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慰霊の日の前にお薦めの本

石川清和

広報委員 石川 清和

他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス
若泉 敬著  文藝春秋

政治家が軽くなってしまった最大の理由は戦 後復興の中で経済発展を最優先し、伝統・精神 的なものを過去の古臭いものとして置き去りに してきた私たちの生き方にあるのではないか? 私たちはもう一度日本・沖縄の歴史を振り返 り、私たちの体に流れる祖先から伝わる心・伝 統文化をしっかりと取り戻し、新しい日本を作 らねばならない。

65 回目の沖縄戦終戦の日がやってくる。し かし、24 万人余の人々が命を失い、いまだに不 発弾が生活を脅かし、米軍とともに持ち込まれ た米国流の食文化が沖縄の健康長寿を崩壊させ ているー沖縄に住む我々にとってまだ戦争は終 わっていないのである。

政治経済学者の若泉敬氏が、日本の総理大臣 佐藤栄作首相から沖縄返還の調停役として白羽 の矢を立てられたのは留学時代に培った人脈を 見込まれたからである。外務省を飛び越し首相 直々に極秘の任務を受け、家族にも大学にも知 られないよう苦心しながら黒子に徹して交渉に 臨むのである。ニクソン大統領、キッシンジャ ー国務長官らとの取引は所謂ネゴシエーション と呼ばれる交渉術を駆使してアメリカと日本の 国益をかけた戦いであり、ほとんど不可能と思 われた沖縄の本土復帰が実現したのは、佐藤総 理の沖縄への篤い想いと若泉氏が完璧に黒子に 徹した秘密交渉(沖縄返還交渉に当たった外務 省の官僚もホットラインによる交渉を知らなか った)、ニクソン大統領の英断そして度重なる 基地の被害に主権を取り戻すために行動を起こ した沖縄住民の声があったからである。

ニクソン大統領は綿花を生産する南部の支持 者からの化学繊維の輸入規制についての強い要 求を佐藤総理に約束させる。ニクソン大統領に とって死活問題であったにも拘らず、佐藤総理 はこの問題を重要視せず日米関係はこじれてい き、ニクソン大統領の日本を飛び越えての中国 訪問につながっていく。

若泉氏は沖縄返還において自らが果たした役 割を誰にも知られずに自らの胸のうちに秘め闇 に葬るか、出版するか苦悩するが、1990 年代 日本の政治の混迷を引き起こした、政治家の凋 落、官僚の体たらくさを嘆き、警鐘の意をこめ 出版を決意する。新渡戸稲造の「武士道」を示 しながら「そこには、衣食足って礼節を知り、 義、勇、仁、誠、忠、名誉、克己、といった普 遍的な徳目が時空をこえて静かな輝きを放ち続 けている。その不滅の光芒の中に、私は、戦陣 に散り戦火に斃れた犠牲者たちが、彼らの祖国 とその未来を担う同胞に希って止まない“再生 独立の完成”と“自由自尊の顕現”を観るので ある。」と記している。極東地域での有事に際 し米国が沖縄に核を持ち込み配備できるという 秘密メモの存在など衝撃的な事実を記したにも かかわらず反 応が小さく、 さらに英語版 でも出版した。 その英語版の 冒頭は象徴的 であり魂を揺 さぶられる文 章である。

慰霊の日を前に忘れかけている鎮魂の想いを新たにしてく れる本である。

沖縄 誰にも書かれたくなかった戦後史
佐野眞一著 集英社インターナショナル

沖縄の戦後を当事者たちへインタビューする ことによって詳細に生々しく、満州というもう 一つの日本の戦後史に影響を与えた国と並べて 俯瞰する事によって、今の沖縄、そして日本と 沖縄の関係の本当の姿を浮かび上がらせてい く。これは戦後、沖縄に生まれ約半世紀沖縄で 生きてきた私にとっても、耳にしてきた事件の 真相に迫り、真実が明らかになっていく時間で あった。

この本は下記の5 つの構成になっている。

  • 天皇・米軍・沖縄県警
  • 沖縄アンダーグラウンド―沖縄空手・芸 能・花街・やくざ
  • 沖縄の怪人・猛女・パワーエリート 瀬長 亀次郎・四天王
  • 踊る琉球歌う沖縄―芸能プロダクションの 隆盛
  • 今日の沖縄・明日の沖縄

昭和天皇は1947 年にGHQ 外交局長に対し沖 縄の支配を認める「琉球諸島の将来に関する天 皇見解」要望書を提出した。この「沖縄を米国 に“人身御供”として差し出した」とも言われ る文書は極秘扱いされていて1979 年に公にな って以来、昭和天皇は死ぬまで沖縄に強い負い 目を感じていたという。現天皇は、昭和天皇が 遣り残した戦争犠牲者の慰霊の旅を続け、6 月 23 日を「お慎みの日」として外出を控え、皇居 で黙祷をささげているという。

今帰仁村出身の立法院議員中村昭氏の謎の 失踪事件は小学生の頃に聞き、気になっていた ことであった。しかしこの事件の真相は、作者 が執拗に真実に迫ったにもかかわらず、米軍現 金輸送車強奪事件との関連説、CIA 関連説、本 土資本が絡んだ暴力団説など、いろんな説が挙 がるが、真相究明には至らず残念であった。

1953 年12 月奄美大島は沖縄に先駆けて本土 復帰した。それを期に奄美出身者への差別は激 化し、公務員の給与格差等は軽いほうで沖縄財 政会の重鎮たちでさえ職を追われたという。国 費学生として1978 年に九州大学に入学した頃 は、うちなーん人を差別をしないと宣言する差 別がある程度であったが、1950 年代とはいえ、 これほど強い差別を我々沖縄人がしていたとは 驚きであった。

沖縄経済について摸合が資金調達の役割をし ていた。摸合は信用が第一で不義理をすれば村 八部にされた。一方米国がとった自由貿易主義 によって税金がかからず物品が安く輸入された ため地場産業は育たず、輸入超過により資金は 不足していた。そこで暗躍した闇金は疑うこと を知らない沖縄人に資金調達を持ちかけてはだ まし、倒産し乗っ取り奪い取っていく。そこに は沖縄を蹂躙した経済の暴風が描かれている。 本土復帰まもなく借金が嵩み本土へ夜逃げして いった近くの商店主の顔が浮かぶ。

最近沖縄出身の芸能人が多数いる。その理由 についても、芸能界の裏の世界をインタビュー しながら明らかにしている。面白かったのは戦 後沖縄のエンターテイナーとして嘉手刈林昌、 南沙織、安室奈美恵、よりも瀬長亀次郎が最高 だったと記していることである。

沖縄の戦後を忘れつつある世代にも、まさに その時代に生き俯瞰することのなかった世代に も、そして復帰後に生まれ戦後を知らない世代 にも読んで欲しい本である。