石川眼科医院 石川 秀夫
一昨年8 月号で同仁病院の伊良部先生のテッ ポウユリについての随筆はおもしろく読ませて いただいた。私は子供の頃テッポウユリは、ホ ウセンカの種子がはじけて飛び散るように種子 が鉄砲玉のようにはじけて飛び出すということ を聞いた。植物採集を趣味としていた6 歳年上 の従兄弟の話で、ユリの実の形態からみても充 分納得できる説で、その随筆を読むまで、私は 50 年以上この説を信じて疑わなかったのである。
テッポウと頭についている動植物を百科事典 で探すと、ユリ以外に三つ見つかる、テッポウ ウオ、テッポウウリ、そしてテッポウエビであ る。ウオは水鉄砲の様に口から水を射出して虫 を撃ち落として食べる東南アジアの熱帯に住み 西表島にもいるという。ウリは熟れた実をヘタ から外すと種子が中身と共に鉄砲玉のように 10m も射出するという地中海沿岸の野生ウリ。 エビはピストルの撃鉄のように変形したはさみ をほぼ直角に開いて急激に閉じるときに「バチ ッ」と衝撃波と音を発して獲物を気絶させた り、威嚇したりすると言う小さなエビ。沖縄の 珊瑚礁の浅瀬にもいる。いずれも鉄砲を連想す るその名に恥じない生態である。
沖縄ではユリといえばこのユリだけなのだ が、本土では数種のユリが自生している、それ 故、識別するための名前が必要になる。およそ 身近な植物や動物の名前の由来には大方が納得 できる理由があるものなのだ。ヤマユリは山に 良く生えているから、スカシユリは花弁の根元 が細くなって花の向こう側が【透けて見える】 から透かしユリ、カノコユリは鹿の子模様が特 徴、オニユリは特別ひときわ大きいから鬼に例 え、ササユリはその全体の形や葉の形が【笹】 とそっくりなのである。
伊良部先生の随筆を読んで「そのご意見、ち ょっと待った!」ともう一度【テッポウ】の由 来を調べ直した、まずはインターネット、次に 県立図書館に通っての植物図鑑調べである。
その昔、琉球百合といわれて流通し、現在で もリュウキュウユリという別名が記載されてい る、ではなぜ、一体何時の頃から琉球が消え鉄 砲になったか?その謎を解明すべく色々探して みたが見つからないのである。そして私が固く 信じて疑わなかった【種子が飛び出す】説は皆 無なのである、その種子は頼りないほど薄く小 さく風に乗ってひらひらと飛ばされていくらし い。ある説では花が真横に咲く様が鉄砲を構え ているのに例えた、とか、花の形が鉄砲のよう に細長いからというのである。これでは根拠が 薄いのである。花の形状ならむしろもっと身近 な【喇叭(らっぱ)】を連想するはずである。 伊良部先生の説の銃口の開いた銃は残念ながら 日本では殆ど普及しなかったので、庶民が鉄砲 と言うのは、どう考えても、一般的な火縄銃の 種子島でなければならないのである。 Blunderbussgun という語はあくまでもクラシ カルな旧式銃という意味だと思うのである。
テッポウユリはその花の形はどう見ても鉄砲 ではないので、これらいずれの説にも私は納得 できず、【種が飛び出す】説を必死に探したが 何処を見ても全く見つからないのである、この 文章も書きかけ途中であきらめ放り出して1 年 以上過ぎてしまったのである。
ところがある日、満開のユリの群生を旧友と 眺めながらこのユリと他のユリの何が違うかと いう話題になった、色々と物知り顔で説明して いて、自分自身の言葉にはっと気がついたので ある。
テッポウユリを正確に記述すると
琉球列島固有の種で多くの百合は花の根本近くから花弁が分かれる離弁花冠だが鉄砲百合は 筒状の合弁花冠になっていて先の方が分かれて います。近縁種のタカサゴユリ(高砂百合) 別名:細葉鉄砲ユリは台湾の原産、花は見分け がつかないが葉が細いのが特徴。
テッポウユリ
カサブランカ
(写真の説明)テッポウユリとその他のユリの 開花の状態。その他のユリの代表選手にカサブ ランカを選んだ。鉄砲百合のやや遠慮がちに開 いているのに比べカサブランカは目一杯派手に 開いて強烈に自己主張している。
テッポウユリ以外の多くのユリは皿状に平ら に開くものである、ところがテッポウユリは筒状 に開き全開しません、筒状に咲くのが特徴です。 【筒状に咲く】これが琉球ユリから鉄砲ユリに 変化したキーワードです。
以下、私の独断と偏見による鉄砲ユリ由来説 を紹介する。私が探した限りこの説を唱えてい る文章は何処にもない、もし見つけたら教えて ください。
江戸時代、琉球ユリは貴重な花として流通し はじめました。しばらくの間はこの琉球ユリと いう呼称が一般的でした、ところがある時、庭 師たちがきっとこういう話をしたのでしょう。
庭 師「ご隠居さん、今度珍しい良いユリが入っ たのでその百合根を持ってきました。」
ご隠居「それは良いね、で何というユリかね?」
庭 師「何でも、種子島の向こうの南の琉球 という国の産で、琉球ユリっていうん です。」
ご隠居「ほー、どんな花が咲くのかね?」
庭 師「白い花です、すごく良い匂いがするん ですよ!」
ご隠居「白いだけかい?」
庭 師「ヤマユリと違って、花の元の方が筒み たいに細長いんです。」
ご隠居「筒のような花か。」
庭 師「そうです、筒ですな、筒咲きのユリで すよ。」
ご隠居「筒のようなユリか、筒ユリか、琉球筒 咲きユリ、詰めて言えば【琉球筒】と いう訳か、筒と言えばお兄さん鉄砲だ、
琉球ユリじゃなく威勢良くテッポウユ リにしな。」
庭 師「テッポウかそりゃいいや、テッポウユ リがいいや。テッポウの方が威勢がい いや。」
てなもんで、庭師たちは業界用語でこのユリ のことを威勢良くテッポウと呼び始めたので す。テッポウの方が発音しやすいものだから、 いつの間にか一般的にこのユリの呼称から【琉 球】が消えて【鉄砲】が定着したのです。
テッポウユリの【鉄砲】はその姿形から生ま れたのではなく言葉遊びが始まりなのです。
種子島というと火縄銃であり、筒というとや はり銃を表している。生産地や銃身の形や大きさなどから堺筒:国友筒:薩摩筒:紀州筒:仙 台筒、足軽筒、侍筒などと呼ばれ、使用目的な どによって懐筒、短筒、馬上筒、大筒等もあ る。江戸時代は庶民でも筒といえば鉄砲のこと であった。現代でも自衛隊の訓練に「立て〜 筒」「担え〜筒」「捧げ〜筒」という昔なじみの 号令がある、言うまでもなく筒は鉄砲すなわち 小銃のことである。
また江戸末期の駄洒落文化について触れる と、【春夏冬】と店の表に張り紙、秋が無いか ら商い中というような駄洒落や謎解き絵文字等 が江戸に広まっていたという。
この鉄砲ユリ由来説、受け売りではなく完全 な私のオリジナルですが納得いただけますでし ょうか?
そうそう、関西ではフグの刺身を「テッポウ の刺身」省略して「てっさ」、鍋を「てっちり」 といいます。これも駄洒落で、「滅多に当たら ないが、当たったら死ぬ」という事だという。 昔から、「フグは喰いたし命は惜しし。」と覚悟 を決めてフグを食べていた人がいる反面、「フ グなんぞ滅多に当たるものではない、当たる方 がまれ。」と当時の火縄銃の命中精度の様なも ので、私は全く気にもとめずに食べている。
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