沖縄県医師会 > 沖縄県医師会の活動 > 医師会報 > 11月号

保険のひろば(1)

平安明

理事 平安 明

【はじめに】

保険診療は財源に限りがあり、全ての医療行 為を保険で認めることは現実的には困難であ る。しかし現場で求められている医療行為が単 に「医科点数表の解釈(青本)に記載がない」 とか「保険診療では認めてない」との理由で否 定されるのは納得できないというのが多くの先 生方のご意見であると思う。

しかし、保険診療を行う上では、現場の視点 とは若干かけ離れたルールを遵守しなければな らず、それに基づいて診療報酬の請求や医療機 関等の指導が行われているのだが、意外に医療 機関側はそのことをあまり重要視していないと ころが多いように感じられる。

医療保険担当理事として医療機関の個別指導 に立ち会っているが、多くの医療機関が個別指 導当日に戸惑いや不満など納得のいかない気持 で指導を終えるのが現状である。指導側(九州 厚生局、県)が求めることを完璧に満たすこと は困難であるが、事前に知っておけば何ともな かったのに、と思われることも多々ある。

指導側が指摘する事項は、集団指導や集団的 個別指導で医療機関に公開している事項がほと んどである。従って、当日になって寝首をかく ような指導をしているわけでは決してない。医 療機関は健康保険法や療養担当規則(療担規 則)等に基づいて保険医療機関として指定され 保険診療を行っているので、それが遵守されて いるかを確認しているのである。重箱の隅をつ つくような指摘をしてくることもあるが、それ はむしろ医療機関側に問題があることも多い。

つまり、我々医療機関側の保険診療に対す る認識が甘いといわれても仕方のないことが結 構あるのである。指導の在り方の問題や納得の いかないことを議論することは当然重要なこと であるが、個別指導の現場では意味を成さな い。むしろ、保険診療に対する理解不足や不適 切な診療報酬請求があるのではと指導側に疑 われたり、不要な警戒をもたれたりすることも あり得る。

個別指導の在り方(医療機関の選定方法や指 導内容等)についてのご意見はあらためて会員 の皆様に承っていきたいが、まずは、個別指導 に当たって医療機関に求められていること、整 えておくべき書類や診療録(カルテ)に記載す べき事項のポイントなどを取り上げ「保険のひ ろば」として掲載することとした。

主に個別指導で指摘される事項について解説 しながら、保険診療に対する理解を深める一助 として頂ければと思う。

保険請求のルールに則ったカルテ等の記載は 日頃から意識して行っていくべきことであり、 個別指導の対策として通知後に慌てて書類を整 えたり、後からカルテに書き加えたりするよう なことが決して起こらないよう注意してほしい。

【個別指導における指摘事項】

今年度から個別指導時の指摘事項について指 導側が四半期毎に文書により公開することにな った。沖縄県医師会報付録Vol.45 No.8(P18 〜 P24)及びVol.45 No.10(P16 〜 P22)に 掲載されているので参照してほしい。(当該文 書は本会ホームページに掲載。)

以下、個別指導時に確実に指摘される事項に ついて解説していく。紙面の都合上、今回は総 論的事項を中心に取り上げた。

○未収金対策はされているか。管理簿が作成 されているか。

健康保険法や療担規則では、定められた一部 負担金は徴収しなければいけないのであって、 医療機関側の判断で勝手に未収金をうやむやにしたり、患者の事情もあるからといって曖昧に したりしてはいけない。

○家族・職員の一部負担金を請求しているか。

上記同様、一部負担金は徴収しないといけな い。まれに、“福利厚生の一つとして、職員か らは負担金を取っていない”という医療機関が あるが、保険診療上不適切となる。

○保険診療の診療録と保険外診療の診療録 (自由診療、インフルエンザワクチン等)の 診療録とが区別されていない例がある。

混合診療と誤解されかねない。別カルテにす ることが望ましいが、同一のカルテの場合は、 保険診療と保険外診療が一目瞭然に区別できる ような工夫が必要である。

自由診療を行っているのと同日に、日頃処方 されている薬を受け取る等で、再診料、処方料 等の算定があり、指摘及び診療報酬の返還とな ったケースがある。間違いのないようにしてほ しい。ちなみに、基本的に“青本”にないもの は保険外診療となるが(先進医療は別だが、そ の場合施設基準を満たした上で、届け出が必要 になる)、保険外診療にあたるか判断がつかない 時は、とりあえず県医師会に確認してほしい。

○診療録1 〜 3 面が整備されているか。傷病名 等の整理がされているか。

診療録(カルテ)は1 面(患者情報、傷病名 等の記載)、2 面(医師の所見や指示等の記 載)、3 面(点数等の記載)が揃っていないとい けない。3 面が抜けていたり、別冊になってい たりと、不備なことがある。

傷病名整理、診療開始日終了日、転帰などの 記載がもれてないか。診療終了日の記載等は初 診の判断にも影響することがあるので、日頃か らのチェックを怠らないようにしてほしい。

○医師の診察に関する記載が乏しいものがあ る。「薬のみ」の記載だけでは、無診察診療 (医師法第20 条で禁止されている)と誤解 されかねない。

外来管理加算や特定疾患療養管理料等、診療 報酬の算定要件として医師の診察所見が求めら れているものが多い。その場合、カルテに記載 が残されていることが担保となり、カルテには 書いてないが別冊や指示書があるなどは指導側 が認めないこともある。後で追加することが可 能なため、その時に指示したかどうか確認がで きないと見なされかねない。

「薬のみ」は、上述のごとく紛らわしいこと になるので、本人を対面診察したことが担保で きるような記載(簡潔でよいが、画一的になら ないように)を残しておくよう心掛けてほしい。

○実施した検査・画像診断に対する医師の所 見が乏しいもの。

カルテに検査等の指示はあるものの結果の記 載がないものがみられる。特に、結果に異常が ない場合に起こりやすく、結果の記載がないと 医師が確認していることが担保できず、患者へ のフィードバックがされていない又は研究目的 と受け止められかねない。即ち保険診療として は認められないと見なされることがあり、その 場合診療報酬の返還を命じられることがある。 異常所見は勿論、結果が正常であってもその旨 を簡潔に記載してほしい(検査結果異常なし、 n.p.、W.N.L.等でも構わない)。

○外来管理加算において、医師の聴取事項や 診察所見の要点及び5 分要件の記載がないも のがある。

医師の記載が全くないものはどうにもならな いので、対面診察を行ったことが担保できるよ うな記載を工夫してほしい。こと細かく書く必 要はないが、ある程度診察内容が計れる程度は 記載したほうがよい。

時間要件については、次期診療報酬改定でも 議論になっているように、様々な問題がある。 医師会としてはこの要件は見直しするよう要望 しているところである。しかし、現状の指導で は「5 分超」「5 分OK」「時間OK」など、何ら かの時間要件を満たしている旨の記載がカルテ にない場合は指導対象となっている。これはゴ ム印で構わないので、是非対応してほしい。

○特定疾患療養管理料について

青本上、当該医学管理料が算定できるのは “治療計画に基づき、服薬、運動、栄養等の療 養上の管理を行った場合”とある。「塩分○ g、運動○分」等では不十分と見なされかねない。 また、記載内容が画一的であると、指導される ことがある。毎回同じゴム印のみも同様に指摘 される。記載がない場合は当然だが、不十分と 見なされた場合も返還を命じられることがあ る。記載内容は当然医師に委ねられていること だが、診察場面で指導したことをなるべく具体 的に記載したほうがよい。

○特定薬剤治療管理料(いわゆる血中濃度測 定)について

薬剤の血中濃度に基づいた治療計画の要点の 記載が求められている。カルテには、血中濃度 の指示、結果、結果に基づく今後の治療計画が あってはじめて算定要件を満たしたと見なされ る。勿論オーダーから結果が出るまでタイムラ グがあるので、記載が複数の日数にわたっても 構わない。治療計画に関しては、医師の判断が 含まれていれば簡潔でよい(ex.処方継続、○ ○を△△ mg に減薬、等)。

○薬剤情報提供料について

薬剤情報を提供した旨をカルテに記載してい ないと返還となることがある。薬剤情報、薬情、 (薬)、などその旨がわかるようなゴム印で構わない ので忘れないこと。提供した文書の写し等のカル テへの添付は求められていないが、当然患者の要 望で文書を発行していることが前提となる。

○診療情報提供料(T)について

交付した文書の写しをカルテに添付すること が求められている。交付した文書の写しとは、 患者に最終的に手渡したものの写しであり、パ ソコンに保存されている文書をプリントアウト し押印したものではない、と指導される。情報 提供書に署名あるいは記名押印したもの(最終 的に患者に交付するもの)のコピーを添付する と間違いない。電子カルテの場合はそれをスキ ャンして取り込んでもよい。

○創傷処置等について

創傷処置や熱傷処置を実施した場合は、処置 の内容、処置の範囲、使用した薬剤を診療録に 記載する。特に処置範囲によって点数が異なる ため、記載がない場合、最も低い点数に減額さ れ差額分の返還を命じられることがある。

○創傷処理について

創傷処置で算定すべきものを創傷処理で算定 していることがある。創傷処理は、青本上第 10 部手術に含まれ、切・刺・割創又は挫創に 対して切除、結紮又は縫合を行った場合に算定 されるもので、その内容がカルテに記載されて いることが必要である。

【おわりに】

現状では日本は殆どの医療機関が保険医療機 関として登録され、保険診療を行っている。保 険診療とは「保険者と保険医療機関との間で交 わされた公法上の契約に基づく“契約診療”」 であり、医療機関が医療を患者に提供した場 合、その対価としての診療報酬を請求するには 契約に基づくルールを満たしていなければなら ないのである。

診療報酬改定等を通して少しずつ保険診療で 認められる内容は変わっていくが、現状におい て認められていないことは、保険診療として請 求できないということになる。医療としてやっ てはいけないということではない。繰り返しに なるが、保険医療機関に対する個別指導は保険 請求上のルールを満たしているかの確認と指導 を行うもので、医療水準や質、内容を検証する ことが目的ではない。このあたりを混同してし まうと、当局批判に終始してしまい、ややもす ると“保険診療に対する理解が乏しく、保険医 療機関としての適性に欠くのでは”と疑われ、 厳しい指導結果となることも起こりうる。

各医療機関においては其々の専門があると思 われるが、最低限自院で請求している診療報酬 の算定要件は、管理者(院長等)がしっかりと把 握しておく必要がある。まずは、“知らなかった” ことによる不要な不利益を被ることがないよう、 保険診療に対する理解を深めていければと思う。

次回以降は科別の項目など各論的なことも取 り上げていく予定である。

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沖縄県医師会事務局(担当:西原、比嘉)
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