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日本医師会女性医師支援センター・シンポジウム
−女性医師の更なる活躍のために−

沖縄県医師会女性医師部会委員 仁井田 りち

去る5 月30 日(土)日本医師会に於いて、 標記シンポジウムが開催された。基調講演で は、外口崇厚生労働省医政局長より「女性医師 の更なる活躍のために」と題した講演が行われ た。つづいて、保坂シゲリ女性医師支援センタ ーマネージャーより「女性医師の勤務環境の現 況に関する調査」(初の全国規模アンケート調 査)の結果報告が行われた。シンポジウムでは 6 名の演者による発表が行われ、その後フロア を交えた総合討論が行われた。参加者は248 名 であった。以下に会の模様を報告する。

はじめに、唐澤人会長から「今般、厚労省 からの委託事業である医師再就業支援事業は、 女性医師の就業継続への支援を重点に、女性医 師支援センター事業に名称が変更になった。本 会でもそれに伴い、名称を日本医師会女性医師 支援センター事業と改めて、新たな出発を迎え る。そこで、女性医師の更なる活躍のために、 本日のシンポジウムを企画した。この様な会 が、男女共同参画社会推進のための大きな機運 に資するものと考えている。日本医師会では、 女性医師への支援は医師全体への就業環境の改 善にも繋がる重要な問題として真摯に取り組み を進めて参る所存であるので、より一層のご協 力を賜りたい」と挨拶があった。

基調講演

外口崇厚生労働省医政局長から「女性医師の 更なる活躍のために」と題して講演。その中 で、この分野で活躍している2 人の先生の言葉 を用い、「男女を問わず」、「勤務環境を改善す ること」の2 つが我々の目標である。女性医師 が就業継続できるよう環境整備に取り組んでお り、短期的、中期的、長期的、予算、政府、診 療報酬等をうまく組み合わせた総合的な政策が 必要である。

我々行政も様々な軽減策をあげている。現状 の取り組みとしては、1)勤務医の過重労働を 解消する環境の整備、@)「短時間正規雇用制」「交代勤務制」の導入、A)医師と他の医療従 事者・事務職員との役割分担の推進、2)女性 医師の働きやすい環境の整備、@)病院内保育 所の設置支援、A)再就業支援の女性医師バン ク事業、B)離職している女性医師が復職する ための研修支援などがある。とりわけ、短時間 正規雇用については、法律上、提起されている 訳ではないが、多様な働き方を就業規則等にお いて制度化する。つまり、ライフスタイルに応 じた働きを提供しながら、就業時間に比例した 待遇が得られ、社会保険の適用も受けられる仕 組みとなっている。今後の方向性としては、平 成20 年6 月、舛添大臣の下で作成された「安 心と希望の医療確保ビジョン」の中で、医療分 野が男女共同参画のモデルとなるよう早急に対 策を進めることが必要である。また、平成20 年4 月に策定した「女性の参画加速プログラ ム」の基本的方向として、活躍が期待されなが ら女性の参画が進んでいない分野に、医師、研 究者、公務員の三分野があがっており、特に女 性医師については、1)勤務体制の見直し、2)継 続就業支援、3)復帰支援、4)意思決定の場への 女性の投与促進、5)医療専門職全体への支援等 を取り組むこととし、これらの分野の取り組み が進むことで、社会的に大きな効果が期待でき る。男女共同参画は、四半世紀前に比べると、 だいぶ世の中は進んできたかのように思うが、 現実にあがってくる声を伺うと、まだまだ意識 改革が必要であると痛感する。今後、皆さんと 力を併せ頑張っていきたい。

「女性医師の勤務環境の現況に関する調査」
結果報告

保坂シゲリ女性医師支援センターマネジャー より、昨年末、女性医師支援の一環として全国 の女性勤務医を対象に行われたみだし調査結果 について報告があった。

調査は2008 年12 月から09 年1月まで、全 国の病院勤務の女性医師を対象に実施。7,467 人から有効回答を得た。有効回答率は49.7 % だった。

1. 主な調査結果

□女性医師7,467 名の年齢内訳は、30 歳代が 48.3%と約半数を占めており、次いで、40 歳 代が2 割強、29 歳以下が2 割弱となっている。

□既婚者が54.6%と半数以上となっており、未 婚者は39.1%となっている。また、既婚者 (離別、死別を含む)の配偶者の職業は、 70.4%が医師であった。

□勤務先での役職は、医員が約5 割を占めてお り、次いで、医長が14.2%となっている。

□勤務形態は、常勤勤務が79.1%と約8 割で、 短時間正職員が1.8%、非常勤(嘱託・パー ト・その他)勤務が19.1%となっている。ま た、勤務病院での勤務年数は5 年未満が最も 多く66.4%、5 〜 9 年が18.5%と、10 年未満 が8 割強を占めている。

□契約上の勤務時間(一週間)と比べて、実際 の実勤務時間との比較では、全体の1/4 が 61 時間以上の勤務となっており、過労死基 準を超えて働いていることが分かった。

□仕事を続ける上で必要と思われる制度や仕組 み・支援対策については、託児所・保育園な どの整備・拡充、人員(医師)の増員、宿 直・日直の免除、病児保育を6 割以上が求め ている。

□産前・産後休暇(産前6 週間産後8 週間)を 取得したのは約8 割で、そのうち74.9%は完 全に取得したが、25.1%は一部の取得であっ た。休暇を取得しなかった約2 割のうち、休 暇が取り辛くて一時休職または退職した人が 46.3%にのぼっている。

2. まとめ

1. 実働勤務時間、宿日直回数、休日日数など から多くの女性勤務医師が過酷な勤務環境に いる。

2. 勤務医全体の勤務環境が厳しいことや医師 の勤務・労働に関して、法についての充分な 理解が無いこととともに、若い女性医師に は、非正規雇用の立場の人が多い事もあり、 出産・育児について、法の保護を充分に受けられていない。

3. 育児・家事について配偶者の協力は、配偶 者が医師である場合には非医師である場合よ り得られる割合が低い。

4. 多くの女性医師が求めているのは医師全体 の勤務環境の改善であり、そのための医療へ の財政投入(それによる医師不足の解消)、 勤務医の身分の確立である。

5. 多くの女性医師は出産・育児を経ても働き 続けられる環境の整備、又、一時休業せざる を得なかった場合の復帰支援を求めている。

6. 出産・育児についての支援策として、24 時 間・病児保育を併設した院内保育所の普及の 他、様々な保育サービス利用に対する補助、 及び学童保育の充実を求めている。

7. 多くの女性医師は意思決定に関わる立場・ 指導的立場に女性が少ないことに問題を感 じ、男性中心の医療界の意識改革を希望して いる。

シンポジウム

シンポジウムでは、6 名の演者から(1)医 師再就業支援事業の経過、(2)女性医師バンク を通じて仕事に就いて、(3)女性医師バンクの 紹介で再研修を始めて、(4)コーディネートを してみえてきたこと、(5)、(6)今後の女性医 師支援について、と題して発表が行われた後、 フロアを交えた総合討論が行われた。

家守千鶴子女性医師バンクコーディネーター は、「日本医師会医師再就業支援事業」につい て、主な活動内容として、1)女性医師バンク 事業、2)再就業講習会事業、3)広報活動の3 つの柱からなっている。女性医師バンク事業 は、平成19 年1 月30 日に開設し、着実に成果 を挙げている。現在コーディネーターは当初の 4 名から11 名に大幅増員。平成21 年4 月30 日 現在、就業成立件数は138 件で、再研修紹介件 数は14 件である。バンク事業の主な特徴とし ては、通常の人材派遣業とは異なり、バンクコ ーディネーターは医師が担当していることにあ る。その理由に、医師の業務の特殊性は医師で ないとコーディネートが難しいとの考えからで あり、結果として登録者から大きな信頼を得 て、実績に結びついている。女性医師問題は、 女性医師のみならず男性を含めた医師全体の勤 務環境の改善に繋がることが認識され始めてお り、今後も女性医師支援センターの活動に力を 入れていきたいと述べた。

出澤美央子財団法人東京都保健医療公社豊島 病院産婦人科勤務医師は、女性医師バンクを通 じて最適な職場に巡り会えた。女性医師の更な る活躍のための提言として、女性医師の勤務体 制を改善するための方策として、妊娠中・育児 中の支援に関しては調査データや考察も行われ るようになってきており、また、育児休暇、勤 務緩和、院内保育所の対策も立てられつつある。 しかし、一般的に結婚年齢が高い女性医師の中 には、妊娠出産を強く希望するにもかかわらず、 叶えられないケースもある。特に、不妊治療を 目的に産婦人科に通院するとなると、数多くの 外来や当直の制約により継続的な通院事態が難 しく、そうこうしているうちに、女性の年齢が あがり、妊娠率も低下していくことに繋がる。 近年、特に叫ばれるワークライフバランスとは、 自分たちの思い描く家庭像、社会生活の両立を 目標としており、その中で妊娠出産後の配慮を 大切と考えるならば、妊娠前の配慮も同様に大 切になってくると考える。一般の社会でも少し ずつ認識されてきていると思うが、医師の世界 でも不妊治療に対しての配慮もなされることが 産婦人科医師としての願いであると述べた。

岸由香社会医療法人社団カレスサッポロ時計 台記念病院女性総合診療センター勤務医師は、 15 年間も専業主婦として現場を離れた状況か ら、地元の医師バンクへ問合せたところ、全く 相手にされず半ば諦めつつあった。そのような 中、日医の女性医師バンクを知り、軽い気持ち で問合せを行ったところ、登録完了後、直ぐに 研修先を紹介され「対応の早さ」に感動した。また、コーディネーター保坂先生の献身的なサ ポートの甲斐あって、登録から約1 ヶ月足らず で再研修を開始し、その半年後に、現場へ復帰 した。私の様に長いブランクを経ての復帰は稀 であろうが、同じ様な境遇にいる方も諦めずに チャレンジしていただきたいと思う。また、再 研修制度のより一層の拡充も必要不可欠だと思 うので、多くの施設のご協力を仰ぎたい。最後 に女性医師バンクのコーディネーターの先生方 に深く感謝したいと述べた。

秋葉則子女性医師バンクコーディネーター は、平成19 年1 月30 日の開設から僅か2 年4 ヶ月の期間で、女性医師バンクの登録者数は、 平成21 年4 月末現在、求職登録者数308 名 (延べ449 名)、求人登録施設数1,017 施設(延 べ1,139 施設)と順調な伸びを示している。各 種の広報活動が実を結びつつある結果となって いる。また、就業成立と再研修紹介を併せた実 績でも152 件(就業成立138 件、再研修紹介 14 件)を達成し、着実に成果を挙げている。 女性医師バンクの特色である「医師によるコー ディネート」が大きく寄与していると考えられ る。これまで様々なケースをコーディネートし てきたが、求人先をもっと増やさなければマッ チングがうまくいかない現状もある。10 人の先 生がいれば10 人のケースがある。加えて、就 業に結びついた事例と就業まで至っていない事 例を比べると、いずれも保育の問題が重要な鍵 を握っている。日本医師会では、このような点 を鑑み、昨年度「保育システム相談員講習会」 を開催し、各県へ相談員の養成・普及をお願い したところである。今年度も、引き続き、女性 医師就業継続支援として保育の問題に取り組ん でいきたいと述べた。

後藤隆久横浜市立大学大学院研究科生体制 御・麻酔科学教授は、医局における出産・育児 中の医師支援体制について、医師としてのキャ リアを中断しなくて済むよう平成16 年よりジョ ブシェアリングを採用し女性医師支援を行って いる。ジョブシェアとは、一つの常勤ポストに 対し2 名を雇用(常勤扱い)してもらうことで、 1 人あたりの勤務日数(週3 〜 4 回勤務)を減 らし、時間外や夜勤勤務は原則として行わない ものである。また、給与は常勤職員に比べ勤務 時間が短い分、比例して減額される仕組みとな っている。これらの方策を通して見えてきた今 後の課題については、短時間勤務の女性医師が 増加すれば、誰が当直、オンコール、時間外な ど、夜間や休日の仕事を行うのか。現在、当直 や夜間時間外労働には正当な報酬が支払われて いないケースが多く、それらを担う医師の不公 平感が高まることを懸念する。また、女性医師 支援は、医師不足の解決策としてではなく勤務 医の労働条件の問題であることを認識しなけれ ばならない。今後の女性医師支援のポイントと して、1)育児や家事を女性のみが行う社会慣 行を変えるべきで、2)当直や時間外労働に対 する報酬を昼間の労働時間に対する報酬を削っ てでも良いからまともに支払うこと、そこの医 師が辞めてしまえば女性医師支援は根底から崩 れてしまう。3)病時保育や24 時間保育など社 会基盤を充実させることが必要であると述べた。

桃井真里子自治医科大学小児科学主任教授 は、女性医師支援は勤務医不足という現状から 出てきた。国が女性医師問題を取り上げるの は、勤務医不足の対策としてであって、女性医 師問題の本質を十分に取り上げているとは言い がたい。育休明けの女性医師の復職支援や多様 な勤務形態の提供、保育施設の充実などは、問 題の周辺を支援する提案であり、本質的解決で はない。これらの対策に目を奪われると、女性 医師は勤務医のセカンドシチズンにならないか 危惧している。この現状をこれからプロを目指 す女子医学生達に教えることについて果たして これで良いのか自問自答する。しかし、現実に は女性医師支援は“Must”である。男女とも に、家庭生活の時間が保証される、当直問題に メスを入れる、救急担当明けには休日が確保さ れる、連続勤務時間を規定するなどの対応があって初めて女性医師問題の本質に踏み込めると 考えている。勤務環境の改善なしに、問題の周 辺を支援する提案は、今後の日本の医療にプラ スにならない。病院勤務医の労働環境について 強く議論されない限り女性医師の未来はないと 述べた。

印象記

仁井田 りち

県医師会女性医師部会委員、再就職再研修担当
仁井田 りち

去る5 月30 日、日本医師会館で日本医師会女性医師支援センター・シンポジウムが開催されま した。女性医師の勤務環境の現状に対する約7,500 名の全国的なアンケート調査の報告があり、女 性医師の約3 分の1 が休職(離職)経験があり、理由のベスト3 に出産(70 %)、育児(38 %)、自 分の病気療養(14,5%)と続きました。出産した医師は産後休暇の取得ができず実に46 %が産後 退職。そして64 %の女性医師が、常に家事と仕事の両立で悩んでいるとの結果が発表されました。

アンケート結果より見えてきた実態はやはり、医師は産後に就労困難な職種であるという事実 です。そもそも昨今「医師不足」の問題が表面化しなければ「女性医師支援」という活動も生ま れてきませんでした。女性医師支援がいいか悪いかではなく、10 年後勤務医の半分は女性医師で あり、現在の産婦人科医、小児科医の医師比率において34 才以下は女性医師が半分を占めている のは現実であり、これから女性医師を活用しなければ医療界は成り立たないという未来を予測し ての対策を今から始めなければいけないと切実に思いました。

では具体策は?

講演での私の感想をまとめますと

  • 1.ワークシェア、フレックスタイムの導入、ジョブシェア(短時間正規雇用)という多様性 のある就労条件が必要である
  • 2.男性医師の意識改革(既婚女性医師の実に70 %は男性医師と結婚していて家事はほぼ女性 側というアンケート結果と、女性が働くことに一番理解がないのは男性医学生というデータ の紹介あり)
  • 3.女性医師自身もライフプランをしっかり持ち女性が働くために出そろった男女参画企画等 の法律を有効活用して、キャリアアップを目指す事が必要

会では具体的には15 年専業主婦後50 代で復帰した女医の事例、結婚で他県に嫁ぎ、女医バン クの紹介で新しい職場復帰を見つけた事例が報告されました。

フロアから意見がでる度に、建設的な意見が出ましたが、国レベルの話と、各都道府県の実態 はまた別で離島医療も含めた特殊な地域である沖縄は、沖縄の実情にあわせた取り組みが必要と 思われました。

本当に大切なのは「再就職再研修支援」ではなく、出産育児後も継続して就労できる「継続支 援」のシステム作りなのです。女医バンクから始まる活動は今後「男女問わず全ての医師が勤務 条件を改善するシステム作り」に繋がるでしょうが、現在はまだ意識改革の段階であり、活動は 全国で同時に始まったばかりです。

これからの会では現場のアイディア、創意工夫の見本となる改革例を報告していくことになる でしょう。来年は沖縄から全国の先頭を切って、よい見本になれる、型作りができればと考えて います。