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講演「学校における食物アレルギー児への対応と除去食」

柴田瑠美子

国立病院機構福岡病院小児科
柴田 瑠美子

はじめに

わが国の食物アレルギー有症率は、乳児期 10 %、幼児期5 %、学童期2 %、成人1 %と推 定されている1)。平成16 年の小、中、高校の生 徒1,277 万人の調査では、食物アレルギー児童 2.6 %(33 万人)、アナフィラキシーショック 既往児0.14 %(17,880 人)でありショックは 食物の関与したものである2)。“学校のアレルギ ー疾患に対する取り組みガイドライン”が昨年 より全国の小中学校に配布され、家族、医療機 関、学校が連携してアレルギー児の対応を行う こととしている。食物アレルギーとくにアナフ ィラキシーでは主治医による管理指導票への情 報記載は、学校での個別の対応を行う上で重要 となっている。

1.食物アレルギーの重症度の把握とアナフ ィラキシー対応

即時型食物アレルギーは、我国の全国調査で は、皮膚88 %、気道症状30 %、循環器症状 (ショック)11 %に誘発症状がみられている3)。 2 臓器以上の症状を呈するアナフィラキシー児 では、呼吸困難やショックの割合が多くなる4)。 食物によるアナフィラキシーは薬物や蜂刺され と同様、1950 年以降に症例報告がみられるよ うになり、今日の世界的なアレルギー疾患の増 加に伴い小児の食物アナフィラキシーの増加が 指摘されている。米国では乳幼児の8 %、学齢 児の6 %で、年間3 万件の食物アナフィラキシ ー受診と2,000 件以上の入院があり150 〜 200 例の死亡が推定されている5)。アナフィラキシ ーの発症頻度について、米国成人で10 万人中 30 人、致死的アナフィラキシー(ショック)は 10 万人中5 〜 15 人、食物によるものが最も多 い。イタリア、ドイツ、米国、英国の小児アナ フィラキシーでも50 %以上は食物が原因であ る6)。アナフィラキシーでは致死的ショックに 進展する可能性があることから、急性期の迅速 な治療、原因検索と診断、発症予防対策が必要 である。

2.食物アナフィラキシーの臨床症状と重症 度分類

2006 年アナフィラキシー診断の臨床基準が 提示された。基準1 は皮膚粘膜症状に続く呼吸 器、消化器、循環器症状、基準2 は原因食物に より急激な2 つ以上の臓器症状の出現、基準3 は原因に暴露後速やかな血圧低下としている。 小児の食物アナフィラキシーでは、初発症状と して皮膚・粘膜症状の誘発率が高く診断基準1 の経過を取りやすいが、致死的食物アナフィラ キシーでは皮膚症状を伴なわず急激な気道症 状、低血圧を呈し2 および3 の臨床像を示す。

誘発症状からの食物アナフィラキシーの重症 度を把握する上で、米国のSampson らは食物 アレルギーの重症度ランクとして5 段階に分類 している5)(表1)。

表1

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3.食物アナフィラキシー発症時の治療

アナフィラキシーショックの治療手順として は、エピネフィリン筋注(またはアドレナリン 自己注射器エピペン)をできるだけ早急(発症 30 分以内)に行うこと、効果不十分な場合は5 〜 15 分毎に筋注が必要である7)。アナフィラキ シーでは既往児が気道症状出現時(重症度3 度)にはエピネフィリン(またはエピペン)の 投与を考慮する5)。食物アナフィラキシーでは 初期症状が一度治まって数時間後に再度出現す る二相性反応を示すことがあり、小児では6 〜 7 %、成人で20 %とされている。二相性アナフ ィラキシーではエピネフィリン投与の遅れが要 因でもあるとしている。

アナフィラキシーショックによる死亡32 例 では、エピペン使用が14 例43 %、30 分以上の 遅れが8 例あり、小児のショック25 例の治療調 査でもエピネフィリン使用は36 %と低いこと が指摘されている8)。抗ヒスタミン薬は、アナ フィラキシーショック治療におけるエビデンス は無いとされているが、食物アレルギーでは全 身蕁麻疹や血管神経浮腫を伴うことが多く抗ヒ スタミン薬の投与は効果的である。喘息発作が 誘発された場合は気管支拡張薬(β刺激薬)に よる吸入を行う。小児の食物アナフィラキシー では皮膚・粘膜の浮腫を伴うことが多く、ステ ロイド静注や内服の併用が効果的である。

アドレナリン自己注射器エピペン:アドレナリ ン自己注射器エピペン(R)は、食物アナフィラキシーが家庭や校外、学校で誘発されやすいこと から、わが国でも平成17 年より処方可能とな り指導を受けた家族と本人が緊急時に使用でき るようになった。欧米ではエピペンの社会的認 識度も高く、カナダでは小児の食物アレルギー での携帯率は同年齢層の数%に及んでいる。エ ピペン処方を要するアナフィラキシーリスク因 子として、病歴による微量アレルゲンでの誘発、 反復、ショック誘発頻度の高い食品がアレルゲ ンであること、喘息合併、居住地が医療機関か ら離れているなどが挙げられている9)(表2)。 当院ではこれらの他に修学旅行、海外旅行など の機会に処方することが多い。

表2

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学校におけるエピペン施行

最近、学校に配布された“学校のアレルギー 疾患に対する取り組みガイドライン”において はアナフィラキシー発症時のエピペン筋注の援 助について記載されている。しかしエピペン使 用法の講習を受けていない養護および学校教諭 では実施は困難である。またわが国ではエピペ ン処方が自費であることから高価であり、1 本 処方が多く学校に持参後の保管の問題もある。 対応の必要な学童がいる場合は実施を含めた対 応法を協議しておくことが必要である。今年春 から救急救命士が患児のエピペン筋注施行を行 えるように法改正されており、学校での援助が 困難な場合は救急車の手配、医療機関受診の手 順を確実に整えておく。

4.特殊な食物アレルギー

1)食物依存性運動誘発アナフィラキシー

中学〜高校生から若年成人にみられる特殊な 食物アレルギーで、小児では学校給食後の30 分から2 時間以内の運動時に発症するものが多 い。顔面紅潮や蕁麻疹、眼瞼浮腫などから呼吸 困難、意識障害・失神をきたす。10 歳以下では まれで中〜高校生の12,000 人に1 人の発症頻度 とされている。原因食品としては、小麦、甲殻 類(エビ)が最も多く、野菜や果実(桃など)、 牛乳などもまれに原因になる。原因食品摂取30 分〜 1 時間後の運動負荷試験を行うが陰性の場 合は食事前30 分にアスピリンを内服して行う。 小麦による場合は、小麦ω− 5 グリアジン (gliadin)IgE 抗体が診断に有用である。

2)フルーツによる口腔アレルギー症候群とラ テックスアレルギー

新鮮なフルーツ、野菜などによる口腔周辺の アレルギーで、呼吸困難、喘息や稀にアナフィ ラキシーに発展する。学童ではキウイにより 顔・口の腫脹や気道症状が誘発される例が多 く、モモ、リンゴ、グレープフルーツなど学校 給食で提供される場合、アレルゲンとなるフル ーツは除去を行う。フルーツアレルギーでは、 ラテックス(天然ゴム)アレルギーを合併する ことがある。ラテックスとアボガド、マンゴ、 バナナなどのアレルゲン蛋白には強い交差反応 性がみられ、フルーツアレルギーとともにゴム 手袋、風船などによるラテックスアナフィラキ シーを起こす(ラテックス・フルーツ症候群)。 小児ではバナナ、メロン、キウイのフルーツア レルギーが多く、同様にラテックス抗原感作を おこしやすい。

5.原因食品の除去(アナフィラキシーの回 避)と給食対応

集団生活における注意として欧米ではアナフ ラキシーの1 〜 2 割が園・学校で誘発されてい る。食物アナフィラキシーは、アレルゲン食品 の除去中に誤食によって起こることがほとんど であり、米国の死亡例でも半数以上は自宅外の学校などで発症している10)。アナフィラキシー 児の学校給食、校内での誤食回避は重要であ り、アレルゲン食品を用いた料理実習、校外学 習などでも注意が必要である。食物依存性運動 誘発アナフィラキシー(小麦、甲殻類が最も多 い)では、給食後2 時間までの運動で誘発され るため、給食での除去または除去が困難な場合 は運動を避ける方法がとられる。

1)原因食品と診断

即時型食物アレルギーの原因食品は年齢によ り異なる傾向がある。わが国では、乳製品、卵、 小麦、エビ、ピーナッツ、ソバなどの順に多 く、成人では甲殻類、小麦、そば、果実類が多 い3)。アナフィラキシーショックの原因食品で は、乳、卵、小麦、ピーナッツ、魚介類、ナッ ツ、ソバ、エビ、果実の順に多く、小児では最 近、ゴマ、カシューナッツのアナフィラキシー が増加している3,4)(図1)。

図1

これらの原因アレルゲン診断は、食物特異 IgE 抗体検査(CAP-RAST など)、アレルゲ ンエキスによる皮膚テスト(プリックテスト) を行い、確定診断として経口負荷試験を行う が、食物アナフィラキシーショックの場合は、 原則として経口負荷試験は避けることが多く、 特異IgE 抗体(IgE 陰性の場合はプリックテス ト)により原因食品を診断する。

2)除去食と対応

食物アナフィラキシーでは厳密な除去食以外 に症状の出現を予防する確実な方法はない。ア ナフィラキシーでは原因食品の加工食品を含め た完全除去が必要である。小麦、大豆の調味料 (味噌、醤油)、魚のだしは利用できることが多 いが、重症例で未摂取の場合は医療機関に確認 する。加工食品のアレルゲン表示は、厚生労働 省の省令によりアナフィラキシー誘発主要食品 7 種類(卵、乳、小麦、ソバ、ピーナッツ、え び、かに)の表示義務化が施行されており食品 選択では表示を充分に確認する。学校給食では 除去食が対応できない場合は弁当持参が必要と なるが対応について保護者と協議する。

アナフィラキシー児の周りで牛乳パックを閉 じるときの飛散や、給食時のアレルゲン食品の 誤食、調理実習での接触を避ける配慮も必要で ある。他の児童への食物アレルギー教育とアレ ルギー児への理解と協力をはかることも食育の 一環である。

一方で、除去食療法は患者・家族に様々なス トレスを与えることにつながりやすい。乳幼児 期のアトピー性皮膚炎での多種食物感作から長 期に除去食が行われている場合があり、除去食 を要するアレルゲン食品の診断を適切に行う指 導が必要である。除去食中は、定期的な医療機 関受診、栄養士による栄養指導、代替食品、レ シピ紹介など、除去食中の家族の不安に対する 支援を行う。

6.食物アナフィラキシーの予後と耐性化

小児の卵、牛乳、小麦、大豆アレルギーで は、年齢とともに摂取してもアレルギーが誘発 されなくなる耐性化がみられる。ピーナッツ、 ナッツ類、甲殻類、魚、ゴマは経年的な寛解が 得られにくい10)。ソバ、フルーツ、食物依存性 運動誘発アナフィラキシーも同様に年長児、成 人発症が多く耐性化しにくい。アレルゲンが確 定した後の除去期間については、卵、牛乳、小 麦で12 〜 18 ヵ月後、大豆で1 年後、ピーナッ ツ、魚、ナッツで3 年後にIgE 抗体価を参考に 負荷試験を行うことが多いが、アナフィラキシ ーや特異IgE 抗体高値が持続する場合は耐性化 が遅い傾向がある11)。耐性化は個人差がありショックの予防とともに定期的な医療機関での再 評価が必要である。

最近、食物アレルギーにおける経口減感作療 法が欧米で行われている12)。牛乳、卵について は治療効果がみられている。経口減感作では、 急速にアレルゲン食品摂取量を増加させるた め、即時型症状の誘発率は高く、専門医療機関 で慎重に行う必要がある治療法である。アナフ ィラキシーなど重症例での経口減感作は避けら れていたが、牛乳IgE 抗体高値のアナフィラキ シー児やピーナッツアレルギーでも、検討が行 われてきつつある。また牛乳、卵は加熱による アレルゲン性の変化があり、生食品より早く摂 取できることから、当院では積極的に負荷試験 で確認して利用することで耐性化を早める方法 を取ってきたが、米国でも最近、高温加熱によ る卵、乳が耐性化促進に役立つ可能性を指摘し ている。対象や治療導入の基準など安全に耐性 化誘導できる減感作療法や負荷試験法の確立が 望まれる。

おわりに

学校における食物アレルギー・アナフィラキ シー対応では、家庭、学校でのアナフィラキシ ー誘発を回避し、アレルギー児が安全に学校生 活を過すことができる環境作りと連携が必要で ある(図2)。

図2

文献
1)向山徳子、西間三馨編.食物アレルギー診療ガイドラ イン2005.協和企画.
2)文部科学省スポーツ・青少年局 アレルギー疾患に関 する調査研究報告書2007.
3)今井孝成、即時型食物アレルギー-食物摂取後60 分以 内に症状が出現し、かつ医療機関を受診した症例-第 1 報- アレルギー2003;52 : 1006-13.
4)日本アレルギー学会食物アレルギー委員会報告. 食物 に起因するアナフィラキシー症状既往児の保護者に対 するアンケート調査 日小ア誌 2005 ; 19 : 96.
5)Sampson HA. Anaphylaxis and emergency treatment. Pediatrics. 2003; 111:1601.
6)柴田瑠美子 小児のアナフィラキシーショック 光畑 裕正編 アナフィラキシーショック  克誠堂出版 2008、161-173.
7)Muraro A, Roberts G, Clark A,et al; EAACI Task Force on Anaphylaxis in Children. The management of anaphylaxis in childhood: position paper of the European academy of allergology and clinical immunology. Allergy. 2007;62: 857-71.
8)Bock SA, Mu oz-Furlong A, Sampson HA. Fatalities due to anaphylactic reactions to foods. J Allergy Clin Immunol 2001;107:191-3.
9)Sicherer SH, Simons FE. Self-injectable epinephrine for first-aid management of anaphylaxis. Pediatrics 2007;. 119:638-46.
10)Teuber SS, Beyer K, Comstock S, Wallowitz M. The big eight foods: Clinical and epidemiological overview. In: Maleki SJ Burks WA, Helm RM Ed.Food allergy. Washington. ASM press; 2006. 49- 79.
11)Sampson HA, Scanlon SM. Natural history of food hypersensitivity in children with atopic dermatitis. J Pediatr. 1989 ; 115:23-27.
12)Burks AW, Laubach S, Jones SM. Oral tolerance, food allergy, and immunotherapy: implications for future treatment.
J Allergy Clin Immunol. 2008 Jun;121(6):1344-50.