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新型インフルエンザに関する
沖縄の現状と対策について

糸数公

沖縄県福祉保健部医務課 糸数 公

1.感染の状況

○県内では6 月29 日に最初の患者が報告され、 7 月22 日までの全数把握期間中に143 例が 報告された。

○その後、クラスターサーベイランスに切り替 わり、9 月4 日までに集団発生が報告された 施設数は415 施設(保育所203、小学校62、 中学校44、高校23 等)に及んでいる。

○ 30 週時点からA 型インフルエンザのうち、 95 %以上が新型インフルエンザ(県衛生環 境研究所の簡易A 陽性111 例中、PCR 検査 にてH1pdm 陽性106 例)となった。

○インフルエンザ定点あたりの報告数も、6.00 ( 3 0 週)、1 1 . 7 9 ( 3 1 週=注意報発令)、 20.36(32 週)、29.60(33 週=警報発令)、 46.31(34 週)と増加を続けていたが、35 週 に36.00 と減少した(年代別報告数の推移は 別紙参照)。

2.感染が全国に先んじて拡大している理由

○感染が一気に拡大したのが7 月下旬以降と思 われるが、その時期には天候もよく、若い世 代の活動が活発であり、かつ、夏休みに入っ て学校の管理が行き届かなかったことが重な ったのではないかと考えている。

3.重症者の発生状況

○国内最初の死亡例が8 月15 日に発生

○その後、9 月5 日までに8 例の重症患者(人 工呼吸器管理または脳症)が発生している。

○入院の報告も増加傾向にある(入院サーベイ ランスでは48 例となっている)

4.医療現場で何が起こっているのか

○多くの(軽症)患者が医療機関を圧迫している

≫数多くのインフルエンザの患者が医療機関 に押し寄せているため、救急告示病院を中 心に年末年始のような忙しさが続いている。 特に、休日夜間は救急病院に患者が集中し ており、患者を分散する必要が生じている。

○電話による相談が予想以上に施設の負担になる

≫同時に、医療機関への電話での問い合わせ も多く、病院業務に支障を来しているた め、電話対応のための要員を確保しなけれ ばならない。

○重症者に適切な医療提供する体制の整備が急 がれる

≫重症患者を治療している県立南部医療セン ター・こども医療センターでは、小児ICU に入院する患者が増えているため、通常は 術後対応をICU で行っている心臓手術の 症例を待機せざるを得ない状況になってい る。また、同時に県内で4 例〜 5 例の小児 重症例の発生が重なったため、対応できる 病床やレスピレータ等の医療資源の不足が 懸念された。

5.これに対してどのような対策を講じているか

○患者発生のスピードを緩やかにするために

≫県民への予防啓発を強化するため、9 月7 日より30 秒のテレビスポットCM を放映 している(咳エチケット編、熱が出たら 編、受診の工夫編)。

≫学校や保育施設等の集団発生の場での感染 拡大を抑制するため、一定の基準を示して 場合に休業を要請している。

○患者の受診を分散させる

≫受診行動に対する啓発、熱が出たときの対 応を上記のCM で周知

≫数多くの患者が一部の医療機関(救急外来 等)に集中しているため、医師会に所属す る医療機関に、休日・時間外診療の依頼を 呼びかけ、一部の地域では開始されている。

○医療機関の電話相談の負担を緩和させる

≫病院での相談対応を緩和するために、沖縄 県看護協会に対してボランティア参加を要 請して、基幹病院で時間外の相談を行って いる。

○重症化を予防し、対応できる医療体制を確保 する

≫ ICU 治療の必要な重症患者の受け入れ病床 を確保するために、人工呼吸器の使用状況 を把握する新型インフルエンザ小児医療情 報ネットワークを構築した (8 月25 日〜)。

≫透析医会、産科医会とと もに、発熱患者の診療の 流れや、重症化防止のた めの体制整備について、 検討を行っている。

≫また、医療機関が共通の 認識を持って対応できる ように、情報交換の場と して、メーリングリスト (allokinawapandemic@ googlegroups.com)を開 設して、資料提供や意見 交換を行っている。

6.今後想定される事態と対 応について

○秋から冬にかけての感染者 の増加に対して

≫厚生労働省は今後の流行 について、国民の約20 % が発症し、入院率は中位 推計で1.5 %、重症化率 は0.15 %というシナリオを発表した。こ れにあてはめると、感染者は27.8 万人、 県内の入院患者は約500 例、重症者は50 例発生することになる。

≫県としては、国がシナリオで示した急峻な 患者の伸びを極力抑制することを最大の目 標に、関係機関と協力して感染予防や重症 化防止に努めていきたい。

○リスクコミュニケーション

≫咳エチケットの徹底、適正な受診行動、ワ クチン優先接種に対する理解など、今後は 県民へのリスクコミュニケーションが重要 となる。マスコミや医療機関の協力を得 て、新型インフルエンザに関して想定され る事態を積極的に情報提供し、それに対す る県民の対応を議論できるようにしていき たい。

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