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研修医時代から始める臨床教育のススメ

入江聰五郎

プロジェクト群星沖縄 臨床研修センターティーチングスタッフ
(前 浦添総合病院 総合診療部 ER 担当医) 入江 聰五郎

<はじめに>

6 年前にはじまった臨床研 修必修化で、私が所属してい た浦添総合病院では68 名の初 期臨床研修医を受け入れてき た。全員が自分の後輩という ことになる。その中で、多く の研修医・学生は、将来の不 安を抱えているのがよく伝わ ってくる。2 年間の初期研修で本当に十分なの か?という漠然とした不安の様である。私自身 もあまり偉そうなことを言えるほどの人物では ないが、彼ら自身の成長のためにも、後輩やス タッフへの臨床教育をするよう指導している。

<人間力の重要性>

私は救急外来を中心とした急性期医療しか知 らず、慢性期疾患の管理や療養病床の患者管理 が単独で行えるわけでもない。それでも内科 系・外科系関係なく、時には精神科救急も受け 持つこともあった数少ない経験からしても、も っとも重要なのは医師としての専門技術より も、いわゆる医師患者関係(ラポール)などに 必要な人間力であると痛感する。

同じような教えが、群星沖縄の初期研修医心 得にも、患者さんや医療仲間とのコミュニケー ションには医療以前の人間学を学ばねばならな い、と記述されている。

<医師の役割と身につけるべき技能>

医師には6 つの役割があるといわれる(※ 1 参照)。臨床医は特にCaregiver として振る舞 うことに注意が行きがちであるが、Teacher と して後輩を含めたスタッフ教育・患者教育をす ることも医師に課された責任であり、現場や組 織内でのLeader も同様である。

<※1;医師のProfessional としての役割>

研修医にありがちなのは、自分自身のCare Giver としてのスキルを磨くのに必死で、現場 リーダー・後輩や患者教育を行う上でのティー チングについては、ほとんど身につけようとし ていない姿である。

Caregiver としての知識や技術が本当に2 年 間の研修だけで事足りるほど、医療は浅くない はずである。2 年間でどんなに最新技術を習得 しても、10 年後には時代遅れの技術になる。 本当に身につけるべきは普遍的な基本知識と成 長する技術(Competence & Performance cf: N Engl. j Med 2007;356;387-96 )である。

<自身の成長のために教育する>

臨床教育は自身の成長のためにも有用であ る。教育手法には耳学問・復習・まとめ・発表 などがあるが、それ以上に他人の教育が最も効 果的だからである。さらに教育をするためには、環境とシステムの整備(Field & System)・ 明文化と上手にコミュニケーションする技術 (Speak & Write)が必要であり、それをコー ディネートする為に、リーダーシップを発揮し なければならない。そのために必要な能力は、 全て人間力の一部であり、自身の人間力トレー ニングに臨床教育はうってつけでもある。

しかしながら、その様な雑務(と敢えて書か せていただく)は、他の誰かがやってくれるの を待っている、という光景をよく見かける。自 分の成長のためには時間や労力を割くのだが (研修への参加や自己学習)、他人への教育にな ると自分は適任ではないなどと様々な理由をつ けて、余計な仕事をしないで済むようにしてい るのではないだろうか。

教育がなければ、毎日の業務だけに明け暮れ るだけとなり、そこに変化が生まれず、自身の 成長もないであろう。

  • 臨床教育には知識が必要である
  • 臨床教育には忍耐が必要である
  • 臨床教育には度量が必要である
  • 臨床教育には状況把握が必要である
  • 臨床教育には環境設定が必要である
  • 臨床教育には調整能力が必要である。

<臨床教育先進県 沖縄の役割>

沖縄県は、県立中部病院・民間臨床研修病院 群群星沖縄などの活躍もあってか、臨床研修先 進県といわれている。それもこれも、この沖縄 という大きな度量がある土壌と情熱にあふれる 指導医の諸先輩方の弛まぬ努力の恩恵である。

他県にはこれ程の臨床教育環境が無く、臨床 教育者が育たない。沖縄の若手医師が自身の成 長のためとはいえ教育に携わることで、沖縄か ら日本全国に臨床教育を発信することは、我々 に与えられた使命とも思われる。我々沖縄の若 手医師が、臨床教育をすることは、これからの 日本の医療を立ち直らせるのに大いに役立つは ずである。

臨床研修先進県沖縄が日本の臨床教育におい て、真のリーダーシップをとるためにも、研修 医時代から後輩教育を始めることをススメる。