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運動とホルミシス効果

伊良波裕子

琉球大学医学部附属病院放射線科
伊良波 裕子

医者になって5 〜 6 年は仕事が忙しくて趣味 といったら同僚と飲みに行くことぐらいであっ た。7 年目の春に結婚し、その後出産・育児を 経験して1 年後にはフルタイム復帰、ますます 忙しくなり、趣味といえば暇な時にネットサー フィンをするくらい。

しかし2 年前に訳あって非常勤勤務になった のがきっかけでジム通いを始めた。これが結構は まってしまった。もともと学生時代にバスケット ボール部で運動の経験があり、5Km くらいは軽 く走れる感覚のままであった。しかし始めてみた らどうだろう、1Km 走るのに息があがって続け られない。10 ウン年ぶりに運動を再開したときのギャップに唖然とさせられ、負けん気魂に火 がついた。週に4 〜 5 回はジムに通い、ランニン グ、筋トレ、水泳、エアロビクスとアラフォー世 代の体に鞭を打つ。まずは水泳。最初は25m を 一気に泳ぐことで精一杯だったが、そのうち何 百メートルと連続で泳げるようになった。今で は30 分以内に余裕で1Km は泳ぐ。おお、やれ ばできるんじゃん、と、他にも挑戦してみたくな った。次はエアロビクス。初心者向けのクラス から参加したのだが、これが結構難しい。イン ストラクターの言うとおりに動くだけのはずが、 頭と体が反応しない。周りの参加者は私よりも かなり年上の方々がほとんどだが、なんとスムー ズにリズム良く体を動かしていることか。少し感 心させられながら見よう見まねで体を動かす。3 〜 4 回も参加するとパターンがわかってくる。要 は、インストラクターの声を聞く→次の動きを 脳で認識する→体を動かす、この回路をスムー ズに機能させればよいだけである。これが意外に も長年使っていない機能だったらしく、“廃用性 萎縮”の一歩手前で機能回復に成功した気分に なる。しかも難しいことほど出来たときの喜びは 倍増する。仕事の日程を調整してまでエアロビ クスのレッスンに参加する日々となった。

そうしているうちに1 年が過ぎた。ふと気づ けばやはり体力はついている。というか、痛感 したのは疲労からの回復力である(これも体力 の一つであろうが)。運動を終えて10 分後くら いに脈拍を測ると、ジム通いを始めた頃は 100/分を超えていたが、今では運動を始める 前の心拍数に近づいている。心肺機能の回復。 若いときには気づかなかった。疲労してもすぐ に回復していたからいつもあんなに元気だった のね。年をとると体力は衰えるが、運動によっ て少しは取り戻せることを実感した1 年であっ た。それまでお肌のアンチエイジングばかりに 気をとられていたが、体(力)のアンチエイジ ングも大切なことだと気づいた。

ところでみなさんは“放射線ホルミシス効果” をご存じだろうか? 簡単に言えば、低線量(微 量)の放射線は体に良い効果をもたらす、という。高線量の放射線が急性放射線障害や発ガン などの障害を引き起こすことは周知の事実であ るが、なんと低線量なら逆に体によいかも、と いうのである。初めてそのことを聞いたときは、 「何をバカな」と思った。放射線は線量に関わら ず障害を引き起こす可能性があるので、医療被 曝は必要最低限に、と教わってきたはずである。 特に小児や若年女性に対する透視やCT 検査は 必要以上に気を使ってきた。もちろん自分が検 査に入るときも被爆低減に努めてきた。ところ が、である。最近ある学会の講習会で、放射線 ホルミシスの話を聞く機会があった。講師は名 高い大学の放射線科教授で、放射線ホルミシス の正当性を唱えているのである。ラドン温泉な どの自然放射線が高い地域住民は発ガン率が低 い、など疫学調査が中心だが、聞いているうち に少し考えさせられる。確かに生物は放射線に 限らず多様な物理的、科学的ストレスのある状 態で進化してきた。ホルミシスは、こうした多様 なストレスに対し、生体が進化の過程で獲得し てきた重要な生体防御機構であるという。微量 の放射線によって生じたDNA 損傷は2 日もすれ ば修復されるし、逆にそのことでDNA 損傷に対 する抑制機構が亢進するというのである。運動 を継続すると体力がつくのは経験的に知られて いることだが、運動というストレスに対する生体 防御機構とも考えられる。適度な運動は体にい いが、適度(微量)な放射線もまた然り、なの か。日々の運動で体力回復を実感する身として は妙に納得させられる。まだまだ科学的根拠の 積み重ねが必要な分野であろうが、昔の常識・ 非常識が覆される時代である。近い将来放射線 ホルミシス効果を謳った商売が巷にあふれだす 可能性もある(実際三朝温泉や玉川温泉ではホ ルミシス効果を宣伝文句にしている)。まあ、だ からといって医療被曝に対する姿勢は変わらな いし、特に最近はやりの心臓CT など局所被爆 の増加はこれまで以上に注意が必要だが・・・。

今春から常勤復帰したのでジムに通いは週2 〜 3 回に減ったが、ときどきホルミシス効果を 期待しながら走っている。