なかむら眼科 仲村 佳巳
[はじめに]
最近マスコミに取り上げられることも増えて きた緑内障ですが、このコーナーでは、救急外 来で遭遇しやすい眼科救急疾患の一つである 「急性緑内障」を中心に解説していきたいと思 います。
[緑内障とは?]
緑内障の種類を大きく分けると、原因がはっ きり分からない原発緑内障、他の病気に引き続 いて起こる続発緑内障、隅角の先天異常のため に起こる発達緑内障の3 つがあります。一般的 に緑内障とは、原発緑内障のことをいい、それ はさらに房水の排出路が目詰まりして起こる原 発開放隅角緑内障と、隅角が塞がることで起こ る原発閉塞隅角緑内障に分けられます。緑内障 の頻度は2000 〜 2001 年に行われた大規模疫 学調査によると、日本では40 歳以上の20 人に 1 人が緑内障であり、また2006 年に発表され た厚生労働省研究によると、緑内障が糖尿病網 膜症に代わり中途失明のトップになっておりま す。緑内障は眼圧などによって視神経が障害を 受け、視野が狭くなる病気です。正常眼圧は 10 〜 20mmHg(水銀柱)であり、眼圧は房水 の産生する量と排出する量で決まります。房水 の産生される場所は毛様体であり、排出される 場所は隅角(線維柱帯)ですが、房水を排出す る機能が悪くなるとそこに流入しても流出でき ない状態となり、その結果眼圧が上昇してしま います。また原発閉塞隅角緑内障の場合、前述 したように隅角が狭いため房水の流出口が塞が りやすいのですが、それは加齢に伴い水晶体が 厚くなるとさらに狭くなり、完全に隅角が閉じ た場合に急性緑内障(いわゆる緑内障発作)を 起こします。急性緑内障を起こしやすい特徴と して1) 60 歳以上、2)正視または遠視の人で若 い頃から老眼鏡をかけている、3)男性に比べ女 性に多い、などがあげられます。
市販薬や病院からの処方薬の中に「緑内障の 方は使用に際し、医師に相談を」と書かれてい ることがありますが、これはまさに隅角の狭い 閉塞隅角(緑内障)に対する注意事項であり、 それ以外の病型の緑内障には影響ありません。
[急性緑内障の症状]
自覚症状として強い眼痛、頭痛、そして霧視 が特徴的な症状です。極度の眼圧上昇(40 〜 70mmHg)のため患者の苦痛も強く、しばしば 夜間の急患として来院します。また患者は時と して頭痛、悪心、嘔吐など全身症状のために内 科(外科)を受診することがあるので、診断・ 治療が遅れてしまうことがあります。他覚的症 状としては、結膜(毛様)充血、角膜浮腫、散 瞳などがみられます。
表1.急性原発閉塞隅角緑内障の治療
A.薬物療法
- a.交感神経β遮断薬
- b.交感神経α 2 刺激薬
- c.炭酸脱水酵素阻害薬―点眼、内服、静注など
- d.縮瞳薬― 1 〜 2 %ピロカルピン使用
- e.プロスタグランジン関連薬
- f.高浸透圧薬
- g.点眼ステロイド薬
B.外科的治療
- 1.レーザー周辺虹彩切開術
- 2.僚眼の予防的虹彩切開術
- 3.レーザー虹彩切開術が施行できないとき に周辺虹彩切除術を施行
- 4.虹彩切開術が必要で強度の周辺虹彩癒着 による閉塞が存在するときに濾過手術を 施行する
- 5.レーザー虹彩形成術(しばしば有効)
図1.急性緑内障の前眼部所見
結膜(毛様)充血、中等度散瞳、角膜浮腫を呈している。
[急性緑内障の治療]
発作を解除するためには、眼圧を下げるため の点滴や内服、点眼を使用します。発作が保存 的に解除された後に再び起こさないようにレー ザーで虹彩に穴を開けて別に房水の通る道を作 ったり、直接周辺虹彩を切除してレーザーと同 様な手術を行ったりします。また最近では通路 を圧迫している水晶体を取って眼内レンズに入 れ替えるなどの手術をおこなうことも多くなっ てきました。
[おわりに]
急性緑内障は発症して1 週間ほど放置してし まうと、失明あるいは失明を免れても視機能障 害の恐れがつきまといます。最近、超音波生体 顕微鏡(Ultrasound Biomicroscopy ; UBM ) による検査で、このタイプの緑内障になりやす いかどうかが判断できるようになりました。事 前に発病を予測し、治療を行うことで最適な Quality of vision を維持していただきたいもの です。40 歳を過ぎたら年に1 度は眼科検診をお 勧めください。
図2.開放隅角のUBM 所見
角膜−虹彩根部は広く開大しており、隅角(線維柱帯)
は解放している。
図3.閉塞隅角のUBM 所見
角膜−虹彩根部は接触しており、隅角(線維柱帯)は
閉塞している。
[参考文献]
1)Iwase A, Suzuki Y, Araie M et al: the Tajimi
Study Group, Japan Glaucoma Society : The
prevalence of primary open-angle glaucoma in
Japanese. Ophthalmology 111 : 1641-1648. 2004
2)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン. 日眼会誌
107 : 125 − 157. 2003
3)古吉直彦:原発隅角閉塞緑内障. 緑内障外来. メディ
カルビュー社: 175 − 181. 1999
4)AAO, Preferred Practice Patterns Committee,
Glaucoma Panel: Primary Angle Closure Preferred
Practice Pattern, 2000.
5)Imaizumi M, Takaki Y, Yamashita H :
Phacoemulsification and intraocular lens implantation
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32 : 85 -90,2006
6)Pavlin CJ, Foster FS: Ultrasound biomicroscopy of
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7)近藤武久:前房・隅角の画像診断. 緑内障17 : 7 −
17. 2007