医師であるという絆で結ば れることの重要性が、短期的 な有益性を超えた普遍的価値 としてあることをアピールし ていきたい。
Q1.今年4 月に福祉保健部保健衛生統括監に 就任されましたが、ご感想と今後の抱負を お聞かせください。
2 月ごろ、前任者の高江洲統括監(現宮古保 健所長)から「自分の後任はお前がやるよう に」との話があり、当時の伊波部長からも「是 非引き受けるように」との電話がありました。
正直なところ受けるべきか否かたいへん迷い ました。私は生まれ島のヤンバルで職務を全う したいとの強い希望で北部に赴任して一年目で あったこと、赴任後、以前までは関係が壊れて いた県立、医師会立の両病院関係が、大城北部 地区医師会長や大久保、諸喜田の両病院長の全 面的なご協力があり、月一回の情報交換会を持 つなど急速に関係性が改善していたこと。ま た、せっかく新しい体制に慣れつつある市町村 の関係者にご迷惑をかけてしまうし、年齢もも はや職責を全うするにはとりすぎていると考え たからでした。
一度は高江洲統括監にお断りしたのですが、 「断られても困る」といわれました。何人かの ヤンバルや医師会の先輩方に相談しました。皆 に「大変だと思うが、頑張るように」と励まさ れ、微力ではありますが、頑張ってみようかと 考えました。
せっかく県全体の保健医療の責任ある立場に 就くわけですから、どういった心構えで仕事を 進めていくべきかについて多くの関係者とざっ くばらんな意見交換をしました。皆さんが共通 して語ることは、主旨として次の三点であるこ とがわかりました。
・大学、県立などの公立や私立の病院、身近な 診療所あるいは歯科医院や薬局等、地域には 多様な医療機能が存在する。それぞれが自ら の果たすべき責任を果たしつつ、連携を強化 して、あたかもひとつの総合病院であるかの ように機能させ県民に貢献する。
・三つの研修医プログラムが、それぞれ切磋琢 磨するとともに連携し、日本一の人材育成地 域と評価されるようにする。
・全国の研究機関と積極的に交流し、治験やコ ホート研究等をすすめ医学の進歩に貢献でき るようにする。
おそらく沖縄県の多くの医療関係者が思い描 く共通の理念なのだと思いました。微力ではあ りますが、皆様方のこの強い思いを少しでも前 進させるよう日々の行政活動を行っていこうと 考えています。
Q2.県内での新型インフルエンザの感染の勢 いは止まることなく、増加の一途をたどり、 死亡例も発生するなど深刻な状態になっており、その対応に大変ご苦労されていると 推察されます。県でのインフルエンザ対策 の現状と予想されている第二波に向けての 今後の対応についてお聞かせ下さい。
4 月下旬のメキシコ発の豚インフルエンザ発 生の報道直後から、知事をトップとして対策に あたっています。最初に知事室に呼ばれたとき のことは鮮明に覚えています。知事をはじめと した幹部の皆様方は、どなたも相当険しい顔で した。
知事の質問は、今後想定される事態はどうい うことで、福祉保健部としてどういった対応策 を準備しているかといったことでした。
まず感染症法で規定され、国・県で準備して いる新型インフルエンザ対策の概要を説明し、 インフルエンザという病気の歴史、性質からす れば遅かれ早かれ沖縄でも流行が起こりますと 話しました。そのさい最も肝心なことは「流行 の阻止ではなく、社会機能をできるだけ健全に 維持しつつ、被害の最小化に努める」ことだと 思いますと説明しました。
幹部の皆さんはよく理解できたということで したので、部屋を出るため立ち上がって「失礼 します」とお辞儀をしたところ、知事から思い もしない言葉が発せられました。「顔が麻生総 理によく似ているな。君の話し方は人に安心を 与えるから頑張ってください。」予期せぬその 言葉にずっこけ、テーブルに頭をぶつけてしま い「ごつーん」と部屋に音が響き、一同大笑い になりました。
以後、知事は私や糸数班長で構成する対策班 を大いに信頼して任せてくれています。危機に 直面したトップリーダーのあるべき姿を見た思 いがしました。
米軍基地があり人的交流の活発な沖縄県は、 国内でも早く患者が確認される県ではとの大方 の見方に反して、最初の患者が発生したのは6 月29 日と遅くなりました。しかし、7 月後半 からあっという間に、全国に先行して流行が拡 大してしまいました。重症者が多数発生し、現 場の危機感と疲弊感が一気に進む事態になりま した。
その時期、何人かの人から「非常事態宣言」 をとの意見も寄せられました。実際、県幹部内 でそのことを検討しましたが、社会機能の健全 性が大きく損なわれることからその意見は採用 しませんでした。また、多くのマスコミの方か らは「どうして沖縄で流行したのか。流行を抑 えるため行政は何をするのか」といった批判的 な視点からの取材が多く寄せられました。特に 全国初の死亡例を発表したころはそれがピーク でした。
第一波は沖縄の医療の底力で乗り越えること ができました。関係者会合での知事からの感謝 の言葉にもありましたように、現場の先生方や 医師会、看護協会といった関係者の皆様の責任 感と献身の心が県民の危機を救ったのだと思い ます。
タミフル耐性ウイルスが主流にならないかと か、予防接種は平静に行えるかなど、まだまだ 何が起こるかはっきりしないこともあります。 しかしながら、関係者の皆様方の全面的な協力 でこの危機を乗り越えることができると確信し ています。今後ともご指導、ご協力よろしくお 願いします。
Q3.この度の補正予算で地域医療再生計画事 業が策定され、現在、宮里統括監が中心とな って本県の計画をまとめられていると思いま すが、計画の概要並びに進捗状況、採択の見 通し等、可能な範囲でお聞かせ下さい。
前政権の緊急経済対策の一環で、各県で指定 する二医療圏に少なくとも25 億円づつ(全国 で10 箇所は100 億円)があてがわれる話が急 に決まりました。こんなまとまったお金が、地 域の医療機能の再編と人材確保に資することと いった大きな使途制限(目的)があるものの、 運用上は地域の事情をひろく考慮してくれると のことなので、関係者の期待は大きく膨らんで います。
県としては、求められている二つの医療圏を 「北部医療圏」と宮古、八重山圏を合体し「離島医療圏」とするよう構想しました。これらの圏 域では人材確保が長年の課題であったからです。
これらの地域の人材確保には、研修医をはじ めとした人材育成をさらに強化していくことが 必要で、そのためにこのお金を使うべきだろう と考えました。そこで、玉城参与とも相談し て、琉球大学、県立病院、群星の三つの研修医 をお世話している先生方に急遽県庁に集まって いただいて、今必要な具体的施策について自由 な意見交換をしました。さらに、文書で各地区 医師会などの関係者に広く意見を求めました。
各方面との調整の後、計画素案を作り、9 月 10 日に上京し、厚労省の担当課長補佐と5 時 間という長時間の調整を行いました。
調整の過程では非常に戸惑いを感じることが 多々ありました。日本医師会等からの質問への 回答では、この予算はかなり自由に使えるよう なニュアンスの回答だったように思っていたの ですが、担当レベルでは当初の補助金要綱に示 された目的に合致したもの以外は認めがたいこ と。また、宮古、八重山の二つの医療圏を合体 して、仮想の離島圏域とすることが認められる かは、上司と相談しなければならないので、即 答できないとのことでした。
この予算の執行に関しては、最終的には国の 承認が必要で予断を許しません。しかし、検討 の経過で、大屋祐輔教授をはじめとした琉球大 学関係者、群星の宮城征四郎先生や城間寛先 生、あるいは県立病院の研修担当の先生方の一 致した意見として、今回の予算で是非沖縄に 「メディカルシミュレーションセンター」の設 立をという強い思いのあることを知りました。 私としてはなんとしてもこれだけは頑張らなけ ればならないと考えています。
その他、個々の情報は、必要に応じ皆様にお 知らせしていこうと思っていますのでよろしく お願いします。
Q4.本会や日本医師会に対するご意見・ご要 望がございましたら、お聞かせください。
医師会活動は、健全な医療体制構築に極めて 重要なものと考えます。その意味で、若い世代 の加入率の低下が懸念されており、心配してお ります。今回の新型インフルエンザ対策におい ても、医師会の全面的な協力がなければ大変な ことになっていただろうと思います。
入会でどういった具体的メリットがあるのか といった自己中心的になりがちな風潮が広がっ ています。しかし、医師であるという絆で結ばれ ることの重要性が、短期的な有益性を超えた普 遍的価値としてあるのだということをもっとアピ ールしていくべきなのだろうと思います。このこ とを伝えるのは、私のような年をくった者の、若 い方々にたいする責務であると考えています。
Q5.最後に日頃の健康法、趣味、座右の銘等 がございましたら、是非お聞かせください。
座右の銘などといった大げさなものではあり ませんが、小さいころから祖父に「マクトゥシ ヨー!マクトゥソーレーナンクルナイサ(誠実 であれば何とかなっていく)」と諭されてきま した。困難に直面した際には今もその言葉がよ みがえります。
趣味は碁を打つことです。前南部地区会長の 永山先生や久米島病院長の村田先生らと時々楽 しんでいます。また、歌うことが好きでカラオ ケもよく行っています。
医師会の活動は行政にとって最も大切なもの と考えていますので、今後ともご指導ご協力よ ろしくお願いします。
この度は、インタビューへご回答いただき、 誠にありがとうございました。
インタビューアー:広報担当理事 當銘正彦