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早期関節リウマチの診断・治療について

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター腎リウマチ科
真栄城 修二

【要 旨】

関節リウマチ(RA)は主に手足指の関節炎と起床時の関節の硬直を主症状とし て、進行すると全身の関節が変形し、生存にも影響を及ぼす疾患である。変形は年 余に亘って進行するとされていたが、発症後2 年以内に炎症と共に変形が進行する といわれ、早期診断は非常に重要になっている。抗CCP 抗体の出現や関節の造影 MRI の有用性の確立で早期RA の診断法も進歩してきた。早期の治療は薬物治療が 主でNSAIDs やステロイド、DMARDs が中心である。必要あればできるだけ早期 のDMARDs 投与も強調されている。また最近では生物学的製剤も加わり、治療が 大きく変化してきた。これまで、DMARDs では不可能だった関節変形の抑止をする ことと、また早期なら変形の改善も可能になったことが意義深い。反面、この薬剤 は高額で結核など重篤な日和見感染をおこす副作用の問題もある。近年ではRA を 可及的早期に診断し、生物学的製剤で早い段階で治療を開始して、完全寛解に持っ ていくという考えも出現している。

はじめに

関節リウマチ(Rheumatoid arthritis : RA) は中高年女性に好発し、主に手足指の炎症を伴 う関節痛と起床時の関節の硬直(いわゆる“朝 のこわばり”)を主な症状として、進行すると 全身の関節が変形し、ADL を損ね、ひいては QOL を阻害し生存率にも影響する疾患である。 関節変形は従来年余に亘って進行するものと考 えられていたが、実際は発症初期に進行するこ とがわかってきた。特に発症して2 年間に強い 炎症と共に変形が進行するといわれている。よ ってRA の早期診断は非常に重要になってお り、近年新しい検査で抗CCP 抗体(抗環状シ トルリン化ペプチド抗体)の出現や罹患関節の 造影MRI の有用性の確立で大きく発展してい る。また治療においては、生物学的製剤の出現 で劇的に変化してきた。この薬剤によって関節 変形の抑止や早期の変形なら改善も可能にな り、これらの作用は従来の薬物D M A R D s (Disease modifying anti-rheumatic drugs : 疾患修飾性抗リウマチ薬、抗リウマチ薬とも言 う)では不可能だった画期的なことである。し かし生物学的製剤は高額であることや結核など 重篤な日和見感染をひきおこす等、副作用の問 題もある。ごく最近ではRA をできるだけ早期 に診断し、生物学的製剤で早い段階で治療を開 始して、完全寛解に持っていくという動きがあ り、今後の流れになるだろう。

本稿ではRA の早期診断にスポットを当て、 また治療についてもその概略を述べてみる

RA の確定診断

現在、RA の診断は1987 年にアメリカリウマ チ学会(American College of Rheumatology : ACR)が提唱した分類基準に基づいて行われ ている1)。表1 にその分類基準を示す。関節痛 の患者がこの基準を満たす場合、RA と診断し、 早期にDMARDs を導入し、可能ならリウマチ専門医に紹介することが望ましいだろう。しか し発症早期にはこの基準を満たさない場合も多 く、RA と診断がつくまでに経過が長期になる 場合も少なくない。全てがそろうまでRA と診 断せずに、不適切な治療を行い、関節変形を来 たしてしまうことは避けるべきである。特に近 年RA は従来考えられていたよりも、発症早期 に強い炎症と共に不可逆性の関節変形をきたし てしまうことが明らかになっている。(図1)

表1

表1

図1

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そのため可能な限り早めに診断し、DMARDs などの適切な治療にもっていくことは重要にな っている。このACR のRA 分類基準では「5 リウマトイド結節」などの慢性期に見られ、早 期ではあまり見られない所見も含まれる。また 「7 X線上 手/指関節の骨びらん、近傍の骨 萎縮」に至っては変形してしまったことを所見 として考えるということになっている。つまり 極端に言えば、変形するまでRA の診断がつか ないという可能性があるのである。

早期関節リウマチの診断

以上のことから現在のACR の分類基準は関 節変形を予防するための早期診断及び早期治療 導入には向かないことがわかるだろう。RA の 早期診断について、その重要性は以前から言わ れており、国際的にも様々な分類が試みられて いる。特に本邦ではすでに1988 年に厚生省 (現厚生労働省)から「早期慢性関節リウマチ 診断基準」1)(表2)そして1994 年に日本リウ マチ学会から「早期慢性関節リウマチの診断基 準」1)(表3)が提唱されている。いずれもRA の特徴をよく捉えたものであり、感度は高い が、特異度は低いという結果になり、現在では あまり頻用されていないようである。

表2

表2

表3

表3

近年様々な自己抗体や画像検査の進歩に伴 い、早期RA についても新たな考えがあり、 2005 年厚生労働省江口班により早期関節リウ マチの診断基準案が提唱されている2)。表4 に 示す。症状よりも検査所見を重視し、判定しや すい。現在のところ感受性も特異性も高いと報告されているようであるが、真の評価は今後長 期の観察を待たねばならない。

抗CCP 抗体とはRA 患者の炎症滑膜に存在 するシトルリン化した抗原に対する自己抗体 で、07 年に保険適応になり、感受性も特異性 も高く、特にリウマチ因子が陰性の段階でも検 出されることがあり、現在早期RA の診断には 欠かせなくなっている。またMRI も単純レン トゲンで検出されない、早期の滑膜炎を捉える ことが可能であり、早期RA の画像診断で頻用 されるようになった。特に早期では関節周囲の 軟部組織の腫脹のみが見られ、関節の軟骨に異 常がない場合、単純レントゲンで捉えることは できないが、MRI によって滑膜増殖が滑膜炎の 存在を表し、早期RA の診断に有用である。滑 膜炎は造影後の脂肪抑制T1 強調画像で所見と して得られる。またそのほか早期RA に特徴的 なMRI 所見には脂肪抑制T2 強調画像で捉えら れる海綿骨の骨髄浮腫などがある。

表4

表4

○自験例

62 歳の女性 1 ヶ月続く右手首痛と両手指痛 (両示指と両中指のMP 関節、両方の示指から 小指までのPIP 関節)で来院。朝のこわばり は30 分程度、リウマチ因子や抗CCP 抗体は陰 性、炎症所見も軽度だった。疼痛関節には腫脹 が軽度あった。血清検査は陰性であったが、症 状が強いのでMRI 施行。図2 の如く、造影後 の脂肪抑制T1 強調画像で右手の手根骨と右示 指、右中指のMP 関節に造影効果が認められ た。早期RA と考え、DMARDs を投与した。 現在、症状は改善傾向を示している。

図2

図2

表5 は2008 年欧州(独・英・蘭)の共同研 究から発表されたものであり、未分化の関節炎 が1 年後にRA への進行を点数化して予測する 研究を示したものである。これによるとRA の 陽性的中率(positive predictive value : PPV) は8 点以上で97 %、陰性的中率(negative predictive value : NPV)は6 点以下で83 %で あった。一般の診察室でも十分に活用可能なの で参考にされてもいいだろう3)

表5

表5

早期RA の治療

RA 治療の目標はこわばりや関節痛などの症 状をできるだけ緩和し、身体機能を維持させな がら、変形を予防するということである。早期 ではなく、確立されたRA の治療には薬物療 法・手術療法・理学療法・患者教育が4 本柱と して言われている。手術は関節破壊が進行し、 QOL の維持が困難な場合考慮され、また理学 療法も、硬直しROM の低下した関節にADL 改善のために行うものである。いずれも進行したRA に対しなされるもので、初期から考慮さ れるものではない。RA の早期において治療の 第一歩はやはり薬物療法であろう。以下、本稿 では薬物療法を中心にして述べる。

繰り返しにはなるが、RA は早期に見つけ、 積極的な治療を開始することで寛解に持ってい けるということがわかり、いわゆる「Window of opportunity」とも言われ、適切な時期を逃 さず治療にもっていくべきと考えられるように なった。どういう薬物をどういうタイミングで 投与するか、微妙なところもあり、治療開始時 はやはり専門医にコンサルトするほうが現時点 では良いように思える。

早期RA の薬物療法

薬物療法には非ステロイド系抗炎症薬 (NSAIDs)、副腎皮質ステロイド、抗リウマチ 薬(DMARDs)、生物学的製剤などがある。

大まかな考え方として

  • 1)こわばりや関節痛などの症状の緩和⇒ NSAIDs やステロイド
  • 2)変形予防などのリウマチの根本的な治療⇒  DMARDs、生物学的製剤

という分類になる。

この1)と2)の組み合わせで治療を行うことが 一般的である。発症時は症状も強く、 DMARDs は効果発現に時間もかかるので、 NSAIDs やステロイドは投与されることが多 い。どちらがいいかは一概には言えない。症状 緩和が困難で両者併用もまれではない。しかし これらのみではRA のコントロールは不可能な ので、D M A R D s の投与も不可欠である。 D M A R D s の効果が発現してきたところで NSAIDs やステロイドを可能な限り減量してい くという方法が一般的である。

以下各薬物の特徴を簡単に述べる。

○ NSAIDs :鎮痛や消炎作用はあるが、RA に よる変形を予防することはできないので、RA の治療としてこの薬剤のみの投与は通常ありえ ない。DMARDs と併用することが多い。早期 RA を疑い、検査結果まちの間の症状緩和のた めにとりあえず、投薬しておく等の方法はある だろう。

もともと鎮痛剤として古くからRA に限ら ず、様々な疾患で頻用されてきた薬剤で、他の 関節痛(炎)と同様の投与法でよいと思われ る。RA に特異な投与法はない。消化管潰瘍や 出血傾向、肝腎障害などの副作用もよく知られ ている。そのため可能な限り減量が必要。副作 用をチェックのため定期的な血液・尿検査も必 要だろう。消化管潰瘍予防のため制酸剤と併用 も一般的になっている。また近年ではシクロオ キシゲナーゼ(COX)-2 選択性のNSAIDs が あり、消化管障害を減少させることが言われて いるが、心血管イベントの合併症が従来の NSAIDs より多いとの報告もあり、早期RA に おいて明らかな有用性があるわけではない。

○副腎皮質ステロイド: NSAIDs と同様にRA の症状緩和のために頻用される薬剤である。早 期においては少量投与で関節の変形を予防させ たという報告も複数であり、DMARDs に近い 薬剤という考え方もある。RA の場合、他の膠 原病よりも、少量投与が推奨されている。(プ レドニゾロンで7.5mg 程度まで)副作用も様々 あり、NSAIDs 同様DMARDs と併用し、その 効果が出現した時にステロイドの方を減量する のが望ましいが、少量でも長期に使わざるを得 ない症例も少なくない。

○抗リウマチ薬: RA をコントロールするために 必要不可欠な薬剤である。以前はステロイドや NSAIDs の後、最終的に投与する薬剤であった が、近年ではRA を根本的にコントロールし、そ の自然歴を変化させる薬剤として、診断時から の早期投与がほぼ一般的になっているだろう。 作用発現までが長く、副作用強いことが共通の 特徴である。現在投与可能な薬剤を表6 にまと めておく。この中で頻用されているものはサラゾ スルファピリジン、ブシラミン、メトトレキサー トなどである。特にメトトレキサートはアンカー ドラッグ(要の薬剤)として最もエビデンスの明 確な薬剤である5)。しかし骨髄抑制、間質性肺炎 などの重篤な副作用があり注意も必要である。

表6

表6

2008 年ACR からDMARDs 使用ガイドライ ンが報告されている。罹病期間、疾患活動性、 予後不良因子の有無の3 つで分類し、推奨薬を 提唱、表7 に示す6)。この報告では本邦で使用 頻度の高いブシラミンやタクロリムスなどの記 載は見られず、逆に本邦で使用不可の薬剤 (HCQ:hydroxychloroquine)がある。

表7

表7

○生物学的製剤:関節リウマチの治療をパラダ イムシフトさせた薬剤として現在も最も注目さ れている。RA の炎症や関節破壊に強く関連し ているサイトカイン(TNF-αやIL-6)を抑制 する薬剤で強い臨床効果と関節破壊抑制効果を 示す。これは従来のDMARDs では見られなか ったもので特筆すべきは早期の関節破壊なら修 復もさせる点である。反面、結核を始めとする 重篤な日和見感染などの副作用の予防や管理が 重要になる。現在本邦で投与可能な薬剤は4 種 類で抗TNF 製剤3 種類、抗IL-6 製剤1 種類で ある。先発の抗TNF 製剤2 種類(インフリキ シマブ、エタネルセプト)は本邦において大規 模な市販後全例調査がなされ、それに基づき厳 格な使用ガイドラインが日本リウマチ学会から 発行されている7)。(一部を表8)後発2 種類の 生物学的製剤(アダリマブ、トシリズマブ)も 現在市販後調査が遂行中である。(表中の DAS28 とはヨーロッパリウマチ学会により提 唱されたRA の活動性を評価するもので圧痛関 節数と腫脹関節数、痛みのVAS スケール及び ESR 値(あるいはCRP 値でも可)から点数化 して評価する。)

表8

表8

これらの薬剤投与はやはり現時点ではリウマ チ専門医によって行われたほうが無難であろ う。その意味で投与患者が限られている部分も ある。また高額であることも投与を限定してし まう一因かもしれない。

生物学的製剤の早期投与について本邦におい てはまだ一般的とは言えない。しかし今後は世界 的にもRA は早期診断・早期治療の流れになるの は必至と思われ、生物学的製剤も早期投与の流 れになると思われる。現行の「他の薬が効かない から生物学的製剤」ではなく「早く治したいから 生物学的製剤」という時代になるだろう。

おわりに

何度も繰り返すが、「RA は発症後2 年以内に 強い変形を来たしやすい」ということがほぼ定 説になったため、「できるだけ早期の診断が望 ましい」となり、それに基づき、「早期から十分な治療が必要」ということが強調されるよう になった。具体的には必要あれば診断について は抗CCP 抗体やMRI での早期診断を、治療に ついては適応あれば早い時期のDMARDs 及び 生物学的製剤の投与をということが現時点にお いては言えるだろう。

文献
1)尾崎承一:臨床症状・検査所見・診断、リウマチ基本 テキスト 財団法人日本リウマチ財団教育研修委員会 編 東京 2002:592
2)江口勝美、折口智樹:関節リウマチの早期診断:定義、 診断基準、課題、リウマチ科 34:237 〜 243、2005
3)Annette.H.M, et al:Validation of a Prediction Rule for Disease Outcome in Patients With Recent-Onset Undifferenciated Arthritis , ARTHRITIS & RHEUMATISM 58:2241?2247 2008
4)三森経世:抗リウマチ薬 関節リウマチの診療マニュ アル 財団法人日本リウマチ財団 東京 2004:85
5)B Combe, et al : EULAR recommendations for the management of early arthritis : report of a task force of the European Standing Committee for International Clinical Studies Including Therapeutics(ESCISIT), Ann Rheum Dis 66:34~45 2007
6)Kenneth G. SAAG, et al : American College of Rheumatology 2008 Recommendations for the Use of Nonbiologic and Biologic Disease-Modifying Antirheumatic Drugs in Rheumatoid Arthritis, Arthritis & Rheumatism 59:762-784 2008
7)日本リウマチ学会 関節リウマチ(RA)に対する TNF 阻害療法施行ガイドライン 2008




著 者 紹 介

真栄城修二

沖縄県立南部医療センター・
こども医療センター腎リウマチ科
真栄城 修二

生年月日:
 昭和37 年10 月18 日

出身地:
 沖縄県 那覇市

出身大学:
 琉球大学医学部
 平成2 年卒

略歴
 平成2 年5 月沖縄県立中部病院にて卒後臨床研修をうける
  以後 沖縄県立北部病院
      沖縄県立中部病院
      沖縄県立那覇病院
      沖縄県立南部医療センター・こども医療センターに勤務

専攻・専門領域
 腎臓病・透析・リウマチ膠原病




Q U E S T I O N !

問題:早期関節リウマチの診断について誤った 記載はどれか

  • 早期診断のために抗CCP 抗体を検査す ることも必要である
  • リウマチは発症後5 年くらいでゆっくり 変形が進行するのでその間にゆっくり診断 すればよい
  • 単純レントゲンで関節の変形を来たさな い時点で造影MRI では滑膜炎の所見が得 られることがある
  • リウマチ結節は早期では見られないこと も多い

CORRECT ANSWER! 3月号(vol.45)の正解

機能性ディスペプシア診療の現状と課題

問題:機能性ディスペプシア(FD)について正 しいものを一つ選んでください。

  • a.わが国ではディスペプシア症状を訴える 人は、減少傾向にある。
  • b.FD の症状は、下腹部の疼痛も含まれる。
  • c.ディスペプシア症状と慢性胃炎は同じ症 状である。
  • d.FD に対してはプラセボ効果は少ない。
  • e.FD 治療には酸分泌抑制剤が第一選択薬 である。

正解 e