1,2), C(2,3) D(4 のみ), E(1-4 のすべて)
正解 E